« 妄想レイン@OFFICE【斬撃☆ニトロ】130525 | トップページ | モータプール【子供鉅人】130526 »

2013年5月26日 (日)

バベルキッチン【しろみそ企画】130525

2013年05月25日 芸術創造館

あるレストランの経営再生の中で巻き起こるドタバタ。
そこにある各々が持つ大切なものを守りたい気持ち。
これを、恋愛を絡めながら巧みに描いているような話。
コミカルな登場人物が見せる人の優しい想いに感動させられそうになったり、単純に個性的なキャラに笑わされたり。
コメディーの中に、色々な人の想いが詰め込まれた作品。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

イタリアンレストランバベル。
少々変わったご近所の常連さんを中心に、客はちらほら。
売り上げはかんばしくなく、前店長は夜逃げをしてしまった。
今は、副店長の女性、ホール係、コック長とキッチン担当の4人で店を開けている。
つまみ食いをしたり、常連さんと一緒になってお喋りをしたりと、勤務態度は少々、いやかなり問題あるが、日々楽しんでいる。
そんな店に、本社から敏腕店長がやって来る。

  

向かいの煙草屋のおばちゃんは店にしょっちゅう入って来てはタバコを売ろうとする。
小説家の卵は、いつも決まった席で、声を出しながら、よく分からない小説を執筆。
つけ麺屋の大将は、ラーメンの玉が無くなったとパスタを分けてくれなんて言ってきたり。
さらには友達を連れてきたら、店で大々的にカードバトル。
たまに来る客もおかしな人。35歳で手も握ったことの無い彼女と初デートの上、プロポーズするので、うまく取り計らってくれと頼んできたり。もちろん、うまくいくはずが無く、別れることになったけど。その後も、すっかり腑抜けた状態で彼女を追い求めて店を彷徨う。
その時の彼女が、また全く違う姿でやって来たり。今度はつけ麺屋の大将と付き合っているのか。どうも、モテない男を手玉にとって遊んでいる女みたい。

  

もう、いくらでも新店長に降りかかるトラブル。
昼間の開店中だけで勘弁して欲しいところだが、疲れて夜中に仕事をしていたら、店に少女の幽霊まで出る。実際は幽霊じゃなくて、前店長の隠し子だとか。ここで人目を忍んで住みついているらしい。
もう、嫌になる。
でも、新店長は何とかしたいと頑張る。
それは、もちろん、自分の職責を全うするということもあるのだが、もう一つ大きな理由がある。

  

この店は、学生時代によく通っていた店。
当時は喫茶店だった。
マスターは女性。
あこがれていたところもあったのだろう。
毎日通っては、彼女の入れるコーヒーを飲んでいた。
その店に偶然にも関わることになった。自分の思い出の大切な店。
そして、もう一つの奇跡ともいえる偶然が待ち構えていた。
今のこのバベルに野菜を卸している八百屋の奥さんがその人だった。
主人とうまくいっていないらしく、離婚。主人は未練たらたら。好きを器用に表現できない人らしい。それに嫌気がさして、奥さんは離婚を決意。でも、実は好きで好きで仕方ないのだ。
その奥さん、色々とあって、今はこの店で働いてもらっている。
そんこんなで、何とか、この店を守らないといけないのだ。

  

一向に改善されない従業員の仕事ぶり。
そして、いつまでもトラブルを巻き起こす客たち。
売り上げは奥さんのおいしいコーヒー効果で若干上がったが、とても利益を生み出すには至らない。
ついに、本社の最終通達がやって来る。
どうにかしたい。
そんな時、ある男の正体が明らかになる。
あのつけ麺屋の大将とカードバトルを真剣にしていた男。その男も本社の人だった。
本当にここでおいしい料理が出せるなら、可能性を信じて本社にそう報告をする。少しは効果があるだろう。
新店長は最後の望みをかけて、その男に料理を出すことに。
その結果は・・・

  

ダメ店舗の再生ドタバタに、男女の恋愛を絡めて話を展開。
登場人物全員がうまく関係し合っているので、あらすじは複雑になってきちんと書けていない。
新店長の店への想い、かつてのマスターへの想い、店に現れた幽霊少女への想い。
店員たちの店への想い。コック長とそのキッチン担当の部下の信頼し合った支え合い。
常連さんたちの店、そして店員たちとの絆。
八百屋の主人と奥さんのちょっとしたスレ違いが別れを引き起こしたけど、心の底ではつながっている二人の愛。
35歳のモテない男の自分を騙した女への純粋な愛情。それに応えてみる気に少しなった女。
新店長の頑張りに協力をしようとする働く男同士の認め合い。

  

店の再生がなかなか形となってうまくいかないように、人と人の関係もなかなかうまく形にはならない。
それでも、その想いがある以上、必ず、何らかのいい方向に進むのは確かみたいな結末。
大切なものを持つ人たちが、それを守るため、取り戻すために、各々のスタイルで必死に頑張っている姿が印象的な話だった。

  

当日チラシを拝見すると、2011年からの作品で人気投票を行った結果、主人公は全員2位という結果が得られているらしい。
今回はどうか。
主人公は新店長、小出太一さん。これはトップいけるだろう。最高にかっこよかったけどね。表情豊かな味のある演技に、ドタバタに巻き込まれる悲哀の中で、自分を律して大切なものを守りたいという強い信念を感じさせる。さらには、会話の掛け合いのテンポも良く、うまいタイミングでのツッコミ、表情で笑いを誘っていた。
でも、厳しいか。敵は多い。
35歳のモテない男、浅田武雄さん(O.Z.E@大阪)のキレまくりのキャラは自虐的な笑いを爆発させていた。
八百屋の奥さん、石田ゆきこさんの優しい微笑みから放たれる人への想いはこの作品の大事なテーマそのものだ。
副店長の中野智佳子さんの明るい笑顔のキャラは、終始、このドタバタをコミカルで楽しい雰囲気とさせている。
八百屋の主人のあっくんの不器用な愛を描く男の演技は、確実に女性票を集める。

  

コック長、関本成朗さんの途中、男を決める演技の迫力はなかなか凄い。
キッチン担当の玉岡マサノブさんの可愛らしいデブキャラ。最後、打ち明けられるこの料理担当の二人の信頼し合った姿から、男の熱き友情を感じさせる。
ホール担当の圭吾さん、若いからこそ、ここでの日々の楽しさを大事にして、この店を大切に想っている気持ちが伝わってくる。この劇団で必ず入る途中休憩でやらされた一発芸ネタはマイナス要因か。
煙草屋のあかさかさくらさんの役名、お銀さんから想像できる年期の入ったおばちゃんキャラもドタバタに拍車をかけている。
小説家の卵、初沢タケシさんの常に別世界にいるかのような、浮いた存在感も盛り上がりを見せた時に効いている。
つけ麺屋の大将、松永泰明さん。本職かと思わすくらいのはまり役。いい加減な匂いをプンプンと漂わせ、情けない状態に追い込まれる悲しき姿も切なく面白い。
本社の人、なかしまひろきさん。元ネタを知らないのだが、何かのキャラになってたんだよね。カードバトルの。登場するだけで、注目をさせるだけの、決めた魅力はいつもながら健在。
男を騙す女、中山明菜さん。これはちょっと汚いな。ギャップ萌えで男心をくすぐってしまう。さんざん性悪な女が見せるほのかな男への愛情。きっと、本当にほのかなのだろうが、男はこれをとてつもなく自分だけに見せる大きなものだと思ってしまう。
幽霊少女、辻宮早紀さん。これは逆パターン。さんざん可哀そうなキャラにして、それでも強く頑張っていることで気を引いておいて、実は悪い女という。単なるハッピーエンドで終わらさないという、作品自体の裏切りとうまく連動している。最後の最後まで、その悪さに気付かせなかったうまさ。

  

個性的なキャラが巧みに演じられ、その人間模様がドタバタの中で描かれる、楽しくもあり、温かい気持ちにもなる抜群のコメディー作品でした。

|

« 妄想レイン@OFFICE【斬撃☆ニトロ】130525 | トップページ | モータプール【子供鉅人】130526 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: バベルキッチン【しろみそ企画】130525:

« 妄想レイン@OFFICE【斬撃☆ニトロ】130525 | トップページ | モータプール【子供鉅人】130526 »