アンダー・ザ・ロウズ【劇団六風館】121213
2012年12月13日 大阪大学豊中キャンパス 学生会館2階 大集会室
いじめというテーマを中心に、異なる考え、物を排除する動きを描きます。
ここ20年くらいで、日本では容易に想像できないような事件が起こってきました。最近では、東北の大震災でしょうか。
そんな事件の中でメディアに制御されるかのように、一つの考え方以外を持ってはいけないような風潮が生まれたようにも思います。
その考えは、もちろん正しく、守っていかなくてはいけないものですが、それに反するなら排除するという危険な意識も同時に根付かせてはいないでしょうか。
今の日本と異なるパラレルワールドを用いて、その世界で起こる悲劇と、そこから今の世界をどう捉えていくかを問いかけるような作品でした。
普通のサラリーマン、一之瀬は同じ会社の後輩、奈緒と同棲中。
彼にはあるトラウマがある。
中学生時代、いじめられていた同級生、榊を見捨てて助けなかった。そのため、榊はいじめられ続け、やがてどこかへと転校していった。その後は全く会っていない。
今でも、その時のことを夢に見て、うなされる時がある。
そんな一之瀬の下に榊が突然現れる。
この榊、実はこの世界とは異なるパラレルワールドからやって来たと言う。
話を聞くと、その世界では一之瀬はあの時、榊を見捨てず助けたらしい。
でも、その結果、自分がいじめられることになった。そして、引きこもりの生活を送る。
その後、彼は自分をいじめた3人に復讐を果たす。金属バットでボコボコに殴ったらしい。
もちろん、実刑を喰らうが、謝罪の意思は見せず、自分が生き直すために必要なことだったという一貫した理念を貫く。
これに多くの人達が同調。
今では空震同盟という組織を創り、そのリーダーとして振る舞っている。
一之瀬は、復讐を考える人が、覚悟を持って一人でそれを実行するための背中を押すという役割を果たしている。
榊がやって来たのは、一之瀬が姿をくらましてしまって、組織の存続が危ぶまれたから。
榊は、こちらの世界の一之瀬に、後は榊に任せると代わりに言ってもらい、自分がこの組織の新たなリーダーとなって振る舞おうとしている。
彼の野望は大きい。
いじめは個々の復讐をしていても無駄だ。社会の構造自体を変える必要がある。そのためには、組織の人員を増やし、経済的にも自立して、国に戦いを挑む。この強行的な考えが、組織に亀裂を生んだりしているところもある。
一之瀬が単純にこれを承諾していれば、事はすんなり収まったのかもしれない。
でも、一之瀬は自分の世界で生まれたトラウマをこの世界で昇華させようとしたのか、榊に対する贖罪の気持ちなのか、この世界で自分が行方をくらました一之瀬の代わりとして活躍しようとし始める。
この世界には、怪しい宗教団体を営む男女がいる。パワースポットの噂を流し、そこに監視カメラを付ける。そこで得た願い事や復讐の相手の情報を聞き出し、それをうまく商売に利用する。
青森出身でヒーローになりたがっているおかしな男には、いかがわしい商品を売りつけて、偽のヒーローとして振る舞わさせる。
偶然、空震同盟が潜伏するスタジオで教室を開くダンスインストラクターもその騙された一人。彼女の復讐相手は、一之瀬。いじめっ子の一人の妹みたいだ。一之瀬の復讐事件で、昔のいじめの罪から耐えれなくなった兄は自殺してしまったらしい。背中を押してもらい、その場で一之瀬に復讐を企てるが、取り押さえられる。
空震同盟のメンバー。
学校全員からいじめられ、それを未だにネットで流されて傷つき続ける男。彼はこのいじめ体験を基に小説を書いて、世間から認められようとするが一向にそのチャンスは訪れない。もはや、誰に復讐すればいいのか、極端に言えば、日本全員にではないかというような状況である。いじめとは無縁で空虚な生活を題材に小説を書いて、わずか一作目で有名な賞を受賞した幼い女性の存在を知り、この女性を監禁する。そして、ネットでいじめられた者の代表、片やいじめとは無縁の気楽な生き方をしてきた者という構図を創り上げ、その戦いをネットを通じて世間に知らしめようとしたりする。
同じようにクラス全員からいじめられていた男。頭が悪いので、理論的に誰にどう復讐すればいいのかがはっきりしない。と言うか、基本的に知り合いなら悪いことはきっとしないというような善意的な考えの持ち主であり、復讐にはとても向いていない。
