65歳からの風営法【笑の内閣】130414
2013年04月14日 METRO
風営法の矛盾点などを鋭く描きながら、規制側の正論的な言葉、自由にダンスを楽しむ人たちの言葉を刻む面白い作品。
いつもながらの異色感たっぷりの個性的な役者さん方の奇抜なキャラと共に、実に細かいところまで時事ネタを盛り込みながら話を展開する。
少しこれまでと異なるのは、最後に少し感動してしまった。
対立することになる兄妹の規制側、ダンスを楽しむ側の本気の真摯な言葉が連なったからだろうか。
観れば分かるが、頭のおかしいむちゃくちゃな登場人物が連発する話の流れで、少しでも感動の心が芽生えるというのは、その中で相当に真摯な演技が繰り返されたからである。
二人の回想シーンの中で語られる悪いことをしなければいつでも助けるという兄の妹への言葉が、結局、結論となっている。
悪いことって何なの。夜遅くに踊るのは悪いことなの。
そんなことが笑いと共に鋭く描かれている。
個人的には、同系統の非実在少女のるてちゃんを上回る名作に仕上がっているように感じる。
(以下、ネタバレ注意。公演終了まで白字にします。公演は火曜日まで。会場がクラブなので身分証明書が要ります)
京都のとあるメイド喫茶。
いかにも痛そうなメイドに、気持ち悪いオタク。
ご主人様、ご主人様と言いながら、お決まりの魔法で飲み物を提供。
一緒にゲームしましょ。あっちの暗く本を読んでる人は放っておいて。
踏み込む警察。
ふざけてごまかそうとするメイドに、冷淡に接し、店長を呼び出す。
風営許可の無い店で接待をしていましたね。現行犯逮捕です。証拠もあります。
本を読んでいた男は警察のS。見事な隠し撮りで全てを映像におさめている。
憐れ、経営者である店長は手錠をかけられ、移送されて行く。
京都府警。
国の方針で、風営法の取り締まりを強化。
次なるターゲットは、大阪や福岡で、取り締まり実績をあげているクラブ。
風営許可を取得していても、深夜1時を過ぎて、店で客を踊らせていたら、その店はアウト。
経営者は捕まる。
事実、大阪のアメリカ村などでは、それで経営者が逮捕されている。
遅れをとった京都府警は、そのメンツを保つためにも、その時にステージにいたDJを含め、イベントの関係者も含めて逮捕して見せしめにするつもりだ。
ターゲットとなった店はクラブペガッサ。
メイド喫茶同じく、潜入員を送り込んでおき、深夜1時を過ぎた時点で突入、一斉逮捕という目論見。
潜入員は、メイド喫茶で成功をおさめた男、中村。邪魔にしかならないが、ちょっと勢いばかりで頭の悪い後輩も連れて行く。
クラブペガッサ。
何やら吉幾三の歌をラップ調にして、みんなノリノリで踊っている。
この日のイベントは、青森ズーズー弁ナイトみたいなものらしい。
中村は、早速、潜入捜査を開始する。後輩はすっかり楽しんで踊ってしまっているが。
どいつもこいつも踊っている。
何が楽しいのやら。
ふと、見るとピンク色の派手派手しい頭をした女の子。
よく見ると、妹。
幼き頃は、いじめっ子から、いつも守ってあげていた。
いつの間にやら、大学生。こんなところに出入りするようになったか。
しかも、聞けば今日のイベントにもステージ側で出演するという。
ペアで。相棒は現役僧侶。お経をラップで刻むらしい。
何か、付き合っているだけで、女の株を落としそうないかがわしい男だが、真剣にお付き合いもしているようだ。
んっ。このままではやばいのではないか。
妹のステージの出番はちょうど深夜1時。
このままでは、妹が捕まってしまう。
警察官としての使命もある。いや、犯罪を未然に防ぐのも大事な警察の役割。そう、自分に言い聞かせて、このイベントの主催者にイベントを中止するように申し出る。
警察官であることがバレてはいけない。説得がもどかしい。
主催者も捕まるかもなんて脅して、少しはビビるが、なかなか信じてくれない。人を踊らせたから逮捕。彼にとっては笑い話にしか聞こえない。
店長の女性も呼び出すが、あまり深刻には思っていない。この店は風営許可を取っていない。それだけですでにアウトなのに、深夜1時を過ぎようものなら。
罪を犯しているという感覚がそもそも無いのだ。
さらに、思わぬ邪魔が入る。
中学生のような顔をしたちびっ子四十路敏腕女性弁護士。あり得ないようなクレームに対する裁判での勝率には定評のある人。今は、風営法に興味を持ち、大阪の摘発されたクラブの弁護団の一員らしい。
イベント主催者が捕まることは無い。この店だって、まず今は大丈夫なはず。そんな彼女の言葉に安心して、そのままイベントは続行してしまう。
所轄の警察を動かそう。
うるさいとクレームを付けて、呼び出し、中止させる。
電話をして、やって来たのが怪しすぎる警察官。
店とはなあなあのお付き合い。店長を軽く注意して帰ろうとする。
まともに対応する気はないらしい。
いい加減だが、警察側にも言い分がある。店があるからこそ、深夜に徘徊して悪さをする者が減ったりもしている。それに、踊っていたからと言って、誰が迷惑だと言うのか。外で騒がれた方がよっぽど迷惑だ。
