« 人の香り【燈座】130117 | トップページ | 短編集:几帳面独白道化師 B stage【バンタムクラスステージ】130119 »

2013年1月19日 (土)

ツキシカナイ【満月動物園】130118

2013年01月18日 シアトリカル應典院

前作のツキノウタと似た印象を受ける。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/120212-5e18.html

生まれてきたこと、生きること、死んでいくこと。
その証は、色々な人に支えられながら、ずっとずっと続く。
生の喜び、感謝。尊い生死の概念が浮き上がってくる美しい作品だった。

(以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで)

いつものとおり、前説からいきなり本編に入り込む。
主人公である鉄(まがね)、近藤ヒデシさん(COMPLETE爆弾)のけっこうプロ芸人レベルの物真似をケラケラ笑って観ていたら、一瞬で幻想的な世界に急変。
事故のシーン。死んでしまうのか。満月が見えている。落ちていく。こんなこと、いつかあったのではないか。
なぜか生まれてからずっと取り憑いている死神が言う。人は生まれた時から、死ぬことは決まっている。でも、お前はまだ死なない。

鉄は助かったみたいだ。
公園で、彼女と再会している。
その間に鉄の父は亡くなっている。葬式に彼女は参列してくれたらしく、互いに将来を考えた深い仲であることがうかがえる。
ここで、彼女は大事なことを告白する。
二人の間に新しい命が授かった。
喜ぶ鉄。結婚しよう。
これだけの内容だが、シーン自体はとても長い。
それは、他の人には見えない、ご存知、死神。そして、厄病神、今回は愛神が登場して、コミカルな掛け合いをするからだ。ついでに、神様は必ず、歌と共に登場することになっている。
厄病神は、人に災厄を与えるが、それはその人が試練を乗り越えて幸せを手に入れるためのものであることになっている。厄病神は自分で母親を選んで、この世に生を受ける。原罪みたいな感じだろうか。生まれてすぐに母と別れる場合だってある。でも、その母が生を与えることの幸せを得るために、望んで生まれようとする。
愛神は、何やら熱く愛を語る。不幸せだからこそ、幸せがある。背中合わせの二つをだからこそ、人は幸せを求めて愛し合うみたいな哲学だろうか。

鉄は彼女を連れて、家族に結婚の報告をする。
家には、母親と姉がいる。
鉄がしっかりしないので、何となく空気はぎくしゃくしている。
神様たちも、好き勝手に色々と言うので、おかしな雰囲気だ。
でも、みんないい人。
だから、そのうちに打ち解けあっていく。
このシーンもけっこう長い。
彼女を連れてやって来る鉄を待つ母娘の掛け合い、3人の神様と母と姉、彼女との会話を全て捌かないといけない鉄の混乱ぶり、そして、何なのかよく分からないボイン談義でユーモアたっぷりの会話劇が繰り広げられている。

実際は、ここに至るまでにある女性を描いたシーンが何度か挿入される。
照明や映像などから、時間軸をズラしたものであることが想像できるシーンである。
そこでは、その女性が母と話をしている。
女性は妊娠している。愛する男性との子みたいだ。でも、どういう理由かは分からないが未婚の母になる決意をしている。
母も同じく、未婚の母であったので、あまり抵抗なく、そのことを認める。
父である男のことが嫌だったわけは決して無い。愛していた。だから、女性は二人から望まれて生まれた大切な子である。その証拠に、母は父である男からもらった懐中時計を大切にしており、それを女性に手渡している。
孫、もしかしたらひ孫まで連れて、みんなでお買い物なんていいねえなんて楽しい会話が行われる。
生まれてきたこと、生んだことに感謝の気持ちを持って、互いにありがとうと言える幸せな二人である。

どう考えても、この女性は鉄の母親だ。
でも、鉄が彼女を紹介した母親は別人だし、姉もいる。さらには亡くなってしまったが、父もいたことになっている。
???。どうつながるのと思っていたら、母と姉の会話からその理由が明らかになる。
始まって60分。110分の公演時間の中、半分以上は???でいさされたわけだ。かなり意地悪な作品だ。

母親と姉の会話から、鉄は実の子では無いことが語られる。
その経緯を描くシーンに切り替わる。
鉄の実の母である女性とその母は、どこか遠いところで二人で暮らして、子供を産むことにする。
鉄の育ての親とその女性は友達同士だった。
女性は別れを告げた後、この町で一番お気に入りだった観覧車に最後に自分の母と乗る。
素晴らしい景色が見え始めること、観覧車は異音を唱えて倒れ始める。

