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2013年6月15日 (土)

ポート・エレン 左組【劇団六風館】130614

2013年06月14日 大阪大学豊中キャンパス 学生会館2階 大集会室

解釈が難しい。
戦後間もない時代の人たちが、色々な悲しみ、苦しみを背負って力強く生きていくという姿を、様々な視点で描いているような作品。
60分で淡々と描かれるので、単に観ているだけでは、その魅力は感じにくいかもしれない。
今の自分の生き方、今いる自分を創り上げたかつての人たちへの想いを馳せながら、しっかりと噛みしめる必要がある作品かもしれない。
描かれる様々な人たちの生きる覚悟から、生きる人たち全てへの激励を受け止めるような話のように感じる。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は土曜日にもう一つの右組として、別のキャストで行われます>

戦後間も無くの日本。
多くの戦友たちの遺骨と共に一人生き残って帰って来た手塚文也は、雑貨店を営み、日々暮らしている。
と言っても、元々は大学も出ているエリートさんだったみたい。商売は全くうまくいっていない。
戻って来てから、闇市とかでうまいことしていれば良かったのだろうが、戦地で多くの仲間を失った経験からか、精一杯生きることを選んだようだ。
今日もいつも届く仕入れ願いのお断りの手紙を受け取り、郵便配達員、近所のおやじ連中にからかわれながら、一杯飲みに行く。そして、近所の友達とかけ将棋をしながら、商売が起動に乗るのに奮闘する毎日。

  

文也には蒼子という妹がいる。
親を失った文也にとってはかけがえのないたった一人の家族。
戦地で失われた命の罪滅ぼしのように、妹を大切にしている。
自分みたいに大学を出ても、こんな商売をして生きていかないといけない。
妹にはそんな苦労は絶対させたくない。
だから、綺麗な言葉を強制し、将来、いい人にもらってもらえるように炊事、そして、ミシンで裁縫をさせて、家に閉じ込めて生活させている。家を守って、炊事、洗濯、家事全般は女の仕事。この時代に根付いた考えだろう。

  

隣は色々と商売の幅を広げている商人の家。金貸しから、汚らしい青大福とかいうけったいなお菓子の販売まで、何でも金儲けをしているみたい。
鬼のような主人の下、戦争で親を亡くした少女、ミミが住み込みで働いている。
生きるために働かなくてはいけない。それも、何でもしないといけない。
借金の取り立てだって。口だって悪くなるけど、そんな悠長なことを言ってられない。ここでしか生きていくことができないから。
毎日のように蒼子のところで愚痴ばっかり。自分にはいない家族、お兄さんに守られて悠々と生きる蒼子に妬みもあるけど、共に貧乏な中、生きる友達として親しみもあるみたい。

  

そんな中、文也の下に一通の手紙が届く。
一度、雑貨屋の商品を見たい。
うまくいけば、受注に繋がる。しかも、差出人は有名な女性。
近所総出で準備をして、いざ迎える。
かなりインテリっぽく、厳しそうな貫禄ある女性。秘書なのか聡明そうな女性を連れている。
でも、雑貨屋としての価値はあまり認めてもらえない。
文也の手に入れる品は進駐軍から卸したもの。時代はそんな派手なものではなく、もっとスマートなものを求めているらしい。
でも、文也も引くわけにはいかない。必死に頭を下げ、進駐軍のカメラや葉巻の受注を取り付ける。
なめられているのか、かなり安くたたかれるのだが。
悔しくてたまらないが、それでも生きていくためにと、不条理なことを受け入れていく。

  

この女性は、もちろん文也の商売に影響を与えたのだが、蒼子とミミにもっと大きな影響を与えていた。
女性が自分一人で、力強く生きる。自分で、自分の可能性を男に負けずに切り開いていく。そんな生き方をして、その結果を得ている人だから、その言葉が二人には重く響いたみたいだ。

  

