バイト【カスガイ】130629
2013年06月29日 インディペンデントシアター2nd
緊張感漂う舞台に、役者さん方の惹きつける力。
強い刺激を感じる作品でした。
ただ、見たくない、避けられるならずっと避け続けたい人の嫌なところを露骨に描くような話であり、どこか嫌悪感が残る作品でもありました。
<以下、ネタバレ注意。公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで>
舞台はある工場。
従業員は全員で11人。あと、社長。
従業員は1人のバイトを除いて前科者。
放火、窃盗、詐欺・・・
バイトの男は社長の幼馴染。
話の最後まで明かされないが、ある事故がきっかけでここで社長の言いなりとなって働いている。
前科者たちも奴隷扱い。許可なしでは何も出来ない。
ある日、休憩中に、全員、滅多に入ることのない会議室に呼び出される。
社長曰く、寮で1人の女性が死んだ。揉めたくないので、この中から誰か1人が犯人となり、遺書を書いて死ねと。
所詮、罪人。刑務所から出てきたと言って、罪が償われたと思ったら大間違い。世間は厳しい。でも、こういった更生施設があるからお前らでも生きていられる。
逆らいようのない社長の発言に圧迫されて、犠牲者決めの会議が始まります。
従業員たちだけの話し合いの中で、その死んだ女性に対して、各々が想いを持っていたことが分かり始めます。一番重い罪である殺人を犯した彼女ですが、その優しい姿は、みんなにとっては恋愛、もしくはそれを超えた大切な存在だったようです。
ただ、自分だけだと思っていた彼女からの愛情は、誰にも与えられていたことを同時に知ることにもなります。
そんな彼女が手首を切り取られ、持ち去られた形跡があることは、彼女を本当に殺した犯人も、彼女に大いなる想いを抱いていたことであり、それが誰かも、生前の彼女の言葉から分かっていたようです。
社長は彼女の体を求めていました。それの拒絶は、殺されることを意味する。それでも、彼女はそれを選択するつもり。だから、従業員たちは社長を葬る決意も既にしていたのです。
この事件は、結局はそれが間一髪間に合わず、こんな事態になったということみたいです。
彼女の死体から、こんなことを想定して準備していたボイスレコーダーを持ち去り、従業員たちはその最期の言葉を聞きます。録音は容量不足で最後までされていませんでしたが、彼女の本当の想いは、バイトの男にあり、彼に全てを収拾して欲しいことが読み取れるものでした。
そして、バイトの男は、自分が犠牲になる覚悟をします。反対する者もおらず、社長は彼を犠牲として感謝の言葉と共に消し去ろうとします。
話のラストは社長とバイトの男の語り合い。
幼馴染であった彼らに起こった悲劇。
バイトの男の目の前で機械に巻き込まれ死んだ社長の母親。
あの日から、社長は大切なものを奪った彼を憎み、同時に自分自身も憎み続けていたようです。
社長は殺した女性に救いを求めていたのか、彼女を自分だけの物にするため、手首を切り取り、それを食べて一体化するつもりだったようです。
それをバイトは許しませんでした。
隠されていた手首を見つけ、彼もまた彼女への想いを胸にそれを食べています。
社長への贖罪、彼女への愛情が交錯した彼は、社長に手をかけ・・・
観ていた時は、その役者さん方の惹きつける力に圧倒されていたので、全く気にかけませんでしたが、こうして自分であらすじを書いてみると、私の能力不足は認めるにしても、少しまとまりが悪い気がします。
こじつけとまではいきませんが、設定説明や心情描写が十分なされていない状況で、人物に行動を起こさせてしまっており、何でこんなことをしたのかという理屈に違和感を得ます。
最後に、これまで描かれた社長vs前科者がどこかへ行ってしまい、社長vs幼馴染のバイトに焦点が急に切り替わった印象を受けるのも、それまでの会話でその登場人物の心情変化や設定自体に十分納得感が得られていなかったからなのかとも感じます。
全体的な印象は箱庭円舞曲を思い出すかなあ。
あの不快で嫌な感触。
自分にもあって、でもあると嫌だから避けている部分を露骨に突きつけてくる。
みんな、何かにすがって生きている印象を強く受ける。
神。
いや、全員、自分より弱い立場にいる人ですよね。
放火や窃盗よりは殺人の方が悪い人。みんな殺人犯の女性に想いを抱いている。
普通の人より、犯罪者の方が悪い人。社長は前科者を集めた工場で自分の世界を作る。
被害者よりは加害者の方が当然、悪い人。社長は母の死の原因であるバイトを憎むことで優位に立つ。
弱い人を見つけ出し、その人から服従や贖罪の念を引き出し、優位性を手に入れる。代わりに与えるものは支配による守護や憐み。自分より弱い人だから、それで暗黙の契約が成立する。
でも、その絶対的な関係に歪みが生じたら、支えどころを無くしてしまい、本能を剥き出しにして相手を傷つけるしか無い。
社長は支配による守護に対し服従の契約を結んでいた殺人の前科を持つ女性に拒絶されるという形で契約を破棄されたので殺した。
バイトは社長の母の死により、加害者として贖罪の念を社長に与えていたが、自分が愛し、愛された女性を殺されたことで、被害者ともなったので、その契約は破棄となり、社長を殺した。
私にはこんな忌まわしい構図でしか、この一連の事件が見れませんでした。
そして、バイトを犠牲にするということで、間接的な殺人犯となった前科者たちは、もはや想いを抱いていた女性と同等の立場になったわけで、女性から受けた愛情をあの頃のまま、今、受け止め、そして、あの頃のように彼女を想うことは出来るのでしょうか。
この後、前科者たちは仲間内でまた、弱い者を探し、同じような関係を作り出すように思います。もしくは、実際に社長をその手で殺めたバイトに憐みを与え、服従を得ながら生きる。
人が生きるということは、死に比べるとあまりにも醜く、美しさのかけらも無いような印象を受け、それでも、私たちはその中で生きているということが、重くのしかかってくるようです。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント