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2013年5月25日 (土)

妄想レイン@OFFICE【斬撃☆ニトロ】130525

2013年05月25日 ロクソドンタブラック

いまひとつだったかな。思ったまま、正直に書いてしまうと。
<あまりいいこと書けないので、感想は続きを読むで。ついでに、ネタバレもしているので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

今回でこの劇団は4回目の観劇。
どれも共通テーマとして、自分の囚われているものを見つめ直し、逃げてばかりいないで、自ら人生を切り開いていこうみたいなことが描かれているように感じている。
それをコミカルをベースに、不可思議な虚構の世界や、タイムトリップした世界、歴史ものなど多様な形で表現する。
若い劇団らしく熱量たっぷりで、エンタメ色豊かに仕上げているのは定番のスタイルであり、楽しく観ながら、作品中のメッセージを受け取る。
必ずハッピーエンドに持っていくところも気持ちがいい。
今回も、ある男がトラウマを解消して、自分の殻を壊して新たな歩みを進めるというような話。雰囲気としては前々作のぼく(25歳)のなつやすみに近いだろうか。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/25120701-5552.html
その作品がタイムトリップした世界だったのに対し、今回は電脳世界へと主人公を導き、そこで、自らの過去の悔いに対峙させているようだった。

  

この似た感じというのが、期待外れに思ったのだろうか。この劇団らしい作品と言えばその通りなのだが、何かもう一工夫を求めるのは贅沢な想いだろうか。
さらに、今回は主人公の男のトラウマの女性と、ゲームでのAIを同調させているが、このシンクロが話の展開と共にどうも深まっていかない。男の悔いが引き起こす妄想の暴走がAIを育てていくのだが、その過程が途切れ途切れで男の日々の現実の生活で鬱積していく感情と、そのAIの育ち具合に妙なギャップがあり、いつの間にこんな化け物みたいなAIになっているんだと違和感がある。

  

一番気になったのは、全体的にとてもギクシャクしている。
ものすごく観づらかった。これがいつもならラストに感じるであろう、ハッピーエンドに対する爽快な感動につながらなかった最大の理由だと思う。
シーン切り替えなど、お得意のパフォーマンスを多用して、もちろん観ていて楽しいのだが、これにスムーズさを感じない。総じて、話の展開のテンポが悪い印象を受ける。
単に若さ溢れる熱量だけでなく、技巧的な上手さが付いてしまっているからなのだろうか。それこそ、旗揚げ劇団とかが若さを目立たせ、力でねじ伏せるぐらいのパワーは感じないし、前作で魅せた最高の巧みなエンタメ力ほどのレベルも今回は感じない。どちらで勝負とかではなく、バランスなのだろうが、それが上手く発揮できていないように感じる。まあ、これは、それだけ劇団としてまとまりがあるということでもあるのだろうが、今回拝見した役者さんのチームなら、本当はもっと高みのある衝撃を与えるだけの力が発揮されていてもおかしくはないと思う。

  

ただ、役者さんの熱演は単純にさすがだと思わされる。
各々、個性的なキャラを巧みに演じられているが、特に主人公の星村彰さんの醸し出す雰囲気が素晴らしい。
過去の悔いに囚われ、自分の中に引きこもり、他人を悪意的にしか見れなくなっている。そうかといって、強い性格でもないから、現実世界での様々なストレスがどんどん鬱積してくる。いつ、爆発するのだろうかと思わすような、じわじわとした不安。爆発した先に、きちんとまた歩いていけるのだろうかと感情移入しやすいキャラが出来上がっている。

  

ゲーム開発会社に務めるサラリーマンの若い男、アマノ。
大手ゲーム機メーカーのAIシステムを使った、ゲームソフト開発コンペに参加中。
経営がかんばしくない弱小の下請け会社にとって、命運をかけたものである。

  

人は良さそうだが、部下任せで頼りない社長。
ゲームのことを全く知らないが、やり手でテンションがやたら高い転職してきた上司。
かなり攻撃的で、プレッシャーをグイグイかけてくる女性。
お茶汲みが仕事のお気楽なOL。
噂好きのいかにもといった感じだが、何か出来る匂いを漂わす派遣OL。
そして、アマノと同級生の男。アマノと違って、立ち回り方が上手いのかみんなから好かれ、調子のいいところがある。

  

開発の中心はアマノ。
納期は絶対無理とも言えるような短い期間。
毎日徹夜で業務に励む。
RPGのジャンルでスタートしたが、企画がなかなか定まらない。
アクション、ダンス、・・・
先は見えない。

  

そんな中、コンペ主催の大手ゲーム機メーカーの担当が会社にやって来る。
仕事の出来そうな綺麗な女性。
アマノと同級生の男は気付く。
先輩。ゲーム同好会で3人でよく遊んだ仲間。
アマノは思い出す。
卒業式の時に意を決して言った。
卒業式後に会って欲しい。告白するつもりだった。
でも、それは、実現しなかった。
雨が降った。だから、たどり着けなかった。

  

その日から雨の日が嫌い。
運が悪く、いいことが無いから。
と言うか、元々、自分はずっと運が悪い。
みんなから仕事を押し付けられ、あれこれ好きなように文句を言われる。同級生のあいつだって、色々と声を掛けてくるが、結局は応援なんかしてくれず、自分がいいように振舞っているだけ。
開発するAIに、そんな先輩の姿を映し出し、自分の妄想の世界を作っていく。
過去に出来なかったことの悔い。これに囚われ、そのことが自分の自信の無さにつながっている。
そして、その自分に対するイラダチを運のせいや、心の中で他人を悪意的に見ることで抑え込もうとしている。
現実世界でそれを発散せずに、妄想の中に逃避する。
その鬱積したものは、やがてAIを通じて、ゲームとして形になって現れてくる。
とても、みんなが楽しめるゲームでは無い。AIを初期化しないと仕方が無い。でも、自分の想いが吹き込まれたAIを消すつもりはアマノには無い。例え、それが負の想いであっても。
迫る納期。会社の危機。
アマノは、会社の危機を救うことが出来るのか。そして、自分自身を妄想世界から救い出すことが出来るのか・・・

  

最後は、男は囚われる妄想から抜け出し、現実の世界にしっかりと目を向けることが出来るようになります。
そこには、自分がなぜ、あの日、先輩の下へと向かわなかったのか。その本当の気持ちを、雨だったからとかの逃避ではなく、自分自身の弱さにあったことを見つめます。
行かなかっただけだった。先輩みたいな人が自分と二人で会ってくれるはずがないと。
そして、アマノの膨れ上がった妄想により暴走するAIを封じ込めるための戦いの中で、自分の周囲の人たち、特に同級生の男は常に自分のことを気にかけてくれていたことに気付きます。
全ては自分の弱さから目を背け、それを誤魔化すかのように雨や人のせいにしていた自分が巻き起こしたことだった。
自分がしたかったことをしていけばいい。今回のゲーム開発だって、昔からしたかったRPGでやれるだけ頑張れば良かった。そうしたら、きっと同級生の男も周囲も自分を助けてくれたはず。
そして、あの時出来なかったことも今。
雨の中、もう一度、先輩に会いに行く。そして、あの時をもう一度やり直そうとする。
もう大丈夫。雨が降っても関係ない。今度は、どうなろうと会いに行くと自分でしっかり決めたから。
心の中でずっと妄想の雨を降らせて、それをあらゆる行動が出来ない理由にしていた男の心が晴れた瞬間。同時に現実世界にも、晴れ間がさし始める

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