鬼ヶ島 LIBERTY【劇団ほどよし】130518
2013年05月18日 芸術創造館
久しぶりにこの劇団を観劇。
2012年は、多分2回公演があったはずだが、タイミング合わず観逃がし。
Twitter、ブログでの評判がすこぶる良く、ほどよし合衆国と名乗られていた頃からずっと観続けていたのに悔しいなあと。
ただ、この劇団は確かになかなかの実力派で、話も面白いことは認めていましたが、本当にそこまで凄いと言われるぐらいだったのかなあなんて、正直ちょっと疑いの目を向けていたところも。
今回観て、分かりました。
確かに凄いわ。
こんな心の底にたまる感情を溢れさせるような話にも、心を惹きつけられるだけの魅力的な演技が数多くの役者さんに見られ、しかも殺陣、ダンスとエンタメ色豊かな見せ場もその魅力をしっかりと発揮させている。
一年見ない間に、私が変わったのか、劇団が変わったのか、何なのかは分かりませんが、とにかく実力派のしっかりした作品を観れて非常に満足。
桃の木の下で、許されぬ恋をするあかつきと太郎。
太郎は家柄のいいところの息子。あかつきは親無し子。
それでも、二人はいつの日か一緒になろうと誓い合い、この桃の木の下で逢引きを続けています。
二人は、幼き少女と出会います。
どこから来たのか、名前も分からぬ少女をあかつきは、つばきと名付け、姉のように一緒に過ごすことに。
優しいあかつきは、桃の木にお願いして、少しだけ木をいただき、太郎、そして、つばきのために十二支を形どった首飾りのお守りを作ります。
太郎には生まれ年の丑。歳も分からぬつばきには、十二支全てを。
時は経ち、桃の木の近くにある家。
今では、もう桃の木は、花を咲かさないみたい。
そこにはおじいさんとおばあさんが住んでいます。
町から、この人里離れた山にやって来たようです。
おじいさんは、いつものように、桃の木にまたいつの日か花が咲きますようにと祈りを捧げ、周りの雑草を脱いていた時、一人の少女と出会います。
記憶を失っているのか、どこから来たのか分からず、一人寂しそうに座り込んでいます。
ただ、一つ分かったことは、彼女の名前がつばきということ。
おじいさんとおばあさんは、つばきを我が娘として育てます。
年甲斐もなく子供なんて噂になると困るので、とりあえず、桃から生まれたことにして。
すくすく育つつばき。
最近、鬼が町を荒らしているという噂が。
国の兵士たちは、長官を筆頭に何グループかが、競い合うように、その鬼退治の手柄を立てようとしている様子。最終的には鬼のアジド、鬼ヶ島に向かうことを目指している。
そんな中、家に流れ着いた罪人の印がある一人の男。元は国の兵士で、ある理由で長官を殺害してしまったようだ。色々とあって、つばきの用心棒となる。
そして、世間を騒がす、町から兵士に追われ、山に逃げ込んで来た鬼の子供。鬼ヶ島での生活に疑問を感じて出てきたらしい。角は偽物で本当の鬼では無い。鬼ヶ島の鬼は、幼き時に斬られ、その憎しみの力を得て鬼となるらしい。この子は父の教えだったのか、その儀式を受けなかったみたいだ。
鬼からお宝を奪って生活をする盗賊団。鬼ヶ島で、その財宝を根こそぎいただこうとしている。その頭領がつばきに一目惚れ。
その胸に付けられた動物を形どった首飾り。
つばきはそんな人たちと接する中で、桃の木の精霊と名乗る男によって、過去を思い出していきます。
あかつき。私の姉。鬼が持つ首飾り。彼女は今、鬼ヶ島にいる。
つばき、出会った人たちはそれぞれの想いを持って、鬼ヶ島に向かいます。
桃から生まれたつばき、犬のように忠実な罪人の男、鬼の情報を握る鬼の子供、調子のいい盗賊の頭領を率いて。もちろん、おばあさんからもらった、食べればすぐに元気になる団子を持って。
そこで、鬼とは何なのかという鬼ヶ島の真実、そして、あかつき起こった過去の悲劇、つばき自身が背負うものが明らかになり・・・
人の弱さが引き起こした過ち。
そこから、生まれた憎しみの感情。
それが人を鬼にし、更なる憎しみを連鎖的に増幅していく。
しかし、人は過ちを悔やみ、懺悔することもできる。その真摯たる過去の過ちへの悔いの念が、相手に伝わった時に、人はその想いを受け止め、許すことが出来る。
鬼を生み出す人間は、同時にその鬼を消すことも出来る。
憎しみを昇華させ、相手への許容を手にした時に、本当の通じ合いが生まれ、幸せな時が訪れるといった感じでしょうか。
あかつきは、結婚を反対していた太郎の両親に騙されて、汚されてしまう。それを両親は太郎が指示したことにしてしまう。
その憎しみがあかつきを憎しみ、怨みをむさぼり喰う亡者へと姿を変える。
そして、それを知った太郎は両親への憎しみから、鬼となる。
罪人の男は、かつて、自分を裏切り、故郷を滅ぼした幼馴染を怨み、鬼となる。
そこに、憎しみがある限り、鬼はいくらでも生まれる。
その連鎖を止めたのが、憎まれる側の悔恨、そして、憎む側の許容だった。
太郎の両親の悔やんでも悔やみきれない深い悔恨、懺悔の日々。
弱いがために、幼馴染、故郷を裏切らざるを得なかった悲しみの中で心の葛藤に苦しみ生きる男。
あかつきの心の深きところにまだ残っている優しい想いは、首飾りの形となって、今だに生きる人たちに癒しを与え続ける。
太郎の憎しみだけに囚われていてはいけないという心の片隅で思い続けていたことは、鬼にならなかった我が子を通じて伝えられる。
人は人を憎んでしまう。それは、過ちをどうしても犯してしまう人の愚かさがためなのかもしれない。
しかし、それ以上に人は人を思いやり、その力は憎しみの感情を全て消し去るだけのものとなる。
最後は、各々の心から憎しみが消え、その悔いの気持ちを消し去っていく、全てを元に戻すかのような浄化の過程が描かれる。
互いに信じ合っていたあの頃。
時が戻るかのように、長年の時を経て、桃の花が咲く。
全ての人に、本来持っていたであろう綺麗で澄み切った心が戻ってきたかのような美しいシーンで締められている。
殺陣や幻想的なダンスによる情景描写などエンタメ色豊かな作品となっており、その出来はかなりいいように感じる。
特に役者さんの熱のこもった演技は目を見張るものがある。
今週は観た本数が多く、ブログが追い付かないので、一部しか名を挙げないが、全員、キャラを引き立たせた個々の魅力が発揮された演技がなされていたことは記しておく。
あかつき、つばき。横田愛実さん、塩尻綾香さん。桃の精霊のような美しいたたずまいから醸し出される優しさ、慈愛の精神の魅力。横田さんの憑きの演技というのか、心の葛藤に苦しみながら、亡者となる姿の迫力、塩尻さんの絶好調のおじいさん役のうえだひろしさん(リリパットアーミーⅡ)はじめ、数々のキャラへの間合い上手なツッコミの巧みさも面白い。お二人ともラストシーンは驚くほどに美しさを醸す。
ちょっぴり三枚目の面白要素を見せながら、力強い殺陣でかっこよさも押し出す罪人の男、大澤竜さん。
守れなかった悔い、憎悪、そして許容と移り変わる感情表現を熱のこもった演技で魅せる太郎、三好健太さん。
飄々とした雰囲気で、肝っ玉ばあちゃんに扮しながら、母としての優しい母性も見せるおばあさんの矢本真有香さん。
怨みの象徴、憎しみの塊となった狂気的なオーラを発揮する桃の木の偽精霊、小野篤志さん(イズム)。
他もいらっしゃるのだが、申し訳ない。個々にコメント書くと、各々の方を回想しないといけないので、時間がかかってしまう。上記したように、素晴らしかったことは間違いない。
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