本日は『招かれざる客』を即興で演じます。【近畿大学文芸学部芸術学科舞台芸術専攻22期ドラマコミュニケーション演習授業公演】130111
2013年01月11日 近畿大学Eキャンパス アート館
アガサ=クリスティの有名作品を即興でやるとかいうチラシに魅せられて、昨年、力ある公演を幾度と観た近畿大学だからだしと観劇。
思っていた感じとはずいぶん異なりますが、これはこれで非常に面白い作品でした。
真実は何処にあるのか。
推理サスペンスだから、犯人は誰かということを考える。
この考え方がそもそも違うのかもな。
真実は、即興として如何様にも変幻自在の演劇作品であるということなのだろうか。
(以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は明日、土曜日まで)
悪天候で車で動けなくなり立ち往生する男。
助けを求めて訪れた屋敷。
そこには、車いすの屋敷の主人が撃ち殺されている。
近くには銃を持った妻が。
ミステリーサスペンスの始まり。
まさか、そのまま妻が撃ち殺したわけではあるまい。
この後、刑事でもやって来て、屋敷に住む面々を問い詰める中で、色々な人間関係が浮き上がっていき、真相に迫るのだろう。
これからの90分。果たして、自分の推理はどこまで真相に迫れるだろうか。
なんて、緊張感を持って、いざこれからという時に、照明トラブル。
一幕、暗転からいつまでたっても照明がつかない。
もちろん、これは演出。授業公演だから、演出家は先生なのだろう。
盛加代子先生が、普通にトラブル状況の説明と場つなぎをして、実は騙しだと暴露する。
この公演は、アガサ=クリスティーの「招かれざる客」とルイジ=ピランデルロの「今宵は即興で演じます」という作品を組み合わせた作品だという。
話としては、招かれざる客で、これを劇中劇のスタイルで演じている。
同時に即興で演じるということも、別に本当に即興で演じるのではなく、そんなスタイルで見せますよというメタフィクションになっているということか。
警部と部長刑事がやって来る。
警部はコテコテの大阪弁。こんな屋敷の事件なので、スマートな名探偵っぽい刑事がやって来ると思いきや、少々ガサツでごり押しの捜査を進める。川渕毅さんが演じる。味のある面白い役どころだ。
部長刑事は敏腕でなかなか頭も切れそうな感じだが、金髪の今風の若者。松岡雅士さん。奇妙な組み合わせで、観たことないのでよく分からないが、恐らくアガサ=クリスティーの世界ではないだろう。これも虚構を感じさせる演出の一つなのだろうか。
妻は美しく気品のある屋敷の夫人にふさわしいイメージ。宮脇愛奈さん。美しいバラには棘があるような感じで、何か隠している雰囲気をプンプン匂わせる。車いすの主人の介護に疲れたのだろうか。主人は狂気的な一面もあって、銃を乱射して屋敷周辺の動物を殺すような異常行動もとっていたようだ。こんな主人を殺して、屋敷の財産を奪い取るぐらいのことをしそうな悪女にも見える。
現に、地元の政治家と不倫関係にある。政治には金がかかりそうだ。私利のために、打算的な付き合いをするぐらいの冷たい行動を取ることをしそうな男である。小関宗一郎さん。
話が進む中で、互いに疑い合っていることが分かる。妻は政治家が殺したと思って、たまたま屋敷を訪れた男の入れ知恵で外部の犯行に見せかけようとしている。それは過去に主人は人身事故を起こしており、ある子供を轢き殺している。その父親が積年の恨みを晴らしにやって来たという設定だ。この策略はうまくはまり、最初は犯人はその父親ということで片付きそうになっている。赤の他人が何のためにこんなことをするのか。その後も、妙に高圧的な態度で屋敷の面々に接し、初めから優位な立場にいるかのような雰囲気を見せている。荘田智さん。
政治家は妻が殺したと思っており、それをかばおうとしているが、だんだんと自らの立場が危うくなるにつれて、面倒くさくなっていく感じである。最後の方は、もう関わりたくないような言動を起こしている。
主人の弟。実際は異母弟。少々、知的な障害があるのだろうか。本来は純粋で奔放ないい子であったのだろう。ただ、主人が施設に閉じ込めるような発言を繰り返しているうちに、狂気性が顔を覗かせるようになってしまったみたいだ。それは幼い子供が平気で虫を殺すような残虐性を持つような感じに似ている。丸野友載さんがそんな異常性を醸し出す。
