10階建てのラブソング【山本大樹プロデュース】130416
2013年04月16日 GROWLY 二条
わずか1時間ながら、一冊の本を読んだかのようなボリュームの感じられる濃厚な作品。
若者のこれまでの人生を振り返った時に感じる厭世観や不安みたいな複雑な心情が顔を覗かせ、落ち着いた舞台雰囲気ながら、心ざわめき、先が気になる惹きこまれ方をします。
前半は若い人のおふざけ的な笑いをうまく組み込んで楽しい時間。
中盤から、その若いながらも生きてきた時間を感じさせる深みある展開へと切り替わっていきます。
ラストは26歳という人生の一地点で、これまでの築き上げてきた人生を振り返りながら、各々がとる行動を残酷なまでに現実的な描き方をしています。
(以下、ネタバレ注意。公演終了まで白字にします。公演は本日、2回あります)
どこかの建物に侵入している男、荻野。
誰かが入って来る気配を感じ、姿を隠す。
部屋に入って来たハードボイルドを決め込んだ男、山本。
暗闇の中、姿を隠した男に話しかける。
銃を手にして、姿を現した荻野。
緊迫した雰囲気の中、自然に二人の頬が緩む。
二人はエージェント、つまり殺し屋。と言っても、100円ローソンで働いていたり、学芸員の資格を取ったりと現実は厳しいみたいだが。
6年ぶりの再会。
荻野はある依頼を受けている。どんな奴かは分からないがマチルダと名乗る女。
ある女の恋人を殺す依頼をし続けている。今回で3人目だ。
山本がここに来た理由はあいまいだ。散歩をしていただけと言っているが。
二人はターゲットとなる男が来るのを待つ。
落ちていた本。ニールワインバーグ?とかいう26歳でエンパイアステートビルから投身自殺を計った作家。
書の中に、人は時折、神様がたわしを頭に落としてくるかのように、不可解な行動をすることを記しているらしい。
確かにそうかも。あの時、どこかから自分にたわしが飛んできたような気がする。
二人の少年時代の思い出が回想される。
バレンタインデーに告白され、周囲にはやしたてられて恥ずかしかったのだろうか。とにかく、相手の女の子の恥ずかしさと自分が注目されている満足の笑顔が許せなかった。気が付けば、もらった手作りチョコを遠くかなたに投げていた。
付き合っていた女性。自分の家に連れて行く。家はマンションの10階。致命的なことにエレベーターが無い。
二人で階段を上がる。幸せな一時。このまま、天へと昇ってしまうのではと思うくらいに。
でも、現実はいつもの家の扉が待っている。踊り場から見える風景。自分たちの町が一望できる。彼女はそれに見惚れている。後ろからそれを見守る。そして、神の声を聞く。ズボンを脱げ。もちろん、パンツも。
そのまま、憑りつかれたように露出する男。彼女に振り返られれば大変なことになる。ギャンブルをするかのように、目をつむり10秒。何も起こらない。助かった。でも、男はわざわざ声をあげる。
依頼者のマチルダはどんな人なのだろう。
その女によほどの恨みがあるのか。その女が愛する人を奪っては喜ぶ。偏執な狂気。歪んでいる。
そんなとりとめのない会話をしながら、時を過ごす。
ニールワインバーグは二人にとって、思い出の本らしい。
彼は幼少期、友達がおらず、物に話しかける癖があった。これは生涯、治らなかったらしい。
そんな彼が出会ったある花。
花は彼に話しかける。私はどんな所であろうと咲き続ける。燃やされでもしない限り。
永遠に咲き続ける花。彼はその花の写真を撮り、それをポケットに入れたまま、生涯を閉じた。
後日、妹がその地を訪れた時、そこに花は無かったという。
荻野はコダマミチルという男とルームシェアで住んでいた頃を思い出していた。
なぜか親からプレゼントされたフラワーロック。捨てるタイミングが無く、家を出た後も、ずっと手元にあった。
コダマミチルは赤いチューリップを大切にしていた。
溺れた女性を助けた時に、その女性の手に掴まれていたものらしい。彼女はスミレだとかいったか・・・
頭を強く打ったのか、意識不明が続いているらしい。
そんな彼女が意識を取り戻した頃、コダマもここからいつの間にやら消えていた。
山本も思い起こす。
ヤマモトッチ、コダマッチなんて言い合いながら、バカなことをしていた少年時代を。親友だった。
その中に、スミレという幼馴染も。
ピリっと静かに流れる時間。
その緊張が突然破れる。
狂気的な男が銃を振り回し、現れる。
荻野は茫然としている。山本は誰かが分かっているようだ。
