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2013年2月 5日 (火)

煙の塔【下鴨車窓】130204

2013年02月04日 アトリエ劇研

なるほど、やっぱりそうだったのか。
観ていて、以前拝見した建築家Mと似た感覚だなあってずっと思って、今、ブログを読み返したら同じ方の脚本だった。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/m2012120702-601.html

なぜ、こんな閉塞した社会を描こうとするのだろうか。
作品は東日本大震災の原発事故を自然に想像してしまうような話であるが、同時に何か普遍的なこととして捉えることも出来るようになっているように思う。
張りつめた空気、会話は十分あるけど沈黙とも思えるような抑揚の無い口調、時折、激しく高まる怒声や叫び。
愚かだ、怖いといった逃げ出しくなるような感覚を得る。
確かに塔がどういうものかは話の中で伝えられた。
でも、観終えても、それに対する明確な答えは出てこない。
作品名と同じく、塔はいまだ煙に包まれて謎のままである。

舞台はある山村。
山の奥には塔がある。
いつも霧がかっているので、姿ははっきりしない。ただそこにずっとある。
塔の周囲は外壁で囲まれているらしく、誰も立ち入らない。
ある日、塔から音がした。そして、誰かが山から降りてくる影を見た。

それを見たのが何かの病気なのか顔を覆った女性。
兄は青年団のリーダーである。

村長。
姪と二人で暮らしている。

姪はある男と婚約。
直に村で結婚式を挙げる予定。そして、この村から少し離れた谷間で暮らす。
その方が、色々な物が揃っている町に近いから。

婚約者の男には姉がいる。
兄もいたが、事故で亡くなっている。
最近、新しい仕事を始めたみたい。
徐々に慣れればいいと姉には言われている。

村人の男。
婚約中の女に恋心を抱いている。
独りよがりの妄想なのか、その女も自分に気があると思っている。
村人の女。
婚約者の男を気にかけているみたいだが、恋心は感じさせず、ただ自由に生きている感じである。

村に行政官がやってくる。町から来たのだろう。
案内役を買って出る村人の男は村長の付き人。
行政官は村の調査を行うつもりだとみんなを集めて演説する。
よそ者がやってきた嫌悪感を見せる村人に対して、付き人はその手助けを惜しまないように振舞う。

このあたりまで、だいたい40分。
舞台は一つの外の見える大きな窓と幾つかのイスが並べられているだけ。
その舞台で、青年団リーダーの家、婚約者の男がいる家、村長の家を共有するだけでなく、シーンに応じて、町の外の道、広場にまでなる。
さらに、登場人物のやり取りを、役者さんが舞台から引っ込むことなく、そのままシーン切り替えをしたり、移動のための暗転など無しに急に切り替えたりする。
このあたりは、村人たちがどこかでつながっていることを想像させる。
と言っても、絆なんていいものではなく、常に何らかの形で関係しており、意識せざるを得ないような、どこかで誰かに見られているといった閉鎖的な社会を感じる。

急に今までには無かった場所でのシーンになる。
そこには老女がいる。そして、婚約者の男が一緒にいて話をしている。
窓から見える景色。はるかかなたの村からは見えない海の眺望が高いところをイメージさせて、ここが塔だと意識させる。
誰も知らない塔。人が住んでいたのか。なぜ、婚約者の男はここに。
この人は、この人の弟で、この人ともうすぐ結婚。で、その人はこの人の姪で、何かいやらしい人がまとわりついていて・・・
なんて、村人たちの相関関係が分かり始めて、ようやく落ち着いたところで、今度は塔の謎が膨らむ。

ここからは、塔の謎が描かれ始める。
塔には代々、番人みたいなものを住まわせているらしい。
何でかは、もう分からない。そういう決まりだ。
老女は村長の母親。ついに交代の日がやって来たらしい。
その交代の判断が何によるものなのかは分からない。
とにもかくにも、次の番人は村長の姪。それしか血縁が無いから。
受け継がれるものらしい。

