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2013年1月18日 (金)

カンヤム・カンニャムと彼女の左手【fabricant fin】130117

2013年01月17日 カフェ+ギャラリー Can tutku

冤罪をベースにして、言葉で信じ合うことの難しさを描いているといった感じだろうか。
言っても無駄なことは多い。でも、語り合うことで生まれる信頼の大きさは、そんなことを決して無駄にしないようだ。

こちらの精神状態の問題か、初日ということが影響しているのか、テーマがテーマだけに張り詰める空気の中での緊張感をもった会話劇をもっと期待したい。
話がまだ見えない前半の退屈感も気になる。
話が展開し始めてからは、もっとピリピリした空気が漂いそうだが、私はそれを感じられなかった。
ただ、静かな雰囲気というだけでは、役者さん方は魅力的な演技をされていることはよく理解しているつもりだっが、会話に強く惹きつけられない。

(以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで)

暗闇のカフェの裏口から、男と女。
男の手には懐中電灯。女の足元を気遣って誘導している。
設計ミスなのか、電気のスイッチが店の扉付近にしかないらしい。
男は店長。
女は最近、働き始めたバイトの子。ぶっきらぼうで愛想が全く無い。何者なのかもよく分からない
店長は非常に人のよさそうな方で、この正体不明の女を一緒に住まわせているみたいだ。

電気がつく。
ふと見ると、客席に高校生ぐらいの若い男が寝ている。だいぶ疲れているみたいだ。
厳しく追い出そうとする女を店長はいさめ、何か食事をあげようとする。
どこかオドオドしており挙動不審の男を店長は疑うこともせずに普通に受け入れる。
女は気に入らないみたいだが、仕方なくといった感じ。
店を開店しようとシャッターを開けようとするが、ゆがんで開かない。状況から見て、恐らくは男が壊したのだろう。
店長が男のかばんを隙を見て調べると少し顔色が変わる。とんでもない物が入っていたみたいだが、自分の心の中だけにとどめておく。

今日は店は閉店。
でも、馴染みの客がやって来る。
この店で自分の家のようにくつろぐ常連の男。
馴染みの女性客と、誘われてやって来たお友達。
取材にやって来たテレビ局の女性。
常連の男の手には雑誌。
結婚式当日、新郎を突き飛ばして姿をくらました犯人の記事。その写真の女性は、バイトの子にそっくりだ。
常連の男は店長に問い正せと言うが、店長は相手にしない。

そのうち、高校生の男をどこかで見たことがあるという話になる。
どこで会ったのだろう。
そんな会話が繰り広げられる中、高校生がいきなりキレ出す。
手には拳銃。
女性客に銃を突きつけ、全員の手を縛る。

最近、巷では連続幼女誘拐事件が起こっている。
その容疑者がこの高校生。
高校生は、自分ではない。でも、誰も信じてくれない。だから、テレビでこのことを訴えるつもりらしい。

話をしよう。
言わないと分からない。
でも、さんざん言っても無駄だった。どうしらいいのか分からないと涙ながらに振り絞るように訴える高校生。
膠着状態が続く中、高校生と客たちが各々の立場から、話を始める。

店長はとにかく人がいいので、基本的に善意で高校生を見ており、悪い子ではないと、事件に関わりが無いことも信じているようだ。ただ、その根拠は明確ではなく、盲目に信じるだけということになっており、それだけでは相手の気持ちを動かすことには至っていないような気がする。高校生は、万人を信じるようないい人に救いを求めるのではなく、この場合、自分だけを信じてくれる人を求めているのではないか。
女性客は、怯えるように置かれている窮状を訴える高校生に、同情的な感じになり、何か役に立ってあげたいような気持ちになっていく。連続犯行なので、真犯人がもう一度犯行を起こすまでずっと一緒にいて、アリバイを作ろう。そんな女性の提案に少し安堵の表情を高校生は浮かべていたように感じる。
常連の男は自分の立ち位置からの視点で高校生に話す。どうであろうと、人を巻き込んでこんな状況を作った高校生への非難を言葉にする。ただ、最後に感極まった高校生が自殺しようとするが、それを身を呈して止めに入ったのはこの男であったりする。言葉と行動が必ずしもリンクしないのは、本当に優しい人にはよくあることかもしれない。単なる甘やかしでは、人はきっと救われない。
テレビ局の女性は、仕事柄なのか、かなり冷静な第三者的な見方をする。言葉を武器にする仕事で、その言葉が時に大きな力を持ち、人を傷つけたりも救ったりもすることをよく知っているからか、どういう状況であろうと、言葉で語り、理論武装することを諦める時点で負けといった感じで話す。厳しく映るが、これもまた一つの信頼の形なのかもしれない。まあ、どうしても、職業柄、信じにくいところは出てくるのだが。
バイトの女は、高校生と立場が似ているみたいだ。自分も結婚式の事件で、同じように疑われ、彼女はそれで全てを捨てて生きる選択をしたのだろう。言っても無駄。それで諦めないといけない現実があることを知っている。でも、それで終わりにしてしまうわけにはいかない。全てを失っても、そこからまた築き上げていくしかない。大人と子供、男と女の人生経験の差も伺える。

