ORANGE【PEOPLE PURPLE】130120
2013年01月20日 新神戸オリエンタル劇場
素晴らしい作品でした。
人生変わるとか、涙が止まらなくなるとか、2000本近い観劇作品で3本指に入るとか、数々の賞賛の言葉は耳にしてきましたが、ようやく自分の目でそれを確かめることが出来ました。
誰一人、嘘ついてなかった。
感想は下記に述べていますが、アフタートークでの劇団員さんの言葉や、ゲストで呼ばれた現役消防隊員の方の言葉から、結局は命を大切にして欲しいということにつながっているようです。
自然災害などどうしようも無いことも多いですが、それでも自分の命を守り、それからその周囲の人の命を守ることは、一般の人でも出来ること。
そんなことを、今一度思い出して、日々の生活を生きて欲しいという、命に対して真剣に向き合った方々の気持ちが伝わってくるようでした。
舞台は神戸・湊山消防署。
責任感が強く厳格だけど、署で働く全員に目を行き届かせ、みんなからも尊敬されて慕われる署長。
最前線の現場で働く部署は大きく二つに分かれている。救急係と消防係。
救急係の救急隊は、休日は競馬を楽しみながら、冗談やおふざけの大好きなユーモア溢れるごく普通そうな中年男性が小隊長を務める。その下に、一生懸命、必死に業務を全うしようと頑張っている若い女性。
消防係は消防隊と救助隊に分かれる。救助隊が、厳しい訓練を受けて初めて所属できる、この作品名の通称オレンジと呼ばれる部署。オレンジ色の作業服は消防士になった多くの者がその命を守る仕事の尊さに憧れを抱く。
消防隊は実直そうで隊員からは歳の近い兄貴のような親しさを持つ男が小隊長を務める。
そのすぐ下の部下が、女性ながら現場では冷静沈着、的確な判断で隊員たちの活動を見事に誘導する頼りになる山倉亜紀という女性。
その弟もこの消防隊の隊員。救助隊になることを目指しているが、ちょっと詰めが甘い。なかなか試験を受ける機会を与えてもらえない。婚約者がいる。危険な職場を心配しながらも、彼の尊い仕事に対する考えを信じて、応援しようとしている。
消防士になったばかりの若い男。まだまだ、未熟で叱られてばかりだが、必死に先輩隊員についていこうと努力を惜しまない。
北海道から、厳しい訓練で有名なこの署に派遣されてきている、新人の消防士の女性。何か勘違いしているくらいにおふざけばかりだが、消防士として一人前になりたい気持ちに偽りは感じられない。
救助隊、通称オレンジは、普段はすぐに賭け事とかしようとして、いい加減なことばかり言っているが、ひとたび訓練や現場に入ると鬼のように厳しくなる小隊長が率いる。
経験豊富な隊員が二人。小日向と石丸。
小日向は少々感情的に行動を起こしてしまうところがあるが、とにかく命を救うということに対して真剣そのもの。そんな小日向を石丸はうまく制御しながら、現場では最高のコンビを見せる。小日向は結婚しており、まだ幼い子供もいる。実は相当な子煩悩らしい。奥さんは消防本部に勤める女性。石丸は北海道からの研修生の教育担当となり、日々、えらい目に合っている。
最近、入隊した隊員。マニュアルだけでは対処できない現場の厳しさを目の当たりにしながら、本当の現場での知識・経験を先輩からきつく叱られながら身に付けようと頑張っている。
普段はこんな隊員たちが、普通に談笑したり、自主訓練をしたりといった職場。
でも、出動指令がかかれば一転。現場に向かい、的確な判断の下で消火・救助・救急活動を連携して行う。
一幕は救助隊の小隊長が、若い隊員たちを集めて、あの日のことを語る。
阪神大震災。あの時、何が起こったのか。自分たちが出来たこと、出来なかったこと。
命を救うということは、どういうことなのか。
実際にその時に救助に当たった数多くの消防士の方々にインタビューを行い、そこから、この回想シーンは創り上げられているようです。
今、こうして書きながら思い出すだけで、そのリアルなシーンが甦り、涙が滲んでくるような、強烈な描き方でした。
倒壊した数多くの建物。救助しようにも、人が足りない。必死に情報収集を行う。
その間にも、救助を求める負傷者の方々が署にやって来る。
倒壊した建物の中に生存者を確認できても、ガレキを取り除くには重機が必要。
発生した日の夕方には火災も発生。生存者をそのまま放置せざるを得ない。
本部からは呼びかけに応答する場合だけ救助活動を行う。返答が無い場合は、次の救助現場に向かうという通達。緊急事態の中で生存者優先の救助活動をせざるを得ない苦肉の策。
それに対して、まだ中に家族がいるのに見捨てるのかと胸ぐら掴んで叫びながら、懇願する被災者。
もう自分はいいから、別の可能性のある人を救助してあげてと言う人。
目の前の命を救えない。自然の猛威の中に立ち尽くす自分たち。
自分たち自身も被災者であったりする。中隊長の妻と娘は、呼びかけに応えながらも、何も出来ないまま息絶えていった。
そんな悲しみ、悔しさを今も心に抱いて、命を救うために最前線で自分たちは働いている。
会場があれほどまで嗚咽で埋め尽くされたのは初めての経験だった。そして、自分も泣けたといっても、涙を滲ませるくらいでいつも我慢するのに、これに関しては溢れてきて止まらず。もうぬぐうのも嫌になるくらいに溢れてくる。
