炎の杜【劇団有馬九丁目】130112
2013年01月12日 芸術創造館
非常にいい。
パワフルで縦横無尽に舞台を休む間なく駆け回る統制とれた姿は学生演劇の最高峰に到達していることは、きっとご本人方も自負していることだろう。
前回公演が非常に難解であったことと、今回の作品名のイメージから事前に少しは知識を入れておかないと置いてけぼりにされるだろうと危惧し、鎮守の森、神社合祀、自然崇拝などなど、関連しそうなキーワードを一応調べて観劇に臨んだのだが・・・
不必要だった。
頭悪くても楽しめるから、すっからかんで観に来ても大丈夫ですよという情報は告知しておいて欲しかった。
(大丈夫なような気もしますが、一応ネタバレ注意ということで、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで)
20年間の選手生命がたった一回の足の怪我で終了。
リハビリをしても、もはやピッチには立てない。
幼き頃から有望視され、ある男の下で世界中の大会に出場していたミツルは、久しぶりに故郷に戻る。
パチプロで女装癖もあるようなどうしようもない父、何を考えているのかよく分からない天真爛漫な母の熱烈な歓迎を受けるものの、厭世、孤独感が押し寄せてくる。
荒れた気持ちで彷徨う故郷の天夢町。そこはすっかり変わっていた。
こんなところに神社があったっけ。静寂な鬱蒼とした杜の中に、荘厳な雰囲気を醸す神社がある。
何やらいかがわしい長とそれを補佐するいかれた巫女の下、都会の文化を遮断し、自給自足・物々交換を基本とする生活を町の人は営んでいる。
働かざる者食うべからず。自分も何か仕事をしなくてはいけない。
町にはちょっと調子の良さそうな情報を司る新聞屋、欲情する年増の女性の呉服屋、威勢のいい男色家主人の食堂、町を実質仕切っているような男が営む油屋。
ミツルは油屋に身を寄せることになる。
選手としてしか生きてこなかったので、色々なトラブルにはみまわれるが、都会の経験を活かし、色々なアイディアを出して、町の仕事に貢献し始める。
そんな中、両親を養うために、必死に働くどんくさい少女と出会う。
どこか感じるところがあったのか、そんな少女を気にかけ始めるミツル。
町を訪ねてくる者が現れる。
元カノでかつてのライバルでもあった女性アスリート、そして、ミツルの面倒を見ていたが、怪我をしたとたんに手のひらを返した男。
大型のスーパーを町に誘致して、資本主義の風を吹かせるつもりだ。
ミツルを中心に町人たちはこの町でしか出来ないような商売の仕方を考えて対抗する。
そんな中、町では炎の祭りというものが開催される。
と言っても、バーゲンセール対決みたいなものだ。
ただ、その中で神を探し出すことで、町の長になることができ、多くの特権を得られるという。
町人たちは神を探し出し、その権利を得ようとする。
少女も同じく。
ただ、少女の目的は違った。10年前の祭りで神隠しにあってしまった両親の恨みを晴らすべく、その神に復讐するつもりのようだ。
足の怪我により、全てを失ってしまったミツル。たった一人の男でもよかった。誰かに褒められるためだけに生きてきたが、もう選手となれない自分にその資格は無い。かつての英雄が創り出した数々の神話は終わりを告げた。
少女は自分を褒めてくれる両親を神によって失った。みんなから迫害される中で、必死に生きてきた。その神に復讐をして、この町の神話に終わりを告げる。
自分の人生を見失ってしまった二人の下に、真っ赤な鬼のような神が現れ、・・・
何もかも失ってしまった。
これで人生終了。
でも、本当にそうだろうか。
見渡せば、周りに人がいる。
気付かなかったけど、絶対的な愛情を降り注いでくれ続けた両親がいる。
捨てられてしまったけど、自分の人生の道筋を作ってくれた人がいる。
共に戦い、その力を認め合い、愛し合った人がいる。
楽しかった思い出の残る自分の故郷がある。そこで共に過ごした人がいる。
色々な人と出会い、自分は何度も救われてきたのではないか。
そして、今、救ってあげたい、一緒に何かを乗り越えたいと想える人がいる。
これまでの一つの物語が終わっただけ。
人生はまだ長い。医者もそう言ってた。
まだまだ生き続け、人を想い、想われながら、新しい物語を創り上げていく。
そんな気持ちが芽生えた時に、故郷の杜の神社から本当の神が現れる。
と、こんな感じだろうか。
作品名の由縁はどんな意味なのかな。
話自体は、人生に立ち止まった男の再出発というありがちな内容ではあり、ただ、神という存在を意識させる設定で、この作品はとても不思議な世界観が広がっている。
感覚的には、入り込むと鬱蒼としていて彷徨ってしまいそうな人生の様な杜。その中にある神の宿る神社。
そこには、神を崇拝する理念の基で、人と人を結ぶコミュニケーションが営まれている。
そこで迷い人は、自らが孤独では無く、そんなコミュニティーの一人として大切な存在であることに気付くといったところだろうか。
神探しは、結局はその過程の中で、自分のルーツを探っているような感じで、生を受けた自分、そして、周囲の人達との触れ合いの中で、人生の一時の旅に出ているということを認識させているように感じる。