現場を見ていない府警の安直な取り締まり批判の言葉を残して、警官は去る。正体がばれてはいけない中村は何も言えない。
確かに誰も迷惑しないし、意味の無いことかもしれない。でも、これは法律だ。遵守すべき法律を守らない者に罰を与える。これは私たちの使命である。
でも、今はそんな是非を問うている場合ではない。時間が無い。
早目に突入してもらうことも考えたが、府警本部は今、ホモの取り締まりに御所へ向かってしまっているらしい。
中村は、最終手段として順番を入れ替えることにする。
今は、妹さえ助かればそれでいい。
DJ DAZAIによる死にたくなるようなラップ、次に妹と僧侶のお経ラップ、さらにイタコのラップなんて考え抜かれた順番だっただけに主催者は抵抗するが、まあ検討することになる。
妹にもそれを伝えるが、拒否。
客がいる。私たちを見に来てくれる客が来た時にステージが終わっているなんて許されない。
そんな強い妹の意志も働いて、ついにステージはそのまま何も変わらず続行。
もう深夜1時をまわるまで、後わずか。
覚悟をするしかない。
そんな時、後輩が怪しげな素振りで盗撮をしていたため、全てがバレてしまう。
このままでは捕まる。と言って、客に伝えたら騒動が起きる。
店側の決断は、イベントは中止にしない。
踊っていなければいいわけだ。
ちょうどいい。現役僧侶DJにうまくごまかしてもらおう。
一遍上人の生涯を語るありがたい説法。
座って聞きいるクラブ客。
踏み込む警察。
風営法違反で逮捕します。
いやいや、誰も踊っていませんよ。
今日はありがたい説法を一晩中聞くイベントですので。
そんな馬鹿な話があるか。
押し問答が続く。
警察は最後の手段。
潜入捜査員の中村らに命じる。
撮影したビデオを見せろ。そこには客が踊っていた姿が映っているはず。
店のスクリーンにビデオが映し出される。
可愛い猫の映像と、先日のメイド喫茶での映像。
録画ボタンを押し忘れました。
証拠不十分。任意同行すら出来ない。
立ち去る警察。
危機は逃れたが、この問題が解決したわけではない。
中村は正論を語る。
風営許可を取ること。そして、深夜1時には店を閉めること。そうしないと、今度は捕まる。それがルールだから。
弁護士や店の者たち、妹は違う考え方を持っている。
ルールがおかしい。そもそも、ダンスを規制するのは、戦後のダンスホールで売春婦がたむろして風紀を乱していたという判断から出てきた考え。
今は、踊りたい人が楽しく踊っているだけの場なのだから。ドラッグ売買の場なんていうのも、マスコミがそれをはやし立てているだけ。不特定多数の人が集まるから、捕まった売人がそう供述しているだけだ。警察もそれに気付いているが、取り締まりに都合が悪いので黙殺している。
変えていけばいい。
そのために、みんなで協力して活動をするつもりなのだと。
中村は黙っている。彼の立場では賛意は出来ない。
でも、きっと心の中では、変わる日を願っている。
それは、鞄の中に仕込んであったもう一つの踊っている映像がたっぷり映されているビデオカメラ、幼き頃に悪いことをしなければいつでも自分は妹を助けると誓った妹を今回助けたということから伺えることだ。
悪いことをしたら罰せられる。悪いこと、つまり罪。
どんなことが罪になるのかは、法律に記載される。
だから、法律を犯せば捕まる。
当たり前のことだが、そもそも悪くないことまでが、罪となってしまっているところに問題があるのかな。
だったら、それは罪ではありませんとするしか、罰を受けなくする方法は無い。
それは罪ではありません。それは悪いことではありません。
主観的なところもあり、判断は難しいところだろう。
結局は世間的に、大半の者たちが悪くないと言っていますといった形にするしかないのだろうか。
それも、残された少数の人にとっては切り捨てで問題はあるのだろうが。
難しいことであるが、考えるきっかけをもらえる貴重な作品である。
申し訳ないが、風営法からダンスを削除する署名には参加しなかった。
この作品だけで判断することはちょっと出来ない。ちょっと違う視点からも見てみたいように考えたから。
別にどちらかに偏った考えで創られているように感じたからではない。
青少年健全育成条例を描いた非実在少女のるてちゃんは、さすがに表現者側に偏りが感じられたが、今回はとても冷静な立場でこの問題を見つめているように感じる。
まあ、ダンスはしないし、どうでもいいんだけど、困っている人がいるなら応援したいぐらいの引いた立場で創ったようなことがチラシには書かれている。半分は本当で、半分は照れ隠しみたいな感じかな。
非実在少女のるてちゃんで、自分と関係ないからと放っておいたら、いつの間にか自分と関わる規制が敷かれた時に周囲に共に闘ってくれる人が誰もいなかった牧師だったかな、そんな人の言葉を覚えている。きっと、そんな日が演劇に訪れないように、違うジャンルのことにも拳を振り上げられたのだろう。
法律の矛盾、無意味、不完全なところを明確に突きながら、自由に楽しむことを再考させるとても鋭い作品だった。
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