おひっこし【関西学院大学文化総部 演劇集団関奈月】121228
2012年12月28日 ステージプラス
濃い。
キャラの創り方がかなり個性的であり、それが各役者さんにはまり過ぎていて、観ていて疲れるパターン。
相当うまく、話を展開させないと、その濃い雰囲気に後半ダレるが、そこは非常にうまくしている。
舞台での魅せ方の追及がかなり練ってあるのだろう。
話は、個々の想いがぶつかり合う人間臭さを、優しいタッチで綺麗に描いている。
なかなか、面白い作品だった。
(以下、あらすじがネタバレするのでご注意下さい。公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで)
二人の漫画家の卵が、夢を追い求めて上京。狭くてボロいアパートで共同生活を始める。
住人はみんな貧乏みたいで、お隣さんは演劇で役者を志す、ちょっと怪しげな人。
ネタを担当する福沢。楽観主義なのか、都会のオーラにおじけもせずに希望に溢れて元気な姿を見せる。これから始まる苦難の道に憶せず、すっかりテンションが上がっている。どこからか入ってきた猫を飼おうなんて気楽なことを言ったり。
絵を担当する夏目。少々、不安を感じているみたいだが、友達の福沢と一緒に頑張る決意はしっかりしている。気が弱いところがあるみたいで、生活の主導権は福沢に取られそう。でも、そんな前に出ない不器用なところが、いいコンビとなっているみたいだ。言いたいことをはっきりと言えないみたいだが、自分のポリシーはしっかり持っているみたいで、そこから曲がったことに対してはかなり頑固そうな一面も覗かせる。
藤子不二雄みたいになろう。売れた時に、実は二人で書いてたんですなんてなったら面白いねなんて言いながら、二人の生活は始まる。
それから10年。
二人はプロとしてやっていくチャンスに恵まれたみたいで、漫画家として人生の大きな分岐点に立つ。
このボロアパートを出て、高級マンションに引っ越すつもりだ。
今日はその引っ越しの準備。明日にはこのボロアパートとともお別れ。
薄情なもので、飼っていた猫は姿を見せない。
漫画雑誌の巻頭25ページ、表紙も担当するという大きな仕事を控えている。
担当する漫画雑誌の編集にはアシスタントを用意すると言われて、福沢は女の子がいいなんて浮かれている。
対して、夏目の顔色は優れない。
どうも問題を抱えているみたいだ。
そう、読者はもちろん、編集にも二人で漫画を描いていることを言っていないのだ。
福沢が一人で描いていることになっている。
これに嫉妬しているわけではない。
アシスタントを呼んだり、これから有名になることを考えると、もう言っておいた方がいいのではと思っている夏目。
編集が引っ越しの手伝いにやって来る。
これまで、家にあげたことはない。二人なのがバレるから。
とりあえずは夏目は友達で、手伝いに来ていることにしてごまかす。
編集は、引っ越しそばを駅前のおかしな蕎麦屋で頼んだみたいで、出前が持ってくるが、引っ越しそばは引っ越しの後に食べるものだと、そばを渡さなかったりして一悶着が起きる。
編集はなかなか強引な人で、そばを奪い取り、結局みんなでそばを食べる。引っ越し前に食べると縁起が悪く不幸を招くらしいが。
その場で編集は、福沢にあることを伝える。
巻頭25ページ、表紙付きの仕事のこと。
この二人は、これまでSF路線の漫画を描いてきている。今回も、もちろん得意であり、自分たちが描きたいその路線の漫画を原稿にするつもり。
でも、掲載される漫画雑誌には既に同じようなSF路線の漫画家がいる。
だから、系統を変えて欲しいと命令される。
美少女系でバンチラありみたいな感じに。
福沢はチャンスを逃したくないのでそれを了承。でも、夏目はそんなことが許せない。
二人の間に不穏な空気が流れ始める。
そんな中、一人の少女がいきなりアパートに現れる。
このアパートに引っ越してくる予定の田舎っぽい女の子。
福沢の大ファンらしい。
少々、痛いところがあるのだが、昔の二人のように、純粋でどうなるか分からないけど希望に溢れた楽しい姿を見せる。
人を疑うことを知らないのか、すぐに騙されてしまう。たまたまやって来た新聞勧誘にも一瞬で契約を結んでしまう有様。
この女の子に編集は目を付ける。
次の漫画の題材に使える。
この子を騙してその反応を漫画のネタに出来るのでは。福沢も悪ノリするかのようにそれに同調。
福沢は借金を抱えており、その取り立てに借金取りがやって来る。そんな修羅場を目の当たりにした彼女がどんな行動をするだろうか。
ちょうどうまい具合に隣には、10年経ってもいまだ売れない役者がいる。
彼も巻き込んで一芝居を開始。ありえない三文芝居が繰り広げられる。
それでも、案の定、面白いぐらいに騙される少女。
そして、一ファンとして、真剣に福沢を助けようと偽の借金取りに闘いを挑む。
そんな姿に夏目はついにキレる。
全てを暴露する。
それを知った編集は特に態度を変えない。
それならそれで、二人でこの田舎者を題材にした漫画を創ろうと言い、それに福沢も同意する。
女の子も、二人ならどちらもファンだと。
夏目はそれでも、自分はこんな漫画は描けないと主張。福沢はファンがいいと言っているのだから問題ないと反論。
仲違いする二人の姿に、女の子は右往左往。
夏目は、このままではきっと全てのファンがこの女の子のように、どちらが正しいのか混乱して宙ぶらりんになると言う。
