カメヤ演芸場物語【学園座】121214
2012年12月14日 関西大学千里山キャンパス内 凛風館4階小ホール
けっこう思い入れの大きい作品で、生で観れる日が来るとは思わなかった。
2009年の1月にHEP HALLで観劇して以来、もう今や1000本を越えるぐらいになりましたが、そもそも急に観劇するようになったのには、少し前段階がありまして。
水曜どうでしょうで大泉洋を見て、彼の所属する劇団TEAM NACSにも興味を持ち、この作品は、その中で同じく札幌で名を馳せる劇団イナダ組に客演していたものです。
DVDを購入して鑑賞し、涙ながら演劇っていいんだなあ。いつか、生舞台とやらも観たいなあなんて思ってたわけです。
今となっては、もう生舞台の感激など、薄れてしまうぐらいに観過ぎてしまいましたが、あの頃あこがれた大切な作品をこうして生で観れるということがとても嬉しいわけです。
というわけで何回もDVDで観ている作品。
おのずとハードルは上がります。
感想は、正直、そりゃあプロの仕上がりに比べれば見劣りするなと言うところがありますし、半分以上は脚本自体の魅力だなとは思います。
でも、この作品の大切なテーマを、時代があまりにも違う若い方々の視点で、丁寧に描かれているようには感じます。
実は、最初、観始めてすぐは、これはダメだと思いました。世代ギャップ以上に、役としての心情表現に違和感があり過ぎるように感じたのです。
でも、この感覚は中盤から完全に消え始めます。演芸場の面々、その周りの人たちのこの時代の想いをきちんと捉えて、それを今の若い歳の方々が各々の形で変換していることが理解できるようになったのだと思います。
イキイキした演芸場の人たちの姿が話の流れで浮き上がってきて、その力強い時代に生きた活気ある人の姿に心を打たれた感じです。
1970年代、学生運動が終焉を迎えつつある浅草の演芸場が舞台。
演芸に関しては何も知らなく、頼りないけど人情味の厚い二代目の若い支配人、愛想が無いけど頼れる女性の総務、進行係を務めながら、芸人の夢を追いかけている夏目という男たちによって、今日も幕を開けている。
近所の演芸場の生き字引ともいえる中華料理屋の出前おばちゃんが楽屋に入り浸っている。
売れない落語家は、今日もわざと出番を間違えてギャラを稼ごうととぼけて楽屋にやって来る。
まずまず売れっ子の夫婦漫才の夫は飲んだくれのダメ亭主。片や、奥さんは少々気が強いけどしっかり者。今日も、奥さんの舞台衣装を質に入れたとかで、旦那は奥さんに追いかけ回される。
若手のトリオ漫才は、芸人意識が高いがむしゃらな男がリーダー。メンバーの男は、それほど漫才に対して意気込みはない。そんな二人の間に入って何とか仲を取り持つチー子。
そんな演芸場に夏目の妹と連れられた男、秋田がやって来る。学生運動をしており、警察に追われているらしい。夏目も昔は同級生だった男と共に活動に加わっていたみたいだが、今はもう新たな道に進んでいる。その男は今や活動のリーダーとなっているらしく、警察に拘束されて組織が危ういらしい。
その場はいったん別れるが、その晩、警察の取り締まりから必死に逃げてきた秋田が演芸場にやって来る。
その場の成り行きでなぜか、秋田と夏目は漫才コンビを組んで、夫婦漫才の夫に弟子入り。
いざ、舞台に立ってみるとそこそこ人気のコンビに。
そんな中、夫婦漫才の奥さんが倒れる。ダメ亭主を支えるための内職がたたったのか重病らしい。入院するが、旦那は今までとは打って変わって看病に専念する。
トリオ漫才の軋轢はもう収まらない。コンビを解消せざるを得ない状態に。
リーダーの男は、自分の芸人道を極めるため、そして、残された二人に新しい道を進ませるために、この演芸場を去る。
奥さんの状態は日に日に悪くなる。
最期を悟った奥さんは、トリオ漫才の女の子に後を継がせる決意をする。
嫌がる旦那、断る女の子。でも、こうして、漫才という芸の道をつないでいきたい必死の奥さんの想いを汲み取り、新コンビが誕生。
