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2013年1月14日 (月)

アルバート、はなして【彗星マジック】130113

2013年01月13日 シアトリカル應典院

秀逸という言葉でいいだろうか。
アインシュタインの人生を丁寧に描く中から、戦争の歴史や時間が持つ世界を浮き上がらせたボリュームある脚本に、難解な部分も笑いや緩急つけた展開で分かりやすく表現されてる演出。そして、何より、個性的、かつ実力を伴った役者さん方の熱量たっぷりの圧巻の演技で創り出される舞台。
これはいったいどうなってんだ、何で有名とはいえ一人の男の伝記からこんな美しい世界が生まれるんだと、逆に頭にくるぐらいに、素晴らしい作品だった。

チラシを見たら気づきそうなものだが、アインシュタインの話ということも知らずに平然と何の事前知識も無しに足を運ぶ。
その割には、観ていて、けっこうアインシュタインのことを知っている。
どこで、そんな知識を得たのかと思ったら、これだ。
大阪大学六風館のそれでも地球は回っている。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/110910-ab38.html
こちらは、科学者の信念のようなものを強めにテーマとしていますが、アインシュタインとユダヤ迫害、戦争への科学利用などの歴史を描いて、彼が天才的な科学者であったと同時に、平和を強く愛する人だったことを伝えています。
色々と観ておくものである。
少しでも知っておくと、何か安心してじっくり観れるので、きっと今回の観劇の大きな感動に役立ったはずである。

アルバート・アインシュタイン。
ユダヤ系の家庭に生まれる。
温和で心優しい父は、電気工場を経営する。あまりにもぴったりはまった役どころ、林裕介さん(劇団自由派DNA)。口調や雰囲気がとても優しく、観ているだけで癒されるような魅力を発揮される。話が進む中で、彼の生が終わりを告げ、アルバート含め、家族と最後の語り合いをするシーンがあるが、もう泣けて泣けて。惹きつけ方が半端じゃない。まだ、物語の前半で泣き所を持ってこられたら、後の観劇に支障が出るので困る。
母は、音楽に造詣が深く、情熱的な女性。この作品中では、ちょっとおかしなテンションの女性となって、中嶋久美子さんが演じる。芸術家肌で、そのどこか奥に秘めた魅力をずっとアルバートが女性像として追い求めていたような点でははまっているかもしれない。後にアルバートが愛する女性の役も兼ねているところから、そんなことがうかがえる。作品中では緩ませ方が絶妙で、観やすさ作りとして見事な仕事だと思う。
妹が一人。調べた史実では、兄に殴られたりするおとなしい子だったらしいが、作品中では真逆のヤンキー風キャラとなって、米山真理さんが演じる。と言っても、天才肌で何を考えているのかよく分からない兄の面倒を見て、両親以上に家族を率いるというしっかり者、聡明さを醸し出すキャラとなっている。前回公演、LINX'S公演あたりから、美しさと可愛らしさを兼ね備えた卓越した魅力を発揮されており、公演のたびにちょっと惚れてしまう。

アルバートは幼少期、言葉をほとんど話さず、どういった頭の構造なのかよく分からないが、天才的な数学の才能を持ちながら、理論的に物事を説明することは苦手だったみたいだ。
作品名は、そんなアルバートに対する「話して」でもあるが、プロが付けるタイトルがそんな単純なわけが無い。話の展開と共に、そこに含まれる「はなして」が浮き上がるところがこの作品の面白さでもある。

彼が5歳の頃、父からもらった羅針盤から、自然への興味を抱くようになったみたいだ。
世界は不思議に満ち溢れている。
自然の真理を導き出したい。
人種、宗教、性・・・、そんなものは何も関係ない。
神が創り出した自然の法則を単純な数式できっと表せる。
そして、そのことは世界を、いや宇宙を一つにして、全ての苦悩・隔たりを打ち消し、絶対的な平和な世界を導き出せると。
アルバートは幼少期を木下朋子さん、大学を卒業したあたりから小永井コーキさんが演じる。
木下さんは、上記した想いを信じ、未来を夢描く輝く姿としてのアルバートを表現している。純粋に直感を信じ、神が創り出した自然の中の目に見えない力を数式として表す。強過ぎる無邪気な信念を持つ幼少期。その心は、以後もずっとアルバートの胸の中にあったのだろう。純粋さは地でいける演技だろうが、そんな子供のような純粋さを後世もずっと持っていたことを深く刻み込んでいる。
小永井さんは、実際にアルバートの半生を描く。周囲が見えないくらいに没頭する研究。研究者としてあまりにも生真面目で実直な姿。そのかたわら、ちょっといい加減な感じの女性との付き合い。ユダヤ迫害、戦争、自分の病気など、数々のトラブルに見舞われながらもとにかく真摯に研究に打ち込む、考え続ける。そんな彼の等身大の人間としての姿がとても丁寧に表現されている。

