鉛の兵隊【唐組】130426
2013年04月26日 扇町公園特設テント
まあ、まずすぐ出てくる感想は、やっぱり分からないなということですね。
これはストーリーを理解できたということを、単純に分かったということにする私の感覚ではどうしてもそうなる作品でしょう。
ストーリーを把握できたからといって面白いとは限らないのと同様、把握できてないのに面白かったという想いが生まれることはあります。これは、1000本以上観劇していて、最近ようやくたどり着いたところです。
別にかっこつけて分かったふりをする気はありません。書いているとおり、全然分かりませんでした。
でも、面白かったという感想も決して嘘ではありません。それも、個性的な役者さんが面白キャラに扮して何か面白いことをしたという単発のシーンで言っているのではなく、やはり全体として面白味は存在していたように思います。
何でしょうか。
ノスタルジーを感じさせる独特の雰囲気の中で、各々の形で自分を探そうと必死に生きている人の姿に心を打たれるのは。
一幕はドタンバとかいうスタント事務所の部屋。
何か訓練でもする場所なのだろうか、崖みたいなところがあって、その上に神棚。
占い師のスタントをやっている人もいたり、女社長もちょっとおかしな人だし、何をしてるのかさっぱり分からないところ。
そんな事務所に所属している二風谷。
出身は北海道のどこか田舎町みたい。女社長もりんごほっぺだし、北国が何かキーワードになっているのだろうか。
月寒姉弟。幼き頃はいつも3人で仲良く遊んでいた。
ある時、弟の月寒七々雄は自衛隊として熱砂吹き荒れる地に赴任する。
華奢な弟にそんなことが務まるわけない。
姉は二風谷にいつの日か、弟とすり替わるようにお願いする。
二風谷は祖母と一緒にこの町に流れ着いて来た。月寒家には恩義があるらしい。
その願いを聞き遂げたかったが、弟は出発。
それでも、何かあればいつでも代わりになるつもりだ。
そんな七々雄が赴任を終えて、日本に戻ってきているという。
二風谷はここで待っている。
話はそんな設定から始まる。
あらすじは複雑すぎてとても書けない。
新巻シャケとかいう、昔、好きだった女性が水中スタント中に死んでしまった時の最期の場所となった大きなアクリル箱に塩を敷き詰め、浸かっている男。
その箱を手に入れ、さらにはこのドタンバを吸収しようとしているジャコマンの一味。
そのジャコマンで働いている七々雄の元上官。
訪ねてきた月寒の姉。
帰って来た七々雄。
七々雄に会う約束をしている同郷で刺青師の娘。
こんな人たちがゴタゴタと。
二幕は10分強の休憩中に何をしたのか、すっかり舞台は変わってしまい、どこかの地下。
渦屋とかいう、指紋を集める気持ち悪いハーフ主人とその付き人の女性がいる。
ここでは二風谷が姉との約束を守って、七々雄のスタントをしている。
帰って来た七々雄は、赴任地のラマダン中にドラム缶に映る満月を掴んで、その指紋を消してしまった。
幼き頃に二風谷と一緒に作ったガラスの砂時計。その時にガラスを掴んで跡がついた指紋を探している。
手の甲に消すことの出来ない刺青がある刺青師の娘。
二風谷は彼女と協力して、七々雄の指紋再生への道を見つけ出す。
指紋。自分の象徴。やはり自分探しはテーマの一つなのかなあ。
故郷とかの念も強く、自分の帰る場所とか。
個性的過ぎるキャラが複雑に絡むと、自分とは何なのかみたいな感覚が芽生えます。
感覚的には南河内万歳一座の雰囲気と似ていますね。
一幕終了後の休憩中に知り合いの演劇関係者にそう思ったことを話すと、あの劇団もここにルーツがあるらしく、まあ当然といったところでしょうか。
ただ、二幕も終えて、全てを観終えた後の全体的な感じは、そこに愛なんかも絡んでいるのがちょっと独特の世界観があるかなあ。
姉と元上官。新巻鮭。七々雄と刺青師の娘。姉と七々雄。二風谷と姉。・・・
複雑に交錯している感情は全て、友愛、恋愛、母性愛などなどに通じているような気がするのです。
