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2013年2月15日 (金)

カモフラ Hearts War Mingle ~同時進行中の恋人数人と滞りなく別れたいのですが~ Aチーム【劇的☆ジャンク堂】130214

2013年02月14日 神戸アートビレッジセンター

作品名、そして若くて個性的な魅力のある元気な役者さんを15名×2チーム揃えている。
ここから想像するに、以前、拝見したパパを尋ねず散々にのようなお祭り的なドタバタコメディーを繰り広げる中で、最後にちょっとほろりとさせるような感じかなとイメージして観劇。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/111217-bdad.html

実際は、確かにそんな感じではあるのだが、その話の内容、構成、展開に見事に一本取られた。
ダブルキャストや妙に多い登場人物の意味合いもよく分かる。
今回はアイデンティティーがテーマだろうか。
自分とは。自分としての自分。誰かのための自分。
自分の人生は自分の物語。誰かの物語の中の登場人物。
そんな人間の本質を問いかけているような深いテーマを、笑いベースに仕立てながら紐解こうとしているような話だった。

(以下、ネタバレしますので公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで)

黒村智という男。
大学の臨時教員。
現在、4人の女性とお付き合い中。
幼馴染で同棲中の或子、愛が重たい都環、大学の生徒で互いに友達同士の蛍香と凛。
或子以外の3人と別れたい。
親友である白金もそうした方がいいと考えている。

 

向かった先は、別れさせ屋。
少々、風変わりな社長、水元の下、8人の個性豊かな
社員たち。
どうも自分を勘違いしているような新人の名取、歯が浮くようなセリフが平気で出てくる元ボーイの狩集、手品が得意で巧みな腕を見せてターゲットに接触する工藤、取りまとめ役のベテランの印路。
BL好きでテンションがおかしい元漫画家の大澄、何でもこなせるベテラン女性の二帯、勢い重視で繊細さに欠ける元ADの千谷、柄悪く口も悪いがしっかり工作案を形にしていく元雑誌編集者の吊。

 

最初の30分でようやく、登場人物のキャラがだいたい把握できるようになる。
別れさせ屋の中での会話の掛け合いや、黒村の依頼仕事をシミュレーションする三文芝居などで自然にこちら側にそのキャラたちを植え付けている。

 

続く30分で、実際に別れさせ屋の面々と女性たちが接触する中、黒村智の重大な秘密が明かされていく。
黒村智は多重人格者。親友である白金は彼の専属の臨床心理士である。
これまでたくさんの人格を取り纏めてきたが、最後に4人が残った。
或子以外は、その多重人格の自己が付き合っている。
これを別れさせて、そのことを黒村自身が理解することで、その人格を統合していこうという考えみたいだ。

 

愛が重い都環は男への依存心が強い。そんなところを男前の狩集がくすぐって、自分に目を向けさせることで自然と黒村への気持ちを遠ざけていく。
凛は男なんていくらでもいると考えており、黒村にこだわっているわけではない。それよりもいくらでもいない親友の蛍香が大事だという考え。蛍香は凛の男を奪うことで自分を見出すような女性。
そんな関係をベテランの印路は見抜き、少々、打ち合わせ不足ではあったが、工藤との巧妙な計画により、二人まとめて黒村から手を引かせる。
こうして、黒村から3人の女性は去り、その対応する人格も統合されることになる。
ただ、なぜか新人の名取は或子に惚れて、ストーカーみたいになってしまっている。

 

このあたりでだいたい1時間。残りの30分で、この計画のもう一つの大事な要素が明かされる。
黒村智と或子は共に施設で育った幼馴染。
幼い頃はいじめられる黒村を或子がかばうみたいな間柄だったみたいだが、思春期を迎えると立場が逆転したらしい。
或子はいじめられる。そんな時に黒村はいつも助け、自分がずっと守ってあげるから大丈夫だと言っていたらしい。
ただ、これを言っていたのは黒村ではない。本当の彼はどうしていいのか分からず、心の奥底に身を潜めていた。そこで出てきたのが、クロムラという人格。彼は或子を守るため、同時に黒村という基本人格を励まし応援するために出てきた人格。
クロムラは黒村智では無い。だから、彼の中にはまだ、本当の自分と或子によって作り出された人格が存在している。
そして、そのことを或子と白金は知っている。
或子がずっと黒村に出会うたびに久しぶりと言っていた伏線がここで分かるようになる。クロムラでなく、黒村に戻ることをいつも心配していたみたいだ。

 