この世界でも一之瀬と奈緒は恋人関係。でも、奈緒は空震同盟の一員として復讐を企てようとしている。学生時代に自分を輪姦した者たちに復讐を果たすために。そして、その事実は一之瀬が過ごしていた世界でも現実であったようだ。奈緒は生き直しを実行するが返り討ちにあう。一之瀬はそれを助けてしまう。空震同盟の一人で復讐するという鉄則を自らが破ることで、その正体が本来の一之瀬では無いことを奈緒に気付かせる。
こんな行く先が見えない活動をしている空震同盟がいつの間にか世間から見放されていく。
この世界では世間の風が吹くと言うらしい。
要は世間に異物排除の意識が芽生え、それを暴力で消し去ろうとする風潮。
空震同盟にその魔の手が襲いかかる。
それを救ったのが、怪しい宗教団体や、創りあげられた偽のヒーロー。
彼らにより、空震同盟の面々は世間の目から逃れ、各々がそこから逃げ出していく。
その逃げ道で、榊はこの世界であった一之瀬とのことを告白する。
一之瀬はもう空震同盟を終わりにしようとしていたみたいだ。それに反対した榊は彼を殴りつけ、そのまま放置して逃げ出した。一之瀬がどうなったのかは分からない。そのまま死んだのかもしれないし、世間に異物として捕まったのかもしれない。
榊はこのまま、どこかへ向かう。奈緒も依然、復讐を諦める気は無いみたいで、一之瀬と向こうの世界での自分の幸せを願ってその場を去る。
一之瀬は元の世界に戻る。
奈緒がしばらく、こちらの世界で行方不明になっていた一之瀬を出迎える。
奈緒を抱きしめる一之瀬。
一之瀬は、彼女を幸せにしてあげたい気持ちとともに、榊にもう一度会って話をしようと考える。
はしょりましたが、だいたいの筋はこんな感じ。
パラレルワールドが、もう一つの日本となっているが、同時にこれからの日本でもあるようで、恐怖感を煽られる。デジタル感覚が当たり前になりつつあり、善悪をはっきりしないと物事を論じられないような風潮が確かに進みつつあるように感じる。善は採用、悪は排除。でも、その基準は明確ではない。一昔前はファジーなんて言葉もはやって、そんなあいまいさがある意味で緩和剤にもなったようにも思うが、それがもはや許されないのだろうか。問題をあいまいにするのは良くないとは思うが、何でもはっきりと決めつけてしまうこともまた良いことだとは思えない。
キャラの持つ個々の意味合いが話を想像で膨らませていくことが出来て面白いように思う。
賞を受賞した小説家は、その問題と関わりなく生きている人の悪意無き考えであり、それが関わる人達を知らぬ間に傷つける不条理ではあるが実際に起こり得る形である。
怪しい宗教家のコンビはマスコミみたいな感じか。自らがお膳立てした中で敵と味方を創り出す。パワースポットの噂を流し続ける限り、人間はそれに惑わされ続ける。事態を創り上げるのがマスコミならば、それを収拾できるのも同じくマスコミであり、この話も収束させるのが、この人達の手によっている。
インストラクターや偽のヒーローは、この犠牲者であり、この人達が目的を果たすことは目指されていない。ネット上で、事態を煽るかのような題材として機能していればいい。
舞台セットが新聞を貼り付けてあり、それで作品名の薔薇を形取ったりしている。単なるいじめ問題だけに言及するのではなく、メディアと共にある現代社会なんかをイメージしているのか。
そして、矢印が二本。ベクトルの方向性の違い、決して、合致して一つのゴールに向かって進まないような社会の有様みたいな感じか。
賛否はあるのだろうが、パラレルワールドで決定的に間違っているなと思うところが、背中を押すだけで、実際の復讐は一人ですること。
復讐をみんなでやってしまうというのも、大きな問題ではあるが、まだその方がいいようにすら感じる。
空震同盟では、組織としてみんなで復讐みたいな感じではあるが、実際は個々の復讐心がただ集まっているだけの組織にしか思えない。
不幸にして人間関係によって生まれたトラウマは、やはりその人の周囲にいる人たちみんなで救ってあげたい。自己脱却は自分だけで出来ることは少なく、やはり周囲の人たちと共に脱却していくものだろう。
せっかく、同じ傷を持ち、つらさを共感できる人たちが集まる組織なのに、そこを活かしていないように感じる。
こちらの世界にいる奈緒とかはどうだろう。自分のことをきっと好きでいてくれるであろう一之瀬がいたから、自分の胸の中にその想いを秘めることが出来ているのではないか。きっと、この人が守ってくれるという安心や信頼感が拠り所ではないか。誰もいなければ、もしかしたら、こちらの世界の奈緒も金属バットを持っていたかもしれない。
