そんな奇跡は起きなかった【The Stone Age ブライアント】130429
2013年04月29日 TORII HALL
ブラックだけど笑い豊富なコメディーでずっと話を展開しながら、最後に厳しいオチを突きつけてくるメッセージ性の強い作品でした。
願う時の覚悟。その覚悟も無く、諦めた人間たちが待ち受ける悲しい結末を容赦なく残酷な形で話としています。
だからこそ、強く負けずに希望を持って、前へ歩みを進めようと言っているのでしょうが。
数え地獄。
抜け殻と呼ばれる者たちが、鬼の下で石を仕分けしている。
抜け殻たちは、生きている時に何かを諦めて絶望してその魂を吐き出した者。
要は死に損ないといったところか。
魂は鬼に管理され、石を数え終えたら、もう一度生き返られることを信じて永遠の時を過ごす。
石は三途の川から拾ってくる。その石の中には魂が混じっているらしく、それを最終的には死因ごとに選別する。
いったい幾つまで数えればいいのか。何かあれば、鬼に邪魔され、一からやり直し。
いつでも諦めることは出来る。嫌になれば三途の川に流されればいい。そうしたら、本当に死ねる。
そんな数え地獄を諦め、この場所の奥にある暗い洞窟で壁をぶち抜いて現世に戻ろうとする集団もいる。
何やら、口先だけのあと少しで壁が開くからという言葉に騙されているみたいだ。
この地獄のようなところに、漫画家でラストシーンを描くのを諦めてやって来た若い男。
彼は、鬼に管理され保管されている魂を盗み出し、もう一度体内に戻した。
そして、あの日に戻って、ラストシーンを完成させることを夢見て、石を数え始める。
その数、一不可思議という数だが、時間は永遠にある。
いつの日か生き返られると信じて、懸命に頑張る熱意を見せる。
その姿は、絶望の中、三途の川に身を投げようとしていた抜け殻の仲間たちに、希望の光を与え始める。
順調に数えて行くみんな。
しかし、魂を盗んでいたことがバレて、鬼に数えた石をめちゃくちゃにされる。
残ったのは絶望。
もう、無理だ。
漫画家の男は三途の川に身を投げようと出て行く。
奥の洞窟で壁をぶち抜いて現世に戻ろうとする集団に移る者も。
でも、それも結局は無理な話。
これは鬼たちの企みで、希望を抜け殻に与えて、魂を育てようとしていただけだった。
鬼たちは魂を喰らって生きる。
毎年、夏に現世に向かい、そこで諦めて死を選ぶ人から魂を盗む。例えば、高校球児を絶望させたりして。でも、最近はそれもあまりうまく行かず、食べる魂が無い。
だから、抜け殻と呼ばれる人たちに、希望を与えると新たな魂が生まれないか、そしてそれを回収できないかと考えていたらしい。
魂が少なくなっていたので、抜け殻たちの管理されていた魂も、もう鬼たちは我慢できずに食べきってしまった。
抜け殻たちは、もう自分の魂が無い。いくら希望を与えられても、魂が育つことも無い。だから、最終的に死を選ぶ。
唯一、魂を盗み出していた漫画家の男だけは、まだ小さな魂が残っている。
その男に全てを託し、抜け殻の仲間たちは三途の川に向かう。
男は永遠の時の中で、いつか戻ってラストシーンを描く日が来ることを信じて、もう一度頑張り始める。
これで終わっていれば、まあ希望を持たせたエンドなのでしょうが、作品名どおり、そんな奇跡は起こらないことを最後に鬼たちの会話で示しています。
鬼たちも昔は・・・
設定が少々、ややこしく、分かりづらいところはあるのですが、要は生きてるからこそみたいな感じでしょうか。
一度諦めた人間は、抜け殻になってもまた諦める。希望を与えても、必ずいつか絶望する。
残酷な話です。
数え地獄では、永遠の時があるので、鬼に邪魔されようと、また一からやり直せる。でも、これはやり直して、また違う発展した結末を得るのではなく、単にさまよっているだけ。だから地獄なのでしょう。
一からやり直せるのも生きてるからこそ。
ラストシーンを描くためになんか、また生き返ることは出来ない。
常に描くべきは始まりで、そこから逃げたら、こんな悲劇的なことになる。
救いようの無い話ではありますが、生きている間に希望を持ち、絶望さえしなければ、こんなことにはならないわけです。
頑張って生きていればいいことあるよではなく、頑張って生きないとこんなことになるよという逆視点からの描写であり、共に今、苦しむ人に手を差し伸べたいという気持ちに違いは無いように感じます。
虚構の演劇作品として、ブラックさを十分過ぎるぐらいに醸しながらも、人を見つめた面白い作品だと思います。
目を引いた役者さんは、やはり鬼かな。
とぼけた表情で、いい加減、堕落、バイオレンスさなど嫌なところをコミカルな雰囲気で出されるナカムラユーキさん(e-zeru)。
いつもながらの迫力ある熱演で大笑いさせてくれる火野峰三さん(ニコルソンズ)。最後のメッセージ性の強い言葉を真剣な口調で話される時の芯の通った強い力も魅力的でした。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント