短編集:几帳面独白道化師 B stage【バンタムクラスステージ】130119
2013年01月18日 十三 BlackBoxx
3つの短編集。
唖然とさせられる作品、この劇団らしい重厚なかっこいい作品、この劇団らしくないほんわか心温まる作品。
どれもいい。
順番もよく考えられてる。緩緊柔ってところかな。
短編といっても、しっかりした作品となっており、贅沢な公演と言えよう。
(以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで)
各作品の簡単なあらすじと感想を。
一度は役者さんの名前が載るように。
・オクラホマ・スタンピード
クリスマス。今日はシカゴの大銀行でパーティーが開かれている。
そこに勤める女性銀行員、コットンの下に、3人の美しい女性たちが訪れる。
彼女たちはコットンのことを調べ上げている。
数年前に愛する男に銀行の許可無しに行った融資で降格されたこと、今もちょこちょこと横領を繰り返していること、オクラホマに左遷されること。
彼女たちは、ある計画を立てている。計画のコードネーム、オクラホマ・スタンピード。
このパーティーに乗じて、銀行の地下金庫からお金を盗み出す。そして、オクラホマで彼女の手を借りてマネーロンダリングを行う。もちろん、計画に参加することでコットンにも悪くないクリスマスプレゼントが渡される。
まず、お金を盗み出す間に、パーティーで他の行員が地下金庫に行ったりしないように惹きつけなくてはいけない。
悪事に手を染めるのか。葛藤で震えが止まらないコットン。
覚悟を決めたコットンは、全員でパーティーに参加して、他の行員の目を惹きつけることを考える。
計画に失敗は許されない。
パーティーでのリハーサルを行うことに・・・
緊迫感溢れる芝居を見せて、ピリピリムードを高める有元はるかさん(シアターシンクタンク万化/はちきれることのないブラウスの会)。
美しく冷静沈着な姿の山本香織さん(プロダクションイズム)、獰猛さを剥き出しにして襲いかかってきそうな南光愛美さん(劇団猫の森)、奥に秘めた狂気を醸すf-coさん。
どんな結末が待ち受けるのだろうか。
もしかしたら、コットンが全てを仕組んだりした、どんでん返しがあるのでは。
なんて、興味津々で魅入っていたら、開始10分、唖然とする展開となる。
驚きのあまり、笑う間も無く、終りを迎える。いや本当は笑ったけどね。
単に面白かったあなんて言わせて、帰らせるつもりないよ。うちの力で色々な意味で呆然となるくらいに圧倒させて帰ってもらいますからみたいな強い意気込みが感じられる始まりである。
・エドゥアルド・ウルリヒ教授の鎮痛剤
ウルリヒ教授はドイツの大学の研究室から、田舎に引っ越す準備をしている。
生徒である女学生と、最近、聴講生として講義に参加するようになった若い男性が手伝う。
一段落したところで、女学生は教授に二人っきりで相談を持ちかける。
ここで大学院に進むのを辞めて、生まれ故郷の田舎で司書の仕事をしようと思っていると。
二人はただの先生と生徒の関係では無かったみたいだ。
でも、先生は、自分のことを忘れて、田舎で普通に暮らしていけばいいと答え、彼女は部屋を去る。
入れ替わりで部屋に入ってきた若い男性。
不敵な態度で自分の正体を明かし出す。
ウルリヒ教授はプラハの春で逃走している政治組織のメンバーを率いるトップらしい。
今回の引っ越しは、教授の派閥闘争で敗れて去っていくという形になっているが、実はその相手の教授もターゲットの一人みたいだ。
聴講生は教授に毒物を注射して、全てを吐かせようとする。
苦しむ教授。追い詰める聴講生。解毒剤を射たなければ、もう後数分で教授は本当に死んでしまう。
間に合わず、教授の息が止まる。慌てて解毒剤を射つが息を吹き返さない。
そこに現れた女学生。一瞬の隙を見て、聴講生を射殺。
起き上がる教授。
教授の別名は、ペインキラー。全て、計算していたみたいだ。
そして、この大学での本当の目的は、政治組織を支援する人材を育てることだったみたいだ。
全ての役割を果たした女学生に、田舎で希望の職につけるようにしたためた手紙を手渡し、この場を去らせる。全てを忘れろと。
息絶え絶えの聴講生は教授に問う。お前は何者かと。
教授はウルリヒではない。その下で働いていた男。自分もその男を探していると答える。
歴史的な背景を全く理解していないので、実は書いていても、自分でも?のところがある。
まあ、何となくは分かる。スパイの心理戦を描いた作品。
作品中に綿密に歴史的な背景を練り込むのは、この劇団の作品ではとても多い。いつもなら、当日チラシにけっこうしっかりした説明があるのだが、今回は短編ということであまり情報は無かった。こうなると、申し訳ないが知識不足で、その点ではお手上げである。
