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2013年2月23日 (土)

光速可変の定理【劇想からまわりえっちゃん】130222

2013年02月22日 芸術創造館

いやあ~、完全に飲み込まれた。
これまでに2回ほど拝見しているので、あの若さ溢れるパワーで怒涛のごとく駆け巡るスピード感ある展開は知ってはいるのだが、今回はマシーンレースをベースにしているので、もう役者さんはありとあらゆるキャラ、物になっていつも以上に暴れ回っている。
ドタバタに乗じて、どうしてあそこまで自信を持ってかませるのかと思うようなギャグも好き放題に盛り込んでいる。

この目まぐるしい動きある展開が楽しいのはもちろんだが、この劇団の作品の魅力は最後に人のつながりを描いた温かいラストで締めくくるところもあるだろう。
ラストに向けて最後の20分ぐらいは、これまでが嘘のように動きが止まる。動から静への演技に転換する。それでも、それまでの約1時間で積み上がった熱量が舞台に残る。
そして、この物理学みたいな作品名ではないが、質量エネルギーのように、舞台にただ立っている役者さんから止まっていても熱が伝わってくる。
動きまくっているからパワーを感じるのではない。自分たち自身にパワーが溜まりまくっているのだと思わせるぐらいの役者さんの力強さを目の当たりにする。これがこの劇団の真髄であるように感じた。

(以下、ネタバレしますので公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで)

S1グランプリ
各国から集まったスピードを追い求めるレーサーたちが、バトルを繰り広げる。
ジャポン列島出身でありながら、ユーラシア連合国代表として出場する女性レーサー、アリサ。
誰も寄せ付けないオーラを発
し、ただスピードを追い求める冷淡な目をしている。
狂気的なメカニック、通称BBの手により、改造されているようだ。
ジャポン列島代表はヤマト。アリサの旧友。今でも恋心を抱いている。
無所属だが、同じくアリサ、ヤマトの旧友であるカイハヤマ。長年の相棒、ストレイト号と一緒に出場。彼の後ろにもBBがいる。光よりも速く。それを実現するために。
レースは始まる。

  

時は過去に遡る。
カイハヤマは相棒のマウンテンバイク、ストレイト号で快走中。
そこで出会った、アリサという女性。負けん気は強さそうだが、爽やかで優しい感じの子。
アリサに競争を仕掛けられるが、これが速い。
必死に走っているうちに、速く走ることの楽しさを見出す。
アリサに誘われて、クラブに入部。
アリサに恋い焦がれる嫉妬深いヤマトや、才能あるカイハヤマのことをよく思わない先輩たちと色々と悶着はあるが、メカコという優秀なメカニックの手により、ストレイト号はどんどんバージョンアップ。彼もどんどん速くなる。

  

インターハイ。
他校生徒、そしてアリサやヤマトという同期のライバルたちと死闘を繰り広げるカイハヤマ。
ゴール直前、カイハヤマがアリサを抜き、チェッカーフラッグを受けようとした時に、その悲劇的な事故が起こった。
倒れるアリサ。ただ茫然と立ち尽くすカイハヤマ。
必死に追いつき、彼女を介抱しようとするヤマト。
結局、レースはヤマトが優勝する。
アリサにその報告をするが、もうアリサは動くことも出来ない。
メカコは自分の整備のせいだとカイハヤマに必死に謝罪するが、そんな言葉ももう届かない。
共に走り続けた3人の人生は、もう二度と交錯することは無くなってしまった。

  

アリサはまだ走りたい。誰よりも速く。そのためには何でもする。
彼女はBBの手により改造手術を受ける。手術が合法であるロシアに亡命してでも。
そして、もう一度S1グランプリに出場する。
ヤマトももちろん、またアリサと走る。彼女の故郷でもあるジャポン列島の代表として。
カイハヤマは・・・
これまでに、自分、そしてストレイト号を見守ってくれたメカコと別れて、BBの手にゆだねることにする。光よりも速く走るために。

  

レースが始まる。
誰にも負けない。自分の前は誰も走らさない。アリサ。
アリサを追い続ける。あの頃の走ることが楽しいと言っていた優しい目を取り戻してもらうためにも。ヤマト。
カイハヤマ。光よりも速く。光速を超える。そして、時間を超える。
そんな奇跡が起こった時に、彼の目の前に現れた景色は・・・

  

途中、レース中に起きる様々な出来事は省いていますが、筋的にはこんな感じ。
要は、失ってしまった絆、自分たちの人生をもう一度取り戻す奇跡を起こすような物語です。
宇宙一を目指すと称する劇団だけあって、定理なんかに囚われず、光速すら超えるスピードで進んでいけるという自分たち自身の気持ちを描いたりもしているのかもしれません。
分かりの鈍い私だからかもしれませんが、こんなラストは全く想像しておらず、終わってから、あ~こういうことかあと。作品名の意味合いも何となく分かり感動しました。
アリサにカイハヤマが勝って、3人スポーツマン精神にのっとりみたいな感じで元の仲を取り戻してハッピーエンドになるってずっと思って観ていただけに衝撃のラストでした。よく考えれば、これでは何も面白くないし、作品名の光速がただスピード感ある動きを魅せるだけになってしまいますものね。
作・演の森山亮佑さんのいつもバカなこと考えてるんだろうなあという細々した笑いの要素の中に、いつも人を優しく真摯に見つめているんだろうなと思わせる素敵なお話でした。
ちなみにヤマト役をされていますが、いつもながら落ち着きのない、とにかくずっとせかしく動いて喋られていました。光速を超えるなんてまでは思いませんが、この方の時間は他の人より速く進んでいるのではないだろうかと思わせるぐらいの動きっぷりです。

  

役者さんは全員書くとしんどいので、後3人だけ。
全員書かないというよりかは、あまりにもめまぐるしいので、もう何が何だったか訳が分からなくなっていて書けないというところが理由にあります。
どの方も際立ったキャラの持ち味をあらゆる役で発揮されていました。

  

アリサ、高橋愛子さん。過去のアリサとサイボーグみたいになった今のアリサ。負けん気の強さがまた可愛らしく感じる過去から、負けることが許されない冷徹なまでにストイックな今の姿の切り替え。この劇団のヒロインだと称されるだけあって、うまさがありますね。動けなくなって、横たわりながら自分の想いを語る。失って初めて分かった自分の本当の気持ちが溢れてくるように語るシーンはとても見応えがありました。
カイハヤマ、鈴木光基さん。苦悩する人っていうのは、過去2回拝見した作品でも共通しているかなあ。道を見失ってしまい、困惑・苦悩する姿が似合う役者さんっていうのは、結構多く、この方もそんな雰囲気が合っているように感じます。まあ、今回は単純にかっこよかったですね。男だなあって感じで。
ストレイト号、山下誠さん。これはよかったなあ。まあ、所詮はバイクなんですが。動きが精密で、とても綺麗。前を見つめる真剣な目の輝きが、バイクに魂を宿らせている印象を受けました。これだけの表現力があるなら、ちょっとした一人芝居なんかも観たくなる方ですね。語らずとも伝わる熱意は、この作品自体の後半とオーバーラップしているように思います。作品自体はすごくドタバタしているのですが、乱雑というイメージが一切ありません。実は凄く計算されて細かなところまで統率とられているのでしょう。そんなところも、この方のような個々の役者さんの丁寧な演技の積み上げから生まれているのだと思います。

  

この劇団の魅力がたっぷり詰まった素晴らしい作品でした。
80分強。ただ、ここは観終えた後、すごく疲れます。ずっと固唾を呑んで舞台を観ているからでしょうか。

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