最終的には、連続犯は数時間前に既に捕まっており、高校生の行動は意味の無かったものだったという結末である。
もちろん、意味が無いと言っても、この時間の中で、高校生が得たものはある。
バイトの女は、全てを捨てて生きていくことを決めながらも、やはり不安や悔い、自分を信じてもらえなかった事実に対する憤りが交錯していたように感じる。
それも、同時にこの高校生の姿を見て、安堵感を得て、また歩んでいけるような気持ちになったのでないだろうか。

作品名のカンヤム・カンニャムは紅茶の名前らしい。
ダージリンと味が似ているみたい。
作品中では、膠着状況の中、店長の提案でみんなでこの紅茶を飲むところで出てくる。
みんな落ち着いてその味わいを楽しむ。
でも、本当にそれはカンヤム・カンニャムだったのか。バイトの女は最後にみんなに問う。
ダージリンだったかもしれないし、そもそも、みんな知らないんだから、そんな紅茶があるのかも分からない。
でも、みんなカンヤム・カンニャムだと信じて、おいしく飲んだ。
そこにどういう味だから、カンヤム・カンニャムだという理論めいた考えはない。いくら主張しても、違うと言われればそれで終わり。あの場で、あの人が入れて、そう言ったから、みんなそう信じて飲んだ。

自分だから信じてくれる。カンヤム・カンニャムだと思ってくれる。言って無駄なこともあるだろう。でも、それをきちんと信じて受け入れてくれる人が必ずいる。
そんな絶対的な信頼を持ってくれる人を、高校生を含め、その場にいた人たちがみんな分かったように思う。
そして、バイトの女はそんな信じてくれる、信じていいと思う店長という人と通じ合いながら生きていくという結末で話は締められる。

神経質で幼き脆さを感じさせながら、突然、襲われた事態に困惑しながらも必死に突破口を見つけ出そうとしている姿を丁寧な心情描写で演じる緑川岳良さん(私見感)の存在感が大きい。
言葉はほとんど無し、あっても感情をこめないぶっきらぼうな言い回しで奥に潜む自らの感情を伝える大人の静の演技がとても味のあるバイトの女、松浦由美子さん。
終始、徹底していい人を演じる。信頼を打ち消そうとする様々なことに対しても、最後まで負けずに人を信じ続ける強い信念を持った優しさを醸し出す店長、内藤克弘さん(teeny-weeny)。

言葉は厳しく、自分にとっての利害を意識した発言をしているが、奥底では相手に対していい方向に物事が進めばいいと願っているような、男らしい突き放しを見せる山尾匠さん(山尾企画)。
柄悪く、思いやりは感じられない口調で話すが、誰よりも情に厚い優しさで相手を想うことが出来る馴染みの女性客、小津もころさん(劇的☆ジャンク堂)。
冷静な中で的確にその人を想い、感性で信じてあげている連れの女性客、御意さん(Project UZU)さん。
意志を伝えるなら、それなりの覚悟を持った手段が必要という、現実的な路線で高校生を窮地から救おうとしているテレビ局の女性、桜井こまりさん。

それぞれ個性的なところを滲ませながらも、言葉で伝えることが出来ないことに苦しむ人を励まし、その苦しみを解消しようと真摯な態度を示している。
会話を通じて、その心情はどんどんと膨らみ、一つのゴールに向かおうとしていることが伺える。
ただ、上記したように、その真剣さは、役者さん個々の演技からのみ感じられ、もっと張りつめた全体的な空気の中での会話から浮き上がっていないように思えるところが少々残念だった。

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