竹取乱舞【ARTIST UNITイカスケ】130127
2013年01月27日 芸術創造館
とてもよく練られた楽しいエンターテイメント作品でした。
いつの時代でも繰り返される人間の争い。
はるか過去からはるか未来まで。
時間を超えて、人間の愚かさを描きながらも、そこに本来ある人の優しさを信じて、希望を託したくなる話でした。
2121年。
人間たちは自らの戦争のためにアンドロイドを製造しては兵士として戦地に送り込む。
しかし、ある日、アンドロイドたちは人間に対して反乱を起こす。
アンドロイドを開発した博士は、恨んだ人間の手によって殺される。
その時、一冊の日記をエンジニアの爺さんに託す。
爺さんに育てられたエジルというより人間に近いアンドロイドに、その日記が渡される。
日記には、S.A.Iという装置のことが書かれていた。
アンドロイドの反乱を止めるには、S.A.Iという全てのアンドロイドを停止させる装置が必要。
その装置を博士はマヤというアンドロイドに託したという。
そして、マヤを人間の手から逃がすために、過去に送り込んだらしい。
エジルは反乱軍の人間たちと共にタイムマシンで過去へと向かう。
向かった先は672年。壬申の乱の真っ只中。
天智天皇の死後、弟の大海人が天下を握っているが、いまだ息子の大友皇子を支持する反乱軍がはびこっている。
マヤは大友皇子と出会う。
そして、やって来た自分と同時代を生きているエジルと人間たちと出会う。
この時代の人間同士の醜い争い。
自分が生きていた時代でも人間は戦争をしていた。人同士、そしてアンドロイドと人間。博士も人間の手で殺された。
人間は愚かである。争いをはるか過去からずっと続けている。
でも、本当は優しさも備えている。想い合い、互いに笑い合って抱き合えることも出来る。
そんなことを、この時代の七夕の日。敵味方関係なく、楽しく踊り語らい合う宴会を見て感じる。
そして、エジルと反乱軍の人間たちに芽生え始める信頼、絆も。
大友皇子はこの争いを終結させるために自害する。
これでみんながまた平和に暮らせる。そうなって欲しいと未来へ託す大友皇子は笑顔で死んでいく。
マヤは思う。
自分にも感情がある。それが死は怖いと言っている。なぜ、大友皇子は笑えるのか。
でも、その死が本当は優しい人間たちの争いを止めることが出来るならば。
元の時代に戻ったマヤは、人間たちの平和な未来を信じて、微笑みを残して、自らの体内に埋め込まれたS.A.Iのスイッチを押す。
主軸のあらすじはこんな感じ。
でも、実際は、もっと複雑です。
色々なエピソードを盛り込み、作品のエンターテイメント性を高めているようです。
エジルと共にタイムトラベルする反乱軍の面々は酒癖の悪い酒飲み、女好きのお調子者、食い意地のはった高飛車な女と個性的なキャラ。掛け合いはコントのようにおふざけが効いたものとなっています。
タイムトラベル時の到着地点が竹の節の中だったりして、作品名の竹取物語をイメージさせるエピソードも組み込まれます。
大友皇子を支持する妹が率いる反乱軍の一派。妹は絶世の美女設定だが、時代が違えば美的感覚も違うのだろう。思いっきり不細工になっています。名前が織姫。敵対する大海人に仕える牽牛との悲しき恋。
反乱軍の女性兵士は大友皇子に恋心を抱く。彼さえ命が助かるならと、大海人と交渉して、大友皇子の命と引き換えに反乱軍をわざと大敗させようと企てる女心を見せたり。
大海人のお気に入りの踊り子は美しい踊りを。
竹林には動きがやたら機敏な爺さんと婆さん。自分たちの筋書きに事が進むように謎めいた行動をします。実際は、未来から同じように送り込まれたアンドロイド。今は美しい竹林。はるか未来にここは戦争で荒れ地となっています。未来を少しでも変えたいという博士の願いでしょうか。ここで未来に根付くかも分からない花を必死に植え続けています。
タイムトラベルの設定も奇天烈なもの。過去の時代では、未来からの人間は触られてはいけません。触られるとゴキブリになってしまうから。その設定が、過去での行動をおかしくさせたりしています。
あまりにも主軸以外のところが豊富なので、少々、話がぼやけるというか、観ていて疲れるところはありますが、未来世界の戦争と壬申の乱なんて最古の戦争を壮大な時間を超えてオーバーラップさせて、そこから人間を描かせる。さらには竹取物語のようなファンタジーも組み込んで、日本の過去未来を駆け渡るスペクタルエンターテイメントに仕上げているところは凄いと感じます。
S.A.Iを作動させて争いを終わらせることはそう難しいことではなかったでしょう。
でも、博士はそれを感情が空白に近いアンドロイドのマヤに託し、そこから純粋に人間を見て感情を育てたマヤが自らの判断でS.A.Iを作動させることを人間への最後の裁きとしたのでしょうか。
切ない最後ですが、最古の乱で未来への希望を託して死んでいった大友皇子、はるか未来でも同じように人を信じて自らを停止させたマヤ。愚かなことをいまだ繰り返している人間ですが、こんな二人をいつの日か生み出さなくてもいいような未来を創り上げたいという祈りが心に残ります。
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