激しくそれに反論する福沢に対して、もうこれ以上は一緒にやっていけないと自らの右手を金づちで傷つける。
一人で病院に向かう夏目を追う福沢。編集はタクシーを呼ぶ。
女の子が付いてくることは許さない。
夏目と一緒なのは自分だけだと、福沢。
残された女の子と隣人。
10年前、夏目と福沢の二人と隣人がしたような、貧乏から頑張って抜け出そうみたいな会話をする。
女の子は、猫に餌をあげていた皿を拾い上げ、ひとり言をつぶやきながら、アパートを去る。
隣人は、猫も餌をもらえなくなるから、もう甘えられない。それはあの猫にとっていいことかもと語る。
新聞勧誘が入れ違いでやって来る。
女の子とスレ違っているはずだが、姿は見えなかったらしい。
何か知らないが、二人の間に一瞬で恋心が芽生えたりしている。
ラストは、福沢と右手に包帯を巻いた夏目が、互いに居心地悪そうに引っ越しの準備を再開している。
怪我を治して、またチャンスをつかもう。
部屋には、10年前、二人で頑張ろうと誓い合った、漫画家と言えばみたいなミカン箱や、散乱するネタ帳。
二人は、SF路線の漫画の話をする。でも、読者受けしないといけないからパンチラは必要だなんて言いながら。
とりあえず、二人はネタを決めて、編集からもらった二人の大ファンの歌手のコンサートチケットを手にして、そのコンサートに向かう。
結局は、編集の思惑通りになったわけでは無いし、福沢の成功のための妥協が通ったわけでも無い。夏目のポリシーを持った意見が通ったわけでも無い。
それでも、まあよかったねといった感じで終わっているのは、真剣にぶつかりあった中での選択によって得られた結果だからだろうか。
自分の追い求める表現だけに固執していればどうなるか。いい例が隣人として存在している。いまだ、貧乏のまま売れない役者として生きている。それでも、それを否定してないところがこの作品にはあるような気がする。長年の一貫したブレない気持ちは、一瞬で人に選択の判断を迫る新聞勧誘の女性に魅力を感じさせるものがあったみたいだから。
二人はこれまでにも多くの分岐点をケンカしながらも、乗り越えてきたのだろう。その繰り返しで今に至っている。それはどちらかの選択を優先させたり、調整点を見出したりと色々だったはず。10年の時を経て、繰り返されたそんな互いのぶつかりは、二人にかけがえのない絆を生み出しているのは確かなはずで、いくら大きな分岐点だからとはいえ、そこでのぶつかりが二人の絆を壊してしまうのは忍びない。
そんな二人のやり取りをずっと見てきた猫が、二人の引っ越しにより、自分にとってもこれまでとは違う厳しい生活が始まる中で、新しい道を歩むためのけじめかのように、二人に置き土産をしている感じが作品に優しい雰囲気を醸し出している。
三文芝居の中で、借金で困っている福沢を何で助けないのかと夏目に言う少女の言葉は、これまでもそうしてきてたのに、どうしてここだけは自分の考えだけを通そうとするのかという叱咤のようにも聞こえる。同時に福沢に対するファンだと言う言葉も、それを裏切る行為への戒めになっているのかな。
引っ越しそばは何だろうか。細く、長く、切れないお付き合いの意味そのままだろうか。二人がこのボロアパートに引っ越してきた時に隣人の食べるのが不安なようなそばをいただいて、10年の時を何とか過ごしてきたように、これからの二人もそうあるようにと引っ越した後に食べないと意味が無いということか。
引っ越しは実際にはしなくても、人生にはこんな環境や周囲の人も全く変わったところへと向かう時がある。そんな時でも、その選択が間違ってはいなかったと思えるように、精一杯の想いを持たないといけないように感じる。
福沢、赤江翔馬さん。何か妥協し過ぎなところが、もうちょっと信念貫こうよみたいな感じに映るのだが、まあ、ある意味では、これもまた一つの信念なのかな。会話の間合いがうまく、コミカルに会話を展開させている。
夏目、高橋賢さん。こちらはこちらでこだわり過ぎかといった感じだが、感情移入は個人的にはこちらの方になる。中盤、ドタバタの中で、一人置いてけぼりになってしまった時の引いた感じが面白い。
編集、高砂理子さん。かなり力で押してくるキャラ。圧迫するかのような雰囲気を自然に醸し出す。そば食いのマイムは微妙・・・
アパートに越してくる女の子、相田莉央さん。純粋過ぎる明るい笑顔の不思議ちゃん。もちろん、セリフなのだろうが、キャッチボールできない感の漂わせ方が巧みで、舞台を不思議なドタバタ状態に持っていかれる。
隣人、山本修平さん。怪しすぎるキャラ。昭和のにおいを感じさせる。暑苦しいくらいに、舞台から前へ前へと押し出てくる。
そばやの出前、高山千鶴さん。ものすごくきつい表情なんだけど、何か可愛らしかったな。そばへのこだわり。漫画や演劇と同じく、ここでも物事への一貫したこだわりが何か強い物を生み出す感じとなっているのか。
新聞勧誘、津島佑紀さん。急にキレ出すから怖かった。それで、最後は恋する女の子。でも、ちょっと打算的な一面も覗かせる。掴みきれないキャラ。
個性的な個々の役者さんに焦点をうまく当てながら、人生の分岐点での選択の難しさ、そしてそこから得られる大切な想いを描いた面白い話だった。
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