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2013年1月 8日 (火)

記憶のない料理店【飴玉エレナ】130108

2012年01月08日 アトリエ劇研

山西竜矢さんの一人芝居。
技術的なことは分からないのだが、かなり匠の技なのではないだろうか。
演じ分けのうまさ。表情、口調はもちろん、視線一つにしても、丁寧な演じられ方をしているような気がする。
そして、何よりも一つ一つの造作がとても美しい。
マイムの公演を観ている時に思う動作一つ一つを大事にしているなあと思う感覚と同じであった。

失った記憶の中から甦ってくる事実。
そこには悲しいことが隠されていたが、同時に温かく優しいものも思い出されていく。
若い男女4人のいつまでも記憶に留めておきたくなるような素敵な話だった。

(以下、ネタバレ注意。公演が明日、そして12日と変則日程なので、白字にすると忘れてしまうのでしません。ご注意願います)

男三人が何やら言い合っているみたい。
そんなところに、突然、光が。
気付くとそこはレストラン。立派な厨房。コンロにはスープの入った鍋がある。
周囲は森で何も無い。少し先に湖がある静かなところだ。

三人とも記憶を失っている。携帯の電源が切れていることから、時間はそれなりに経過しているみたいだ。
何をしていたのかはもちろん、名前までも思い出せない。
ただ、なぜか好きな食べ物だけは覚えている。
免許証から名前だけは分かった。
真面目そうな感じで三人のまとめ役のようなアラタ。ペペロンチーノが好き。
斜に構えた感じで少しナルシストっぽいウダカ。マルゲリータが好き。
ちょっとお調子者みたいなキヨシ。ドリアが好き。
でも、分かったことはそれぐらいだ。

男たちはみんな同じ鍵を持っていた。
フォークのアクセサリーが付いている、一風変わった物だ。
このレストランの鍵のようだ。
ここで働いていたのだろうか。コックだったのか。

地下のワインセラーを探ると、手帳がある。そして、もう一つ同じ鍵が。
もう一人どこかにいるのではないか。
探しても見つからない。
何も思い出せない。
お腹がすいたので、それぞれが調理を始めるが、あんまりおいしいものは出来ない。
コンロのスープを口にする。

思い出した。いや、思い出してしまった。
そう、自分たちはここで働いていた。もう一人の女性と一緒に4人で。
女性はアラタの恋人。
いつも新しいレシピを考えてくれ、みんなで仲良くこのレストランを営んでいたのだ。
そこに不幸が訪れた。
彼女が味覚障害になった。
そのことが原因でケンカになってしまった。
翌日、彼女は湖で帰らぬ人なって発見される。

お前のせいだ。激しくアラタを責めるウダカ。
いさかいを止めようと必死のキヨシ。
もう、これ以上は無理だ。
レストランはもうお終いにするしかないだろう。
これが冒頭のシーン。

忘れてしまっていたこと、忘れたかったこと。
それを思い出した三人からは悔恨の表情しかうかがえない。
でも、あの光はいったい何だったのだろう。
あれは彼女だったのではないのか。
何かを自分たちに伝えようとしているのではないのか。
手帳を見ると、最後のページには新しいリゾットのレシピが。
彼女はきっとまだあきらめてなんかいなかった。
だから、湖での出来事はきっと事故だったのだろう。
あのまま、時の経過とともに忘れてしまっていたら、分からなかったことが、今、思い出すことで甦る。

最後は三人がまたレストランを開店する。
客が入ってきて、お奨めを聞いてくる。
ドリア、マルゲリータ、ペペロンチーノ。
いや、違う。
リゾットとスープ。これが、この店の看板メニューです。

演じ分けは基本的に三人の男。
雰囲気と口調だけでキャラを引き立たせる。
記憶が戻ってくるまでの三人の会話は、どこかクスリと笑えるようなコメディータッチなものになっている。時折、レストランをやっていた頃のこと、この事件のきっかけになる味覚障害の話が挿し込まれる。
女性の死は青い照明、三人が出会う光は温かい暖色を用いているみたいで、自然と話の中の心情が舞台から感じられるようだ。

味覚を失う。彼女を失う。
失うことと忘れることは、また違うのかな。
味は彼女のレシピの中に記憶として残っている。失ったけど、忘れたわけではないような感じだ。
そして、彼女自身も、彼ら三人の心の中に残り続けるはずである。このレストランの中で記憶として存在し続けるだろう。
失ったけど、忘れてはいけないことだったのだろう。

彼女は、自分のことを忘れて欲しくない気持ちより、このレストランで共に頑張りあった事を忘れてしまうことが嫌だったのだろうか。
このまま、レストランを辞めれば、そんなみんなで過ごした時も、忘れてしまうことになっただろう。
そして、思い出す。このきっかけは、コックらしく、やはりスープの味というほんの小さなものであった。
レストランを続けている限り、そんな味と出会うたびに、記憶は甦り、あの頃の頑張りが頭に呼び起こされることだろう。
彼女の最後の優しさ。彼らへの愛情と共に、自らが極めた料理への熱意の大きさが感じられる。

実力派役者さんのなかなか見事な本格的な一人芝居作品だった。

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