太陽 THE SUN【神戸大学演劇研究会はちの巣座】121227
2012年12月27日 尼崎ピッコロシアター中ホール
相当、力あるなあ。
見応えのある役者さんの心情表現にかなり圧倒される作品だった。
人として生きることの意味合いを追及するような話。
強ければいいわけではないし、弱いことがダメなわけでもない。
有限の時を経て、成長していく人間の人生の魅力を語っているように感じる。
(以下、ネタバレ注意。有名作品みたいで、検索すればあらすじは出てくるので白字にはしません)
バイオテロにより、多くの人間がウィルスに感染。人口は激減する。
その中で、そのウィルス感染に適応する新しい人間が生まれる。
彼らは老化せずに若い肉体を維持できるが、太陽光を浴びることが死につながってしまう。
そのため、ノクスという夜に生きる人という意味の名称で呼ばれる。
ノクスになる方法も開発され、いまや多くの者たちがノクスとなって生活する社会が出来上がっている。
これに対して、いまだノクスになっていない人たちは、割り当てられた四国で独自の社会を創り上げると同時に、これまで生活していた場所を離れず小さな集落で生活する者もいる。
彼らは、骨董品という蔑称であるキュリオと呼ばれている。
物語は、そんな小さな集落に住むキュリオの男がノクスを太陽光にさらして殺すという事件から始まる。
男の姉とその友人の男は、死体を隠そうとするがノクスに見つかり、弟の身柄を渡すことを要求される。
しかし、弟は逃亡。
その集落は経済封鎖に追い込まれ、10年の月日で完全にさびれてしまった。
10年後、ノクスにより、その封鎖は解かれる。
あらゆる援助が再開されるとともに、若い人たちに対して、抽選で毎年ノクスになる権利も得られるみたいだ。
姉の息子は、こんな小さな集落で閉じこもって生きていることに疑問を持っている。自分もノクスになって、堂々と生きたいと。
男の娘は、ノクスに対して拒絶感を持つ。それよりもキュリオたちが社会を創り上げている四国に行くことを願う。
姉は弟が逃亡したために、この集落が落ちぶれてしまってみんなに迷惑をかけたので、最後までここを出て行く気はない。
男はそんな女の気持ちを知って、一緒にここで暮らしている。虐げられた生き方に対しては否定的で、集落の若い人たちには生きやすいノクスになるチャンスがあるなら、それを物にしてもらいたいと思っている。
そんな集落に、封鎖が解かれたために、ノクスたちが出入りするようになる。
子供を生んで子孫を残すことに実は難があるノクスであるが、幸運にも生を授かり、生まれついてのノクスである門番。ノクスは通常、キュリオに対して蔑視や優越感のようなエリート意識を持ってしまうみたいだが、この門番はキュリオの優れたところも見ており、ノクスとキュリオの共存社会を願っている。そんなキュリオを認める気持ちが、姉の息子には伝わり、友達のような関係になって交友を深める。
ノクスとなった男の娘の実の母親は、同じノクスの夫との間に子供が授からず、その娘を養子にすることを考えて集落にやって来る。遺伝的にはもちろん実の母親であるが、ノクスは血のつながりのような物を失うのか、我が子としてよりも、ただの子孫繁栄の物のような目で娘を見る。ノクスの夫は、ノクス自治区の役人で、キュリオに対して、奥深い差別意識を自分が秘めていることを理解している。
男の幼馴染であり、今はノクスとなって、キュリオ専門の医師である男。久しぶりに訪れた故郷で年老いた男を見つけてショックを受ける。そこには、自分たちノクスの優越感よりも、自分たちが何かを失って欠けた存在であることを気付かせる。
ノクスとキュリオの間で生まれる対立や差別意識が、各々の中で浮かび上がってくる中で、あの弟が10年ぶりに集落に戻ってくる。
そして、門番を殺そうとし、10年前の悪夢をもう一度起こそうとする。
耐え切れない怒りをあらわにする男と姉の息子。姉が止めようとする中、弟に殴る蹴るの暴行を。その場から逃げ出す男の娘。
門番は助かったみたいだ。
ノクスになりたかった姉の息子は、残念ながら抽選に外れたみたい。
キュリオにはキュリオの良さがあり、それを大切にするべきだと主張する門番に、お前はノクスで恵まれているからそう言うだけだと反論する息子。
互いに、いい所しか見ないで議論しているのかもしれない。
共存の難しさを浮き上がらせる。
男の娘は、母親との血縁が認められたのか、役人のコネか、ノクスになる権利を得る。そして、ノクスになる決心をする。あれだけ、ノクスに対して拒絶していたのに。
考え直せと言う医師の言葉も届かない。
ウィルスの抗体を注射し、実の母親から血液感染する。これでノクスに。
数日後、姉の息子は、本来は男の娘に届いていたノクスになる権利の抽選の当たりを手渡される。これで、いつでもノクスになれる。
男の娘が、ノクスの両親に連れられて、集落に挨拶にやって来る。
