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2013年2月10日 (日)

農業少女 農チーム【妄想プロデュース】130210

2013年02月10日 スタジオガリバー

やはり野田作品は漠然としていて難しいな。
まあ、この作品はまだ、話そのままとして観ても、楽しめるのでましな方かも。
野田作品の不思議な感覚と、劇団名のとおり、妄想の中で描かれているような感覚が妙にマッチしていた。
不思議、妄想と感覚的であり、感想を文字にするのが非常につらい。

細長い舞台を対面で一列の客席が挟む。
基本的に妄想プロデュースは難しい。野田作品も難しい。
観ても何も分からず、叩きのめされるのではないだろうか。
ただでさえ、そんな不安感いっぱいで緊張しているのに、この客席設定はなかなか厳しい。
緊張し過ぎると眠くなる。
だから、ちょっと寝てしまったというのは、都合のいい言い訳だろうか。

線路に横たわる農業少女、百子。
人の声はもう聞こえなくなってしまっているみたい。
集会でも開かれているのか、都市農業の会を解散し、都市党として政界に進出すると宣言する都罪という男に、秘書のような大阪弁の女。
そんな中、一人の男が立ち上がり、都罪に銃を突きつける。

物語は、西の農村に住む一人の農家出身の娘、百子が農業という駅から東京へ向かう電車に乗るところから始まる。農村にある広告看板はどれも時代遅れのものばかり。一時は都会ではやり、この村にも大々的に掲げられたのだろう。今では都会ではすっかり廃れたが、村にはいまだ残っているといった感じだろうか。都会から取り残されたような村みたいだ。
好きなことは分からない。でも、農業は嫌い。
そんな想いから、電車に乗った百子。
電車の中で大阪弁の女に言葉巧みに騙され、AV女優としての道を目指さないかと勧誘される。
思いつきで乗ったので、電車賃が当然無い。
困っているところに、広島で乗り過ごしてしまった男に目をつけられる。
山本という男。毒草を研究している。男は電車賃を代わりに払い、自分も東京まで行くことにする。

山本は東京の原宿で百子と再会する。
あの純粋だった田舎娘の姿は無く、今風の都会の少女の姿に変わっている。
それもそのはず。山本は知らないが、あの後、百子は大阪弁の女に連れられて、都罪の金儲けの道具として本当にAV女優として働いていたのだから。
そんなことは露知らず。東京で頑張っていると思っていた山本は変わり果てた百子の姿になぜとショックを受ける。
彼女に何かしらの恋心を抱き始めているのでなおのこと。

しばらくすると、百子から山本に連絡が入る。
東京に行く決心をつけさせた責任を取って、しばらく面倒を見てくれと。
一緒に暮らし始める。
山本が毒草の研究のために採取に出かけて戻ってくるたびに、百子は怪しげなボランティア活動にはまる。
イルカを守る、アフリカの子供を救う、エイズ撲滅・・・
実は、都罪はAV業のあと、これからは福祉だと新しい事業を始めていたのだ。
百子はそれを信じて、次から次へとその事業に関わろうとする。
そんな百子の姿の後ろに山本は男の影を見出す。
都罪たちと百子を切り離さなくてはいけない。同時に嫉妬心で苦しむ。

山本は百子を学校へ通わせようとする。
最初は反発していた百子だが、農業高校なら通うことを了承する。
これも、都罪が食べてもウンコが匂わない米を有機栽培で作るという逆転の発想みたいな新たな農業事業をしようと考えていたから。
やがて、そんな米を作ろうとしている百子は農業少女と呼ばれるようになり、いつしか不登校の少女たちの代名詞のような存在になる。
それを支えている都罪も一躍有名になり、世間からもてはやされる。
でも、そんな米を本当に作ろうとなんかは思っていない。
世間のいいネタとなればいい、自分がステップアップするための手段でしかない。
それを知った百子は、田舎に戻り、一人黙々と米を作ろうとする。誰からの声も聞かず、今はもう遠く離れた東京の音を線路から聞くようにして。
それを知った山本が取る行動。これが冒頭のシーンへとつながる。

田舎から都会に出てきた少女。荒波にもまれて、結局、使い捨てのようにされる。
やりたいことが分からない。好きなことが分からない。だから、それを分かっているかのような人の言うことに流されて、自分も好きなことをしているというような錯覚に囚われる。
都罪はあまりにも悪い人ではあるが、自分の進もうとしている道がはっきりしているので、百子も感化されやすかったのだろうか。
本当は山本に感化されて、一緒に毒草を採りに出掛けるなんてことになってもよさそうだが、そんな行動は全くしない。ということは、山本も本当にしたいことが毒草研究とかではないのかもしれない。
確かに、百子と同じように流されているような感はある。本当に自分の好きなことをしているなら、恋心を抱く百子にその魅力を大いに語り、落ちてしまいそうな百子に手を差し伸べてあげることだって出来たはずだと思う。

こんな現実にありそうな少女の姿を通じて、本当はもっと大きな現代社会の姿に対しての警鐘が込められているのだろうか。
都罪は都会。中身は伴わなくて構わない。流行をうまく感知して、そこに目を付けコントロールできれば、絶大な権力を得ることが出来る。
大阪弁の女はそのまま大阪といった感じか。東京ではない。でも、都会だ。だから、うまく歩調を合わせて要領よくやっていける。
山本は田舎だけど、自立できる田舎みたいかな。都会を敬遠する、極端に言えば拒絶や憎しみの気持ちが奥底に感じられる。だから、都会とあまり関わらずに生きようとする。同じ、田舎を見ると手を差し伸べたくなる。そして、都会に染まって欲しくないと願う。何となく、そこに都会にはかなわないが、自分より下の田舎を自分が支配したいみたいな嫌な感がある。百子に相手にされないのは、やはり刺激が感じられなかったのでは。
百子は田舎。何にもない田舎。東京に出る。途中、結婚駅や出産駅なんかもスルーして東京に向かった。もしかしたら、そこで降りていれば、こんなことにならなかったのかも。東京まで行ってしまった。その結果がこれ。
でも、こんな経験をすることで、もう一度、自分たち田舎の価値観が見えてきて、都会に囚われない魅力を見出すことが出来たのかもしれない。最後に結局、農業を選択して作業をしている姿は、別に農業が好きになったとかではなく、この村をもう一度信じて頑張ってみたくなったからのように感じる。

大した根拠も無く、単なる流行でもてはやされては消えていく数々の物。
発信源は都会であり、物だけでなく、それは人も同じような末路となる。
米。日本人だからだろうか。非常に尊い印象がある。これを粗末にしてはいけない、侮蔑するような行為は許されないという絶対的な暗黙の了解が誰にでもないだろうか。古代日本からずっと中心となり、西洋文化に押さえ込まれて、たとえ服装という文化が和服から洋服となったりしても、なお日本人の食文化は米だろう。
そんな米ですら、こんな流行ものに使われてしまう。そこに農業は劇的なものが無い、退屈だといったような、人の心を微妙にくすぐり、刺激を求めさせている。それが都会か。
刺激が無くたっていい。劇的じゃなくたっていい。しっかりと腰を据えて、その魅力を発揮する農業の良さを見直すという感覚が、本当に農業を見直そうと言っているのではなく、今の自分の生き方を見直そうと言っているような気がする。
新しいことばかりがいいわけではない。かっこよくシャレた都会感覚が優れているわけではない。古臭くて、武骨でかっこ悪いことにも、その根底に大きなものを抱えていることを改めて感じてみようといった感じだろうか。

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