パラレルワールドでは、自分を守るのは自分である。こちらの一之瀬は応援するだけで、守ってはくれない。
自己責任なんて言うけど、つらい状態に人がいる時にそんな責任まで背負わせたら、人は潰れるように思う。
今回の事件で、パラレルワールドの奈緒は、自分を守ろうとした人の存在を知る。それは別世界の人であっても一之瀬は一之瀬。今はもうどうなっているのか分からない一之瀬ではあるが、そんな一面もあったのかもと想像することで、復讐への考えをどこか少しでいいので変えてくれていればと願う。
一之瀬、大野皓太朗さん。徐々にパラレルワールドでリーダーとしての使命感を帯び、憑りつかれたような表情で復讐を煽る姿が印象的。基本、真面目でぶれた考えが出来ない不器用さも贖罪に苦しむこのキャラの性格をうまく表現している。
榊、砂押健太さん。強い意志を持った、自分の考えに至上的な男。いじめられ、助けられていじめが止まり、その人が引きこもってしまったのでまたいじめられる。恐らく、二度にわたるいじめで、個々の復讐など何の意味も持たないことを悟ったのだろう。復讐しても、いじめっ子はまた生まれ、同時にいじめられっ子も生まれる。断ち切る大義への執着が強く感じられる絶対的な感情表現だった。こちらの世界での榊は、ずっといじめられたまま。そんな榊をどう演じるかなんて観てみたい気もするが。
奈緒、浦長瀬舞さん。秘めるつらい想いの中で、こちらの世界では優しさ、パラレルワールドでは冷徹な憎しみでキャラを表現する。美人さんなので、凛とした向こうの世界の方がフィットしているが、こちらでの安心したような弱さも交えた微笑みも魅力的。
学校中からいじめられていた男、名倉東吾さん。もう、その復讐に懸ける想いが半端じゃない。どこか気の良さそうな雰囲気を残しながらも、鬼のような表情を魅せる。このキャラを見ていると、被害者が加害者に変わってしまう復讐の負の連鎖を強く感じる。
同じく、空震同盟メンバーでちょっと頭の悪い元いじめられっ子、下川大輝さん。徹底したバカキャラに徹するが、優しさと可愛らしさを同時に醸し出す。復讐の矛先が分からなくなるのも、またいじめの典型的な事例かな。
小説家、中嶋翠さん。こんな方、六風館にいらっしゃるんだ。基本、もう一つのよく観に行く劇団にこういったキャラの方は集まるのかと思ってた。女優さんとして、天性的な魅力を持っていますね。キャラが引き立つ。仕草がいちいち可愛らしい。でも、話の中では、この純粋さが人を傷つけているのだと思います。
インストラクター、浅尾早紀さん。絶対、何か隠しているなというオーラがプンプンしてたけど、やはり。復讐に対する、仇討ちという復讐の形なので、その想いの強さがしっかり出ています。強い精神力を持たないと仇討ちはできませんからね。力強いなというのが印象に残ります。
怪しい宗教家、外山雄介さんと足立瞳さん。外山さんの陶酔したようないかがわしさを醸し出す雰囲気に、それを役どおりにラブリーに可愛らしく補佐する足立さん。どんな世界でも、たくましく生きていくという強さを感じると同時に、こういった奴等がいるから世の中はいつまでもおかしく、泣きを見る人がいるんだぞという怒りも少し。
青森の偽ヒーロー、東洋さん。原作を観たことないけど、こういうキャラが本当にいるわけですね。東マスク。重いテーマの中の、清涼剤みたいな感じか。そんな気分のいいものでもないか。客を惹きつけ、自らのキャラを自虐的に笑いにしていました。若干、イラっとするかな。笑いだけの存在かと思ったら、実は、ラストはいないといけない重要なキャラでした。
開始、30分程度、まだ波に乗ってなかったのか、若干、掛け合いなどに微妙な違和感がある間が。
正直、少しつらいなと思っていましたが、その後は、話の展開とともに、各キャラの形がはっきりとしてきて、非常に観やすくなってきました。
次々に進む話の展開のテンポも徐々に軽快になり、舞台に惹きつけられていく。
複雑で重いテーマではありますが、それを単にそのように見せるのではなく、緩いところも盛り込みながら、感情移入させてテーマを考えさせるような作品に仕上がっているように思います。
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