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2012年12月 7日 (金)

今度は愛妻家【劇団青ノ社】121206

2012年12月06日 大阪大学豊中キャンパス 学生会館2階 大集会室

大阪大の劇団、劇団六風館と劇団ちゃうかちゃわんの合同演劇ユニット。
私の中では、もうお馴染になってきた劇団。勝手に静の六風館に、動のちゃうかなんてイメージにしているけど、共に魅力的な作品を創り出すところとして、観に行けないことも多いけど、公演をいつも楽しみにしている。
そして、こうしたプロデュース公演も、現役生だけならず、卒業生の方々たちも含めて、積極的にされており、関西の学生演劇界をしっかりと盛り上げる一役を担っているところが、とても頼もしい。

困るよな。
若い学生さん達が客席を占める中で、おっさんが泣くわけにはいかないだろう。
しっかりした原作に、あれだけの見事な役者さんの演技をされたら、心揺さぶられずにはいられなかった。
切なくも心温まる傑作に仕上がっている。

(あらすじを書いていますが、映画化もされており、検索したらすぐ出てくるので、以下、ネタバレありますが白字にはしていませんのでご注意ください)

カメラマンの北見俊介。アシスタントの男を雇っており、仕事はまあまずまずといったところか。腕もけっこういいみたいだが、持ち前のちゃらんぽらんな性格が災いしているのか、それほど仕事に恵まれている感じではない。
健康オタクで、みのもんたなんかを崇拝してしまうような、今時の妙齢女性が妻、さくら。彼女が作るニンジン茶はまずくて飲めたものではない。そして、ちょっと口うるさい。でも、旦那想いの明るく優しい素敵な奥さん。
子宝には恵まれていないみたいで、さくらは歳のこともあって少し気になっているみたい。
俊介は、そんな妻の想いを軽く受け流している。
妻の提案で、二人はクリスマス前に沖縄旅行に行くことになる。
雰囲気を変えれば、子作りなんかもうまくいくのではってところみたい。

時は経ち、もうすぐクリスマス。一年が経過している。
まだ、夫婦二人っきりの生活みたいだ。
俊介も特に変わらず、相変わらずそれほど仕事をしていない。というか、怠け癖はさらに大きくなっており、もう写真を撮るのも辞めているみたいだ。
そんな、夫を見限るつもりか、さくらは一人で箱根旅行に出掛けるという。
もう、子供を作る気がないなら別れて。そんな言葉に、俊介は一抹の不安を覚えるものの、持ち前の楽観主義で、旅行中に浮気でもと、女の子を連れ込む。女優志望でオーデション用の写真を撮ってあげるとでも言って口説いたみたいだ。
今ではすっかり飲めるようになったニンジン茶なんかを振る舞ったりして、半ば強引に仕掛けてくる女の子とすっかりいいムードに。もちろん、女の子はそんなニンジン茶などはすぐに吐き出してしまうのだが。
でも、勘が鋭いさくらは、忘れ物を取りに帰ってきたりして、すぐにばれてしまい、大ビンタを食らう。
ただ、俊介は、その子と本当に最後までいく気はなかったのは本当みたいだが。

この後、二つの話を並行させて走らせながら、どうも謎めいた感じがするこれまでの話を明らかにしていく。
詳しくは書いていないが、ちょっとしたセリフや場面の人の動きにずっと違和感があり、これが全て伏線になっているのだ。
一つは、アシスタントの男が、この女優志望の女の子に一目惚れして、恋人同士になる。でも、女の子は本気ではない。そんなことより、上昇志向が強く、女優への道を突き進みたいようだ。昔の恋人との間に出来た子供を、アシスタントの男との間に子供が出来たとか言って、堕胎費用をせしめようとしたりする。
もう一つは、さくらが本当に箱根旅行からなかなか帰ってこない。徐々にイライラしながらも、相変わらず仕事をしない俊介。帰ってきたかと思えば、本当に離婚を進めている。離婚記念写真を撮ってというさくらの提案に、久しぶりにカメラを手にして彼女を撮影する。その現像された写真に彼女は全く写っていない。その事実に、俊介はずっと逃げ続けてきた事を思い出していく。
二つの話どちらにも、なぜか、俊介やアシスタントの面倒を見ているオカマが絡み、二人を影ながら支えている。このオカマの謎も最後に回収されている。