ここから先は、私には想像できない展開だった。そして、最後も思わぬ結末となる。
白金は黒村智という基本人格を消そうとする。それは友達が少ない自分の親友はあくまでクロムラであったから。
或子もそれを了承する。
白金の最終的なカウンセリングの中で、黒村は自分が消えるべきだと語り、その人格をクロムラへと統合しようとする。
自分の体の中から黒村が消えようとしていることに気付いたクロムラは、激しく動揺する。彼は黒村のために存在する人格であったので、自分が残ることは本意では無いのだろう。
でも、クロムラは或子と話し、彼女が心から安堵して喜ぶ姿、そしておかえりという言葉に、ただいまと返答し、黒村と心の中で最後のお別れをする。

 

悲しい結末である。正解など、どこにも無いのだろうが、これは本当に正しい形だったのだろうか。
愛する人のため、本物の自分とさよならするクロムラも切ないが、身を引く決意をした基本人格の黒村の姿も切ない。
自分の存在とは誰かのためなのか。デカルトの我思うゆえに我ありではなく、我思われるゆえに我ありみたいな言葉がイメージされる。
ただ、登場人物を見返すと、誰かを思うことで自我を保つ人は多い。
或子や白金はクロムラ、都環は男、凛は親友、蛍香は凛といった感じかな。
そう思うと、やはりデカルトの言葉は確かに正しいような気もし、クロムラは或子を思い、同時に黒村のことも思ったから最後に存在している。
黒村はクロムラに思われる。或子のことを思ってはいたのだろうが、幼い頃に或子に助けてもらうというところで心を止めているので、或子に思われるという印象の方が強い。
思われるだけだったから、存在できなくなってしまったのだろうか。
思われる。だから、自分も思う。そんな人の絆を作るための単純行動が出来なくなってしまった黒村が悲しく思える。もしかしたら、思われていることに気付けなかったのかもしれないな。
クロムラに思われる。だから、クロムラのことを真摯に思った或子の純粋な笑顔と共に描かれるラストが、作品の真相を浮き上がらせているように感じる。

 

役者さん多いので、本当に簡単に一言コメント。
Bチーム観て、余力あればその記事で比較してみるかもしれません。

 

黒村智、Magumaさん。難しい役を影を潜めていい感じに演じられる。苦悩と葛藤。そこから得られる自分へのかすかな希望を魅せる名演技。
白金、マナカさん。狂気的なところを醸しながらのインテリ風キャラ。この狂気的なところが、作品の最後に効いている。思われることが少ないから、思うことへの執着が大きくなる。そんな人間の不器用な一面がよく出ている。
或子、島田香菜子さん。とにかく、笑顔が素敵だなあ。天然で純粋、奥ゆかしさとか男が惚れるイメージが綺麗にはまったいい役。
都環、中山はちこさん。重たくガツガツした肉食系の雰囲気が漂う。オチに使いやすそうなキャラを活かして会場を沸かせる。
蛍香、山田小百合さん。嫉妬、競争意識など、現実世界でもあんまり外に出したくない人の感情を、微妙な心持ちでうまく醸す。人には見せたくないけど、どうしても出てきてしまう裏の部分があることを思わせる。
凛、本田夏実さん。サバサバした雰囲気が、名前どおり凛としている。弱みを見せないような女性イメージであるが、その支えが親友であったりするところが、人は独りじゃやっぱり生きれないんだなあと。

 

水元、今西刑事さん(人造演劇ユカイダー)。いつもながらの奇妙なとっつきにくいキャラ。先生とか社長とか人の上に立つ、うっとおしい人を演じさせると鉄板ですね。
名取、森田純平さん。問題ばかり起こすバイト、でも、実はエリート工作員という真逆のキャラを演じている。が、どっちのキャラでも全てイラ立つ。
狩集、星村彰さん(斬撃☆ニトロ)。外見を活かして、男前のチャラいキャラに。頭おかしいんじゃないかと思うぐらいの臭いセリフを真顔で吐いてくれます。
工藤、藤田和宏さん。こちらも男前を活かして、手品など、動きで魅せる。細かな動きがなかなか巧みで芸達者なイメージが。
印路、泉寛介さん(baghdad cafe')。若手に交じり、大活躍。どこか決まらない抜けた感じが面白い。
大澄、しろさん(激団しろっとそん)。いい役もらったなあ。誰以上に浮いて飛んでるキャラ。計算されたいい間で笑いを組み込んでいるところがなかなか絶妙。
二帯、川原梓さん。ベテラン風の大人の魅力を面白く演じる。ちょっとおばちゃん臭い決めポーズなどなかなか。
千谷、ばんち。さん(斬撃☆ニトロ)。元AD役を活かした画用紙を掲げて笑いを取られる。わざとする大根役者演技は貫録の技。
吊、吉沢奈智さん。柄悪い強烈なキャラだった。攻めの演技ですね。オーバーアクションに口の悪さを連発して、かなり目を惹きました。

 

Bチームは同じく個性的な役者さんを楽しませてもらうと共に、作品の本質をもう少し考えながら観てみたいと思います。

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