ミミは、主人から不当な扱いを受けることにはきちんと抵抗する権利があることを教えてもらう。
それを実践するが、主人にこっぴどく叱られる。
ふてくされて、自暴自棄になっているところ、文也の元妻と出会い、相談にのってもらう。
ミミは怒りおさまらずといった状態なので、寝ながら話し合って、感情を抑えて喋り合うといったことをしている。
全て分かっていること。
主人が本当に悪い人ではないことを。自分を引き取ってくれたのも、自分の能力を認めてくれて、ここで頑張ることを期待されている。そして、家族のもういない自分にとって、他の場所などあり得ない。ここで頑張るしかないことを。
感情に任せず、冷静になって出てくる言葉は、素直な感謝と現実論である。
 

  

蒼子は、たまたまミシンで作っていたドレスのセンスがいいと褒められる。
この才能を伸ばそうと思わないの。自分で作った素敵な服を自分で着てみたいと思わないの。当たり前のように、自分がしたいことをするべきだと発言する女性。
そんな言葉に、普段は考えてはいけないと心の奥にしまっていた感情が溢れてくる。
そして、今度は女性に見てもらって意見してもらうためにドレスを作る。
その意見は厳しいものだった。素人の真似事ではダメ。基本を学校で勉強しないと。少なくとも、商品として店に並べることなど絶対に出来ない。
これを知った文也は蒼子を叱りつける。
お前はこのままでいい。何もしなくても、自分が頑張ると。
その場は謝る蒼子だったが、ミミとは違って、家を出る決意をする。

  

家に蒼子がいなくなったことに気付いた文也は錯乱状態に。
近所の人たちと共にあらゆる場所を捜索する。
どうしてこんなことに。言い過ぎた、ずっと閉じ込めておくのは確かに嫌だったのだろうと、近所でミシン仕事が出来る場所も見つけていたのに。

  

これは警察を呼ぶかと、慌てふためく近所の人たち。
でも、たった一人、落ち着いている人が。ミミ。
誰もいなくなった時に、出て来なさいと声をあげる。
床下に蒼子が隠れていることを知っていたみたい。
甘過ぎる。でも、私は服飾の仕事をしたい。仕事なんか私はしたくない。しないと生きていけないからしている。なのに、わざわざ。守ってくれるお兄さんがいるのに。
高ぶる感情を二人は、文也の元妻に教えてもらった寝ながら話すということで抑え込みながら、想いを語り合う。
妬みや憧れ。互いに複雑な感情が渦巻いていたことを腹を割って話し合う。
蒼子の決心は固い。
やがて、蒼子の出発の時がやって来る。
あとは、全部私が説明しておくと旅立つ蒼子を見送るミミ。

  

全てを知った文也は怒りの感情を溢れさせる。
あいつ一人で何が出来る。裏切りだ。もう、二度と帰って来なければいい。
そう、きっと苦しむ。
自分が戦場で多くの仲間を失ったように、商売で悔しいことを言われるように。
生きることはたくさんの不条理なことを受け入れなくてはいけない。
それは心をどれだけ痛くすることか。
そんな痛みの中でも、生きていかなくてはいけない厳しさ。
だから、・・・
頑張れ。戻ってくるな。ずっと応援している。
蒼子がこれから、どれだけつらいことになるかを知っているが、それに自分も耐えて、蒼子の人生を激励するという決意にまで怒りを昇華させている。

  

最後は蒼子のいなくなった店。
特に何も変わらない。みんなこれまでどおり。生きるということはそういうことだろう。
ただ、蒼子の使っていたミシンだけが、その一つの時代の役割を終えたかのように、使われることなく、大切に置かれている姿が映し出される。

  

