ともだちの名前【シバイシマイ】130126
2013年01月26日 トリイホール
子供たちまでが犠牲になる戦争の実態をベースに、そんな不幸な子供たちへ愛おしい気持ちを投げかけているような優しい話。
同時に戦争への憎しみ、平和への想い。今こそ、人を想い合うという、自分たちが出来る小さなことから幸せな未来を繋げていき、新しい世界を開拓しようといったメッセージを強く感じる。
孤児のラグ、裕福な家庭生まれのユキチ。
幼き頃、ラグが作ったロミオとジュリエットの薬で遊んだ思い出。
仮死状態になる。でも、この笛を聞かせれば生き返る。
ラグが飲んで、ユキチが起こすことに。
起きてこない・・・死んじゃったの。半泣きでお母さんを呼びに行くユキチ。叱られたらかなわんと逃げ出すラグ。
仲良しだった二人。
そんな幼少時代から時が経ち、二人は開拓民として船に乗る。
自然回帰の考えの基に、この開拓地で自分たちの生をつないでいく。
ラグは医者になっている。
ユキチは明るく元気なロノという女性と結婚。女性は子を宿す。
しかし、やがて戦争に。ユキチは戦地に赴く。
戦争中に生まれた子供。
でも、ユキチが戦争から戻って来た時にはその子はもういなかった。
二人っきりの夫婦生活。
ユキチはロノを責める気なんてない。むしろ、傍にいてやれなかったことを悔いている。ロノもユキチはそんな優しい人だと知っている。
でも、どこかに隙間が生まれる。
ある日、家にこどもが。
おびえて、言葉を話せない。
今、戦争で子供たちがさらわれて、戦地に送り込まれている。逃げ出して来たのだろうか。
二人は我が子のように接し、共に暮らす。
こどもは最初はおびえたような感じだったが、やがて少しずつ心を溶かしているように映る。
わずかな光が差し込むような生活。
そんな二人の姿にラグも少し心を落ち着かせる。
ユキチは戦争で自分がしてきたことを悔やんでいる。
子供たちを救いたい。
そんな時、思い出す。
あの時のロミオとジュリエットの薬を。
子供たちを仮死状態にしておけば、政府の目もかいぐぐれる。戦争に連れて行かれようとしている子供たちを救えるのではないか。
子供たちを集め、友達の名前を書かせる。そして、目が覚めたらもう心配ないと言いながら薬を処方する。
計画は成功のように思えた。
しかし、ラグは心配し始める。
政府にバレたら・・・
もう辞めよう。でも、ユキチはかつての罪悪感からかその申し出を拒否する。
ユキチの家にやって来たこどもは何かを隠している。
ラグはそれに気づく。
こどもは政府組織に所属するスパイ。
子供たちを助けようとしているこの計画の実態を政府に報告することになるだろう。
恐らく、政府が動き出すのは時間の問題だ。
ラグは、ユキチに無理にでも、この計画をすぐに辞めさせないといけない。ユキチとロノ。孤児の自分にとっては、家族のように思っていた二人を守るにはそうするしかない。
ユキチにあの薬は初めから偽物で、子供たちは戦争に今まで通り連れていかれていると話す。これは本当なのか、嘘なのかよく分らない。
ユキチは騙されていたこと、自分がしてきたことが無駄だったことに対して、行き場のない怒りを覚え、ラグをこの地から出て行かせる。
ラグは、ユキチの家にやって来たこどもに、同じ孤児として、これから経験するであろう辛い時に、自分も大切な存在であることを忘れないように告げ、この地を後にする。
こどもは政府に情報を報告しないといけない。
もう、ここにはいられない。
家を出て行こうとするこどもに、ロノは話しかける。
全てを知っていたみたいだ。
いつかまたここに戻ってくればいい。汚いこと、悪いことをしたって、その空気を深く吸い込まなければ綺麗なままだというようなことを伝えて。
時は経ち、戦争は終わる。
ロノは短命家系みたいで、早くにユキチとお別れをすることになる。
でも、一時だけだったが共に暮らしたこどものおかげで、ユキチの優しい想いはロノに伝わっている。
二人の生活が幸せなものであったことを確かめ合うようにして、ロノは旅立っていく。。
そんなユキチの下に、一人の青年が戻ってくる。
たくましく、自信に溢れた立派な姿になって。
二人は失われた時を埋めるように、きっと語らい合うだろう。
その中には、一人の男が子供たちを自分の手で奪還して、海賊になって活躍しているとかいう噂もあったみたいだ。
話は、この物語の案内人としてある青年が語るような形で進められる。
この青年が、かつての戦争という過ちを冷静にとらえ、これから未来を築き上げて行こうとする立派で優しい姿に映ることが、結局、この作品のテーマそのものになっている感じだ。
彼は、ユキチの家にやって来たこども。
あの後、きっと戦争に関わったことだろう。
今の世界でも、新聞などでよく目にするアフガニスタンなんかは、こんなことが普通に起こっているのかもしれない。
人が人を殺し、殺される景色を当たり前のように見るのだろう。見るだけでなく、するのだろう。そんな凄惨な経験をした子供たちは、戦争が終わっても、心に闇を抱え、社会へと復帰できないことはよく耳にすることである。
この作品のこどもは、立派になって戻って来た。
自分を想う人がいる、決して一人でその苦しみを抱えることは無い。そんなことを、ユキチの家で過ごした一時に知ったからなのだと感じる。想われることを知ったから、自分も人を想うことが出来るようになった。
ロノの言葉が現実の厳しさに愕然とさせられながらもとても優しく聞こえる。
彼女はこどもがこれから経験するであろうことを理解している。それはきっと誤ったことをさせられる。愛するユキチが戦争で経験したつらく悔いしか残らない経験。そして、自分も経験した大切な人を失う悲しみ。でも、そこから逃げ出すわけでなく、それでも、そこで生きろと言っているようだ。そして、その中でも決して、あなたの持つ優しさ、誇りを失わないで欲しいと。同じ孤児という境遇のラグも結局は似たようなことを言っている。父親のような視線か母親視線かみたいな違いだろうか。
そんな周囲からの深い愛情が、きっと彼を戦争という環境においても、その心を完全に暗闇にまでさせなかったのだろう。
ユキチたちが暮らす開拓地。
次々に自然を破壊しながら進む産業発展に対して、自然回帰運動の高まりから生まれた地である。
人が人を憎まなくていい平和な世界。
そんな世界と対極にある戦争の経験を踏まえて、その回帰運動からこれから生まれるであろう新しい開拓地はきっと素晴らしい世界だろう。
そんな世界をきっと、戻って来た青年が周囲の人と共に創り上げていく。
そして、いつの日か、開拓地の港に、たくましく自給自足の自由な生活を創り上げた海賊の船がお宝でも抱えてやって来る。
そんな風景を想像すると、とても幸せな気持ちになり、平和への想いが浮き上がってくる。
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