気持ちいい教育【匿名劇壇】130507
2013年05月07日 シアトリカル應典院
学校の教室というありふれた場所で、特殊な設定、個性的過ぎる生徒。
テンポのいい会話の中に、言葉遊びや不可思議な掛け合いを交えて笑いを誘う。
その中で、仕込まれている多々の伏線が、後半、話の真相へと迫っていく。
ラストは、時間軸をいじったかのような演出で、これまでを振り返り、これからの時に希望を見つめるような微笑ましいものとなっている。
巧みに計算されたこの劇団らしい、鋭いキレ味のある頭のいい作品。
どこかの学校の教室。
国に呼び集められた生徒達が集まる特殊学級。
おとなしそうだが、知識というものにかなりの欠落が見られる男。
優秀の域を超えてしまっているぐらいに、かなり頭のいい女の子。
強面な上に、金属バット。意味不明の言動を繰り返す男。
ナルコレプシー、カタレプシーの併発症の男。
まあ、普通の女子高生で、悪い子ではなさそうだが、いじわるで冷たい一面が前に出ているような女。
今風の女子高生。ちょっとやる気を見せず、いい加減な態度。頭はかなり悪いみたいだが、明るく元気な感じ。二人は同級生みたい。父親はかなり力のあるお偉いさんだとか。
いじめっ子に怯えて、いつも掃除道具入れに隠れてしまうような気弱な男。上の女子高生とは同じく、同級生。
席は8席。残りの一席は、なぜか机の上が水浸しで鉛筆やペットボトルキャップが載っている。あと一人は入院で来れなくなったらしい。気弱な男をいじめていた張本人だったとか。
先生が入ってくる。
荒々しくぶっきらぼうで、明らかにやらされてる感が強い。
指導要項を淡々と読みながら、趣旨を説明。
ここにはいじめっ子、いじめられっ子が集まっている。
誰かが秀でていて、誰かが劣っている。そんな感覚がそういういじめを生み出す。
みんなイコライズして、いじめなどが起こらないようにする場所。
いじめがなく、差別もない、体罰もない、生徒が自殺したりもしない、気持ちいい教育を行うことを宣言。
授業は特に変わったことをするわけではない。
雪をペットボトルで作るという実験をしているみたい。
指導要項に書いているままに話せばいいので、先生は教え役を生徒に任せる。
気弱な男が無理矢理やらされると、後ろの女子高生たちからヤジが。こんな感じでいじめられていたのだろう。
授業が終われば、補習。知識が欠け過ぎな男の意味不明な言動にイライラしながら優秀な女性が教えている。
二人は特にいじめられた、いじめた経験が無い。いったい、何で連れて来られたのか。
気弱な男は悩んでいる。あの日、気付いたらあの子が倒れていた。そんなことを自分がするはずない。でも、きっと無意識に。
ここは本当に生徒をイコライズする場なのだろうか。
日が経つ中で、その真相が浮き上がって行く。
イコライズの場であることは間違いない。ただ、その対象の生徒は実は二人だけ。
それと同時にもう一つのミッションがあった。
それは、気弱な子のいじめの問題。いじめに絡んだ生徒たちの意識を変えるべく、仕組まれた場でもあった・・・
後はうまくまとめて書けないので、DVDを買いましょう。
最後の方はミステリー事件解決みたいな推理物になったりします。
要は、気弱な子が悩んでいた、自分をいじめていた子を傷付けたという事件の真相がそこで明らかにされます。この学級は、ある二人のイコライズと同時に、このいじめの真実を関わった者たち全員に知らせる場として策略されたものでした。
そして、同時にイコライズされた人たちの姿が、いじめに関わる者たちに何かを伝えてくれるだろうと考えられていたみたい。
今回のいじめの真実は、とてもくだらんことで、もう高校生にもなって、どうしてそんな形でしか、相手に想いを伝えられないの、どうして相手の想いを受け止めてあげられないのといったものです。