鎮痛剤。不安がある時に、それを取り除くために必要な物。普通に暮らしている時は忘れ去られる存在。
ウルリヒと名乗っている男は、かつて本物のその男にとってそんな存在だったのか。
そして、女学生にとっても。田舎に戻って、普通に暮らし始める女学生にもうそんな鎮痛剤は必要ない。どこかの棚の上にでも忘れて置いておけばいい。
ウルリヒと名乗る男は、そんな不安を抱える人を見抜き、政治組織の支援者として巧みに育てあげたのだろう。
不安を抱える人にとっては、支配されると同時に、その不安から逃れるための麻薬みたいなもたれかかる存在だったのかもしれない。
この作品に限らないのだが、演技レベルが尋常でなくハイレベル。
張り詰めた空気の中で魅入ってしまうので、舞台で起きる出来事に本当に衝撃を受ける。
女学生が聴講生を射殺するシーンなどは、心臓止まりそうになる。緒方ちかさんが演じる。洗脳と言えば、そうだったのかもしれないが、ウルリヒ教授は抱える不安を消し去るための大事な人だったように感じる。そんな慕いも感じさせた表情が浮かぶ。その反面、関係ない聴講生に対する冷淡さは教授による絶対的な教育の成果のようだ。
ウルリヒ教授、木下聖浩さん。人の痛みを取り去る。そんな生き方の中で、自分が痛むことは忘れてしまったのだろうか。政治組織を率いる人としての強い信念を感じさせる迫力を醸す。
聴講生、福地教光さん。暴力的な威圧感。諜報員としての使命に狂気的に忠実な姿を映す。くつがえされて、悶え苦しむ姿は絶品だ。狂気的な美しさを感じさせる。
・タナトス行政府
関西の下町。
ちょっとボケたおじいちゃん、肝っ玉がしっかりしてそうなお母さん、実直で責任感の強さそうな雰囲気のお父さん、ちょっと反抗的だけど明るい少女が暮らしている。
少女は血液に難を抱えているみたいで、入院を控えている。もう先は長くないかもしれない。
結婚を誓ったボーイフレンドと冷静に自分のことを話すが、耐え切れなくなったかのように弱い姿を見せている。
大学に行っているお兄ちゃんが帰省してくる。大学を辞めて、ライブハウスで働く決断をしたみたいだ。両親は心配でたまらない。ただでさえ、娘があんな状態なのに。
そんな家族を担当する死神。
人は死後、死神となれば、その任期の間、会いたい人に会えるシステムらしい。
死神である女性は、自分の子供が中学生になるまでとずっと死神の業務をこなしていた。今日は息子の入学式。だから、それももう終わり。
引継ぎとして、若い男女の教育をしている。
研修の最後として、この家族を担当させる。
少女の容態が悪化する。
家族、ボーイフレンドに見守られて、お迎えがやって来る。
少女の手をとって、あの世へ連れて行こうとする若い男女。
その時、見えないはずのおじいちゃんが叫び出す。
この子はまだ若い。だから、・・・
話としては、よくありがちでオチも分かってしまうが、やっぱりちょっと感動して、心温まる。
こういう作品は、心情の積み重ねを最後のオチまでにどこまで積み上げるかで、勝負が決まると思う。
だから、役者さんが魅力的で無いと冷めてしまう。
明るく振舞う少女が見せる、溢れ出てしまった弱さ。塩尻綾香さん(劇団ほどよし/プロダクションイズム)のけなげな雰囲気がとてもいい。それを軽い感じを醸しながらも真剣に受け止める、若者らしい優しい姿を見せる丈太郎さん。
お父さんはとても味のある方で、その実直ぶりとちょっと中年らしい幼さのバランスが絶妙。優しくも愛嬌ある可愛らしい姿である。上杉逸平さん(プロダクションイズム)。
お兄さんは、今時の若者であるが、決して自分一人で生きているみたいな自己中心的な雰囲気を出さない。時折、家族のことをいつでも思っているというような言動や表情を見せている。樋上孝治さん。
死神が勤める会社みたいなものが、作品名のタナトス政府みたいである。
そこのお偉いさんみたいな人を泉寛介さん(baghdad cafe')が演じる。できる部下に頼ってちょっと飄々とした憎めない雰囲気で振舞う。実生活でも課長さんというのは有名だが、こんな感じなのだろうか。
若い死神の男が福谷圭祐さん(匿名劇壇)。尖った感じで、ちょっと間の抜けた面白いキャラになっている。オチもこの死神がえらい叱られるという切ない形にして楽しませている。
そして、何といっても素晴らしいのはおじいちゃんの殿村ゆたかさん(メロン・オールスターズ)。卓越した大胆なコミカルな演技でありながら、家族を想う優しい気持ちが感じられる。あれだけコミカルな感じで話を進めて、やはり最後に感動するのは、この方の真摯な演技が大きく貢献しているように感じる。
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