ウェルカム・ホーム【Nobukoプロデュース とぐろ食堂】130322
2013年03月22日 STAGE+PLUS
家族とは、を描いた2時間強のワンシチュエーション会話劇。
作家、鷺沢萠さんの遺作と言われる作品で、コミカル要素をたくさん盛り込んだコメディーとなっているが、色々と考えさせられることも多い温かい話である。
かなり特異なキャラを活かした笑いをテンポのよい会話の掛け合いで刻みながら、血が繋がっていない人達の家族としての絆を浮き上がらせる。
国籍もばらばらな人たちであるが、互いに想い合って共に生活する。いってきますと出て行って、ただいまとここに帰って来たくなるような家。そんな自分の居場所は、どうであれ家族なんじゃないのかと言っているようなお話。
圧巻なのは、このアットホームな雰囲気を安定して創り上げる役者さん方。
個性的過ぎる強烈な登場人物を、多少の凸凹はあるものの、誰が突出するということなく、非常にうまくまとめあげている。
出演されている方々は、だいたい2、3回、公演を観れば知らずと名を覚えてしまうような、学生劇団ではトップクラスの実力派の方々。その地力を個人プレーに走ることなく、見事なチームワークで作品全体として活かしている。
別に力を抑え込んで、無難にまとめあげているのではない。各々がそれぞれの登場人物の個性を思いっきり勝負をかけて全力で発揮した上で成された安定したまとまりである。
血縁も無い、国籍もバラバラの人達の芯のつながりを描いた話である。そんなまとまりが実際の舞台でも感じられなかったら、いくら話としてそんな大切な絆を伝えようとしていても興醒めだったろう。
このあたりの全体的なまとまりの良さが、作品としての魅力を高め、かつ、役者さん方の個々の強い舞台での力を感じさせる素晴らしい公演だった。
(以下、それほどではないのですが、一応ネタバレ注意として公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで)
映子。
私には家族がいない。
だから、パスポートの申請書類の家族記入欄に何も書けない。
事務員には嫌な顔されたりするが、そんな気持ちはきっと分かってくれないだろう。
そんな彼女にも素敵な彼氏が。
今日はその彼氏が結婚の挨拶に家にやってくる。
互いに一目惚れ。バツイチの私だが、大切に想ってくれる優しい人。
ただ、ちょっと問題がある。
うちの家族はおかしいのだ。
しっかり話しておくべきだったが、いつの間にかズルズルと。
隠すつもりはなかったのだが、私の家族は・・・
両親に兄。従兄弟も一緒に住んでいる。
父はコックで、母は専業主婦。でも、籍は訳あって入れていない。
兄はもう30歳を超えているが、専門学校に通う。
従兄弟には子供がたくさんいる。これまた、訳あって一緒には暮らしていない。遠い外国にいるらしい。
彼氏は、事前にそんなことを彼女から聞かされるが、どうもピンとこない。
いったい、何がおかしいのやら。
確かに普通では無いが、おかしいというほどでも。
そんな考えも、実際に挨拶に行って、会ったとたんに吹っ飛ぶ。
彼女の家族は、誰一人、血がつながっていない。
父は中国人。横浜生まれで中華料理屋を営む。
そもそも、映子の父が、ここの常連だった。
映子の前の結婚相手は本当の親が勝手に決めた人。
かなり由緒正しきお家柄みたいで、離婚をしたため、勘当される。
そんな行き場を無くした時に、拾ってくれたのがこの人だ。
母は韓国人。よく気遣いの出来る温かそうな女性。いや、女性なら結婚してる。じゃないから、出来ない。
兄は南米出身。通ってる学校は日本語学校。不法滞在者である。お国に政変がおきて、戻れなくなったらしい。
従兄弟は東南アジアの島出身。稼ぎ頭である。ここの家族も養ってるし、お国の家族たちの面倒も見る働き者。
始まって10分。
彼氏が彼女の家に到着してから、上記の彼女は家族と呼ぶ人たちが順番に登場して、各々の事情を暴露していく。
途中、兄の友達である、よく分からない東南アジア出身のスペイン語を話すおかしな寿司職人なんかも登場して、話はどんどん掻き乱れていく。
「お父さんと呼んでいいですか」「うむ」・・・なんて、普通の結婚をして、普通の家族を築くことを夢見ていた彼氏は、次から次に明らかにされる普通でないことに消沈。
もうどうしていいのか分からない。
だって、自分だって。
そう、自分だって親が難民なのだ。それをずっと隠して、普通になることを目指してきた。だから、親はもう死んでしまい、天涯孤独の身だなんて映子にもずっと言って、頑張ってきたのだ。
それを、この人達は何でもかんでも全部暴露しちゃって。
そんな彼氏の心からの叫びを映子もその家族たちも受け入れる。
最後、まだまだ問題はけっこう残っているのだが、一応、彼氏と映子、そしてこの家族は互いに受け入れ合う。
さらには、映子の本当の家族、彼氏の父親の血が繋がった我が子への想いも明らかにされ、ハッピーエンドを迎えている。
帰るところを無くした人たちの物語といったところだろうか。
そんな人達が、互いに協力し合って、家族という形を創り上げる。
自分を迎え入れてくれるような場所をつくる。
もちろん、偽物だとか、傷のなめ合いみたいな考えはあると思う。
でも、血という大義名分が無いからこそ、この家族の絆は大変じゃないだろうか。