妻はそんな彼を常にかばっていた。
そして、誰よりも彼の面倒を見ていたのが、主人の使用人の女性。人身事故の時に同乗しており、それ以来、看護士として主人に仕えている。家族のことをよく見ている人で、主人がどんどんと狂気的な性格になっていること、それを周囲の人が悩んでいること、弟が主人の心無い言動により異常性を高めていることなど、家族の崩壊も察知しており、それに怯えるとともに、何とかしないといけないと重いものを背負っているような雰囲気を滲ませる。遠藤綾乃さん。
長年、屋敷に使える使用人。姑息な感じの女性。今回の事件を利用して、これを私利に利用できないかと画策する。妻と不倫している政治家の犯行とにらみ、口止め料を請求したりする。また、主人に仕える使用人に対して、嫉妬・対抗心を燃やしており、屋敷を守っているのは自分であるという優先的な立場にいないと気が済まないような嫌な感じを漂わせる。増永恵さん。
主人の母親は、一流の屋敷に住む人らしく、威厳のある風格。押江仁美さん。
息子である主人の狂気、妻の不倫、弟の異常行動なども気づいているみたいであり、何らかの覚悟をしている。それは、この屋敷、家族を守るために、我が息子の犠牲やむ無しぐらいの冷徹さが感じられる。
と、こんな感じで誰でも犯人になり得るような感じで話は進む。
さすがは有名な作家さんだけあって、ミステリーとしてとても優れた設定だ。
深く入り込む話に魅入って、こいつかもしれないななんて思ったら、照明ミスなどでリセットされる。
なかなか掴ませないもどかしい演出。
挙句の果てには、政治家などはその役者さんがもう出番が無いからと言って、舞台を降りて帰ろうとする始末。
出番が無いなら、もうこの人は犯人ではないのか。いや、あえて、犯人を分からなくするために、舞台から消そうとしているのか。これも、観ている側からすれば、殺人事件みたいなものである。
こんな感じでは、もしかしたら、犯人は演出家ですなんて結論だって成立するような虚構の見せ方である。
外部犯行に見せかける策略で、犯人は昔の人身事故で主人が轢き殺した子供の父親となりそうだったが、その父親はもう亡くなっていた。
真犯人は別にいる。
それが明らかになる。
主人の使用人が、弟を煽って犯行を自白させようとする。
子供のような弟なので、主人を殺すようなことは出来ない意気地なしだなんて言えば、悔しがって自分が殺したと自供する。
思ったとおりになり、弟は犯行を自白。銃を持って逃げ出し、警部との銃撃戦により、銃殺。
これで一件落着。
とは、もちろんなりません。
この時点では、どう考えても弟が真犯人とは思えないでしょう。
無理矢理、犯人に仕立て上げられた感じがします。
そうなると、そう仕立て上げようとした主人の使用人が犯人なのか。
いや、誰かをかばっているのか。そうした方が家族にとっていいと判断したことは十分考えられます。
そんな中、たまたま屋敷に訪れた男が妻にある可能性を語ります。
子供の父親は本当に死んだのか。例えば、死んだことにして、別の人間としてまだ生きている。
そんな男が、復讐に訪れたとしたら・・・
自分はその父親かもしれないよと去っていく、男。
で、幕かと思ったら、これは何だと演出家が舞台に駆け上がり、男を追いかけて全てをひっくり返そうとします。
役者さんもみんな集まって来て、ごちゃごちゃの中、舞台から去っていきます。
舞台奥ではまだ、何か揉めているみたい。
そんな中、終わりだから帰るようにとアナウンス。
結局、犯人は誰だったのでしょう。
どうとでも考えられ、普通に観ていれば、きっともどかしい気持ちで劇場を後にしたかもしれません。
いまだ、頭の中で続く推理の余韻を残しながら。
ただ、こんな奇妙な演出だからでしょうか。
犯人、別に分かんなくていいや、これフィクションだし、みたいな感覚が芽生えています。
強いて言えば、これ、この作品自体、創り手さん方の犯行なのだろうなと。
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