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2013年6月 8日 (土)

中人二×七病にて、【インティファーダプロデュース】130608

2013年06月08日 シアトリカル應典院

自分が不幸だ、認められない、恵まれていないなんて、世の中に対して反抗する心を持ってしまう人間が、そんなこと関係なしに、何かに立ち向かうという勇気を手に入れる成長を描いたような話。
中二病をテーマにしていますが、そこに固執せず、あらゆる弱さを持つ人たち全てに向けたメッセージが込められているように感じます。
いわゆる反抗期になるとか言われる中二病では、妄想なんて形で症状が現れるのでしょうが、大人は、逃げたり、支配欲を異常に出したり、流れに身をまかせたり、拒絶したりといった症状で世を否定しているような気がします。
そんな人たちも含めて、反抗期を卒業して、一歩成長した戦うことに向き合える人間になってみよう、なってみたいといった想いが伝わる作品です。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

とある研究所。
ここは国家が重要な機密事項としている謎の病気を研究し、そして、その治療を極秘に行う機関。
所長の下、笠原という男性研究員、吉永という女性研究員が働く。
現在、患者は男と女、各一名。
そんな研究所に、まずまずの好待遇に流されて、新入研究員として、入所することになった阿部という男。
そんなに深刻な病気なのだろうか。
彼はその恐ろしさをこれから目の当たりにする。
青年期障害、いわゆる中二病の。

  

研究と言っても、毎日、患者に簡単なインタビューをして報告書をまとめるだけ。
患者は、毎日、色々なキャラになってくれている。
相手の流れに乗ってあげることが鉄則らしく、否定することは出来ない。
相手をするだけでどっと疲れる。
先輩の笠原は、慣れているのか、患者の心をうまく掴んでいるみたいだ。
反して、吉永は、あんな気持ち悪い病気の患者は生理的に受け付けないと拒絶。

  

治療は、毎日、所長が考えた台本をベースに、妄想よろしくの三文芝居をみんなで行う。
学園恋愛ものから、何たら剣とかを使ったりする勇者や魔法使いの出てくるRPGものまで。
見てるだけでも恥ずかしくて鳥肌が立つぐらいなのに、自分もその台本の中のキャラになりきって、一緒に妄想世界に入り込まないといけないのだから、もう辛くて仕方ない。
ここでも、笠原は、この人も中二病なんじゃないのかと思えるぐらいの熱演を見せる。
吉永は嫌々ながらも、けっこう、それなりにキャラに扮して妄想世界を盛り上げている。

  

もう辞めてしまいたいが、国家の機密を知ってしまった限り、ここを生きて返すわけにはいかないと所長に脅されて、辞めることもできない。
そんな、ある日、吉永がどこかと電話している内容を盗み聞きしてしまう。
本部からの電話。研究所の内部事情、中二病に関する極秘資料に関する報告。
吉永は国家機密を盗み出すスパイ。
今度は、そんなことを知ってしまったがために吉永から脅される。
私に協力しなさい。その代わり、ここから一緒に逃げさせてあげるから。

  

色々なものに流されるまま、研究所で過ごす阿部。
ある日、いつものように、治療と称する妄想劇が始まると、隣に笠原の姿が無い。
その代わりに、笠原は患者と一緒に並んで、何やら妄想劇を始めている。
中二病は感染する。笠原もまた・・・

ここはおかしい。
叫ぶ阿部をなだめる所長。研究のための貴重なデータ。治療のために必要なことだと。

  

そんな中、ついに吉永の計画が実行される日が来る。
いつものように妄想劇をするが、台本には無いことをする。
患者も所長も戸惑うだろう。
大騒ぎになったところで、機密情報を盗み出し、ここを脱出。
念のため、爆弾も仕掛けてあるので、大丈夫だと。

  