彼はコダマミチル。荻野にはマチルダと言った方が理解できるだろう。
彼はスミレへの愛を持ち続けた。助けたのは自分だから、彼女も自分を愛するべき。
でも、現実は違った。自分以外の人と恋愛に落ちる。いくら消しても。そう、だから、今回も山本を消す。
荻野のターゲットは山本。依頼者はマチルダ。
山本はマチルダを撃とうとする。止める荻野。
エージェントの幾つかの掟。エージェント同士は傷つけあわない。そして、依頼者は死んでも守る。
この状態では、荻野も山本も互いに牽制し合うことになり動きようがない。自由なのはマチルダだけ。
そう計算していたのだろう。
マチルダは二人に発砲して、立ち去る。
横たわり、軽く会話をかわした後、息絶える二人。
途中、混乱してしまったので、おかしなところが多々あると思いますが、だいたいの筋。
山本を山本大樹さん(イッパイアンテナ)、荻野を荻野祐輔さん(俳優座)が演じます。ほぼ、二人芝居と謳っているのですが、もう一人。植田順平さん(悪い芝居)。この方は、回想シーンなどで女役の声として出演されます。何で、わざわざ、この怪しさたっぷりのオーラを出されるこの方にそういう役を、ギャップ笑いを誘うためといってもなあなんて思っていましたが、最後に見事にはまり過ぎる役で登場する仕掛け。
多分、実在しない作家だと思うのですがニールワインバーグという人の人生観と絡めながら、山本、荻野、そしてコダマの生き様を描いています。
コダマは役者を固定せずに、シーンによって切り替えており、謎の男という形でマチルダをラストまでずっと見えなくする巧みさも面白い演出です。
作品名がロックバンドのローゼスの曲名というのもあるのか、何となく若者の中に芽生える厭世観みたいなことを感じさせられます。
ニールワンバーグは永遠に枯れない花の写真を持ち続けます。
写真におさめたのも、きっと素晴らしいと感動したからでしょう。でも、その花は本当に美しいのでしょうか。枯れない花など、どこでも咲き続ける花など、もうそれは花ではなく、劇中に出てくる言葉を借りれば燃えないゴミと同じかもしれません。
そんなことに気付いてしまった時、その花が美しいと思わなくなってしまった時、自分の存在もぐらついて自殺に追い込まれたような気がします。
コダマはスミレが持っていたチューリップを永遠に枯れない花として持ち続けます。その花が枯れない限り、助けた女性の愛も永遠と考えていたのでしょうか。でも、現実は違った。花は枯れないが、その女性の愛は自分の下から枯れて消えてしまった。この事実が、コダマをマチルダと変え、狂気の世界へと導かれたように感じます。
そんな枯れない花という存在に惑わされることなく、その人自身の美しさを見続けていた山本、フラワーロックという鼻から偽物の永遠に枯れない花を見て、美しさの真相を知っていたかのような人生を過ごしていた荻野。
各々の物の真実を見つめる視点の違いが、それぞれ異なった人生を歩ませた。
それが、この作品では互いに闘い合うという形で出会わざるを得なかったという、悲しくも不条理な人生を描いているように思います。
作品名には、どんな意味があるのでしょう。
イメージとしては、回想シーンとかから考えるに16歳ぐらいの多感な時期から、積み上げていきながら、そこを駆けあがっていく。
26歳の10階。
ニールワインバーグのようにそこから飛び降りる者、山本や荻野のようにさらに上の階を積み上げていこうとする者、コダマのようにその階でとどまり、意味の無い高さを感じながら、届かない愛の歌をただ歌う者といった感じでしょうか。
山本さんはさすがのエンターテイナーっぷりで、前半は客を見事に惹きこんで一体感を創り上げる。おふざけや笑いの多い前半での活躍は当たり前だが、後半も存在感をしっかり残している。
荻野さんは、多分、初見だと思うのだが、とても魅力的な役者さん。雰囲気に大人の深い味わいが感じられ、かつユーモア溢れる可愛らしい感じも残った不思議な魅力を発する。
植田さんは、最後の狂気的な姿で納得。そのためにずっと、疑問に思わせる女役だったのね。笑いもとれるし、オーラを活かした最高の演技は出来るしで、とても恵まれた作品だったのでは。
ハードボイルドテイストで話を展開しながら、男の生き様、その心情を濃厚に描いた巧く創られた作品だと思います。
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