TOKIJIRO【大阪アニメーションカレッジ専門学校八期生声優学科卒業公演】130202
2013年02月02日 大阪市立青少年センター KOKO PLAZA
「一期一演 ~ショウは短し進めよ我ら~」と称して、行われた卒業公演の中の一作品。
普段、関西小演劇でご活躍されている泥谷将さん、いや先生の作・演で、声優アクターズ1・2組の方々が作品を創られている。
ちょっと前からお誘いを受けていたのだが、何か変に気を遣ったりするのも嫌だなあと思って、ギリギリまで観に行くか迷っていた。
面白くなかった時に、いまひとつだったと感想書くのも気が引けるし、面白かった時に、素晴らしいと書くのも何かおべっかみたいになって嫌だなあと。
そして、その予感は見事に後者として的中する。
素晴らしかった。
拙いところもたくさんあるので、暖かい目で観てあげて欲しいと言われていたが、申し訳ないが、拙いところが私には全く分からない。
脚本は、沓掛時次郎という任侠物を原作としている。
人の心情を描きやすそうなお話だ。
その心情を丁寧に、そして真摯に捉えながら、各々の登場人物が演じられていたように感じる。
心の底から溢れてくるような人への想いが伝わり、とても感動させられた。
ちなみに、最後、ちょっと泣いている。
やくざ渡世に身を置くサンゾウ。
汚いことが嫌いな任侠者で、敵対する一家の悪い親分、タモンに命を狙われる。
サンゾウは決心する。
病気がちな妻の楓、2人のかわいい子供たちのためにも、もうやくざを捨ててかたぎになろうと。
同じくやくざ渡世に身を置く沓掛時次郎。この世界では名の通った男。
頼りない弟分と一緒に流れ旅を続ける。
一宿一晩の恩から、タモンにサンゾウを始末するように言われる。
時次郎は、やくざ者として正々堂々とタイマンで勝負させること、女子供には手を出さないことを条件に引き受ける。
この世界に身を置く者同士。
サンゾウと時次郎は決着をつける。
サンゾウは斬られる。
いっぱしのやくざなので死ぬ時の覚悟はできている。
ただ、残された者のことを思うと・・・
いまわの際に時次郎に妻と子供たちを頼む。
時次郎もいっぱしのやくざ。男が命をかけて頼んだことは、命をかけて守り通す。
こうして時次郎と、楓、2人の子供たちの旅が始まる。
タモンは約束を破って、追手を仕向けるだろう。
危険な旅になる。
弟分を命の危険にさらすことは忍びない。
お前がいると迷惑になる。そう言って、突き放す。
時次郎たちは、ある宿場町にたどり着く。
宿の夫婦はとてもいい人で、見知らぬ時次郎たちを優しく迎え入れてくれる。
楓の病はだいぶ重いみたいだ。
町はちょうどお祭り。
ギオンというオカマの姉さんが率いる踊り子たちと一緒に子供たちは働いて、身銭を稼ぐ。
時次郎は姿がばれてはいけないので、何もできない。
刀を売って、宿代、楓の療養費にする。
夜、蛍が飛び交う。
自分の故郷、信州、沓掛にもそんな蛍が美しく飛び交っていた。
自分はやくざを辞める。
早く、病を治して、みんなでそこに行こう。
時次郎と楓は、蛍が飛び交う夜、想いを寄せ合う。
平穏な時は長くは続かなかった。
タモンの追手がやって来た。
ギオンの計らいで、何とか誤魔化すことが出来たが、ここに長くはいられない。でも、旅をするにも金が要る。
宿屋の旦那は、時次郎の仕事を探す。
今晩、この町の組に討ち入りがある。その助太刀を依頼される。
刀を捨て、かたぎとして生きていくと楓と約束したばかり。
でも、みんなを守るために、最後のやくざ稼業を果たす決意をする。
討ち入りの相手は、何とタモン一派だった。
時次郎とタモン。
一進一退の果し合いが続く中、1人の男がその決闘に入り込んでくる。
別れた弟分。
兄貴の命を懸けた戦いに、自分も命を張ろうとやって来た。この男も、いっぱしのやくざである。
元々、そんなに強くない。タモンに斬られるが、いまわの際に力を振り絞って、拳銃を一発。
タモンに致命傷を負わす。
弟分を失った時次郎。
タモンにとどめを刺そうとした時に、楓の容態が急変した知らせを受ける。
楓はもう・・・
医者もどうにもならないと。
最期の時。楓は時次郎の名前を消え入りそうな声で呼んでいる。
抱きしめてあげろ。そんな宿屋の旦那やギオンの言葉に時次郎は行動を起こせない。
自分は汚れている。何人もの人を斬ってきた。そんな自分が美しい楓を抱きしめることは出来ない。
宿屋の女将さんは、時次郎をひっぱたいて懇願する。
誰かを守るために斬ってきた。悪いことかどうかは分からないが、あなたは決して汚れてなんかいないと。
子供は、時次郎の手を必死に拭いてあげている。何も分からない子供。汚れているなら、綺麗にしてあげる言わんばかりに。
時次郎は楓の傍に寄り、優しく抱きしめる。
そして、楓は息を引き取る。
初七日。
宿屋の夫婦はのんびりお茶を飲む。
ギオンの踊り子たちも、次の町へと旅立つ。
さびしくなる。
時次郎たちは、今、どのあたりまで行っただろうか。
時次郎と子供たちは信州、沓掛に向かう。
まだ道のりは長い。
タモンが執着してまた現れる。
時次郎は弟分の仇だと、タモンの持っていた刀で斬りつけようとするが、子供たちに必死に止められる。
そう。もう自分はやくざではない。だから、人は殺さない。
そんな姿を見て、タモンはその場を去る。
蛍が飛び交っている。
これから向かう、信州、沓掛でも、きっと綺麗な蛍の舞が見れるだろう。
お母さんに会いたい?
そんな質問に、子供たちは会いたいともちろん答える。
そうだな。自分も会いたい。そして、言えなかった言葉を伝えたい。
時代劇がベースになっているが、作品名が時次郎をTOKIJIROとしているように、少し現代風の要素も組み込んだ形になっている。
殺陣はなかなか迫力がある。踊り子の踊りなども盛り込み、エンターテイメント性の高い楽しい舞台でもある。
任侠道の男のかっこよさ。誰かのために命を張って生き抜く。そんな人を周囲も温かく見守り、手を差し伸べる。
覚悟を決めて生きていく強い志を持った人たちばかりであり、それぞれの立場で必死に運命に立ち向かうような姿が見られる。このあたりは、こうした声優か役者なのかは知らないが、自分の道を切り開こう、そして同じ志を持つ仲間たちを想うご自分方の生き様を描こうとしているのかもしれない。
役者さん方に一言コメント。
どなたも、心の底から出てくる言葉で感情を伝えようとしている感じであり、これが心を震わせられる。
時次郎、小谷地希さん。文句付けるわけじゃないが、かっこ良過ぎだろう。やくざ渡世の中、影として生きてきた雰囲気。不器用で自分の感情を抑え込んでしまうような厳しい生き方が、出会った楓や子供たちによって、少しずつ溶けていくような感じがとてもいい。最後に少し見せる微笑みが、これからの温かみのある人生を想像させて、とても幸せな気持ちになる。
楓、浜田英里さん。なかなか魅せる女優さんである。たたずまいや仕草がとても丁寧に表現されている。信州に一緒に行こうと言われ、時次郎の背中に手を置くシーンなどは、その手からのぬくもりが背中に伝わるようで、じ~んときた。
楓の子供、タロキチ、藤田幸那さん。ホタル、川上奈美さん。ちょっとお調子者風で天真爛漫な可愛らしさを見せる藤田さんに、純粋無垢で幼き可愛らしさを見せる川上さん。楓、サンゾウという夫婦の下で、すくすくと育った感じがとても微笑ましいキャラである。ホタルの時次郎の手を必死にぬぐう姿はいかんな。あれは泣けてしまう。そして、タロキチの時次郎にお母さんに惚れてたのかなんて聞いてしまうようなおませっぷりが少しおかしかったりする。
サンゾウ、長岡正樹さん。なかなか貫禄のある姿で、お父さんでもあり、やくざでもあるという大きな男っぷりを演じられる。覚悟を決めた男の任侠道の生き様を強く感じさせられ、人情ものとしての作品にはまる。死して尚、刀を握りしめた姿が、やくざ渡世に生きてきた男の強さと、残された者への強い想いを感じさせられる。
時次郎の弟分、谷川早紀さん。コテコテ大阪弁のお調子者っぽい、いかにも出来ない弟分だった。この方だけでは無いが、心情表現をすごく丁寧にしているようで、ちょっとした動作にそれを感じる。時次郎、タモン対決時に現れるが、自分も兄貴と同じ任侠精神があるんだという誇りと、命を張る戦いへの恐怖みたいなものがその厳粛な表情から読み取られる。
タモン、田古将太さん。まあ、悪役なのだが、これがいかにも悪そうで相当な迫力がある。体も大きいし、顔もいかついという地をかなり活かしているのでは。汚いことでも徹底的にやるという執着心や狂気性を醸し出している。
その手下の男、出水志拓さん、北野勇人さん。忠実に従うキャラと、ちょっとそそっかしいキャラに二極化させているみたい。真面目そうで朴訥に悪を演じる出水さんに、笑いを取りながら調子に乗って悪さをする北野さん。まあ、ボケとツッコミみたいな感じでうまいコンビを見せている。
宿屋の旦那、久野俊貴さん。懸命に生きようとする男に心からエールを送り、少しでもその成功のために手助けをする。そんな優しく、やくざではないけど強い男を演じる。楓が息を引き取る直前、時次郎は楓を抱きしめる。そんな姿をみんな見つめるのだが、この人だけはそれから目を背けている。助けてあげられなかった。楓も時次郎も。そんな男としての悔しさがあったのだろうか。そして、息を引き取った瞬間、その姿を目に焼き付けようとばかりに振り返るのが印象的だった。
女将さん、檜垣涼さん。どんと肝っ玉が据わったような貫禄のあるお母さんの強さ、そして優しさが滲み出る。おおらかで面倒見の良さそうな雰囲気を若くして出せるのはなかなか大変だったろうに。時次郎に討ち入りの手助けをさせる。そんな仕事を旦那が取ってきた。状況は分かっているが、やはりこんな仕事はやって欲しくない。断って欲しい。たぶん、このシーンはそんな微妙な心情だろう。旦那から刀を渡され、時次郎がそれを握る。その瞬間に、ビクっとした動きをされていたが、ここが妙に母性を感じさせる優しさをとても強く感じた。
ギオン、八木駿輔さん。いわゆるオカマキャラで、笑いもたくさん取られる。でも、状況に応じて、的確に判断する賢さを見せ、男として厳しく、女として優しく、時次郎はじめみんなを勇気づける大事なポジションになっている。姿恰好とは異なり、男よりも、男らしい姿が印象に残る。ちなみに、宿屋の旦那で記した、楓の最期のシーンでは、旦那とは逆に楓が息を引き取った瞬間に目を背けている。こんなところが、男と女の間の感情を持ってるのかもしれないなと感じられ、興味深かった。
踊り子、神座にちほさん、佐野美波さん。最初、アイドル顔負けの姿で登場し、踊りを披露。舞台を楽しく明るく盛り上げる。子供たちにも好かれ、とてもいい子たちなのが分かる。時次郎討ち入りの時、楓を心配させないようにみんなで嘘をつく。祭りの打ち上げで剣舞を披露するだけだと。人生経験豊富そうなギオンはたやすく嘘をつくが、二人はそれが出来ない。必死に平然を装うが、その表情は曇る。そんな姿も二人の純粋に人を想う気持ちが現れているように感じた。
切ないお別れであったが、その中で必死に生き抜いた人たちの優しい姿が描かれており、とてもいい作品だった。
みんなが誰かのために何かを成さんとする。
そんな想い合いの中で得た運命ならば、たとえそれが悲しきものであっても、これからの人生を切り開いていくことが出来るように感じる。
そんな人を想う優しき登場人物の各々の姿に心が響いたように思う。
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コメント
SAISEIさん。私が言うのもおかしいのですが、観劇して下さいまして本当にありがとうございます。そしてこんなに丁寧な観劇ブログをあげて下さり、泥谷も生徒さんたちも関係者の皆さん、有り難く、凄く嬉しいと思います。私も観に行って良かったと思ったのと同時に、泥谷が2年間教えてきたことが、全部かどうかは分かりませんが、生徒たちにとって、ええものであったんではないのかなぁとしみじみ思いました。本当にありがとうございました。
投稿: teru | 2013年2月 3日 (日) 00時01分
>teruさん
コメントありがとうございます。
