當る巳歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎 六代目中村勘九郎襲名披露 121203
2012年12月03日 京都四條 南座
3回目の歌舞伎観劇。
今回は、ずっと行ってみたかった南座。
毎回、毎回、色々と勉強になり、歌舞伎の魅力を味わえる観劇です。
・仮名手本忠臣蔵
五段目 山崎街道鉄砲渡しの場
同 二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場
忠臣蔵と言ったら、最後の討ち入りぐらいの知識しか無いので、全く想像してない話だった。
簡単に調べたら、どうもこの作品は十一段目まであって、普通よく知られる義士の仇討ちという本筋意外に、今回の様な世話物と呼ばれる部分もあるみたいです。
外伝みたいな感じかなあ。
非常に切ないお話でした。憐れとしか言いようがない。でも、それだけに、あの仇討ちにかける義士たちの執念はすさまじい物だったのだなと改めて感じたりできる話です。
主人公は勘平という男。片岡仁左衛門が演じます。
この男、猟師ですが、元は塩谷判官の武士。塩谷判官は浅野内匠頭のことみたいです。吉良上野介に斬られた人ですね。
おかるという女房がいます。このあたりのなれそめは別の段に記されているみたいです。
勘平が山崎街道で猟をしている時に、火縄銃の火種が消えてしまい困っているところに、一人の武士がやってきます。その提灯の火を貸してくれと言いますが、山賊じゃないかと疑われて、その場で怪しい者ではないと証明するために鉄砲を渡す。これが有名な鉄砲渡しの場らしいです。いつもどおり、イヤホンガイドを借りて解説を聞いていたのですが、そう言ってました。
で、この二人、実は知り合い。共に塩谷判官に仕えていた仲間、弥五郎という武士。弥五郎が仇討ちを計画していることを知ります。
勘平は何とかそれに参加したい。でも、そのためにはお金が必要。その額、100両。今でいう1000万円に当たるそうです。何をするにも、金が要るのは時代を超えても変わらない。
お金は頑張って準備するので、改めてまた会う約束をして、その場を別れます。
場面は変わって、今度は山のどこか。
一本松に、稲の束なんかがたくさん置いてある、素朴な風景です。
そこに現れた与市兵衛。手には大金、50両。
この男、おかるの実の父親。つまり、勘平にとっては舅ですね。
何で、こんな大金を。
これには涙ぐましい訳がありました。
与市兵衛も、その妻も、そしておかるも勘平が仇討ちをしたい気持ちを持っているのは当の昔に知っていたのです。そして、そのためにはお金が必要なことも。
そこで、おかるは祇園に身を売る決意をしたのです。何という夫婦愛。
その手付金が50両。それを与市兵衛は取りに行き、勘平を喜ばせようと夜中にも関わらず、家路に急いでいたわけです。
ところが、そこで山賊に襲われてしまう。憐れ、与市兵衛、刀で斬殺。お金も取られてしまいます。
そんなところに、たまたまやって来た勘平。
あたりは真っ暗。何も見えません。
動く盗賊を猪と間違えて撃ってしまう。
手ごたえありと、暗闇の中を進んで、獲物に手探り状態で触ると、なんとそれは人間。
慌てて、薬は無いのかと倒れる人の胸元を探ると、そこにはお金。
悪いこととは知りながらも、そのお金があれば仇討ちに参加できる。
勘平は横領してしまいます。
またまた、場面は変わって、今度は勘平の家。
与市兵衛の妻とおかるが、与市兵衛の帰りを待っています。帰りが遅いけど大丈夫だろうかと。
部屋には来客。祇園の女将。残りの50両を渡し、おかるを連れにやって来ています。
そこに帰って来た勘平。
この身売り話は聞かされていないので、状況が把握できません。
でも、話を聞かされると、女房のあまりもの心遣いに感涙。
そこで、ふと何かに気付く勘平。
先ほど盗んだお金の入っていた財布の生地と、祇園の女将が持ってきたお金の入っている財布の生地が一致。
