幻想忌憚【劇団蒲団座】121202
2012年12月02日 人間座スタジオ
一言で言うと、難しい。
都市伝説という嘘と、現代社会にはびこるコミュニケーション不全のような問題が、作品中に盛り込まれ、それらを一つに収束させて捉えれなかった。
パフォーマンス部分は、エンターテイメント性がとても高く、見ごたえがある。
感じとしては、壱劇屋みたいな感じかな。
ただ、話の展開とそのパフォーマンスがうまく連動していないように思う。
都市伝説ネタを絡めながら、ネットゲームの世界へ。
コミュニケーション不全、人間関係に病みやすい現代社会から抜け出したいという気持ちの隙を突くかのように偽りの虚構の世界へと飛び込んでいく若者の姿が描かれる。
嘘、偽りと分かっていても、そこに希望を抱かざるを得ないのだろうか。
メリーさんの電話に怯える女性。
そんな中でも、コンパに友達と一緒に行ったりして、まあ普通に生活している。
友達は何にも気にしていないみたい。いや、何かを知っているような感じである。
都市伝説であり、あり得ないことではあるが、現代社会の新興宗教の執拗な勧誘なんかとも絡めながら、それが現実にある真実のような形で描かれる。
会社の上司とうまくいっていない男は、ネットゲームの世界に自分の居場所を見出そうとする。ネットゲーム仲間が潜り込んだ都市伝説の偽りの世界へと後を追うように向かってしまう。
どちらの世界が現実なのか。生きやすい方を住む世界としてはいけないのか。
真実と嘘の間があいまいな形で生きている人たちの揺れ動く様が浮き上がる。
例えば、原発問題であったように、隠された情報の中では、それが明るみに出ない限り、世界に真実は見い出せない。真実か嘘の判断以前の話であり、その事実自体が存在しないことになる。
それだったら、たとえネット上であっても飛び交う真実かどうか定かでない情報をとりあえず真実として捉えて生きてしまうような歪んだ世界は普通に生まれてしまうのではないだろうか。
作品名の幻想忌憚にも通じるように感じる。
これは別に情報化が進んだ現代社会だけでなく、戦時中の日本の戦況など、世間の噂話なんかでも同じように感じる。
この噂のように拡がる、かつそこに希望を見出したい、現実からは距離を置きたいという人の欲望も含んでしまった情報が、都市伝説みたいなものとも捉えれるように思う。
現実は必ずしも真実から成り立っているわけではなく、だからといって嘘、偽りで塗り固められたものでもない。
人が創り出した、真実としたい偽の情報がおかしな形ではびこってしまっているようなところがあるのかもしれない。
ただ、そこにはいずれ、本当の真実が浮かび上がる時がやって来て、その時に酷い目に合ってしまう人の姿が見える。それでも、そんなことを幾度となく繰り返しながら、歴史はその時々の情報社会に応じた結末を迎えるように思う。
全体的にとても楽しそうな感じの雰囲気を出しながら話は展開するのだが、作品の本質はけっこう難しいことを言及しているようであり、なかなか素直に観れないところがある。
メリーさんの電話に怯える女性の話とネットゲームに入り込む男の世界が瞬時に乱雑に切り替わり、最終的にその二つをうまく収束させて観ることは出来なかった。
エンターテイメント性を持たせるためか、パフォーマンスのシーンも豊富に存在するが、それがストーリー展開にマッチしていないように感じられ、意表を突かれたような唐突な印象も受ける。
エンターテイメントのパフォーマンスシーンは見ごたえがあるのでしっかりと観る、でも、ストーリー進行部分はそちらに目がいっておろそかになってボーっと観る。
この観方では、恐らくなかなか作品の本質を捉えることは難しいだろう。
こちらの能力不足は否めず、十分に味わうことは出来ていないように感じる。
ただ、楽しく観させようとするところにかなりのウェイトは置いていたのではないだろうか。統率のとれたまとまった動きで魅せる演出は楽しく感じられたように思う。
役者さんのお名前と役がまだ一致していないところがあるのだが、一応、一言コメント。
河西美季さん。メリーさんの電話に怯える女。ストーリー中では少し消極的で理屈めいた感じの女の子。程よいいい加減な遊び部分が少ない感じで真面目な演技。パフォーマンス部分では、とても楽しそうな表情で魅力を発揮されていた。
その友達、儚恋美月さん。しっかり読み取れなかったが、無邪気そうな雰囲気に反して潜む影を持ち合わせたキャラだったのだろうか。
コンパの相手で警官、とのいけボーイさん(劇団紫)。とても愛嬌のある感じで、印象のいい方。ケセランはこの方だったろうか。憎めない可愛らしいところを巧妙に活かしている。
ネットーゲームに入り込む男、千葉優一さん(演劇実験場下鴨劇場)。今の世界をうまく生きていけない脆さを出す。精神的に弱い感じがよく出ている。
仲間の女性、咲々雪蘭さん。男とは逆にあっけらかんとした感じ。ネットオタクになるのはコミュニケーション不全とか言われるが、本当にそうであるのと、この役のようにそれを拒絶している形があることをうまく表現している。
メリーさん、島あやさん。ネットゲームに入り込む男の先輩、ゆうたそのださん。
このお二人が、いわゆるダンスでいう身体能力みたいなものが素人目からは際立っているような感じだったが。
新興宗教の教祖、坂口弘樹さん。この方が作・演。何とも奇妙な設定で、なかなか奇抜な演出をされる。演技はけっこう濃い。
ゲストで水月りまさん。Twitterですごく可愛らしい女の子に仕上がっていると書かれていたので、どんなものかと注目していたが、こちらは確かに嘘、偽り無かった。ネットーゲーム世界でのヒロインっぽい役をされる。一番、女の子らしいキャラではあった。
都市伝説を単なる面白おかしい噂話だけとして捉えず、そこから、そんなものが話題となり続ける今の社会への警鐘を促すような話だった。
情報が単なる記号のような形ではびこり、そこに人の想いが感じられなくなっている。
そんなところに、人のコミュニケーション問題が生まれているののではないかと伝えているのだろうか。
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コメント
ご来場ありがとうございました。
専門用語が多い中このようにいろいろと書いていただけてありがたいです。
ブログを読ませて頂いて、表現しきれなかった部分があったんだなと少し悔やまれます。
また精進して行きたいと思います!
ありがとうございました!
投稿: 河西美季 | 2012年12月 3日 (月) 18時07分
>河西美季さん
コメントありがとうございます。
お疲れ様でした。
すいぶんと楽しそうにされてましたね(゚▽゚*)
今回はちょっと私の苦手な感じの作品だったかな。
発想や演出の面白さは魅力的ではありましたが。
まだまだ、観る側の私も、観劇能力を上げないといかんですね。
また、どこかの舞台で。
投稿: SAISEI | 2012年12月 4日 (火) 16時08分