地下一階の人たち【THE EDGE】130428
2013年04月28日 ライブハウス 地下一階
バーでの会話劇。
4話オムニバスみたいな形式になっている。
やって来る客の会話を盗み聞きして、そんな人達の一時の人生を体感する。
それは面白くもあり、つらくもあり。
笑い、悲しみ、同情し、怒り、喜び・・・そんな様々な気持ちが深く心に突き刺さる。
舞台はバー。
貫禄のある中年マスターと、可愛らしいがどこか飄々としている女の子が働く。
マスターは女の子に少しやましい気持ちがあるみたい。中年のいやらしさと同時に子供のような可愛らしさが漂う。女の子はそれを知ってか知らずか、冗談を交えながらいいコンビっぷりを発揮している。頭のいい子みたいだ。後藤篤哉さん(camp.06)ともりのくるみさん。
舞台にカップルで座れるテーブルが二つ。あとは、パイプ椅子がずらりと並ぶ。
客はもちろん、そのパイプ椅子に座る。一人だけ、テーブル席に座っている人がいるのだが。スペシャルシートらしい。とても勇気のある人なのだろう。
最初にやって来たのは一組のカップル。テーブル席に案内される。続いて入って来た自称、作家の怪しげな男は、もう一つのテーブルの相席となる。女の子目当てなのか、ご常連らしい。ノートパソコンを開き、隣のテーブルの客の会話を聞きながら、意味不明の気持ち悪い行動を以後、閉店までずっと繰り返す。成瀬トモヒロさん。相席になった客は災難だったことだろう。ただ、この方は、実は、私たちの心を映す象徴である。
入って来たカップル。
その前に二人の日常の映像を見せられている。ちなみに、以後に入って来る新たなカップル客についても同様のシステムとなっている。ここで二人の関係が伝えられているので、想像を膨らませやすい状態である。バーでの隣の客の会話をつまみに飲むなんてことは、普段でもたまにすることであるが、二人のことをよく知った状態で、バーでの二人の会話を盗み聞きする感じ。すんなりと会話に入り込みやすくなっており、とても上手い演出だ。悪趣味っぽいが、これがまた楽しい。
二人は、彼女がいる男と、その彼女の女友達。女は留学しており、久しぶりに日本に帰って来た。それで、以前のバイト仲間同士で会うことになっていたのだが、彼女が都合が悪くなって二人きりという状態に。
実は二人とも昔、少し気になっていた間柄。男の方は、今の彼女に特に不満があるわけではない。女は留学に反対する彼氏にふられたばかりみたい。
話しているうちに、酔いもすすんだためか、落ち着いたところで朝まで飲もうなんてことに。
ホテルに行こうか。ためらう女を必死に説得し、何とか連れ出そうとする男。
そして、二人は・・・
あ~、あ~、まずいよ、これは。女も罪だけど、男もどこかで攻撃かわさないとといった感じだろうか。
女性のアプローチに何となく気付きながら、距離を測ってクールさを保つ男。そして、最後はホテルに行くためにクールさなどかなぐり捨てて必死になる。愚かな男の行動を見事に再現。和泉大輔さん(松竹芸能)。酔ってテンションが高くなっていく様が、本当に酔っているのではと思わすぐらいに酔いの変化を絶妙に表現する落合由美さん(劇団ヴァダー)。
今度は二人の男。
お笑いトリオの二人。一人は、笑いの方向性の違いで辞めると言い出し、ケンカ別れしたばかり。
登録しているキングオブコントはどうするのか。
笑いが古いんだよ。東京出身なのに偽大阪弁使って、客がいつも引いている。
いつの間にか二人は罵り合いに。
ネタを考えている男が言い放つ。じゃあ、お前は作れるのかよ。
言われた男は5年間書き続けたネタ帳を差し出す。
面白い。
これで行こう。すっかり仲直りする二人。
よし、ケンカ別れしたあいつに戻ってきてもらおう。
でも、実は問題が。
あいつが辞めると言い出したのは、彼女にふられたことがあると思う。