多分、別に人が死んだから泣けるのではない。もちろん、それはそれで悲しいことではあるが。
それよりも、人が命のことを想う。救助隊にせよ、被災者にせよ、みんな人の命を救いたいという一心の想いが心を震わせるのだと感じる。そんな人の優しい気持ちに心打たれるのと、みんながみんな、救いたいと思っていたのに、どうしようも無かった。そんな悔しさがどうしようもないもどかしさとなって、涙となるのではないか。
二幕は自分たちの身を呈して命を救う実際の救助活動における厳しさを、ある工場での火災事故をベースに描いています。
一幕での小隊長からの言葉で、身も心も精悍になった山倉消防隊員。救助隊への試験も受けられることが決まったようです。そんな彼を襲った悲劇にスポットを当てます。
ある工場で火災警報。
現場に駆けつけるが、火災場所は見当たらない。それでも、建物の人達を避難するように促していきます。
でも、警報など、いたずらで鳴ることがあるからみたいな感覚で甘く見ていたのでしょうか。
建物の中にまだ数名が残っているようです。
そして、そんな状況で本当に火災発生。恐らくは周到に準備された放火だったのかもしれません。
あっという間に火は回り始め、一刻も早く残っている人を見つけなくてはいけません。
小日向と石丸は、2名の要救助者を確保。安全な場所にいったん避難するように指示が出ます。
救助隊試験を受けることが決まり、少々、冷静な判断が出来なくなっていたのかもしれません。山倉は指示を無視して一人で残りの要救助者の探索をしようとします。
それを止めようとする小日向。でも、彼は暴走してしまいます。
小日向は追おうとしますが、石丸に指示優先だと諭され、そのまま要救助者と共に避難します。
その直後、爆発音。
工場の薬品庫に火が付き爆発が起こったみたいです。そして、その犠牲に・・・
弟を失った山倉亜紀士長。普段、冷静な彼女からは想像できない姿を葬式で見せます。
婚約者は小日向と石丸に詰め寄ります。どうして、助けてくれなかったのか。
ただ、黙るしか出来ない二人。婚約者を必死に抑えようとする山倉亜紀士長。
中隊長はじめ、隊員たちの厳粛な姿の中で、山倉の遺体は出棺していきます。
数日後、署には山倉亜紀士長の姿が。もちろん、傷が癒えたわけではないのでしょうが、自分の職務を全うする強い意志が感じられます。
小日向、石丸も同じく。
出動指令がかかります。
現場に急行する隊員たち。小日向はオレンジの服を着ることが出来ません。どうしたらいいのか。山倉、俺はどうしたらいい・・・
でも、気付けば小日向はオレンジの服を身に纏い、現場に遅れて駆けつけます。
現場では自分の代わりに救助活動に入った中隊長のグループが、火災現場内で立ち往生してしまっているようです。本部に突入許可を求める小日向。
本部は先日の山倉の事故のこともあり、これを拒否。でも、小日向は昔のように、救える命を守らないでどうすると、無許可で突入開始。
全員救出して、現場作業を終えます。
生死の間にいる危険な職場の実態を目の当たりにする緊迫感溢れるシーンの連続。
自分の命を顧みず、人を救おうとする使命感の強さが招く悲劇。
被災者であっても、隊員であっても、一つの命が失われてしまうという厳しい現実に、もういいよと逃げ出したくなってしまうくらいの感覚を覚えます。
犠牲になった仲間。
小日向の俺はどうすればいいという言葉。無力。これは自然の猛威による一幕の震災と変わらないところでしょう。でも、やっぱり答えは一つだったわけです。
それでも、救助活動に向かって、命を救い出さなくてはいけない。
オレンジの服を着ることが出来ない小日向。一刻を争う現場。
深く考え、自分をしっかり納得させて行動する時間としては、あまりにも短い。
それでも、何度でも立ち上がる、過去のつらい出来事を乗り越えていかなくてはいけない。
つらく悲しいことは胸に刻んで、今は前を向いて出来ることを必死にやる。
そんな、あまりにも強い、本当に強い人の姿が描かれていました。
作品自体は、実は悲しく泣いてしまうようなシーンばかりではありません。
むしろ、楽しく笑ってしまうようなシーンの方が多いくらいです。
それは、強烈なキャラを盛り込んでいることもありますが、隊員たちの普段の本当に普通の和気あいあいとした姿が描かれているからです。
いわゆる体育会系なのか、無茶を言う先輩に、実直に従いながらうまくかわす後輩。捕まってひどい目に合うかわいそうな後輩。
じゃれ合う様にケンカして、それをはやし立てる周囲。
隊員たちは本当に普通の人です。命を自分たちの手で好きなように動かせるような神様とかでは決してありません。
だから、救えない命に苦しみ、救えた命を喜ぶ姿が印象的なのでしょう。
飲みにも行くし、賭け事で儲けりゃ調子にのるし、彼女や奥さん、子供だっています。奥さんに頭が上がらず、子供の迎えにだって行かなくてはいけません。
そんな一人の人間としての生活をきちんと描く中で、命の懸かった現場最前線で働く隊員の姿を緩急つけて丁寧に描いているところがこの作品の嘘偽りの無い非常に魅力的なところだと感じます。
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