大半のシーンは町人などの役も兼ねて役者さんが舞台上にウヨウヨとおり、また各役者さんが個性的な持ち味をここぞとばかりに発揮するので、どこに目をやっていいのやらといった感じだ。
こうなると、申し訳ないが、基本、女優さんにしか目がいかない。
一応、一言コメントしておくが、認識できていない方、もしかしたら間違って認識している方もいるかもしれない。
ミツル、井塚かるろさん(劇団カオス)。初見だろうか。苦悩して、影のある雰囲気がとても出ていて、主人公ということもあるが、大変惹きつけられる。冷静なツッコミがちょっと面白かったりする。
神に両親を殺されて、必死にどんくさく働く少女、石川信子さん。正直、全員、個性強過ぎて、見ていて疲れる。この方ぐらいじゃないか。普通に見ていられたのは。それぐらいに素朴で純粋そうな少女像を映し出す。ただ、鬱積する負の感情は後半に神への怒り、ミツルへのすがりとして表れ、心動かされる。
油屋、ザキ有馬さん(ar9stage/ステージタイガー)。観るたびに講談師みたいなイメージになっていく。それも、何か絶対に隠し持っているようないかがわしさを持って。この作品でも、この町に大きく影響する重要な秘密を持つキャラだった。登場する役者さん全員が、自信満々で演技に寸分のブレが無い。きっと、この方の熱意ある演出が大きく影響しているのだろう。作品の力強さがいつも感じられ、観ていて安心感が得られる。この方の作品なら大丈夫という信頼かな。
新聞屋、ゴミさん(劇団万絵巻)。私のお気に入り、注目の役者さんなので、けっこう目をやっていたが、いつもながらのテンポのいい口調と動きが、ほんのりいい加減さやいかがわしさを醸しており、さすがの出来だった。
呉服屋、藤本麻瑚さん(劇団ちゃうかちゃわん)。いつも以上にキレてたな。力強くキレてた。綺麗な人が舞台でむちゃくちゃになってたら、目はどうしてもいくよね。
食堂の主人、イルギさん(劇団カオス)。男色家キャラなので、かなりおちゃらけているのだが、その威勢の良さがそのまま町人の元気良さに一番つながっているような感じだった。
町の長、久保健さん。いかがわしい。自分の意志とは離れたところで、操られているような印象を受けてずっと観ていたのだが、まんざら間違いじゃなかった。やっぱり、キャラ設定というのは丁寧にされるんですねえ。
巫女、仲田くみちょーさん(劇団万絵巻)。私の中で巫女神話があって、過去、どんな作品でも巫女役をされるとその役者さんに必ず惚れるというものがあるのだが、それを見事に覆してくれました。巫女の幻想を木端微塵にしてくれる強烈なキャラでした。
ミツルをスカウトした男、DEWさん。ねちっこい嫌な役どころ。利益至上主義で、まあ悪役といったところでしょう。目力がとても強い方で、悪いんだけど、それにも大きな信念を感じさせる絶対的な強さが感じられます。
ミツルの父、宇治橋幸希さん。本当にどうしようもないキャラだったな。頼りないわ、情けないわ、変態だわ、デリカシー無いわで。面白さやキャラの際立ち度ではNo.1かな。
ミツルの母、土江優理さん(ar9stage)。この方の優しい雰囲気の笑顔がとても好きで、けっこう集中して観てたんだけど、やっぱりいいな。特に母性を感じさせる最後の方の笑顔はとても素敵。反面、前半は何か天然っぽいんだけど、あざとい感じの笑顔が何となく恐怖を感じさせる。
ミツルの元カノ、一川幸恵さん。どっかで拝見しているはずと、ずっと調べていたんだけどやっと分かった。DACT Partyだ。何か貫録がある美人さんだなあと認識してたので。今回はセリフも多かったが、声も凄く迫力ある。叫びに近いシーンではビクっとなってすくんじゃった。
神様、坂本えりこさん(劇団万絵巻)。神様、神様・・・。最後の方になってたキャラか。それまでの町人の柄悪いキレのある動きの方に見惚れていた。女神では決して無いんですよね。神様。それも厳しい。優しくなんて全然ない。人生、頑張らないといけないというこの作品に合った神様像です。
偽神様、黒川佳樹さん。だよね。赤鬼のことですよね。役名で判断しているので、失礼ながらはっきりと認識できていない。人間以上に卑しい感情をむき出しにして、町人たちを惑わしています。
医者、窪田裕仁郎さん。医者と油屋の油の基、泉の精霊かな。町人でも登場されてたのかな。飄々あっさりとしたというか、悪く言えばデリカシーの無い人への真摯な想いが感じられないキャラになっています。
後は、アンサンブルキャストが4人。
黒づくめの男の手下、村木智徳さん(劇団カオス)、デストラクション宝来さん。・・・かな。好き放題にされて痛々しい役どころ。
町人でほとんど登場されてたと思うのだが、赤江翔馬さん、キム・チゲ子さん。お二人ともちょっと目立ち過ぎじゃないか。赤江さんは色々な意味で汚いよね。
2013おうさか学生演劇祭、トップバッター。
学生という若さを活かしたパワフルさをしっかり出した上で、前へ進もうとする力強さや大切な人との触れ合いを感じさせる。
コメディー要素や、役者さん一丸となったエンターテイメント要素も豊富に盛り込んだ良作。
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