<DVD>モナリザの左目【Nana Produce】
昨年、観逃した数多くの作品の中の一つ。
まだ、観劇が本格化する前の、この短い一時にDVDを観ておきましょう。
噂以上に相当な力ある心情描写。
深い。愛情も憎しみも。
そんな人間の姿が、緊張感ある雰囲気の中で丁寧に美しく描かれています。
ある殺人事件を描いたサスペンスミステリー。
弁護士が、尊敬する先輩弁護士であり、かつ、加害者の妻の兄である男に事件のあらましを語る形で話は進みます。
事実と想像を交錯させながら、事件の真実を推理させるとともに、その事件に潜む人の復讐、贖罪を感じさせる奥深い作品となっており、知らぬうちにのめり込んで魅入る感じになります。
ある男、先輩弁護士の妹の夫。これが犯人として起訴されており、弁護士はこの公判を担当することになっています。
罪状は傷害致死。殺意は無かったということで殺人罪では起訴されていません。
ある日、たまたま居酒屋で出会った男と親しくなり、家に呼んだ。
すると、その男は妻に恋心を抱き、ストーカー行為を繰り返すようになった。
夫は辞めるように説得に向かうが、争いとなり、男が逆上して持っていたナイフで逆に刺してしまった。
夫は全面的に犯行を認めている。
正当防衛で無罪、悪くても情状酌量で執行猶予が付くであろう事件。
でも、弁護士の下に届いたこれは殺人事件だという手紙から、弁護士は探偵を依頼し、事件の真相を調べ始める。
被害者の男は、過去に身勝手な動機から放火殺人事件を起こしている。
隣室の幼き子供を焼死させてしまった。
飲酒による酩酊状態が認められ、10年程度の軽い刑期で出所している。
弟がおり、殺人者の家族ということで辛い人生を歩んできたみたいだ。
出所して、そんな弟を頼って、この街にやって来たのだろう。
そして、加害者の夫と出会う。
意気投合して、家に彼を招き入れたのが悲劇の始まり。
それは単なるストーカー被害を引き起こしたからではない。
妻は再婚。
過去に結婚しており、子供もいた。
そう、その子供が男の放火で殺された子供。
偶然、出会ってしまった憎むべき犯人。
それも、酩酊状態とやらで大した罪にもならなかった。
兄の弁護士も不条理に思っただろうが、法の番人である彼は、それが法律だと正論を言うしかなかっただろう。
その事実を妻は夫に告白する。
夫は、男にその事実を確認し、二度と姿を見せるなと告げる。
でも、男は妻に連絡を取り、職場にまで押しかけるようになった。
それを問い詰めに向かった時に、ナイフを持って姿を見せる妻・・・
これは想像。
弁護士が探偵から得た情報からは、そんな推理が出来る。
夫の愛情から生まれた身代わり殺人なのか。
弁護士の下に、男の弟が現れる。
彼の下にも同じ手紙が届いたみたいだ。
恐らく同じ推理をしているはず。
兄の名誉のために、事実を公判で語るように言いに来たのか。
でも、彼にそんな気は無かった。
女は、過去に兄に子供を殺された被害者の遺族だった。加害者の遺族が自分である。
今、自分が兄を殺されたので被害者の遺族になっている。だから復讐をしたい気持ちはとてもよく分かる。
でも、兄が放火殺人事件を起こしたことで、加害者の遺族としてつらい人生を歩むことになった。これは、ある意味で被害者だったと思っている。
だから、同じように人を傷つける行為で復讐をしても、それは繰り返されるだけだ。
それだったら、自分は幸せになることで、復讐をしたいと思う。
しかし、そんな話を弁護士から聞かされた兄は、一笑し、真相を語り出す。
手紙を書いたのは自分。
確かに自分もそう思っていた。妹が起こした殺人事件だと。
でも、それは違った。
妹が自殺未遂を起こした。
それを夫に告げ、真実を語らせた。
男の家に向かった。ここまでは同じ。
男は謝罪をするのではなく、その妻に対する狂気的な愛を語り始めた。
抱きたい、一つになりたいと。
そこに現れるナイフを持った妹。
笑みを浮かべる男に妹の殺意は抑えることは出来ない。
夫はナイフを奪い、男の胸を・・・
これは殺人事件。
兄はそう述べる。
そして、妹は男の弟がこの街にいることを知っていた。
恐らく、彼がこの街に現れることをずっと待って、復讐の機会をうかがっていたのだろうと。
ただ、それを証明する証拠はどこにも無い。
全てを暴露し、裁判を弁護士にゆだねる兄。
最後は裁判のシーン。
罪状が読み上げられる。
弁護士や兄が描いた想像とは違う、初めから事実として存在していた恐らくは偽りの出来事が裁判官から延べられる。
それに何の反論もしない弁護士。
そんな弁護士を見つめる夫。
推理としての話ももちろん面白いが、それよりもこの登場人物の心情を鋭く深く突き詰めていく展開の魅力だろう。
役者さん方の表情や語り口調が真に迫っていて、DVDながら恐ろしいほどの迫力がある。
生で観た方の感想で、観終えて放心というが、なるほどとよく分かる。
この作品の一つの答えを最後に持ってこないで、途中に、しかも少し事件とは距離の置いた男の弟に語らせている構成も面白い。
この弟のように、夫やその妻は新たな一歩を進めるのだろうか。
本来ならば、それに気づいた時には既に遅しとなってしまうのだが、神に許されたのか、この事件はこのまま、復讐に終止符を打たせそうである。
この恵みを大切にして、長きにわたる恨み、憎しみの連鎖から脱却して欲しいものである。
作品名のモナリザの左目。
作品中では、兄がモナリザのジグソーパズルを組み立てながら、話も進んでいく。
バラバラのピースを組み立てて、一つの絵を完成する。よくある表現だが、実際は、最後まで左目部分は空白のままである。
確かに真実の絵は想像の世界だけで出来上がり、事実としては創り上げなかったので、完成しないという形は当てはまるのだろう。
では、左目は何だろうか。
モナリザの目は、どの角度からも見られているように見えるが、実際に視線は合わず、何かこちらの後ろ側、見られたくない闇の部分を見透かしたような感じになっているとかいう話を聞いたことがあります。
今、ネットで調べたら、左目が特にこちらを見ていないような描写になっているとか。
人を救うため、憎しみの連鎖を断ち切るために、真実を自分の闇に葬る。公平を司る聖職者である弁護士が、そんな神を冒涜するような姿を見透かされることを無意識に怯えたような感じなのでしょうか。
でも、それは人間として決して誤った行為であるとも思えず、もし完成したとしても、それは、それで良かったのですという神の許しのような優しい微笑みが浮き上がるような気もします。
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