多くの命が不条理に失われ、残された者は生きていかなくてはいけない。
戦後の日本はそんな感じだったのだろうか。
死はもちろんつらいことであるが、生きていくことも楽なことでは無い。
そんな死んでしまった人たちの分までなんて思って生きていくことを考えると、単に生きながらえるだけではなく、本当ならやりたかっただろうことを自分は生きているのだからやらなくてはなんて思うのかもしれない。
でも、そこにはつらいつらいことが待ち受けている。何回も何回も心が痛くなって、死をうらやむ考えすら出てくるかもしれない。それでも、命を失った人たちが手に入れることが絶対できない希望を見ながら、先へと歩を進めていく。
人によって、環境によってその歩みの進め方は色々と異なるだろう。
誰かが決めれることでは無い。生きている、生きていく自分が決めること。
この作品では、様々な人たちが、そんな時代にその先にある希望を見ながら、それぞれの形で前へと進んでいこうとするたのもしい姿が描かれているように思う。そして、同時に、そんな人たちが互いに信頼し合って、その生き方を認め合い、つまずいた時には、またいつでもその支えになっていくという、大切な想い合いから生まれる絆を伝えているように感じた。

  

今は作品の世界のように、戦争も無く平和であることは、否定できないことだと思うが、不条理に命を失うことはけっこうあるように思う。残された人たちがどう生きるのかはこの作品の時代の考えと大きくは違わない。
ただ漠然と生きながえることを死と同格として扱うならば、生の痛みを恐れて、希望まで同時に捨ててしまうことは生きているとは言えないだろう。
生きていくのはけっこうつらい。
でも、そこに自分の生を見詰めてくれている人がいるならば。生きているとつらいこともあって、心が締め付けられるぐらいに痛いことを分かってくれる人がいるならば。
私たちは、そんな人の想いを信じて、自分が描く希望に向かって、どんなにつらくても生きる道を自信を持って進んでいくことが出来るのではないだろうか。

  

作品名は、スコッチの名前だが、どういった意味合いがあるのかな。
ポートエレンは私も好きなアイラ島の名酒である。
ピートの効いた、アイラモルトらしいスコッチである。
けっこう高い。新地のバーで24年のショットで3000円ぐらいはたしか取るのではなかったか。
それは、この作品でも言及されているように、もう製造されることの無いお酒だから。
不条理、時代の流れの産物といったところか。
一つの時代が終わり、後は熟成されながらも、消費されていくお酒。
でも、その味は今の時代にまで受け伝えられている。
そして、その存在は、その後のアイラウィスキーのステイタスを確立させている。
さらには、今でもこの酒を造っていた麦芽は、アイラウィスキーの核となって歴史に名を刻む。
そんなところが、この作品の時代に生きていた人たちの、厳しさと希望を同調させているのだろうか。

  

あとは、このお酒は基本的にシングルカスクでしか現存していないところかな。昔に瓶詰めして、そのまま保管されているだけだから、ブレンデッドは無いと聞いている。
だから、瓶によってとても個性的である。それほど味は分からないが、確かに店によって、味が全く違って残念な時も多い。
人に色々な生き方があるように、このお酒も色々な個性を持って、時を刻んできた。
その味は、バラバラであっても、ポートエレンという一つのブランドであるアイラモルトとして立派な存在としてその名を馳せている。自分の成すべきことを真摯にやり遂げた人の姿として、このお酒をイメージすることは出来るように感じる。
ちなみに、作品中で出てくる、水を加えてよりおいしく飲むというくだり。
恐らくはトワイスアップのことを言っているのだと思うが、香りが高まり、味はまろやかになって飲みやすくなる。ストレート派なのであまりしないし、このお酒ではしたことないが、ボウモアとか同じアイラモルトでやると確かにそうなる。
おいしくなれなかった一つのお酒が、外から加える水によってその本来持つ味を引き立たせる。

これも、厳しい生き方で、つらさのあまり固まってしまった人の心を、人が少し手を差し伸べることでその心を解きほぐして、味わい豊かな人生に変えられるみたいな感覚で、何となくこの作品の伝えたいところと同調しているような気がする。

 

フレッシュ公演なので、新入生の方だけ、一言コメント。

 

