カッパの提灯 ~ちぃとお世話になりますけん~【劇団ヒポポクラテス】130209
2013年02月09日 トリイホール
あることで冷え切った中年夫婦の下に現れたカッパ。
ちょっととぼけた純粋なカッパは二人の凍った心を溶かしていく。
カッパと夫婦。奇妙な生活を滑稽に描きながら、優しい心を浮き上がらせている。
とても素敵な作品だった。
(以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで)
ある夫婦。
夫がとても人がよく、後輩の借金の肩代わりをすることになってしまった。
肝心の後輩は行方をくらましている。
悪い筋からも借りていたみたいで、夫の会社までに取り立てが来て、首になってしまう。
中年男の再就職先はなかなか決まらない。
妻も働くが、もう家は手放さなくてはいけない。
家を出て、それぞれ別々に暮らす。
自分たちが悪いわけではないだけに、二人の間にはぶつけようのないイラダチがつのる。
そんなある雨の日、家の軒先に老婆が現れる。
悪い人でもないようだ。どうやらどこにも行くあてが無いらしい。
かわいそうに思った優しい夫は、老婆をしばらく家におくことにする。
妻も家の事をしてくれれば、夫が転職活動をしやすいので、とりあえず賛成。夫の人の良さは今に始まったことではない。
老婆は、キュウリしか食べない。陸に上がってきたとか、西からやって来たとか、皿が渇くやら不思議なことばかり言っている。
抱えている籠には、かなり昔からよその家でも同じように居候していたのか、古めかしいガラクタがたくさん。
本人曰く、カッパだという。
キュウリは高いので、キュウリのQちゃんをとりあえず食べさせる。辛そうにしているが、まあ食べているみたいだ。
しばらく、一緒に暮らすと、河童はとても純粋で二人の間を癒してくれる。
すっかり冷えきってしまった夫婦の仲に一筋の光が見え始める。
そして、いつの日か、お別れすることがつらい気持ちが芽ばえてくる。
カッパが家に住みつくと座敷童になって、家を守ってくれるという。
妻はそんなことを信じたい気持ちでいっぱい。夫はカッパであることには半信半疑だが、もちろん、本当の気持ちは妻と一緒だ。
そんな奇妙なカッパとの生活。
でも、カッパの命が尽きる時がやって来た。
老婆のカッパ。たくさんの人と暮らして、楽しいこともあっただろうし、苦労もしてきたのだろう。
もう、疲れ切ったみたいだ。
夫婦は、いつまでもカッパと暮らしたいと必死に願う。
別に家を守らなくてもいい。二人の気持ちがバラバラになるのを助けてくれたカッパと。
本物のキュウリを食べさせれば元気になるかも。雨の日、走り出す妻。
でも、間に合わなかった。
カッパは感謝の気持ちを述べて、もう返事をしてくれない。
そして、雷の轟音と共に姿を消す。
残された二人。
半分に割って互いに分け合ってキュウリを食べる二人。
プランターでキュウリを育てられるかなあ。作り方、教えて。ああ、いいよ。
二人の気持ちはもう一度、一緒の方向を向く。
数日後、カッパの残した荷物はまだ部屋に残ったまま。
そんな部屋とも直にお別れか。
電話がかかってくる。
妻から。雨が降りそう。駅まで迎えに行くかな。
出ようとしたところ、もう一度電話。
電話の主は姿をくらましていた後輩。近くの駅まで来ているらしい。
元気だったのか。優しく後輩に声を掛け、駅で会う約束をする。
人のいい中年夫婦が、巻き込まれてしまった借金問題。
夫の優しい性格を知っていたとはいえ責める心、妻への申し訳ないという気持ち、ふがいない自分へのイラダチ、後輩への疑いの心・・・
現実を生きる中で、出来れば避けたいたくさんの心情が、二人に一気にのしかかってきたみたい。
これから、自分たちはどうなるのだろう。そんな不安が、二人の仲を凍りつかせる。
そんな中、現れたカッパ。
自分がどこから来て、どうなるのかなんか分からないことばかり。そんな不安をおくびにも出さず、楽しそうに生きている。それも、常に周囲への感謝を忘れずに。
そんな純粋な姿に、夫婦の凍りついた心が溶かされていく様を描いている。
カタクリの花。作品中に、家の軒先でいつの間にか枯れてしまった植木鉢で出てくる。
調べたら、花言葉は寂しさに耐えるなんて意味があるみたい。花が咲くのも7年ぐらいかかるらしい。
きっと、カッパはかなり昔に仲間とお別れして、陸に上がって、放浪の旅を繰り返し、そんな生き方をしてきたのかな。
寂しさを知ってるから、人の寂しさもよく分かるのだろう。
お別れするつらさを知っているから、夫婦にも自然といつまでも一緒にいて欲しいという願いが生まれてきたのかもしれない。
きっと、大事にしていれば花が咲くからねといった感じで、姿を消したカッパが提灯を持って、そのカタクリの植木鉢に光を当てて、雨水をあげている最後のシーンからそんなことを感じる。
この後、夫と後輩は出会って、まあ悪い方向には進まないだろう。後輩が戻って来たのも、少し善処できることになったからに違いない。
夫婦二人が帰る頃には、きっと雨も止んでいる。
一時のカッパとの生活が、夫婦の中に潤いを与え、これから先に二人の花を咲かせる。
そんな想いを抱かせる温かい話だった。
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