本当に互いに大切に想い合わなくては、成立しない関係である。普通じゃなくても、それは真剣で尊く素晴らしいことだろう。そんなことに彼氏も気づき、そんな家族の一員となれることに、映子と一緒になれることと同じくらいに喜びを見いだせたのだろうか。
血のつながり。
最後はやっぱり血のつながりが物を言うよなあとかいうことはよくあることのように思う。
でも、逆にそれに甘えてしまっていないか。血がつながっていれば、何もしなくても絆がある。それは決して間違いとは言わないが、今、普通の家族が崩壊しているようなことをよく聞くこの時代において、もう一度私たちはそれを見つめるべきかもしれない。
血のつながりがあるから、自動的に絆が出来るのではない。そんな想い合いの無い絆こそ、本当は偽物のような気がする。多分、そこに大切に想い合う気持ちが自然に素直に芽生えるからつながるのだろう。
血のつながりは無くても絆はもちろんできる。新しい家族のスタートは結婚というそんな形から始まるのだから。血のつながりが絆を生み出すのではなく、本当の絆が血のつながりを生み出していく。もちろん、科学的ではないが、そんな考え方で人を想う感覚でいれたら、幸せな生き方が出来るのではないか。
最後に食卓を囲む、血もつながらない、国籍もバラバラの映子たち家族。
多国籍軍。
血のつながりはこれまでの話どおり無いが、国境も宗教も考えの違いもそこには見えない。
ただ、そんな人達が家族のようにつながった姿だけが浮き上がる。
各々が相手のことを想い、よくあって欲しいと願う。
世界中の人達が幸せに。
そんなことの答えが、この家族の中に見えてくるように感じた。
映子、坂本えりこさん(劇団万絵巻)。んっ、先日、卒業公演を拝見した気がするが、まだ演劇界にいらっしゃるのだろうか。元々、初期に万絵巻を観に行ったのは、けっこう、この方目当てだったことが多い。いつの間にか関係なく、優先観劇候補劇団におさまってしまったが。お目当てだったのは、もちろん外見が美人さんというのも大きいのだが、やはりこういった心情豊かな会話劇なんかでとても魅力的な演じ方をされるように思う。表情や、緩急つけた心情表現などなど。今回も素人目ではあるが、やはりうまい方だなあと思う。
彼氏、うえしライダーさん。んっ、この方も先日、卒業公演を拝見したが。もう引っ越しやら就職先の研修なんかがあったりしないのかな。まあ、魅力的な役者さんだから、いくらでも見れるなら見続けたいが。さすがはおうさか学生演劇の主演男優賞だけある。その存在感はもうベテラン級。ただ、目立ちまくるのではなく、映子を含めその家族がごちゃごちゃしている時に、もうどうしていいのか分からず途方にくれて、一人ぼっちに取り残されてしまったようなシーンも多い。そんな時は、あれっ、いたのかというぐらいに存在を消して、哀愁漂う悲しい姿になっている。やはり、この方もうまいのだろうな。
映子の父、宇治橋幸希さん。この方、劇団有馬九丁目の炎の杜で拝見した時の印象が強い。とにかくデリカシーの無いいいかげんなチャラチャラしたキャラを惜しみなく演じられる。今回も、どこかいかがわしさをプンプンさせての、何か頼りない雰囲気。これがまた面白く、とても楽しい方であった。
映子の母、袴屋へむさん(劇団万絵巻)。温かみのある優しいお母さん。韓国女性という、偏見かもしれないが、母性を滲ませた感じがよく出ている。それだけにちょっとショックな展開だったが。そう言えば、ちょっと急変して柄悪かったりするのが前振りだったのか。
映子の兄、佐藤奨士さん。唯一まともそうないでたちなのだが、実はセリフは一番ぶっ飛んだおかしさを出す。飄々としたボケに、頃合いよく入れ込むツッコミがなかなか光っていた。
兄の友達の寿司職人、平川裕作さん。せからしいなあ。グイグイきますね。個性的過ぎる強烈な登場人物を、多少の凸凹はあるものの、誰が突出するということなく、非常にうまくまとめあげているというように上記したのですが、この方がいなければ、多少の凸凹という部分は無しでした。隙間があればすぐに出てきてしまうんだもの。ただ、一番この方で笑ってしまったか・・・
映子の従兄弟、入川タクトさん。うわ~、先日拝見した世界樹とガクのままだあ。キモ面白い。徹底しておバカキャラをされるんだなあ。何かじわじわと面白くなっていく方ですね。ちょっと最後は、その純粋さだけをクローズアップしたような演技で泣かせにかかっていました。
彼氏の実の父親、窪田裕仁郎さん。最後しか出て来なかったからなあ。何だ、この怪しいいかがわしい父親はといった印象しか・・・
パスポート事務員、石川信子さん。この方が主催で演出。役所の人って感じのそっけないながらもコミカルな雰囲気を醸します。冒頭の話の入り方は、ふわりとしていてとてもいい感じだったなあ。最初は何でわざわざパスポートなのかって感じですが、最後に映子がこれを持って、家族のみんなと世界中を分け隔てなく飛び回れるような世界を想像させて幸せな気持ちになります。
笑いと涙のハートフルドラマ。
笑いは実力派の役者さん方が。涙は真の家族の絆を見つめる優しい話に、そして、わさびの効いたお寿司で。
なかなか凝った面白い作品でした。
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