まさか、あの時、倒れていた人は。自分は舅を撃ってしまったのか。
動転する中、おかるは駕籠で運ばれて行ってしまいます。
おかるだけには、この事実をと思いながらもどうにも話を切り出せない。
ただただ、別れを惜しみながら、駕籠を見送ります。
部屋には与市兵衛の妻と勘平。
そこに、村の猟師たちが与市兵衛の死体を運んで来る。
もう、間違いない。自分は舅を殺してしまい、そして、そのお金を盗んでしまったのだと。
もうどうしていいか分からず苦悶する勘平。
熱湯が煮えくり返るような汗みたいな表現をしていました。
そんな、勘平の様子を見た与市兵衛の妻。
まさか、与市兵衛を殺したのは勘平では。勘が働き、問い詰めます。
観念する勘平。
泣き叫び、恨み言を勘平に罵る与市兵衛の妻。
そんな修羅場に、タイミング悪く弥五郎とその上司が。
入ってきた二人に与市兵衛の妻は、勘平が与市兵衛を殺し、そのお金を盗んだ。そのお金はおかるが身売りしてまで勘平のために用意したお金だったことを話してしまいます。
何たるひどいことを。二人、そして与市兵衛の妻に責め立てられる勘平。
覚悟の切腹。そして、本当のことを息絶え絶えに話します。決して、わざとやったことでは無いと。
しかし、死体を調べてみると、そこには刀傷。鉄砲で撃たれてなんかいない。
早まったことをしてしまったが、もう取り返しがつかない。
ただ、身の潔白は認められ、仇討ちの血判状にその名前も刻んでもらう。46人目の志士として名を残すことになります。
家を去る二人。取り残された与市兵衛の妻。与市兵衛の死体と、勘平の死体。
何という切ない話でしょうか。
こんな悲しい勘平の仇討ちへの執念も、あの討ち入りには入っていたということですね。
勘平は、最後まで知らないみたいですが、実は舅の仇討ちには成功しているわけです。
でも、その顛末がこれ。誰一人得していない。
仇討ちということの、無常さなんかも語っているのかも知れません。
・六代目中村勘九郎襲名披露口上
中村勘三郎の息子さん、勘太郎の勘九郎襲名披露です。弟さんなのですかね。、七之助も列席していました。
大変、重要な襲名みたいで、有名な役者さんが勢揃いでした。
松や鶴が描かれた襖。よく時代劇で見かけるような立派な舞台。
全員が一言、お祝いのコメントをするのですが、堅苦しい挨拶じゃなくて、ウィットに富んだ洒落た挨拶をされる方が多いのにびっくり。こんなこと書いたら怒られるかもしれませんが、ちょっとした笑点みたい。
暴露ネタなんかもありましたからね。勘九郎は広尾で一人暮らしをしてたこととか。
父の勘三郎はご存じのとおり、病気療養中。でも、この方は私みたいに歌舞伎のことを知らない人間でも、海外にまで活動の場を伸ばして、歌舞伎の魅力を真摯に伝えていった方ですよね。4歳の初舞台以来、ずっと勘九郎と46年間名乗っていたらしいです。その間に勘九郎という名が立派に育ったなんて言い方をしていましたが、素敵な言い回しですね。そして、その勘九郎を息子さんが継ぐ。
その重みは凄いものなのでしょうか、さらにその名が育っていくのかと思うと、歴史やら壮大なものを感じますね。
・新歌舞伎 十八番の内 船弁慶
勘九郎の見せ場ですね。
場所は尼崎の船着き場。
源頼朝にあらぬ疑いをかけられて、全国を逃げまどう義経の姿を描きます。義経は坂田藤十郎が演じます。
とにかく、疑いが晴れるまでは逃げるしかない義経。
こんな時に女房と一緒に逃げていたのでは、真剣味が無いと思われると思ったのか、最愛の静御前とここでお別れをすることにします。
それを告げる弁慶。市川團十郎。そんなつれないことをあの方が言うわけ無いと悲しむ静御前が、義経の前でお別れの舞を踊ります。
静御前、勘九郎。能面のようなメイクで表情を潜み隠した哀しき舞を披露。
表面は桜、裏面は紅葉といった扇子を使いながら、綺麗で美しい振る舞いです。
静御前とお別れした義経。船旅が始まります。
今度は船頭と舟子の踊り。
船頭は帆かけ船の模様の袴、舟子は櫂の模様。どちらも可愛らしい衣装です。