文也、松本恒大さん。懸命の熱演。正直、巧いなあとは思わなかった。多分、余裕が無いのだろう。何となく観ていて不安感を覚えたから。でも、とても心打たれる姿。丁寧に心を込めて発せられる一つ一つの言葉に重みが感じられる。この作品のとにかく生きていかなくてはいけない。それは失った大切な仲間、そしてつらい想いをさせたくない妹への慈愛を強く感じさせている。
ミミ、木和田安寿さん。環境に依存して、現実的に生を見詰めるような女性。恐らく、戦後の日本の人の姿が映し出されているのだろう。生きるための仕事。夢を追う仕事。戦後は確かに生きることで精一杯だったのだろうな。今、なぜか逆行しそうな世の中になりつつあるのが怖い気もするが。生への力強さを感じさせる演技。
ただ、一つ残念だった。蒼子と腹を割って話した後、文也に顛末を語るシーンがあるのだが、ここが時間の都合もあったのか省略されている。いわゆる、かくかくしかじかでしたみたいな感じで、蒼子と話した内容が文也に伝えられる。この子は、妬み、恨み、親愛、尊敬などの複雑に絡んだ感情を蒼子に持っていた。冒頭でそんなことを示すシーンがあったはず。これが、最後に互いに気持ちをぶつけることで、少し紐解かれた状態になっているはず。この状態で、どのような心を込めて、文也に事実を伝えるのか。そこにはきっと、蒼子への憐み、憧れなど、またこれまでとは違った感情が芽生えているはずである。それが、文也に伝える時の言葉で浮き上がってくると思うのだ。全般的に、微妙な心情表現を巧みに操っている感がある方。役者さんの力を拝見したかった。

  

雑貨屋を訪ねる有名な女性、渡部菜美さん。新入生なんだあ。まあ、上級生の方はだいたいお顔を覚えているので、知らないということはそうかと思っていたが。貫録ですね。いわゆるマダム風なのですが、よくありがちな嫌味ったらしい感じではなく、その地位を築き上げた自信にみなぎっている感じを出されます。これは、作品の中のこの時代の女性の生き方に通じており、いい雰囲気の出し方だなあと。あと、隠された優しさが感じられる演技がとてもいい。本来は、こんな厳格な女性じゃないのかもしれません。綺麗な服を見て、キャッキャッと蒼子みたいに感性が同じ女性と楽しく会話する。それでは、生きられなかった。女性として、人一倍頑張らないと地位を築けない時代で、痛い痛い想いをしながら、頑張ってきた結果に出来上がった外面の中に、そんな本当の姿が見え隠れしているようで、生きていくことの厳しさを際立たせているようでした。
文也の元妻、水野さくらさん。このキャラの存在が分からないのです。聞き違えかなあ。元妻なんだよねえ。誰かがそう言ったと思うんだけど。そこに言及するシーンが無くて、これをどう捉えればいいのか。
文也はきっと戦地で死んだことは間違いない状態だった。だから、死別といった形で離縁したのかな。これも、当時の生き方の一つでしょう。でも、その文也が苦しんでいるならば、それを支えたいという気持ちはまだあるのか。もう妻としての立場ではないけど。よく分からないのですが、この方の存在が上記したポートエレンをおいしくするために、少し加える水みたいなものだと感じています。自分自身はポートエレンのようなお酒自体にはならない。お酒をおいしくするための、あまり重要視されない水として生きていく。この覚悟も厳しいなあと。ほんわかした方で、寝ながら語り合うようなシーンは、時間が止まったような静かで落ち着いた空間を創り出されます。

  

あとは、郵便配達員の岡本拓朗さんと、おやじの藤田智紀さんか。
岡本さんは、ずいぶんと楽しそうにいつも笑顔だったな。何で、郵便配達するだけで、あんなに誇らしい笑顔なんだ。ちょっと面白かった。
藤田さんは、先輩方と一緒におやじトリオ。お茶目で可愛らしいキャラ。
文也が有名な女性に目を付けられるチャンスとなるやいなや
いつもはからかっているこの連中たちが熱心に動く姿。みんなと一緒に力強く生きている。開始15分。この時代の人たちが互いに支え合って、必死に生きているという優しい姿が描かれている。

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