ラストはクリスマスパーティーのシーン。
酒の力を借りて、無理に騒ごうとしているのがみえみえな俊介。それをじっと見守るアシスタントとオカマ。
そこに現れる、俊介と同じく酒に酔ってテンションの高い女優志望の女の子。
そして、どこから現れたのか、姿は俊介にしか見えないさくら。
この構図が実は、これまで積み上げてきた話を全て象徴するような形になっている。
自分の気持ちを素直に伝えられなかった俊介とそれに対して不安を感じながらも夫を愛して生きていたさくら。
この逆の形のように、アシスタントの気持ちを素直に受け入れられない女の子と、裏切られていると分かっていながらも真摯にその愛情を捧げたアシスタント。
このシーンで、俊介は自分の伝えきれなかったさくらへの想いを素直な言葉にする。でも、それはもう遅い。彼の言葉は、悲しいことにさくらに伝える言葉ではなく、自分自身への悔恨の言葉にしか過ぎなくなっている現実があるから。それをオカマは厳しくも優しく彼に諭している。そして、今度は新しい自分の道をもう一度歩まないといけないことを彼に教える。
一方、自分を本気で愛してくれていたアシスタントに対して、女の子は耐え切れないように部屋から飛び出す。オカマはこちらに対しては、ただ自分の気持ちをしっかり伝えるように諭す。俊介も、自分とさくらとは違う二人のことを祈るかのように後を追えとアシスタントに言う。
この二人は、シーンとしては無いが、路上で抱き合っていたというオカマの言葉で、俊介とさくらのように今度はではなく、今、二人の想いを分かち合うことが出来たことを知らせている。

一人、部屋に残った俊介に、もうさくらは見えない。
ニンジン茶もいつの間にやら口に合わなくなってしまったらしい。平気で飲めていたのに、昔と同じように吐き出してしまう。
戻って来たオカマとさくらのことを思い出すように語り、二人は昔、初めてさくらから紹介された居酒屋へと向かう。
部屋には、俊介が不器用にも自分の気持ちを伝えようとしたのか、さくらのために準備したあの沖縄での事故のきっかけになった婚約指輪と同じ物を左薬指にはめたさくらが微笑んでいる。

だいたいの流れはこんな感じ。
あらすじの詳細は、映画化もされた作品なので検索したら出てきますので、そちらを参照。

やはり、作品名の今度はという言葉に込められた、失って初めて分かる愛なんてことを描きながら、今を大切に生きることの大事さを伝えているのだろうか。
若いアシスタントと女の子の恋愛が、俊介とさくらの結婚生活と対照的に描かれており、若い二人はこんな経験の中で、今、伝え合うことを実現したといったところなのか。
自分の愛する人。自分を愛してくれる人。そんな人と出会えた幸せをしっかりと噛みしめ、今、その感謝の気持ちを伝える。今度が無いことだってあるんだから。

切なくも心温まる優しい気持ちに深い余韻を残しながら、今、こうして感想文を書きながらも何となく思うのだが、今度は愛妻家は誰視点の言葉なのだろうかと思う。
男はバカだから。だからきっと俊介もバカだから、今度は愛妻家でありたいなんて思いながら、これからの残りの人生をさくらのことを想いながら生きていくのだろうか。ただ、それが悔恨の念が強すぎて、少し悲しい気持ちが残る。
さくらには伝わっていないだろうか。俊介の不器用で伝えられなかった気持ちは。彼は確かに愛妻家では無かったが、愛妻精神は持ち合わせていたように思う。さくらが望んでいたことは彼が愛妻家であることではなく、愛妻の気持ちがあることを信じさせて欲しかったのではないのか。
それはラストシーンのさくらの笑顔でしっかり伝わったように思うのだ。もちろん、手遅れこの上ないのだが。ちなみにここでのさくらは、ここまでに登場した俊介が創り出した幻のさくらでは無いように私は思っている。ここまでは、基本的に俊介の一人相撲で、想像したさくらと自分を慰めるように過ごしていただけみたいだが、どこかに、ずっと傍にいたのだろう。言葉とすると稚拙だが幽霊みたいな感じで。その幽霊が最後に現れたのだと思う。だから、俊介には見えない。
俊介にとっては今度は愛妻家であっても、さくらにとっては今度も愛妻家という言葉を彼に掛けてあげて欲しいなと感じる。