たった一人、自分の道が決まらなく、置いてけぼりにされて不安になったトリオ漫才の男は、秋田が学生運動家で、演芸場にいることを警察や公安に連絡してしまう。
逃げるように薦められる秋田だが、自分の生きる道を模索し始め、このまま漫才を続ける決意をする。
ついに新コンビの襲名披露の日がやって来る。
緊張しまくる旦那に女の子。
その前座を最高に盛り上げようと意気込む夏目と秋田。
進行係も新しい人。トリオ漫才の男がこれを務める。
そして、もはや風前の灯とも言える状態の奥さん。
みんなが見守る中、襲名披露の幕が開く。
その時、警察が・・・
と、こんな感じで人情味あふれる感動的なラストに向かいます。
詳細はDVDを買いましょう。
劇団イナダ組の同作品でアマゾンとかでも購入できます。
TEAM NACSの大泉洋、音尾琢真、森崎博之なんかも出演されている名作ですから。
ついでに亀屋ミュージック劇場なんて作品もありますから、一緒に買ってしまいましょう。
泣けて笑えること間違いなしです。
考え方は違えど、様々な形で懸命に生きようとしている人たち。
古き時代に思いを寄せながら、その中で未来を見つめて生きていく人たちに浸りながら観れる話です。
秋田、よいしょきもちいさん。学生運動をしながらも、漫才への道にも流されていく。決して間違っていないと自分を強く奮い立たせたり、疑問が生じて不安になったりと微妙な心情表現を綺麗に積み上げていかれます。だからこそ、最後に演芸場でみんなと過ごした事実をただ淡々と語るシーンが涙を誘うのだと思います。
夏目、ポップポップさん。新たに進もうとしている芸人の道も厳しいことを身を持って知りながらも、その未来を見続ける。わずかな時であったが、秋田と共にその輝かしい未来を見れたことへの感謝の気持ちが溢れる優しい演技をされます。
夫婦漫才の夫、カットカットハウスマーシィーさん。大泉洋との比較になるので、細かな演技自体は少々厳しく見ていました。昭和の芸人を若いながらも熱演。だらしなくいい加減。でも、その心の中には大きなものを持ち合わせているみたいな、昔風のでかい人間を感じさせます。
奥さん、七六42さん。小さいながらも貫禄ある芯の通った強い女性を演じる。芸人の夫に対する妻の姿、若手芸人に対する母の姿、演芸場の面々に対する頼れる姿。堂々たる中にも滲む優しさをきちんと表現されているように感じます。
支配人、モノカマーランドスタイルさん。どこか頼りにならない未熟さを醸しながらも、演芸場を愛する心は誰にも負けない。支配人として、身を呈してでも芸人に芸をさせる。そんな真摯で強い気持ちを溢れさせています。
総務の女性、血水泥スヌーピーさん。う~ん、ここ芸名がみんな変過ぎる。近畿大学の覇王樹座以上だなあ。愛想なく、冷徹な姿ですが、ところどころで、みんなのことを想う愛すべきところを出される。役の設定が感情をむき出しにしないので、一瞬のセリフや表情でそんなことを感じさせていて、上手い役作りのように感じます。
トリオ漫才のチー子、転スケさん。ちっこい体で、チームの仲を取り持つのに苦労している姿は、どこか幼く飄々としたところがありますが、後半、大きな物を背負う凛とした姿に変化。でかい物を背負った人の大きさが姿となって現れるかのように、大きく美しく映ります。
リーダー、織田fantasticさん。最初、登場された時は、単に荒く暴力的な感じだけで、私のイメージとは違うなあなんて思っていたのですが、話の進行と共に、非常にその心情に感情移入しやすいキャラへと変化していきました。舞台の中で、その話の展開と共に心情を積み上げていく姿がピークに達する、演芸場を去るシーンなどは、礼をして立ち去るだけで少し涙が。
