モータプール【子供鉅人】130526
2013年05月26日 アイホール
今はモータプールになった自分の生まれた家があった地で記憶を掘り起こしながら、そこにある人の歴史を紡いでいくような作品。
描かれる一人の少女の記憶から、宇宙の中で存在する自分の意味合いまでを感じさせるような構成になっている。
記憶をたどることで感傷的な気持ちが芽生える中、今、そして未来を見詰めた力強い命を考えさせられる。
多数の役者さんによって放たれる熱量は圧巻で、それが踊りを含めた力強い演技で魅せられる。
<以下、若干ネタバレしていますが、公演はこれから6月に東京でも行われるため、戻すのを忘れるので白字にはしていません。あらすじとかは関係ない作品なので大丈夫ですが、演出の一部を書いてしまっているので、ご注意ください>
昔、ここにあった家。
今は白線の引かれたモータプールになっている。
男は記憶を掘り返して行く。
ここはキッチン、ここは鏡、ここはダイニング、ここは妹と一緒の部屋・・・
お父さんは安い酒を飲んで小遣いもらってタバコを買いに行き、お母さんは台所仕事をせわしくして、妹は飛べるとでも思っているのだろうか、無邪気に飛行機のように飛び回っていて、おばあちゃんはまだまだ健在だが、亡くなったおじいちゃんの影を見ていたりして。
自分はここで、窓から彼女を枠の中に捉えていた。
走り続ける裏の家の少女。
いつの日か、この子と家族になる。この家で一緒に住む日が来ると信じていた。
掘り起こされて行く男の記憶の世界は、やがて少女の過去の記憶へと紡がれていく。
バレー部。
悪い人ではないんだけど、何かいつも嫌われないようにと必死の顧問の先生。
ちょっと天然が入っているのか、還暦を迎えた自分の父親を大会の応援に連れて行くとか言い出している。自分はボーカルをするとか。
部員とは良くも悪くもない関係。
一緒に帰って、お茶をしたりはしない。家庭環境のこともあるのか、少し距離を互いに置いているような関係。
自分は自主練で遅くまで残る。
バレーの練習に打ち込んでいる時がホッとするみたいだ。
母親は家を出て行き、その後、事故で亡くなった。最後の日、自分を訪ねてきたことはノックの音で覚えている。でも、会わなかった。自分の世界に踏み込んで欲しくなかったから。
今は姉夫婦の下で暮らす。
義兄も悪い人ではない。誕生日祝いもしてくれたし、すごく気を使ってくれている。
いつか、自分はここを出るだろう。戻ってこない日が来る。母がそうだったように。そして、今、姉もそうなっているみたいだ。
どこへ向かうのかは分からない。
ただ、この場を、この時間を超えたどこかへ。
少女は子供のように、ひたすら走り続ける・・・
前半は比較的冷静に観ていた。
その地に記憶が眠る、そこに纏わる人達の歴史が浮き上がる、走って走って、今いる時間・空間から抜け出す。
過去にそんな感じの作品は幾つか観た覚えがある。
記憶に残っている限りでは、地中、サンプリングデイ、光速可変の定理とかだろうか。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/2011120311-e60e.html)
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/sunday100722-49.html)
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/130222-8136.html)
ただ、中盤あたりから、これまでとは感覚の違う世界へと導かれる。
描いているのは、単なる一人の少女の過去の歴史。
だが、そこに浮き上がる、人の存在、その場の空間の存在が無限の可能性を徐々に見せ始める。
最後は役者さん全員で魅せる全身全霊の力強い儀式のような踊り。
あまりの迫力に、めまいがしそうなくらいになり、どっと疲れた。
そんな放心状態の後の、ラストシーンが美しく素晴らしかった。
走って飛んで、ここからどこかへ旅立とうとする力が、最後に導いた場所は宇宙だ。
舞台には先ほどの儀式のような踊りの中で脱ぎ捨てられた各々の靴が散乱している。
自分の存在の欠片のような靴を、宇宙を創り出している星の一つに見せ、その一つ一つが未来へとつながっているようなイメージを受けた。
今いる自分。存在しているその空間、時間。
記憶の積み重ねが到達する今。それは過去だけでなく、未来にも通じる。
今の自分の存在への力強い意志。過去への感謝。未来への希望。
命という尊く美しい力強い存在を感じ取れる。
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