新・剥製の猿【遊気舎】130509
2013年05月09日 インディペンデントシアター2nd
もう、素晴らしい作品で。
前2作品を観ていたので、なおのことでしょうか。
公演を通じての、巧みな構成に驚愕しながらも、人を想うという優しい姿に心揺さぶられました。
傑作ですね。
前2作品の感想。
私は今回観る前に、思い出しておこうとあらかじめ読み返してみましたが、いまひとつ分かりませんね。でも、少しは役に立つかも。
(剥製の猿:http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/120601-5ffc.html)
(続・剥製の猿:http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/121101-2417.html)
(以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで)
舞台を見て、すぐ思うのが、あれっ、山小屋が無い。
小さな橋の下を川が流れ、山頂に向かう道と山を降りる道の間に、のどかながらも、自然の厳しさもずっと見守ってきたようなたたずまいの山小屋。
これまでは、それはもう、本当に山の中にいるのではと錯覚に陥るくらいの立派な空間がこれまでは出来上がっていたのです。
今回は、ちょっとモダンな感じの、どちらかというと抽象的な舞台。
その舞台の真ん中に部屋。机と椅子だけが置かれています。
部屋の周囲には4つの扉。奥には二階に通じる丸い入り口に階段で入れるようにもなっています。
どこか、ここが普段暮らしている世界とは異空間のような、そして、その扉や二階への入り口から色々な世界に通じているような感覚を得ます。
舞台周囲には、月をイメージしているのか、丸い惑星のような球体が、さらには天へと通じる道でしょうか、うねった木のような形をしながらも、近未来風の装置のような物が天井へと伸びている。
全て、観終わった後になりますが、何となく、今回、描かれた作品の世界に同調している作りになっていることを感じます。
そんな舞台に、ある若い男の姿。ミヤモトという人が面倒を見ているのか、一緒にいる。
若い男が前説の練習をして、ミヤモトからダメ出しを受けています。
もちろん、これが本当にこの公演自体の前説にもなっており、趣向を凝らした面白いやり方だななんて思うわけですが、実はそれ以上に、今回の話の要になっていることを後ほど気付かされ、凄いなあという驚愕に変わることになります。
若い男はこれまでには登場していなかった人。
会話から推測するに、この若い男はカゲヤマという人の甥。
両親を幼き頃に失っており、姉と暮らしている。両親が自分のことをどう想っていたのかなんてことを知る由も無く、だいぶ、荒れていた時もあったみたいだが、今は落ち着いている。
カゲヤマは入院中で、もう余命は短いようだ。
何かを甥に伝えたかったのか、この場所に呼んで、暮らさせているみたい。
始まって10分。この時点では、どうなっているのか、さっぱり分からない。
これまで観てきた登場人物が現れ始める。
舞台はいつの間にか山小屋へと変わったみたいです。
ここで現れる登場人物は、部屋の外で色々とやり取りをします。
部屋の中では、先ほどの若い男や、新たな人が入って来たりして、同一空間なのか、はたまた別空間を同時に進行させるという演劇っぽい企みなのか。
どちらにせよ、頭の悪い私にとっては、混乱して話に付いていけなくなってしまうのではという不安な気持ちでいっぱいになります。
こういうところ、この劇団の嫌いなところでもあり、病みつきになってしまうような好きなところであったり。
どうやら、また山小屋に集まるようにという、手紙がみんなの下に届いたらしい。
ある女性がフルートをさみしげに吹いて、空を見ています。新月なので、月は見えないようです。
前作までの情報では、この方は、母を亡くし、父と共に暮らしています。
その父がダメ男みたいですが、介護が必要になった後も見捨てることなく、自分の生活を犠牲にしてまで、しっかり面倒を見ているような優しくもしっかりした芯を持つ女性。
これまでと同じならば、この作品は大切な人の死を受け止め、自分の生を全うするという覚悟を抱くまでを描いています。
一作目は月で死者に会うというファンタジーっぽい優しい感じ、二作目は厳しい死という現実を突きつけた感じで描かれていた印象を持っています。
だから、今回もベースはまあ同じだろうと判断すれば、恐らくはこの女性の父もついに亡くなったのだろうなと。フルートはレクイエムみたいなものでしょうか。
今回はこの女性を中心に描かれるのだろうなと推測しながら、未だよく理解できない設定をいつか明らかになるはずと思いながら見守ります。
続いて、次々に集まる仲間たち。
前回でちょっと恋心を互いに抱き始めた妻をなくした男と夫を亡くした女。