そこに現れる平知盛の亡霊。これがまた、勘九郎。
今度は先ほどとは打って変わって、妖気漂う姿に。同じ人とは思えない変わり様。
踊りもクルクル回ったりと激しい動き。
弁慶が数珠をジャラジャラ。知盛は封じられます。
花道にやられて取り残される知盛の亡霊を残して幕。
幕の外に笛と太鼓の人が出てきて、最後に豪快に暴れながら知盛が舞います。
そして幕引き。
幕というのにすごくこだわりがあるんですね。
二段オチみたいになっていますが、どちらもしっかり幕引きをします。
この作品は長唄囃子連中とともに舞う役者の美しさを楽しむみたいです。
・関取千両幟 稲川内より角力場まで
花道から力士登場。
無理やり着太りさせて、ずいぶんと貫禄ある姿のお二人が出てきます。
稲川、中村翫雀。鉄ヶ嶽、中村橋之助。
仲良しそうな二人。稲川の家でちょっと食事でもということになります。
家に稲川の世話女房、おとわがいます。
そこに、ある男がやってきて、稲川に早く200量を用意するように言います。
どうやら、谷町の人に頼まれて、太夫の見受け話の仲介をしているようです。500両はもう払ったが、残りがなかなか。
準備できないなら、違う人にしてしまうなんか言われて、稲川、困り顔。
その違う人が実は鉄ヶ嶽。鉄ヶ嶽も、同じように谷町がおり、その人に頼まれているみたいです。
そして、話は遡り、その鉄ヶ嶽の谷町は、茶屋でちょっと羽目を外した時に稲川にいさめられて、それを恨みに思っているみたいです。要は嫌がらせをしているのですね。
稲川、男のメンツもあるので、鉄ヶ嶽に何とか、ここは引いてくれないかと懇願。
これに味をしめて、鉄ヶ嶽は稲川に好き放題。稲川、じっと我慢。
そこに、今日の取り組み表が届けられます。
なんと、稲川VS鉄ヶ嶽。
鉄ヶ嶽、分かってるよなみたいな感じで、ニヤリと笑って立ち去る。要は今でもよく問題になるやらせ相撲ですね。
真面目な稲川はどうしていいのか、悩みます。
奥でこの顛末を隠れて聞いていたおとわ。
何とか力になってあげたいと思いますが、どうしていいのやら。
取り組みは近づき、おとわは稲川の頭を整えることしか出来ません。
もつれ髪を直す、鏡でその姿を写すなど、今の状況を髪を結えるシーンとうまい具合に同調させています。
場面は切り替わり、相撲場に。
浅黄幕とかいうものが一瞬で落ちて、パッと切り替わります。
取り組みは終わったみたいです。
たくさんの客が稲川は凄かったと絶賛。
テンションがすっかり上がっている客は、その取り組みを再現します。
取組前は稲川は顔面蒼白、鉄ヶ岳は余裕。どう考えても今日は鉄ヶ嶽だろうと。
実際、開始直後は稲川はすっかり押し込められていたみたいです。
ただ、途中、勝者には賞金200両が用意されるなんてことが伝えられます。
急に元気になる稲川。やぐら落としで見事な勝利。
賞金の200両は誰が用意したのか。
稲川は、取り組みも終わり一安心したところ、その事実を知ります。
その事実にあまりにびっくりして尻もちをつきます。ギバと言うらしいです。
それはおとわ。自分の身を売り用意したお金を賞金にしたみたいです。
駕籠で連れて行かれるおとわを涙ながら見送る稲川。
これまた、切ない。
というか、今回は全作品、みんな女が駕籠で連れて行かれてしまいます。
それも、みんな男のために。男のプライドを守るために。
拍手。自分の身を捨ててまでとは思いますが、男のプライドって奴は本当に大事なものですからね。
それをきちんと分かる女性の賢さ、そして愛情の大きさでしょう。
決していいことだとは思いませんが、そんな女性の男だったら絶対にしないだろうなという菩薩のような想いが綺麗に描かれているようです。
5時間の公演。
疲れましたが、やはり歌舞伎の魅せ方は本当に尋常ではない素晴らしさ。
伝統芸能という力なのでしょうね。
たっぷり楽しめました。
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