これでいいのだろうか。
笠原、そして患者を放ったらかしで、逃げてしまって。
複雑な感情が渦巻くが、計画が幕を開ける。
所長扮する悪いボスが、患者の女の子を拘束している。
助けだそうとする笠原と患者の男。手にはいつものように、傘を何とかいう剣に見立てて真剣に演じている。
吉永が扮するボスの手下が、笠原、患者の男をやっつける。
よくやったと近づくボスに、一撃。機密事項の隠された部屋のカードキーを奪う。
台本に無い行動に、混乱するみんな。
吉永は、この場を去り、機密事項の隠された部屋へ向かう。
阿部は付いていかない。
やはりおかしい。間違っている。
吉永を止めなくては。
所長は吉永を追う。
阿部は、笠原、患者に、爆弾をどうにかしよう、共に行動しようと呼びかける。
でも、反応は無い。
所詮、自分たちは無理。誰も自分のことなど見てくれない。何をやっても無駄だ。
否定する阿部に、みんなは言う。
自分だって流されて生きてきたのではないのか。何か自分で決めてやったことはあるのか。

  

阿部は吉永と所長のところへ向かう。
しかし、事態は思わぬ方向に進む。
この研究所の真の目的。
それは、中二病の妄想の力を現実化させることだった。
そして、今、その成果が果たされる時が来た。
爆弾が所長の妄想の力で爆発する。
そして、所長は手に入れた力で、全員を滅ぼそうとする。

  

妄想の力に対抗出来るのは、より強い妄想力を持つみんなしかいない。
阿部の渾身の呼びかけに、動き出す笠原と患者たち。
これまでの、偽りの妄想劇とは異なる、現実での妄想力を使った戦いが始まる。
ラスボス、所長と、真剣にキャラに扮して戦うみんな。
その戦いの行方は・・・

  

といった感じの話。
中二病患者が頭で繰り広げる妄想が、そのまま現実化してしまうという危機的状況を創り出し、単なる妄想で安全なところに身を置いて楽しむのではなく、自分たちのために真剣に戦わないといけないということから、もう逃げないで目の前のことに立ち向かうという成長を手に入れる姿が描かれます。
逃げているという点では、別に中二病患者だけではないような描き方です。
阿部は、妄想こそしないものの、色々なことに流されて生きており、こうしたいから戦うということをしてきていません。
吉永は自分と異なる者は拒絶というスタイルを貫くことで、自分を守ります。
笠原は、中二病患者に身を委ねることで、この方が楽に生きられるという弱い心が、彼を感染させてしまったように見えます。
所長は、自分を成長させて力を手に入れるのではなく、人の持つ弱き心から生まれた妄想の力を奪って、自分の強さにしてしまおうとしています。
自分が恵まれない、認められない世の中で、自らが戦うことから漠然と避け続け、そんな世の中への反抗心だけを大義名分にして自分を正当化して生きてきたような感じです。
奇しくも、そんな人たちが、自分のために自分で戦わないといけないような状況に追い込まれます。
自分のために戦う。その結果がどうであろうと、やらなくてはいけない時はやらないといけない。
戦いの中で、彼らはそれを知り、同時にみんな自分と同じように弱さを抱えながらも必死に頑張ろうとしていることを知ったかのように感じます。

  

最後、研究所は爆発で崩れそうになります。出口もふさがれ、脱出するには、けっこう高そうなところから飛び降りないといけない。
でも、誰一人怖がること無く、飛んでみないと分からないから、みんなで飛んでみようとします。
初めからあきらめることなく、自分たちの可能性を信じる力を手に入れた。
自分も弱いけど、みんなだって決して強くない。
自分だけが不幸だなんてことは決して無く、それに悲観して投げやりになったり、逃げたりする必要は無い。
やってみようと立ち向かう勇気や覚悟。自分一人きりじゃなく、みんな一緒にやってみる。
そんな姿が、世の中への反抗心を打ち消し、一歩成長した力強く頼もしいものに映ります。

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