まだ、付き合っていなかったみたい。前作であれだけ女性がアピールしてたのに。会っていないどころか、電話番号交換もしていない。中学生かってツッコミたくなるような微笑ましい姿。
共に両親を亡くしたカップルは、相変わらず、おバカな男が女にベタ惚れ。
知識の足りないアホみたいなことを連発しては女に頭をはたかれている。夫婦漫才のような見事なコンビネーションに自然と笑いを誘われます。
この山小屋に住むとかいいながら、最近はあまり顔を出していない様子。管理している親子にお叱りを受けるのかと思ってやって来たみたいだが、どうもそうではないみたい。
管理している親子の母は相変わらず、飄々として天然感たっぷり。娘はまだ亡くなったお父さんに会いたいような弱いところがあるが、何か少ししっかりした感じがする。一人暮らしも始めて頑張っているみたいだ。
姪の姉妹。姉はしっかりしたところは変わらず。色々な悲しみもあるのだろうが、それを表に出さず、明るさを醸している。まあ、ここはお母さんが豪快できつい人なので、そんな情緒にふける間がないのだろうが。
妹は、変わらず、ちょっと不思議なおバカさん。少し、大人びたおませさんっぷりに拍車がかかったみたいだ。
しっかり覚えているわけではないのだが、変わらぬ姿がとても何となく懐かしい感じがする。
結局、全員、手紙をもらっているものの、いったい誰が出したのかは分からずの状態。
もしかしたら、死んだお父さんが。もしかしたら、再び月へのご招待で死者に出会えるのでは。
そんな未だ死者と決別出来ない姿が見え隠れしています。
話が進む中で、あの部屋の正体が明らかになります。
この部屋は、カゲヤマという脚本家の住まい兼、稽古場のようです。
カゲヤマは、病院で死と闘いながら、台本を作り、ミヤモトに渡して、ここに届けさせています。
冒頭の若い男は、カゲヤマに呼ばれ、ここで劇団生活をしてみなさいといったところみたいです。
劇団員も出入りします。前作までの山小屋で見たことがある人たち。
そう、あの方たちは劇団員だったのです。
ということは、あの山小屋での出来事は、このカゲヤマが作った作品。前回までの二作品は劇中劇を見せられていたということですね。
劇中劇の山小屋での作品は、上記したように大切な人との死による別れ、その死を受け止めて、残された者が生きていくことを優しくも厳しくも描いたもの。これは虚構の世界です。
でも、現実のこの世界でも、そんな大切な人との死の出会いは起こっています。
カゲヤマは、みんなを残してこの世を去ろうとしています。最後の作品を残して。
そこには、劇団の仲間としての別れだけでなく、カゲヤマを愛し、その新しい命を宿した人との別れもありました。
カゲヤマが最期の時を迎えます。
残された台本は未完成でした。
手紙が誰から出されたものかが分からない。
もしかしたら、あの人では無いのか。そもそもの山小屋での出来事のきっかけになったあの人。私たちを月に連れて行き、死者と出会わした男。羽曳野の伊藤。
山小屋の2階から、誰かが現れます。
それは、二作品目で死を確認された山小屋の主人。
話はそこで終わっている。
劇団員たちは、カゲヤマが伝えたかったことを考えて、その続きを本番で演じます。
それは、残された生ある者が、死んだ者を想う気持ちと同じように、死んだ者もまた、残された生ある者への想いを持っているということ。
生死のつながり。死者も生者に伝えたいことがある。決して一方向の想いではない。想い合っていることは同じ。いつまでもつながっていることを伝えたかったようです。
それを伝えにやって来た山小屋の主人。その姿は、現実世界でのカゲヤマと同じでしょう。
想ってくれていたこと、そして今もなお想ってくれていることへの感謝。
でも、もう想うことしか出来なくなった死者とは別に、生ある者は、自分を想ってくれたのと同じように、同じ生きていこうとしている人たちと想い合って、これからの人生に歩みを進めて欲しいという願いでした。
本番が終わります。
山小屋の作品を通じて、現実世界でのカゲヤマとの死の別れを昇華して、先へ進もうとする劇団員の姿が映ります。
作品では、羽曳野の伊藤がいたから、こうして、死を受け止めるきっかけが出来た。
でも、それは虚構だから・・・なんて思っていたら、現実の世界でも、その男が飄々と現れます。
若い男の両親の手紙を持って。
そこには、死によって別れざるを得なかった両親の若い男への大切な思いが綴られたものでした。
現実と作品という虚構の世界。
それが交錯しながら展開していた、今回の作品。
最後も、それがどっちの世界のことであろうと、想いによって失われた命と生はつながっていることへの喜びを抱かせながら、若い男が新しい一歩を踏み出してみようとする姿、それは同時にカーテンコールの挨拶として締められます。
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