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2013年5月20日 (月)

宿酔 ~やどよい~【sputnik.】130519

2013年05月19日 Cafe Slow Osaka

う~ん、やっぱりここは難しいなあ。
静かに進む話の雰囲気にそれこそ酔いながら、少し心がざわつきながらも穏やかな気持ちになって、最後は心が温まるみたいな感覚は、これまで拝見した二つの作品とよく似ているのだが。

心の病みによって歪められた自分の存在を取り戻していくような話だろうか。
生きているということは、この世に存在すること。
それは肉体として、精神として?
精神ならば、この場にいなくてもよくは無いのか。
私は今、本当にここにいて生きているのだろうか。どこかで私の本体が、眠ってはいないか。もしそうだったとしても、それならば、生きている自分はどちらなのだろう。
何か、色々と生やら存在やらを考えさせられる話です。
それでも、最後は生きることは自分の、そして人のぬくもりを感じ取れることなのかなあと感じました。

セットが凄いな。
話の内容については、難しくてあまり言及できないので、違ったところで良かったことを記しておこう。
ここでこんなにしっかりした舞台セットが組まれているのは始めてですね。
ここは、客席から見て左側に中二階の小さなスペースがあり、そこから隠れた人が出てきたり、メインスペースから出て行った後もそこにいて、存在感を醸し出したりと常に何かあると思わせる空間が存在しています。
ここを隠すことなく、何かあるという意識付けをさせやすい作りで部屋のセットが組まれており、さらに話の中でも、その効果を巧妙に出していました。
ベッド近くのスタンドに灯る豆球の穏やかな光。照明の美しさも、この静かに淡々と穏やかに進んでいく話の雰囲気に浸るのに、効果的な技術を使われているのでしょう。

若い夫婦が住んでいるマンションの一室。
妻の友達が転がり込んでいる。
次の住まいを見つけるまでの間、しばらく厄介になる予定。
元々、二世帯住宅を改造した部屋なので、広さに関しては問題ない。
夫婦にとっても、少し好都合のところもある様子。
スレ違っているのか、あんまりうまくいっているような感じでは無い。
妻の友達は、自由というか、不安定な仕事にこれからの不安を感じているのか、睡眠導入剤を毎晩飲む。そして、何かを抱きかかえていないと眠れない。

ある日、妻の友達は仕事もあんまり無く、暇なので屋上で一服。
下の階に住んでいる薔薇を育てている男と出会う。
そこから少し話すようになった。
もっとも、怪しい人だから、あんまり会うなと妻には言われているのだが。
夫婦に隠された秘密が明らかになる。
あの夫婦には子供がいる。目が虚ろでフラフラ歩いている女の子。
薔薇を植えているところにたまにやって来る。
そして、妻の友達はその女の子を見たことがある。
部屋の中二階に隠し部屋のようなものがあり、夜中に部屋を彷徨うように出て来たことがある。
女の子は、常に眠っているかのようで、こことは異なるどこか違う世界を彷徨っているようである。
夫は、この子の正体を語り始める。
前妻の子供。それを受け入れられなかった妻。二人は存在を互いに否定し合うような関係になっている。

もう一つの世界。
いつも部屋に出入りする男。
そこに、数ヶ月ぶりに後輩がやって来る。引越しやらで忙しくてなかなか来れなかったとか。
男は、この部屋に集まっていた人たちが最近来なくなったことを恨めしく思っているようだ。
特にいつも出入りしていた女性。
結婚。もう来なくなるらしい。
彼女に恋愛感情を抱いていた男のイライラは募る。
もう、ここに来るのを辞めるなら、私を殺して欲しい。
そんな無茶苦茶なことを女性に無理強いさせ始める。
そんなおかしくなったこの部屋に、いつもいる一人の女性。
いるのかいないのか分からないくらい、何も語らず、その存在感を消している。
ここは、バーチャルな世界。
フライトするという言葉で表現するらしい。薬で眠っている間に、入り込めるネットの世界のようなものだ。

この二つの世界が交錯しながら話が進み、関係性が浮き上がるようになっている。
現実世界での彷徨う女の子、非現実世界での語らない女性の存在。同調するこの存在が、現実世界を非現実世界へと導き、同時に非現実世界が現実世界であるかのような錯覚を引き起こす。
これが互いに交錯して、どちらが、今、生きている世界なのか分からない状況へと静かに導かれていく。
彷徨う女の子はその存在を否定され、自らも薬によって意識が無い。その肉体は、生の象徴というよりかは、単なる心の媒体にしか見えない。肉体を抜けて、バーチャル世界へと向かう彼女の心は、精神としてその場で生きているのだろうか。作品中ではそこでも生きていないような印象を受ける。
バーチャルな世界では、最終的に男と女が刺し合って死ぬ。恐らく、それはバーチャル世界との決別であり、現実世界での生を受け入れることのように感じる。精神を殺して、肉体の生を選択した。
彷徨う女の子は、どちらを殺せば、彼女の生が、存在が取り戻せるのだろうか。
話は共に眠ることで、彼女の心に近づこうとする妻の友達の姿で締められる。

現実世界とバーチャル世界での登場人物の関係性、作品名の意味合い、話の中で出てくる薔薇・・・
分からないことだらけだが、妻の友達と触れ合うことの出来るようになった女の子は、きっと本来の生の姿を取り戻すように感じる。

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コメント

いつも観に来て頂き、また、その都度丁寧な感想を書いて頂き本当にありがとうございます。我々の励みになっております。今後ともどうぞよろしくお願いします。
sputnik. 川上立

投稿: 川上立 | 2013年5月21日 (火) 23時00分

>川上立さん

コメントありがとうございます。

乏しき感性に、稚拙な文章と、未だにsputnik.の魅力を100%味わえていないと思いますが、エレホンの雪で初めて拝見した時から、あの独特の静かな雰囲気が好きで毎回、楽しみにしております。

また、次回公演も私なりに楽しませてもらうつもりです。
素敵な作品を期待しております。

投稿: SAISEI | 2013年5月22日 (水) 03時12分

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