ご無沙汰しております。
いらっしゃったんですね。
思ったより大きい会場で、全然見つけられませんでしたわ。
泥谷さんらしい作品に仕上がってましたよね。
熱くて全力で。
皆さん、心の底からセリフが発せられており、とても丁寧にご自分の役を演じられているなあと思いました。
とてもいい作品です。
これからも立派に色々な分野でご活躍いただきたいと思います。
teruさんも、ステタイ卒業して、ミクマクが更に本格始動ですね。
また素敵な作品を拝見できることを楽しみにしております。
投稿: SAISEI | 2013年2月 3日 (日) 00時36分
SAISEI様
本日はご観劇頂き、本当にありがとうございました。
慣れない演出業。
普段自分が出演する時より何倍も緊張致しましたが、拙くとも熱意だけはプロにも負けない子供達に恵まれたこと、本当に心から誇りに思います。
自分の演出能力に関しては、まだまだ勉強が必要だということも痛感しましたが…
ただ手前味噌ですが、今後生徒たちがそれぞれの道に進む上で、技術とかではない、その前にあるべき一番大切な物だけは、何とか伝えてやることが出来たのではないかと自負しております。
そして今回頂いたこのご感想は、彼らに取って本当に宝になるものだと思います。
私もまたこれからの彼らに負けぬよう、精進を重ねます。
本日は本当に、本当にありがとうございました。
投稿: | 2013年2月 3日 (日) 01時36分
>泥谷将先生
コメントありがとうございます。
お疲れ様でした。
泥谷さんらしい、熱さが前面に出て、かつ人のことをきちんと想って筋を通すみたいなお人柄の出た話に仕上がっていましたね。
生徒さん方は、泥谷さんが書かれたそれぞれの道に進む上で、技術とかではない、その前にあるべき一番大切な物をしっかり受け止めているように感じます。
そして、そのことをこの公演、舞台で先生方への感謝、ご自身のこれからの生きていく上での誓いとして、逆に私たちに伝えようとされていたのではないでしょうか。
だからこそ、心を震わせた演技につながっているように感じます。
頑張った結果を出された皆さんが、今後も益々、ご活躍されることを願いたいですね。
素敵な公演でした。
生徒さんに負けず、泥谷さんもこれからもガンガンとご活躍ください。
また、舞台で拝見できることを楽しみにしております。
投稿: SAISEI | 2013年2月 3日 (日) 03時30分
はじめまして。
TOKIJIROに出演しておりました、
時次郎の弟分、ワタリ役の谷川早紀と申します。
泥谷さんからこちらのブログをご紹介頂き、
この丁寧なご感想、全て読ませていただきました。
お忙しい中、
お芝居に対してまだまだ素人な専門学生達の作品に
わざわざ足をお運びいただき
誠に有難うございます。
全てのストーリーや
登場人物一人ずつ事細かに分析、ご感想を下さり、
本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
このような素敵なお客様に巡り合えた事を
役者陣一同、一生の宝にします。
この場をお借りしまして、感謝の言葉をお伝えいたします。
ご来場頂き、誠にありがとうございました。
投稿: 谷川早紀 | 2013年2月 4日 (月) 00時57分
>谷川早紀さん
コメントありがとうございました。
ワタリ。いい役でしたね。
前半のおどけて頼りないけど、兄貴を純粋に慕うキャラが、最後のヤクザには本当は向かない優しい子というところにつながり、涙を誘います。
作品としてもかなりいい出来だと思います。
ストーリーはもちろん面白いのですが、それよりも話の展開の中での感情表現が大事な作品だと思います。
皆さん、思いっきり演じられ、そこに各役の心情を真摯に掴もうとした形跡が伺えます。
楽しく拝見させていただきました。
今後もご自分の決めた道でご活躍ください。
また、舞台で拝見できる日が来れば、嬉しいですね。
投稿: SAISEI | 2013年2月 4日 (月) 09時52分