そこには、もうかつての娘の姿は無い。優越感に浸った口調で、これまでのキュリオとしての人生の否定、キュリオにも暮らしやすい社会を作るのに貢献するようなことを一方的にまくしたてる。
そんな娘の姿にただ泣き崩れる男。
ただ、ノクスは間違っていることを言及し、謝罪するだけの医師。
みんなが立ち去った後、残った姉の息子は抽選の当たりを破り捨てる。
そして、門番の下へと歩みを進める。
あらすじは書きにくいのだが、こんな感じ。
ノクスになるということの理由が、今のキュリオでいることへの絶望から生まれていることが、何かモヤモヤした不安を煽られるところだろうか。
絶望からの逃げは希望にはつながらない。そこが、この作品から漂う、終始、不安な気持ちの正体かもしれない。、
バイオテロにより、少数派となり、復興の大変さから、そんな苦労を考える必要も無いノクスへとなったのだろう。娘の母親、役人、医師などは。その安易さに気付いた医師の言葉もどこにも届かないことがもどかしい。
そして、時を経ても、結局同じことを繰り返そうとし、自らが復興への道を閉ざそうとする悲しいキュリオの姿に絶望して男の娘はノクスへと逃げたのではないのか。
姉の息子は、自分たちキュリオの悪いところを見て、ノクスの良いところを見る。要は第三者視点で客観的に物事を捉えれなかったということだろうか。
最後、ノクスになる権利を放棄したのは、ノクスの悪いところが見えたということかな。
後は、門番との交友の中で、キュリオの良いところを見出していけばいい。一番、客観的に同じ人間を見ているのは多分、彼だと思うので。
生きやすいことが必ずしも幸せにはつながらないことを感じる。
長い時を経て、その苦難の中で、ようやくたどり着く。
生きやすいことに慣れていれば、生きにくくなればすぐに終わりを迎える。ノクスに未来を感じないのは、そんな生きる力の乏しさのように感じる。
役者さん方は、皆さん絶品。
この圧倒される凄さは何なのか。
門番の三上昴太さんと、姉の息子の只野だちょうさんのシーンがとても素晴らしい。
コミカルな要素も盛り込みながら、深く分かり合っていく様がとてもよく伝わってくる。このどこか未来への希望を感じる安心させられるシーンがなければ、この作品は相当、絶望的な話で観るに耐えれないものになるだろう。漂う不安の中に感じられる、本当のつながりのような温かいものが心に響く。
弟の圧迫される狂人っぷり。異常な存在感と怖さを醸し出す。もはや常人では理解し難い殺人者の姿が映し出される。喜多村昴さん。
弟の姉、阿鼻叫喚さん。芸名からは想像もつかない、弟の罪を真摯に背負った悲しい姿。ただ、その優しい姿と同時に、ノクスの存在に対する秘めた憎しみも感じさせる。争いの無い世界であって欲しいという願いのかたわら、ノクスなんてものが生まれなければといった根深い憎しみも伝わる。ノクスには無くなっている血縁を守る本能みたいなものか。
その友人の男、森岡拓磨さん。その幼馴染でノクスの医師、山野のさん。対立する生き方を選択しながらも、心では通じ合っているところが物悲しい。こんなことがなければ、きっと最高の友達同士であっただろうと思われる。もはや、相手の気持ちが分かっても、それに対して本当の気持ちを返してあげられなくなっている関係。これがノクスとキュリオの対立のどうしようもない一面であるように感じる。
男の娘、ルリホコリさん。最後にノクスの欠けているところを全て表すような演技。キュリオとして社会に抱いていた希望を一瞬で消し去る。ノクスとなって描く希望はみせかけで、選ばれた人間かのように自分を満足させるためだけのものになっている。豹変にかなり愕然とする。
娘の実の母親、月島ポルコさん。人として、母として、女として、憐れな感情を印象付ける。この人が描く人とのつながりは何を持って得ているのか疑問を感じるような悲しい姿として浮き上がる。
夫で、役人の秋桜天丸さん(ラストリミックス)。役人なので嫌味ったらしい先入観を持っていたが、自分のことを客観的に捉えるようなところがあり、苦悩している、でも今の社会を成立させるために与えられた任務を全うする強い意志を感じさせるキャラだった。
人が生きるって何なんだろう。
年老いて、やがては死を迎えるということは、人の弱さなのだろうか。
それを克服した人は、幸せを手に入れられるのか。そこには失う物の方が多いのではないか。
幸せに向かって、その追い求める時間こそが、人が生きるという時間であり、そんな時間を失った人はもはや生きているとは言えないのでは。
ノクスの恵まれているけどただ時間が経過していくような生き方、キュリオのどうしようもなく愚かだけど生きていることを強く感じさせる姿から、そんな生きるということの意味合いを感じさせる作品だった。
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