一方、姉と鉄の彼女は意気投合している。
姉は鉄のことをとても可愛がっており、そんな弟が素敵な女性を連れてきたことが嬉しいみたいだ。
食事の後、みんなで飲んでおり、酔い覚ましに二人で散歩に出かける。
場所は今はもう閉館になった博物館跡。
弟とよく一緒に遊んだところらしい。
そこに弟から昔、プレゼントされたおもちゃの結婚指輪を隠しており、それを手渡すつもり。弟の純粋な愛情を、優しく見守るように、弟が本当に愛したこの女性に受け継がせようとしたのだろうか。
ところが、そこでエレベーターに乗ったのが失敗だった。
二人は閉じ込められる。廃墟である博物館。エレベーターは今にも落下しそうである。

家には残された母親と鉄。
実の子では無いことが伝えられる。
そんなことは分かっていた。でも、大切に育ててくれたことを知っており、感謝しかないと答える鉄。
ちなみに、実の子では無いと分かった理由は、あまりにも切なくくだらないものとなっている。
そこに、鉄の携帯にメールが入る。顔色が一瞬こわばる鉄。無理に冷静を保とうとしてるみたいだ。
母親から、懐中時計を渡される。実の母親がその母から受け継いだものだ。
それを手にして、鉄は母親に気付かれないように博物館跡に急ぐ。

ここで舞台は時間軸を超えて交錯する。
左側では鉄の実の母とその母が乗っている崩れゆく観覧車。
右側では姉と彼女が乗っている今にも落下しそうなエレベーター。
鉄は走る。
自分に残る体内の記憶。
あの時は助けてあげられなかった。何も出来なかった。救えなかった自分の生を授けてくれた人。
今は救える。自分を愛してくれた人、自分が愛した人、そして、自分が生を授ける人。

観覧車から落下する鉄の実の母親。
死神が現れる。
生まれてくる子を救って欲しい。魂との契約成立。
生まれてくる子が幸せに生きれるようにずっと見守って欲しい。そして、この懐中時計を手渡して欲しい。
死神は落下してバラバラになった女性から子供を救い上げ、懐中時計と共に柔らかい地面に置く。

博物館に到着した鉄。
時間の猶予はない。
幸いにも仕事はエレベーターの技師。制御盤を操作する。電気が通らない。何か電気を通す針金のような物。手にしていた懐中時計を壊し、その部品でエレベーターを復旧させる。
エレベーターから脱出する姉と彼女。
直後に落下して轟音がとどろく。

最後はその後が描かれる。
鉄と彼女の結婚、娘誕生、猫っ可愛がりの姉と母親、幸せなみんなでの生活、姉のちょっと不安な相手との結婚、母親との別れ、娘の結婚、老後、そして鉄の人生の最期。
そこで、ようやく出会えた実の母親。

自分がどうして生まれてきたのかなんてことに思いを馳せる。
生まれてきて、生きてきて、もちろん今もこうして生きていて、いつかは死を迎えるのだろう。
そんな時の刻みには、多くの人達の想いが詰まっており、生かされていることへの感謝の念が自然に湧いてくる。
作品中に何度も出てくるありがとうという言葉が、言いたいし、言われたい気持ちになってくる。
死は悲しみだけではない。生があるからこそ、死がある。
人と関わり、その絆を感じながら生きた証を大切にしていきたくなる話である。
厄病神が災厄だけを与える神ではなく、そこからそれを乗り越えた幸せを手に入れさせる神であるように、死神も死を司るだけの神ではなく、そこから生への大切な想いを知らせる神なのかもしれない。
愛神だけは、愛しか与えないか。愛はそれぐらい絶対的なものなのかもしれない。

鉄の家族がとても優しくてよかった。
母親、みずさん、姉、一瀬尚代さん(baghdad cafe')。ユーモアに溢れた可愛らしい姿から、鉄を見守り続ける絶対的な母性を感じさせる姿。鉄は幸せである。だから、同時に、二人もきっと幸せなはずである。
時を超えて、多くの愛情から生が誕生し、時を刻みながら、その生は尊く素晴らしいものだと強く感じさせられる。

|

« 人の香り【燈座】130117 | トップページ | 短編集:几帳面独白道化師 B stage【バンタムクラスステージ】130119 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ツキシカナイ【満月動物園】130118:

« 人の香り【燈座】130117 | トップページ | 短編集:几帳面独白道化師 B stage【バンタムクラスステージ】130119 »