作品中にはアルバートの傍に常に一人の女性がいる。
神らしい。
幼少期、雷の衝撃なのか、熱が引き起こした夢幻だったのか、彼は一度、過去の世界に身を置いている。
そこで、過去を司るという女神と出会う。西出奈々さん。こういった神秘的な世界観を創り出すのはお得意とするところか、現実の生活感あるシーンから、幻想的なシーンへと切り替えられる。
人は過去へと向かえるのか。またもう一度、その過去を司る女神と会うことが出来るのか。彼が最終的に導き出す時間の概念を想像させるものとなっている。
現実に戻った彼の傍に現れる女神。さしずめ、現在を司る女神といったところだろう。
ちょっとやさぐれた感じで生意気だけど可愛らしい不思議なキャラを東千紗都さん(匿名劇壇)が演じる。この役どころはとてもいいですね。

大学を卒業し、スイスの特許庁に勤め、研究を重ね、ノーベル賞を受賞する。
その間に結婚をするが、うまくいかず別居状態に。
肝臓を患い、看病をしてくれる女性を愛し始める。
世間では第一次世界大戦が。
作品では、ここでフリッツというドイツ科学者にスポットを当てる。
教科書で出てきたなあ。ハーバー法。窒素固定を発明した人。
ユダヤ人であったが、ドイツ国籍に変えて、ユダヤ迫害から逃れるようにドイツのために尽くす。その発明した窒素固定技術は、火薬、毒ガスという戦争の武器へと利用される。
そのことに苦しむ妻を自殺で失う。
アルバートととも親交があり、共に純粋に科学に対して語り合う仲だった。
その後、フリッツはノーベル賞を受賞して活躍するが、第二次世界大戦で悲劇を迎える。
ナチス政権により、元ユダヤということで迫害を受ける。あれだけ貢献し続けたドイツから。
ドイツを追われるフリッツ。
ここで、ちょっと時間軸をゆがめた展開となっている。うまく書けないので、詳細はDVDでも観て確認しましょう。
自分を裏切ったドイツ。ユダヤを裏切った自分。戻れない過去。
そんな苦しみが、解消することのない憎しみを生み出している。
この時代の人種的な差別。
そんなことを打ち消してしまえるような絶対的な自然の法則を突き詰めたかった科学者の祈りを感じさせる悲しいエピソードである。
フリッツは上田耽美さん。自分を守るために、多くの物を失う。理解してくれない周囲の誹謗。科学にすがるように生きてきたのだろうか。その顛末は、どこにも行くことが出来なくなった自分。ぶつけようのない怒り、憎しみを穏やかながらじわじわと溢れさせてくるような狂気的な演技を魅せる。

世間では第二次世界大戦が始まる。
フリッツの悲劇はアインシュタインにも襲いかかる。
彼の創り出した一つの数式が核爆弾を生み出す。
ここでは、ヒトラーにスポットを当てている。
ユダヤの父を持つヒトラー。その勤めていた工場の上司はドイツに通じていた。
ユダヤはドイツを裏切るだけでなく、ユダヤ自身も裏切る。
幼少期の出来事が、彼を狂気へと導いたことを描いている。
ヒトラーは立花裕介さん。
ヒトラー演説シーンや、それまでにも何役を兼ねたシーンなど、一人芝居要素が多かった。このパワフル、かつ巧妙さね。緩急の付け方もうまくて、すかした笑いを組み込んだり、圧倒的な熱量でグイグイくる演技で迫ってきたり。ヒトラーの鋭い視線での演説なんかもかっこよかったんだけど、弱いところを見せて苦悩するヒトラーの姿なんかの方が凄く心に響いてくる。最後、自殺するところなんか、それまでの心情の積み重ねで惹きつけられてるから、あ~、そうせざるを得なくなってしまったかと目を覆いたくなるくらいに悲しくなった。

最後は晩年のアルバートが描かれる。
病室で寝ているアルバートに様々な人たちが訪れる。
記者なんかも訪れ、あの有名な写真を撮影したりする。
そして、死を迎える中、一つのことが頭に浮かんでくる。

アルバートが捉われ続けた3という数字。3次元。そこに加わる1。時間。4という数字。
過去・現在・未来という概念。・・・
それは人間自らが作り出した概念で、神が創ったものでは無い。
現在は過去。だとすると、現在は未来でもあるのか。時間は存在しない。
全ては相対的で、人間の思い込み。
その時に存在した断片。その並びで時間が流れているように感じられるが。
死んで肉体を失い、魂となり質量が0に近づけば、その時、初めて時間は流れる。
走馬灯みたいな感じかな。
その時に初めて、自分が生きてきた時間の流れを認識する。
この世界は、自分の魂が、肉体という質量を得て、人生という旅をするために置かれた場所だといった感じだろうか。
なんか宗教的な書き方となったが、作品から感じられることはそんな自然の原理、宇宙の法則、世界の創造みたいな形として見えない大きな物であるように感じる。

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コメント

ご来場ありがとうございました!
ほんとに素晴らしい作品でしたねぇ。
いい現場に関われました。
勝山くんの代表作になると思います。

投稿: 秋津ねを | 2013年1月16日 (水) 08時57分

>秋津ねをさん

コメントありがとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

勝山さんの素敵な世界が出ていて、とても素晴らしかったです。
定点風景といい、この作品といい、彗星マジックは勢いにのってますねえ。
嬉しい限りヽ(´▽`)/

投稿: SAISEI | 2013年1月16日 (水) 10時17分

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