その彼女から相談を受けていて、つい一回やってしまって。
あ~、そうなのか。それなら、俺も彼女とは。それも2回だけど。
どうするんだ。
まあ、とりあえずコンビ名は穴兄弟でいいんじゃない・・・
何をしているんだ、この人達は。結局、すごく気の合う仲間なんじゃないのかな。いいトリオになるだろう。
斎藤潤さんと時見半次さん。本当のお笑いコンビのような、どっちがボケでツッコミやらのテンポのいい会話が繰り広げられる。オチは何とも悲しい。
中年おじさんと若い子。
出会い喫茶で知り合ったみたいだ。
男は会社で新入社員にもバカにされるダメ社員。
今日もトイレでトイレットペーパーに八つ当たりするかのように、紙を引き出しまくり大泣き。
トイレにこもって、新聞を見ていると出会い喫茶の記事が。
そこで、女の子と出会い、すっかりはまる。
店に入って5000円、連れ出して交通費5000円。焼き肉食べさせておいくらだったのか。
とりあえず、アドレス交換して、また会おうメールを出しまくる男。
女はそんなメールに適当に対応。
だって、彼氏と一緒に住んでいるから。
ただ、この彼氏、すっかりひもみたいになっている。
でも、好きな気持ちは変わらない。
男は相当しつこくメールしたのか、このバーでまた出会うことが出来たみたいだ。
女は今の彼氏のことを男に相談する。もちろん、彼氏がいるなんてバレたらダメなので友人の話として。
別れればいい。恋愛経験の少ない中年男なら当然の答えか。魅力に乏しい男だ。そりゃあモテないのも納得できる。
男はそんなこと気にも止めず、告白。
女は現実を突きつける。一回会えば一万円。
動揺する男に対して、女はさらに現実を突きつける。出会い喫茶なんだから、そういうもの。他の人はエッチして幾らかもらったりしている。私は中年オヤジなんか冗談じゃないけど。
男はブチ切れる。
幾ら出せばやらせてくれるんだ。3万円、10万円、100万円か。
お前などそんな金だけの価値だと言わんばかりに、女を否定して傷つけようとする。
そして、暴れ出し、女からビンタ一発。女は出て行く。
残された男はお得意のトイレでいつもの憂さ晴らしを。
当然、マスターにつまみ出される・・・
うっ、哀しい。夢見たかったんだよね。それが何が悪いんだよってところかな。
中年男、盛井雅司さん。バイオレンスな匂いを出す渋い役者さんという印象があったのだが、こんな情けない男も演じられるのか。哀しい中年の姿が見事にはまっていた。
女は辻宮早紀さん。今どきの女の子。もしかしたら、この中年男に救いを求めているのでは、この頼りないけど純粋な中年男だからこそこうして会っているのではなんて、希望的観測を全て打ち砕く。善意で人を見て痛い目に合うことは経験しているとはいえ、なかなか割り切れないものだ。
深夜になり、入って来たのは一人の男。
遅れて、女性が入って来る。
女性は風俗嬢。男はその客。通っているうちに、一線を越えて付き合う様になったらしい。
二人とも大事な話をしようとしている。
女は引退することを告げる。ネイルの店をするつもりらしい。そして、男がこの前してくれたプロポーズを受けると。
男の気持ちは複雑。
プロポーズは確かにした。ベッドの中で。
ただ、どうも女に対してしっくりこないところが残る。
短期間で大金を手に入れる女の生活レベルのこと。今のようにお金が入ってこないのに、きちんと生活していけるのか。
それにここのマスターとも常連客としての仲だったらしい。
別に風俗嬢であることで彼女を否定する気は無い。
頑張って働いていることは認めている。
でも、どこか住む世界が違うようなことを改めて感じてしまったのか。
自分はずっと無職で彼女のお金で生活をさせてもらってきた。
でも、バイトだけど働くことを決めた。
