くどき!【賣笑ロックセンター】130511
2013年05月11日 芸術創造館
久しぶりに新感覚の劇団を見つけた。
人が生きることを、不遇の環境で過ごしてきた澪という一人の少女を通じて見つめ直していくような話。
その描き方が、負けてたまるか、愛を感じろみたいな、ロックの怒りの精神のようなものに委ねられているようだった。
そして、多くのロック歌手の歌うバラードが優しさ溢れるものであるかのように、愛の尊さを深く感じさせるものでもあった。
幼少の頃から、ずっと寝たきりの母を介護する澪。
母の病状は悪化する一途。私がどんなに頑張って介護したって、母はいつかは死ぬ。だったら、こんなことは無駄じゃないの。神様なんていないんだし。
いつもごめんね。あなたは私の分まで幸せになって。
冗談じゃない。幸せもくそもない。あんたは、私を不幸にするために生まれてきたんだろ。
気付いた時には、母を手にかけていた。
彼氏を呼んで、母の死体を車に載せて逃亡。
途中で人を跳ねてしまう。
矢那という男の妻。
いかがわしい手下の男を連れて、厄介な人みたいだ。
妻は植物人間となる。
償いのために、澪は矢那の手元におかれる。
澪の代わりに彼氏は交通刑務所へ。
母の死体は焼かれ、お骨となって渡される。
昼は妻の介護、それから薬の闇販売、夜は矢那の相手。
この日から、澪は矢那に自分の人生を握られることとなる。
母を殺し、そして彼氏を犠牲にしてしまって得た人生がこれだ。
そんな生活の中で、澪は様々な人と出会う。
田舎から出てきて芸能人を目指す世間を知らな過ぎる姉弟。売春をして、暮らしている。
ちょっとしたきっかけで、澪は彼女たちに薬の闇販売を任せる。姉はさらに売春も。体にかなりの負担がかかっているが、弟のためと思っているみたいだ。
昔、超能力少年としてテレビに出て、うまくいかず、放送中にプロデューサーに暴行されたことがある男。そんなトラウマのためなのか、今では仕事もせず、借金まみれ、薬にも手を出しているダメ男。
澪がもう死のうとしているところを助けたことで出会う。
無理だと分かっていても、澪はこの男に自分を救って欲しいと願いをかける。
こんな人たちが、色々な形で絡み合う。
ダメ男が借金をしているのが矢那だったり、姉の売春相手だったり、暴行したプロデューサーは矢那だったり、矢那の手下が姉弟を騙したりと、話の展開と共に、全ての登場人物がつながっていく。
みんな、澪に巻き込まれていく。
母に想いを背負わされた時、悪いけど、私は私の人生で精一杯だ、冗談じゃないと、それを拒絶した澪。
でも、その澪のために、出会った人たちが何かをしようとしてくれている。
姉弟は自分たちが生きることで精一杯。バカだから容易に騙されたりもするので、神も仏も無いのかというような生き方。でも、澪のことも想って、関わってくれている。
ダメ男は、最終的には自分のトラウマとなっている矢那への復讐を企む。もちろん、自分のためだ。でも、それは同時に真剣な目で私を救ってくれと言った澪のためでもある。
みんな、クソみたいな人生を強いられて、必死に生きているけど、だからと言って、自分だけのために全ての力を費やし生きているわけではない。
誰かのために生きる。いるのか、いないのか分からないけど、神がどんな試練を与えようと、生きている私たちは、自分と共に、出会った人を想って生きている。
何にもいいことなんかしてくれない、神への最高の抵抗のように感じる。
澪は、そんな周囲の人たちの姿から、自分が生きること、生きていることを見詰め直していく。
澪はいつの間にか妊娠している。父親は彼氏かもしれないし、矢那かもしれない。
でも、どちらにせよ、その新しい命が、周囲の人たちと同じように、私もあなたのために生きてみたいという心を生み出し、憎みすらした母の想いがようやく、自分の心の中に受け入れられるようになる。
人を想って生きるということが、結局は自分を大切にして生きるということにつながることを知ったようだ。
劇団名にロックなんてついているから、くだらない世の中にシャウトするって感じかな。
神や仏なんて言ったって、こんな地獄みたいなくだらない人生じゃないか。
だからと言って、腐って生きることをあきらめたりなんかはしないよ。それが、どこにいるのか知らないけど、あんたら神様への抵抗だ。
ただ、怒って文句言ってたら、同じようにくだらないので、生きるってこんなもんだ、こんな世の中だからこそ、愛を大事に生きてやるみたいな感じだろうか。
つらく厳しい人生の中でも、大切なものを見つけ出し、バカかもしれないけど、そのために命張ってみる。
不格好だけど、かっこいい人たちと出会う中で、生きる喜びを見つけ出した一人の少女の物語か。
澪は、矢那の管理下で生活することになる。そんな人生の一時。
ここでの、登場人物設定が、作品で訴えようとしている世の中の縮図になっているように感じる。
矢那は神様。でも、別に人間と同じで弱くて脆い。何かに依存してないと不安。
人が宗教に身を委ね、神に救いを求めるのと同じように、矢那は妻であり、自分の人生を握る人を神のように考えて生きている。その人がいなくても、魂として存在していればいいような言動は、まさに宗教そのものだろう
神も人間と同じで弱い。いつでも救いを求めている。そんな大したことのない神に色々とお願いしても仕方ないだろう。期待するだけ無駄というものだ。
そして、手下。この人達が私たちを苦しめる。騙して傷つけ。神の下にいるというだけで、人を蔑み、自分たちの益になるように利用する。
こんなやつらに負けてたまるか。
試練を与えているとかではない。単なる嫌がらせをされているだけ。だから、負けて逃げちゃいけない。
神の管理下から、逃れることは死ぬこと。だから、死んじゃけない。
生きるということで、奴らを倒さなくては。
別にあなた方に頼らなくても、私は周りに自分のために生きて欲しいと想ってくれる人がいる。私自身も、そんな人たちにとって、同じ存在である。
世の中は愛に溢れている。
それに気付いた私たちは、あなたのために生きたいと願う気持ちでいっぱいになる。
澪の言動、心情変化の中で、同調したり、違和感を覚えたりをめまぐるしくしたのだが、最終的にはよくは分からないが、こんなことを思った。
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