あまり漫才に打ち込む気は無い男、床さん。多分、一番嫌いな役だという人も多いと思うのです。これが現実世界、特に今の時代での自分と等身大の姿だからでしょうか。夢追う人ばかりの中で、自分だけ何もないと夢を持たないのがダメみたいになってしまいますよね。そこで、小人がすることは、自分で夢を見つけるための努力をするのではなく、人の夢を潰すことです。そんな悲しいことしないでくれよ、お前はお前なりにもがき苦しんでるじゃないかと、励ましたいキャラです。この後の、彼を頭で描くことで、この作品の一つの答えがあるようにも思います。
落語家、カテキンP&Aさん。落研からヘルプで来たのかなと思うぐらいに、はまっていました。ひょこっとした可愛らしく憎めない表情に人柄が出ていて楽しいキャラでした。
中華料理屋のおばちゃん、安河内168さん。威勢よく、調子のいいおばちゃんを熱演。大阪のちょっと腹立つおばちゃんにはなっていないのは、若いからか、ご出身が関西ではないのか、浅草仕様に役作りしているのか。
照明の人、カプリコ(国産)さん。上記あらすじには一切出てきませんが、感動して泣けるシーンを潰しに登場するキャラです。確か、原作ではおっちゃんじゃなかったかな。イメージとしては、演出の豊臣秀吉合唱団さんみたいな感じの方なのですが。こちらでは、柄悪そうな美人さんにしています。ギャップがあるので、確かにこの方が、一瞬で空気を変えれる。
夏目の妹、ゆきみ蜜柑さん。学生運動に執着する、若い人のブレの無い懸命な姿を演じます。演芸場の面々とはまた別の道ですが、共に未来を見据えているという様々な人の考えを見せているのでしょうか。どんな考えでも、社会の中で必死に生きることができる時代の象徴かもしれません。今は、異物排除の考えで、活動の意欲すら失わせる社会になっていますから。
刑事、ロハンさん。巡査官、リティムさん。ちょっと神経質そうで陰湿なイメージのロハンさんと、田舎くさい官憲らしくないリティムさんの微妙なコンビ模様が出ています。これも、官憲も人間らしいという時代設定の一つかもしれません。
今を生きる人達からすると、分かりにくい時代の人達の当時の想いが伝わるような、素敵な作品になっているように思います。
いつの時代も、こんな人を想う人情なんてことを忘れてはいけませんね。
懸命に生きる人がいるから、それを支える人がいる。人の夢を一緒になって応援してあげられる。それが器用だろうと不器用だろうと関係なく、みんなそんな気持ちで生きている。
私が接する社会では夢世界みたいですが、きっと演劇をされている方々の劇団なんかはこんな感覚がよく分かるのではないかなと思ったり。
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コメント
ツイッターで、リプライを、とも思いましたがコメント失礼します。
カレン役を務めました、七六42です。
私も、ナックスが好きで、イナダ組が好きなクチで、今回豊臣にこの台本を紹介しました。
とても、丁寧な感想をいただけたこと嬉しく思います。
イナダ組の、カメヤの独特の雰囲気とはまた違った色になっていたかと思います。少しでも楽しんでいただけたこと、本当に嬉しく思いました。ありがとうございます。
思わず、コメントさせていただきました。本日は本当にどうも、ありがとうございました。
投稿: 七六42 | 2012年12月14日 (金) 23時44分
>七六42さん
コメントありがとうございます。
いい作品を紹介していただき、おかげで懐かしい素敵な作品を生で拝見する機会を得ました。
ありがとうございます。
カレン、難しいでしょ。
懐の大きい、年期の入ったオーラが要りますものね。
単に師匠みたいに偉そうなだけでもイメージが違うし。
歳を忘れさせるような貫禄で、また色の違う素敵なカレンだったと思います。他の方も含めて、個性を活かした役作りで、楽しく拝見できました。
残りの公演もご活躍ください。
いい作品なので、多くの人に観てもらいたいですね。
投稿: SAISEI | 2012年12月15日 (土) 01時55分