それは、自分が相手と違う、異にする世界で生きているなんて勝手なことを考えて、常に斜に構えて互いに接して社会を生きているからなのかもしれません。分かるはずがない、分かってもらえるわけがないみたいな。素直になる、自分で自分のことを認めることに恐れを抱くことなど何も無いのに。
どんな自分であっても、どんな相手であっても、共に大切な存在であることは疑うことも無いことで、そんな大切な者同士が、触れ合って絆が形成されていく。相手を想うことは自然に出てくるだろうし、同じように相手に想われることだってある。想う自分、想われる自分が浮き上がると、その心構えが出来ていないからパニックになるのかな。学校の授業で教わることでは無いだろう。でも、学校という場で多感な時期を過ごすからこそ経験して手に入れることのように思う。そういう場に今の学校がなっていないということか。
イコライズ。
画一化するという点では、今の、少なくとも私の経験した30年前を思い起こせば、学校教育とさほど変わらない。
まあまあ普通に社会で過ごせるようにと平均化する。
でも、この作品での画一化は、私が別に誰かより劣っているわけではない、あなたが私より優れているわけでもないという当たり前のことに気付かせることにあるみたい。あっても、それはある一点での話であって、他の点では普通に逆転する場合だってあり得る。
あまりに極端な人同士なので、ある模範的な一つの形にまとまるよりかは、互いに尊重し合わないとやっていけない状況が作り出されている。そんな感じで、いいところも、悪いところもあって、色々なものを持つ人たちが、互いに接しているうちに、互いに惹かれ合う。まあ、この作品では恋愛になっているが、認め合った想い合いが生まれる。
綺麗事っぽいけど、そんな姿を見せて、いじめに潜む問題を視点を変えて見てみたらどうだろうかと言ったところか。
話は、言葉遊びを含むそれこそ気持ちいい掛け合いでの会話が繰り広げられて展開していく。
気が狂っているかのような奇想天外な言葉に自然と笑いを誘われる杉原公輔さんに、見事な間合いで巧みなツッコミを入れる東千紗都さん。
そのいでたち、支離滅裂な言動で一瞬で空気を変える石畑達哉さんに、病んだ感溢れながらの異常性を醸しながら、事態の全体を把握しているのであろう正常さも醸す中津知也さん。
そりゃあ、いじめられるわって感じのキャラにがっつりなった佐々木誠さん。高まっていく不安や怒りから、安堵のような穏やかな表情のラストへのつながりがとてもいい。
ノリのいい女子高生を、ありそうな2パターンの生徒として登場させて学校という雰囲気を舞台に落ち着かせる松原由希子さんと芝原里佳さん。ボケとツッコミのようなコンビっぷりは大阪の女子高生らしさも感じる。
そんな個性豊かな生徒たちを、えらいことを引き受けてしまったわと、やる気なさそうな言葉を連ねながら、上から目線のツッコミで攻撃しながらも、くだらないことで、大事なことをおろそかにするような人になって欲しくないと真摯に受け止めているような先生像の福谷圭祐さん。
ペットボトルでの雪作り、ナルコレプシーなど、何でそんなことを、そんな人をといったものは、大概、伏線になっているみたいで、ラストシーンに向けて、それが拾われていき、驚かされる。恐らくは二度目に見ると、そんなところがより楽しめる遊び心豊富な作品となっているのだろう。2日しか公演がなかったのが悔やまれる。
最後は、開演直後の明転ですぐに気付く、濡れた机に散乱する鉛筆やペットボトルキャップの伏線回収で締められる。いじめの象徴のようにずっと見せておきながら、最後はこれをこれから生きていく生徒たちへの希望の象徴と変えてしまう。
タイムパラドックスのようにまた同じことを繰り返すような行動。でも、次に起こることはきっと今までと違ったエンドを迎える。これから始まる物語こそが、作品名の結果を示すものである。それは、きっと幸せなものであるに違いないのだろうと微笑ましい気持ちとなる。
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