実は、あまりにもいい作品だったので、帰りにスナックでちょっと女の子に話をして、上記のような感想を述べたのだが、全員から総バッシング。
映画で見たことがある人もいて、あらすじはだいたい分かっているみたいだった。
男の勝手でわがままな考えらしい・・・
その理由に、俊介が子供を作るということを疎かに考えているところがあるみたい。
さくらがどれほどの想いで、子供が要らないなら別れてと言ったか。その想いに真剣に答えなかった俊介は、ただ愛していたということをさくらに伝えても許されることではないという考えみたいだ。
だからといって、一生、悔恨の念を背負って、生きる俊介をさくらは望むのだろうか。
私にはよく分からない。
もちろん、反論はしていない。私もこの作品に出て来るような弱い男だから。
失敗したなと思う。オカマバーに行った方が、きっと私の感想をもう少し優しく受け入れてくれたのではないかと思うのだ。

役者さん方は、非常に素敵だった。
俊介、サトユウスケさん(劇団六風館)。多分、画家の役で以前に拝見した方だと思う。優しい表情が印象に残っていたので何となく覚えている。いいかげんなダメ男をコミカルに演じながらも、同時に素直じゃないんだなといったもどかしい雰囲気も醸し出す。最初のうちはつくった自分だが、最後の方はがむしゃら。カッコ悪くても、自分の気持ちをさらけ出す。力のこもった目線の動き。これはどういう意図なのかな。最後の方で、目線を力をこめて泳がせながらさくらと話していた。自分の中で消え去りそうになる幻を何とか残そうと必死だったのか。不器用だが、本当にさくらを愛した俊介像が見事に浮き上がる。名演技だと感じる。
さくら、未彩紀さん。可愛らしくチャーミングな姿で、俊介の世話をかいがいしく焼いているところが、素敵な女性だったんだなと。この方も、後半、目線をふとどこかに泳がせる。それはつらい現実に気付きそうになる俊介を避けるかのような優しさと、もうその想いを受け取ることが出来ない悲しみの表情を消すような感じで、これがまた心を揺さぶる。俊介に離婚記念写真を撮影してもらうシーンはとても良かった。おどけた可愛らしさもあるのだが、俊介が久しぶりにカメラを手に取り、昔と同じようにテンション上がって自分を撮影してくれる喜びと、今となってはみたいな悲しみを同居させた微妙な表情が見事である。
女優志望の女の子、伊藤紫織さん(劇団ちゃうかちゃわん)。今を騒がす肉食系女子といったところか。上昇志向の強さと同時に、弱い女性部分なんかも見せてとても魅力的。こんなこと書くと品性を疑われてしまいますが、けっこうなセクシーシーンを連発。正直、ガン見。ただ、こんな自分に正直すぎる強いのか弱いのかよく分からない生き方がこの作品の質をとても高めているように感じます。俊介とけっこう同じ好みだったなあ。ポニーテールに眼鏡にYシャツに。二次元萌えキャラを三次元化に成功しているところは、日本橋あたりで高く評価されるように思います。
アシスタント、岡村淳平さん(劇団六風館)。こちらは草食系男子といったところか。真摯で真面目な恋愛感情表現がいいですね。作品が男女恋愛を描いているので、時として軽い感覚になりがちですが、その重みをきちんとつける大事な役どころをしっかりと演じられていました。手かなあ。言葉巧みにセリフを言い回したり、感情を爆発させたりすることの無いキャラなのですが、その心底に根付く強い想いを手の握りだとかで表現されているようなところが印象に残っています。
オカマ、野瀬健悟さん(劇団ちゃうかちゃわん)。存在感たっぷりの貫録ある演技。この作品、アシスタントと女の子は若い幼い恋だし、俊介とさくらだって、自分を互いにきちんと出せない幼さがある。そんな中で、どんな人生経験してきたのか、強い大人を見せています。それは、きっと、アシスタントのようながむしゃらな恋心を抱いたり、女の子のように自分を傷つけても上を目指すような生き方をしたのかもしれない。俊介のように相手の気持ちをあまり思いやれず、不器用でうまく想いを伝えられない時があったのかも。そして、さくらのようにかいがいしく必死に人を愛するつらさも経験しているのかもしれない。そんな豊富な経験が、人を想う優しい気持ちとなって出てきているようでした。もちろん、オカマなのでコミカルなところを存分に出しながら、その人としての魅力も滲ませた味のある演技でした。学生さんなのに、何でこんな感じの演技が出来るのかねえ。そんな経験してないだろうに。映画や本でたくさんの人間を見てきてるのかな。

大切な物はいつも失ってから気づく。
幸せだったあの頃は、その時が流れ、もう戻れなくなってから気付く。
それでも、やっぱり今を生きていくしかない。
自分の周りの人たちの想いに支えられながら。
失った物を思い出し、切ない後悔の気持ちを感じながらも、これから歩むであろう道を大切に進んでいきたいなと思えるような作品でした。

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