最後も二風谷は骨を集めに行くみたいで、この地を去っていきますが、これも自分探しのようなところも感じるのですが、生きてきた者たちに対する愛情みたいな方がより強く感じられます。そこに至る前に、二風谷もまた自分の指紋を失います。七々雄の指紋は見つけ出したガラスの砂時計と刺青師の娘によって形としては再生するでしょう。二風谷は指紋を失い、旅に出る。姉との約束、弟の身代わりになれというスタントを最後にきっちりと完遂しているということでしょうか。
これが二風谷の生きる形。七々雄はまた七々雄の形があるし、姉や新巻鮭や元上官とかだってみんなそれぞれの生き方があります。
このあたりが、よくは分かりませんが生きるという力強さを感じさせられ、全体的な作品に対する衝撃につながっているのかもしれません。
堅苦しい性格だからでしょうか。
分からないままで、そのまま面白味を味わって満足感を得たのだから、それでいいとは思うのですが、何かにどうしても当てはめてみたくはなる。
七々雄は赴任した先で自分を失った。そうなって欲しくなかったわけですよね、姉は。そうなる予感がしてたから、二風谷に身代わりをと言っていたのでしょう。
でも、現実は姉が心配した結末となってしまった。
そうなってから、身代わりになってもその悲しみは癒えないでしょう。
だから、失われた物を取り戻すしかない。無理だと分かっていても。
二風谷は、その姉の気持ちを理解していたから、その失った指紋を過去のかけらから見つけ出そうとする。彼の目的は単なるスタントではなく、七々雄が失ったものを代わりに元に戻すこと。
これは荒巻シャケなんかもかけらとはとても言い難いでかいものですが、アクリル箱の中でかつて想っていた女性のかけらを見つけ出そうとしているのではないでしょうか。やってること自体はあまりにもナンセンスですが。
そんなことから、死者への再生への願いが深く込められた話なのかなと少し思うわけです。
例えば、最近で言えば、震災などで失われた命。残された者はその人がかつて生きていた時の証を追い求め、そこから命が再生しないかと願うような感じでしょうか。
形だけの指紋を再生するかのように、それはきっと偽りの、厳しく書けば気休めに過ぎないのかもしれませんが、それでもかつてのその人を浮かび上がらせられればと願う真摯な想いは馬鹿には出来ないものだと思うのです。
故郷への想い。そこに戻れば、かつての自分たちに戻ることが出来る。自分たちが帰ってこれる場所。
人生を過ごす中で、いつの間にか遠くに来てしまったと感じる一瞬。そんな時に、自分の原点、ルーツに想いを馳せることは誰しもあるように思います。七々雄が美しく映る満月に手を伸ばしたのも、そんな故郷で3人で見ていたあの風景を思い出し、ふと手を伸ばしたように感じます。
劇中に出てくるハート形のコップや作品名の鉛の兵隊はアンデルセンの同名の童話なんですね。
切ない恋物語。
そんなハート形のコップを大切にしていた七々雄。
死の大佐の姿を見て、憑りつかれるように戦地に赴いた。そこで、彼の心を支えたのが、そんな想い合った二人の結晶だったということは、彼もまた自分を想う人のことを頭に描きながら、燃え盛るような熱砂の地で自分が溶けていくことを感じていたのでしょうか。
テント公演。席はほぼ桟敷にベタ座り。
お尻も冷たく、見世物小屋みたいな雰囲気で、いつもとはちょっと違った不思議な空間。
そこで見せられる何やらよく分からない得体の知れない数々の登場人物が織りなす異次元。
セリフのたびに、頻繁に音響と照明を切り替える。
あまり見たことのない数々の演出。
往年のファンの方々は懐かしく観られていたのでしょうが、私には全てが新鮮な時間でした。
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コメント
鉛の兵隊の感想読ませていただきました。
私は5月4日岡山の公演を観ました。
観劇の仲間ができたようで嬉しく思いました。
投稿: 澁谷俊彦 | 2013年5月 5日 (日) 13時13分
>澁谷俊彦さん
コメントありがとうございます。
お~、唐組は連休は岡山で公演されていたのかあ。
不思議な魅力が癖になりそうですよね。
これからも、ここを含めたくさんの演劇作品に触れていければと思っています。
お互いに楽しい観劇ライフを(o^-^o)
投稿: SAISEI | 2013年5月 5日 (日) 22時41分