そんな自分が描く彼女との将来と、彼女の行動がどうも合致しないように感じているみたい。
いつの間にか、二人は罵り合いになってしまう。
ひもみたいに私の金目当てで付き合っていただけ。
どこの誰か分からない男をしゃぶって金を得るような女のくせに。
男は店を出て行く。
女は泣き崩れる。
マスターと女性店員がそれをなだめる。
ふと、男がいた席に目をやると、そこにはエンゲージリングが。
それを持って、男を追いかける女・・・
ちょっと痛いな。水商売の女性にプロポーズして、ぐちゃぐちゃになって別れた経験があるからね。
何となくだが、この男のどこか不安を覚える気持ちは分からないでもない。
男は出て行った後、自分の小ささや悔いで自らへの怒りや失望に心を痛める。自分が悪いと深く悲しむ。女は泣いても、明日にはネイルの店出展のために奔走するだろう。協力してくれる男がいるなら、その人とまた仲睦まじくやるに違いない。と、そんな観方をしてしまう。だって、それは一つの現実だと思っているから。まあ、この作品ではそうはなりませんが。
男、倉増哲州さん(南森町グラスホッパーズ)。じゃあ、女はどうしたらよかったわけと聞きたくなるような行動をとるが、それも何となくこうなっちゃうんだよなあと分かる気がする。男の微妙な気持ちを上手く描いている。男のずるさと不器用な真摯な愛し方みたいな感じかな。
風俗嬢、辻野加奈恵さん(チャイカ)。うん。こんな感じ。私の知る水商売の女性って。いいところも悪いところも、綺麗に表現されている。ずるさや巧妙な計算もあるけど、一直線に純粋に好きになってくれるといったところも確かにあるんだろうなって。体を売るといった覚悟は結構なもので、それが厳しい現実を見させるし、同時に夢の世界も見させるんだろうなって思う。
最後は閉店後のマスターと女の子。
今日一番の悲劇が待っています。
予想はしていたが、やはり。マスターは分かってなかったんだろうな。こういうことは、第三者だと分かるんだけど、当の本人は夢見ちゃうんだよね。
そして、映像で各カップルのその後の姿が。
男は、やはり、彼女の下へ走る。
穴兄弟トリオが成立。
自暴自棄になっている中年男に差し伸べられる女の子の手。
腕を組み、部屋に一緒に戻る二人。手にはエンゲージリングが。
全部、綺麗事とも思えるようなオチですが、まあこれはこれでいいのかな。
色々な人生。
男と女だから、色々なことが違って当然だし、人によって何が正しいかとかも違う。
そんな人たちが人生の一時に出会って、色々あるんだから、生きてるのって楽しいもんですな。
バーで繰り広げられた一晩の夢のような話。これは同時に現実でもある。
カップル達の行く末が様々であるように、私たちもまた、この先、様々なことを経験して生きていく。
ともかくもあれ、人生そはよきかな。なんてゲーテの言葉が浮かぶような話でした。
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コメント
遅くなりましたが、ご来場ありがとうございました!!
すごい細かく、よく観てらっしゃるなぁと思いました♪( ´▽`)
勝手ながらブログにリンクさせてもらいました。
そんなご経験が。
今回この役をすることで、思わぬ人から話をしてもらえるというのがありました。
大人って。。。みんないろいろありますね。
投稿: かなえ | 2013年5月 3日 (金) 10時22分
>かなえさん
コメントありがとうございます。
お疲れ様でした。
リンク、大変光栄です。ありがとうございます。
まさかの役。
はまり役でしたと言うのが、いいのか悪いのか(^-^;
大人の複雑な心情が色々と読み取れる面白い作品でした。
また、どこかの舞台で。
投稿: SAISEI | 2013年5月 5日 (日) 22時34分