婚約者の男は塔に必要物資を届ける役目。
兄もそうだったらしい。ただ、事故で死んでしまったが。

この秘密を知る者は、村長、婚約者の男、その姉だけ。
村長は、村のしきたりだと考えて、疑いは一切無い。
男は従うことを当たり前だと思っている。一緒に塔で暮らせばいいと、どうも誤った決心を大義名分にして、問題を避けようとしている感じ。
姉は絶対的に反対。兄を失ったのは塔があったから。もう、こんな呪縛から逃れたいと思っているみたいである。

村長は姪にもこの事実を話す。
姪はショックで家を飛び出す。
いつも話を聞いてもらっていた病気で顔を覆った女性に相談する。
婚約者の男の姉は、幼馴染なのか青年団のリーダーに相談。
塔の事実は広まっていき、行政官の知るところとなる。

行政官は村人たちを集め、村長の追放、そして、自分が村長権限を持って、この村を統治すると宣言。
そんな中、婚約者の男が事故で死ぬ。
姪は塔に向かう。
老女と外の景色を見る。
長い塔の生活の始まり。二人抱き合う。

何か、結局何も変わらなかった。
閉鎖的な社会が、外からやって来た行政官や、秘密を知った村人の手で崩壊していくのかと思いきや、そんな力は打ち消されて、元に戻ったみたいだ。
それも、特に何か改善されたわけでもなく。
最後、抱きしめ合う老女と女は、またこれまでどおりに村の時間が刻まれていく悲劇をここでずっと見続けることの悲しさを感じさせる。

村人たちは、現状満足主義みたいな感じで、その安定が崩れていくことを拒絶する。たとえ、それが自らの不利益、大きく言えば死につながるとしても。
そうすれば、いつでも同じ景色でいられると思っているのだろう。
それは塔にいる老女も同じだった。
夏はキラキラした海が、冬には覆い尽くす雪が。
でも、本当は今、見た景色は二度と同じ形では見ることは出来ない。
時が進む現実世界で、見える景色は必ず変化していく。それは村も同じことである。村の景色をずっと同じままとどめることは出来ない。
村人たちは繰り返される時の循環だけで世界をとどめておけるとでも思っているのだろうか。

婚約者の女に恋心を抱くいやらしそうな男が丸、四角、三角、線やら、どれが一番いいとかいったことを言う。
最初は四角より丸がいい。後には、線ではダメで三角でないといけないと。
よく分からないが、村人たちは線でつながる。通常はつながった関係は交錯していくので三角、四角、五角、六角・・・円となっていく。
この村はただ線がたくさん存在しているだけで、その線同士のつながりを恐れているような感がある。
多分、このいやらしい男は婚約者の男を殺している。それは、こんな人間関係しか生み出せない村の閉鎖を打破するためのものだったのだろうか。

少し希望的な観測が出来るところが、病気の妹かな。
彼女はいつも顔を覆っている。村の医師からは長くは無いと言われているが、本当かどうか分からない。町に行けば治るという。それでも、妹は村から出ようとしない。でも、最後には兄に引きずられて町へと向かう。
彼女はこの村の塔みたいなものである。
塔が煙に包まれているように、彼女は布で自分を覆う。それについて、村人は誰も言及しない。噂するだけ。
そんな彼女を無理やりでも外に連れ出したことで、きっとこの後、彼女には変化が訪れる。
煙の塔は大きい。彼女は小さい。組織と個人みたいな感じ。
個人が変わっていくことで、やがてその塔も崩壊するかもしれない。組織を変えることも出来るのかもしれない。

従順すぎる疑うことなく支配されることを望む男、閉鎖的な心を持ちそこに安住を求めていた女。
こんな二人を欠いた村には何かの変化が起こるのではないかという希望もあるが、同時に恐怖も感じる。
それは、塔から見えるはるかかなたの海、一望できる町から何かがやって来るといった感じか。
それをこれから見る塔の女性は、その時、塔から出てくるだろうか。
まだまだ謎がたくさん残ったままである。

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