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2013年6月24日 (月)

ブスサーカス【タカハ劇団×righteye プロデュース】130624

2013年06月24日 インディペンデントシアター1st

緊張感漂う濃密な作品。
頭を
休める間なし。
時折、挟まれるブスネタが少し緩むところか。
このあたりのバランスが絶妙。
舞台から、話から、惹きつけて離さない。
劇場の空気までをも感じることが出来る面白い作品だった。

舞台は雪山にあるつぶれた雀荘。
部屋の中央に麻雀卓。周囲には雀荘っぽく、娯楽漫画雑誌が散らばっている。
奥には軽食を作っていたのだろう台所もあるみたい。
部屋には紐を簡易的に吊るして、洗濯物を干すスペースもある。
閉塞した環境で生活していることが読み取れる。
実際に劇場の空調も低めに設定しているみたいで、その空気がそのまま、舞台の雰囲気として伝わる。

ブスが5人。
全員、ヒロシというヤクザと付き合っている。
コンビニで知り合った朱音。
その友達で流れでセフレとなっている譲羽。
組の経営するソープ嬢の白鳥。付き合っている年数は6年近く、腐れ縁か。
借金の棒引きのために体を投げ出した文殊。
キャバ嬢として出会った龍宮。
出会いは色々だが、どうにせよ、ヒロシがまともな男でないのは確か。

彼女たちは、ヒロシの命令で警備会社に強盗に入り、警備員を2人殺めてしまっている。
そして、今、この雀荘に潜伏しているという状況。
直に、ヒロシが盗んだお金を持って、ここに迎えに来ることになっている。
こちらから、連絡する手段は無い。
携帯は全員、ここに連れて来られる時に取り上げられている。
連絡は、この雀荘を管理している紀歌という女性に入ることになっている。
この女性は、あくまで組と関係のある女性でヒロシとは一切付き合っていないと本人は言っている。

全員、ヒロシから自分がブスであるという劣等感を忘れさせてくれるような甘い言葉を掛けられている。
だから、信じて待つ。不安だけど、みんなでそう決めた。
ヒロシが来たら、彼の誕生日祝いも兼ねて、みんなで練習した踊りを披露しよう。
少しでも綺麗に見えるように、ガムテープで肌に張りをつくったり、コロコロ美顔器でお手入れをしたり、メイド服を揃えたり。
でも、待てど暮らせど、ヒロシからの連絡が入らない。
そんな漠然とした不安がどんどん膨れていく中、ある新聞記事が目に入る。
ヒロシの本妻が殺された。

ヒロシから連絡は無いのか。ヒロシのことを知っているのではないか。ヒロシと組んで、私たちを全員、本妻のように殺すつもりなのではないか。
そう、紀歌に問い詰め出すみんな。
紀歌は私みたいなブスをヒロシは相手にしないと弁明するが、みんなの怒りはおさまらない。
携帯を見せろ。
揉め合いの中、紀歌を殺してしまう。

携帯を調べる。
発信履歴は一つしかない。
そこにかけると、部屋の中でバイブ音が。
もう一つ、携帯が見つかる。
その携帯も調べる。
メールが一通。ヒロシから。
お前とだけうまくやるから。
裏切り者が、この中にいる。
ヒロシに本当に好かれ、紀歌と連絡を取りながら、自分たちを葬ろうとしている奴が。

誰が犯人なんだ。
いや、私はブスだから、ヒロシに選ばれるわけがない。
劣等感を剥き出しにして、自分の正当性を各々、主張するが、犯人探しはやがて狂気を帯び始め、連鎖的な殺人へと・・・

話の進展とともに、どんどん本当のブスになっていく。
最初はブスではない。
ヒロシというダメ男に掛けられた本当にちっぽけな言葉を救いに、自分の容姿がブスであるという劣等感を癒している。
いいことでは決して無いだろうが、どうであれ、その言葉を受け止める心は優しく感じる。
うまくいけば、こんな中でも、自分の劣等感を克服して、人生を切り開けば良かったのだろうが、おかしな方向に進んでしまうことになってしまった。
本当にちょっとした、でも、奥に潜んで消えない疑惑が、どんどん膨らんでいく。
その猜疑心こそが、劣等感から生み出されているような感じだ。
そして、犯人探しの中で、自分が犯人で無いことを証明するためには、いかに自分がブスであるのかという劣等感をさらけ出すというおかしな状況に巻き込まれてしまっている。
外に露骨に出てきた劣等感は、更なる猜疑心を生み出し、最終的にはあまりにも醜い結末を迎えている。

ヒロシをこの人たちは殺したんじゃないのか。
それでも、自分を劣等感から救ってくれたヒロシの存在を消し去ることが出来ず、こんな虚構の世界を演じているのではないか。
自分を劣等感から救ってくれる最後の砦であるヒロシを求めた永遠のループを彷徨よっているのではないか。
犯した罪の罰を受けるかのように、自分の劣等感と向き合わざるを得ない地獄の中にいるのではないか。
なんて、途中、作品名のサーカスの意味合いを考えながら、見世物という連想から、そんなことを想像しながら観ていたが、これは素直にそのまま話の流れに付いていっていればよかったみたい。
でも、そうすると、サーカスはどういった意味なのか。
雀荘という設定も、普通は山小屋でいいのにと思うのだが、何か意味合いがあるのかなあ。
麻雀牌でおかしなゲームをしたりするシーンがあるが、麻雀を知っていれば何か関連していると感じたのだろうか。

最後のオチはどう解釈するのかな。
ずっと、探偵きどりで、誰が犯人なのかを推理したりしており、どうも殺人が起こっても他の人より引いたところで見ている、ヒロシとの付き合い方が他の人より安易、劣等感を大きく背負うものが見当たらないなどから、譲羽が怪しいと思っていた。
まあ、実際の真犯人は朱音ではあったが、それを影から支えていた譲羽が犯人と言ってもいいだろう。
まさか、そこに朱音を愛する譲羽という哀しい愛があるとは思いもよらなかったが。彼女の劣等感はブスとかではなく、実ることない愛を求めて生きていかなくてはいけないことにあったのだろうか。
最後、朱音は譲羽の純粋な愛にすら猜疑心を持ち、彼女を絞殺する。その姿は狂ったブスである。
譲羽が朱音を好きという真の気持ちから発せられる、あなたは可愛いとか、あなたなら大丈夫だとかいう言葉は、恐らくはヒロシが適当に朱音に言っていたであろう言葉と同じような気がする。
頭を通さずに軽く適当に出てくるヒロシの言葉と、全てを犠牲にしてでも伝えたい心の底からの想いの譲羽の言葉に物理的な違いはなく、なぜ、朱音はヒロシの言葉は愚かにも従順に受け止め、譲羽の言葉には相手の息の根を止めるまでに拒絶の行動を起こしたのか。
想いを込めた言葉は、現実には相手に必ずしも通じないのだろうか。恋愛という場においては。
ここが切なく哀しいと共に、劣等感が生み出す狂気の恐ろしさを感じて怖くなる。

話自体はサスペンス調で重苦しい。
緊張感がずっと漂っている。
悲しいまでの自虐的なブスネタや、死ぬ直前の生々しい状況から発せられる不可解な言葉は、本来ならば笑えないようなことなのだが、自然と笑みが出てしまう。
笑いはところどころに組み込まれているが、大半はこのような面白いというよりかは、ブラックで滑稽な哀れな笑いのように感じる。笑えない笑いである。
それでも、全体的にちょっと面白かったと最終的に思うのは、自虐や皮肉、人の死すら、それが緊迫した話に緩さを醸すという、話のテーマがあまりにも濃厚だということか。

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