キリンの8割、わたしの2割【ATLAS】130112

2013年01月12日　千日前トリイホール

いつもながらのいいお話だった。
とっても心温まる優しい作品なんだけど、同時に単にお涙ちょうだいで感動させるなんてことせずに、厳しい現実も描いている。
色々あるけど、好きになるってことは素晴らしいよ、想うこと、想われることを受け止めるって大切で、大事なことなんだよと伝えてくれている感じで、幸せな気持ちになれた。

（以下、ネタバレするので公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで）

動物園。
キリンを担当する飼育員の女性が、以前担当していた男性先輩飼育員に告白するところから話は始まる。
結果は見事に玉砕。
次の日には、自称、情報通、お喋りな売店員によって、全員が知るところに。
何でダメなのか。
事務の女と付き合っているのではないだろうか。どうしたら気を惹けるだろうか。かわいさアピールをするにはどうしたらいいのか。
イラダチを隠せない女性飼育員。

そんな動物園に府の職員がやって来る。
経営がかんばしくないこの動物園を仕分けする気なのだろう。
厳しく経営事情を突き詰める職員に経営幹部は、熱意で対応するしかない。
色々な企画をして盛り上げようと頑張っていることをアピールするために、飼育員が子供向けにしている大道芸の様なショーを見せたりして時間を稼いでいる。
そんな中、動物が逃げ出したり、キリンの体調がおもわしくなかったり、男性先輩飼育員がストーカーをしているという手紙が届いたり。
動物園の愉快な面々がドタバタを繰り広げる中で、女性の恋の行方は・・・

詳細はDVDを購入しましょう。

結局、仕方が無いことってあるんだよなあ。
頑張ったからといって、好きになってもらえるわけではないし。
だったら、この作品みたいに向き合うことだけでもしたいね。
この女性は昨日、フラれて、今日もフラれます。でも、昨日よりももっとこの人のこと好きになったんだって。
素敵な言葉、素敵な恋愛じゃないですか。
失恋した時はいつも、あいつ、死ねばいいのになんて平気で口走って、夜通し飲み歩いて、くだを巻くことを常とする人にはグサリと刺さる言葉です。
向き合っていないんだろうな。がむしゃらになった時だってあるけど、自分が向いてるだけで、向き合うということにはなっていなかったのだろう。

作品中ではゲイ、要はマイノリティーの恋愛をテーマにしているが、動物園という特殊な設定も絡めているのだろうか。
キリンの8割が同性でセックスするという事実があるらしく、そんな事実を絡めていることはもちろんあるのだろうが、それよりも通じ合うことが普通では出来ない時に、どう向き合っていけばいいのか。そんな可能性を言及しているように感じます。
この女性とゲイの男性、動物園の動物たちと飼育員、府の職員と動物園の経営幹部。
単に接するだけでは、何かズレていると感じたら、もうそれでつながりあうことは出来ない。
でも、この作品ではそれが可能になった。それは何があったからだろう。
自分の想いに真摯で、その想いを相手に伝えることにも真摯であったからだろうか。

何から何まで通じ合えない関係を描いているわけではない。
子供にショーを見せる飼育員と子供、動物園の獣医と動物たち。
そんな向き合って信頼関係を作り出している人も登場する。
そういった人たちの姿を見ながら、価値観の異なる者同士が分かりあっていくことから生まれる大きな力が感じられる。

役者さんは、みんな個性的で、そのテンポのいい掛け合いがとても楽しい。
ただ、まあ、ここはゲイの先輩飼育員の上原日呂さん（月曜劇団）とその男性に告白する飼育員の西原希蓉美さんだろう。
両者とも、もちろん数々の作品に出演されるベテランさんだから、演技がうまいなんてのは当たり前の話なのだろうが、あまりの熱演に圧倒。言葉では表現しにくい。
今回、登場される役者さん方を観ていて思ったのだが、やはり魅入ってしまう作品はキャラがしっかりしているのだなと。
おっちょこちょいだとか朴訥だとか、今、演じているその場で分かるものだけでなく、そのキャラの過去なんかも浮かんでくるような役作りがされているみたい。作品は90分だが、それは連続したこの動物園の時の一部を切り出しているといった感じか。

何はともあれ、人、いや生き物全部かな。もう、何でもいいのかもしれない。とにかく好きになることって、想い合うことって、その形がどうであれ素晴らしいことなんだろうなと思える作品でした。