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2013年5月25日 (土)

楽園ジゴク【スクエア】130524

2013年05月24日 ABCホール

 いつもながらの笑いで埋め尽くされた展開で話が進むが、後半になるに従い、自分がどう生きていくのかを言及するような深い内容の話となっていく。
楽園もジゴクも自分で創り出すもの。
人に与えられ、それに身を委ねた結果、得たものは楽園だと思っても所詮、偽物。
自らが目指す、自分の楽園。そこには、つらいものも待ち構えているかもしれないが、決してジゴクだとは思わないはず。
これまでの生き方、現状、これからの生き方を見つめ直してみるような作品。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

アパートの一室。
ABCホールとは思えないくらい、幅も奥行きも使わないこじんまりしたセット。
働いていた会社が倒産。
仲間と一緒にやり始めた車の整備会社。
自分は技術畑の整備士なので、経営は任せっきり。
いつの間にか運営もままならぬくらいに大赤字となっていたらしい。
借金は全て自分に押し付けられ、仲間は雲隠れ。
その額、3000万円。
もう死ぬしかない。
部屋を片付け、ひっそりと首を吊って。

  

そんなところに友達がやって来る。
お金を貸して欲しい。
人に騙された。
いつものことだ。もう24回目になるだろうか。
悪い奴ではない。バカなことにいつものっかり人を信じて騙される。
借りた金も必ず返してくれる。
でも、今回ばかりはもう・・・

  

友達が首吊りにようやく気付き、何とか説得するが、何が出来るわけでもない。
そこに間違えて入ってきた隣の女性。
水商売帰りかやたらテンションが高い。
事情を話すと、結構あっさりとアドバイスしてくれる。
何でも、以前に自分も似た状況に追いやられ、それでも今は、それなりに幸せに暮らしているのだとか。
まず、借金は自己破産してしまう。
家も解約。
そして、楽農の園とやらに行けと。
自分も半分住み込みでそこに居ているのだとか。
そこは、いい人ばかりがいて、自給自足の生活をして日々を過ごす楽園だという。
いかがわしい話だ。
でも、今のジゴクから抜け出すにはそれしかない。
早速、明日、行って見ることに。

  

暗転の間に、舞台セットが思い切り変わる。
狭苦しいアパートの一室の後ろには、2階建ての屋敷。
至る所に置かれた太陽を形どったもの。
1階は共有スペース。奥には各自の寝床がカプセルホテルみたいな感じで配置されている。
吹き抜けの2階には、何やら教会のようにステンドガラスの窓なんかもある。
何かの宗教施設か。

  

ここが、楽農の園。
そこには、お父さん、お母さんと呼ばれる人の下で、長男、次男、三男、長女、次女、三女が暮らす。
ここを紹介してくれた人は三女となっている。
もちろん、本当の家族ではない。
確かにみんな笑顔でいい人みたいだ。
大歓迎してくれる。
各自の能力を活かし、それぞれがこの楽園の運営に携わる仕事をする。
総務、経理、企画、科学・・・
例えば、連れて来られた男は、整備士なので、農作業機などのメンテナンスをする技術部門を担当すればいい。
そして、全員で農作業や酪農の仕事をする。
身の回り品などは、野菜を売って稼いでいる。

  

一昔前の何とか真理教みたいな感じか。
当然、いかがわしいところだと思うのだが、もう住むところは無いし、とりあえずはここに頼るしかない。
男は四男としてここに入ることに。

  

いざ、暮らしてみると、確かに楽しい。
初めてやる、農作業は大変だが、やりがいがある。
自分の本職も活かせているし、周りの人も本当に親切でいい人たちだ。
最初はいかがわし過ぎると出て行った友達も、いつの間にやらすっかりここでの生活にはまりつつある。
今は、夏に子供たちを集めて開催される農作業体験会への準備で頭が一杯だ。

  

ただ、どうも溶け込めないところがある。
太陽を崇拝し、オオオヤ様とか呼んで、日の出はお戻り、日の入りはお帰りなんていって、大げさに歌わないといけない。
太陽に、いやオオオヤ様にお尻を向けて歩いてもいけないらしい。
それによく分からないがシイタケは食べてはいけない。
そして、何よりおかしいのが、そんな色々なルール、ここでは真理と呼んでいるが、その理由を誰も知らない。
何を聞いても、お母さんに聞けばいいの一点張り。
破れば、浄化とか言って、何の力を持っているのか、お母さんの力で体を清められる。

  

男は生活を続ける中で、一緒に住む人たちのことを知っていく。
一流の学校に行けなくて、ここに入り、それが結果的に良かったと信じ込んでいる長男。
アルコール中毒になっている次男。
元暴走族で、今でもいい車に乗りたいという願望があるにも関わらず、それを叶えるための行動を起こさないでここで暮らす三男。
学生、OLとずっと友達がいない長女。
高校でいじめにあって中退。親にも愛情を注がれず、ここに逃げ込んできた次女。
そして、男をここに連れてきた、いまだに借金返済のために下界で働く逃げ場として、ここに救いを求めているかのような三女。

  

どこかおかしい。
みんな逃げている。
それはお父さんやお母さんも含めて。
野菜を売るだけで、ここを存続できるわけがない。
いつかは破綻をきたすだろう。
でも、そんなことには目を背け、ただ、しがらみを感じないで済む家族という形の人間関係の中で、安直に日々を過ごす。
どこか後ろめたい気持ちは、きっとオオオヤ様とかいう象徴をあがめることで昇華しているに違いない。
ここは本当の楽園では無く、楽園であることを維持するために作られた虚構の集団。
下界でそれぞれ何らかのつらい思いをして、傷ついたのだろう。
だから、そんなジゴクから逃げて来た。
何か見えないものに従属して、しかも優しいお父さん、お母さん、兄弟という寄りかかれる存在がいるこの世界。
出来上がった世界。過ごしやすいというだけで、ここを楽園とし、身をゆだねる。
行き着く先は、きっと、これまでに経験してきたジゴクが待っている。
従属するのではなく、自分たち自身がそれぞれの楽園を創っていかないと。
男は、この間違った世界を正すために、声をあげる・・・

  

冒頭、いきなりの首吊りシーン。
人生に追い詰められた男たちと、あっけらかんとしている女の自虐的な会話が面白い。
前半は、楽農の園の不可思議な真理をコミカルに描きながらも、これでここは大丈夫なのかという問題提起をしている。
後半で、その問題の奥深いところにまで言及し、単なるコメディーでは無く、話の内容に深みを持たせているようだ。
楽しいから楽園なのではなく、楽だから楽園みたいな分からないでもないが、逃避している人たちが、本当に楽園と言える場を作ろうとし始める姿が最後に描かれる。
そこにはきっと、かつて経験したジゴクのようなものも待ち構えているのかもしれないが、それをもうジゴクと思わず、これから先に待つ楽園に目を向けて歩き出しているような成長したみんなとなっているようだった。
今がどうだではなく、これから先が楽園なのか、ジゴクなのか。どちらに向いて自分は進んでいるのか。その先を信じる強い意思が結局、今が自分にとってどうなのかを決めるように感じた。

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