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2012年11月18日 (日)

南風、はるかから【演劇畑ハッピーナッツ】121117

2012年11月17日 芸術創造館

劇団として3回目の観劇。
観劇した前2作品と、かなり雰囲気が異なるので、少々違和感。
でも、この作品は王国シリーズという三部作の中の第一弾で、劇団としても長い歴史のある作品らしい。
要は、違う一面も持った劇団であることを私は知らなかったみたいだ。

作品は王国を舞台に、裏切りや憎しみがはびこる中、子供たちが自分の道を切り開くために必死に駆け抜けていく様子が描かれる。
作品名から感じられるように、温かく希望ある未来を感じさせる話だった。

冒頭のシーンは10年前の王国。
主人公のシナモンが思い出すように語り始める。
技術者の親を持つ子供たちが集められ、監禁された。
少年だったシナモン、友達の甘えん坊のチコリ、気が弱いサフランもその中にいる。
夜中、目を覚ますと、街が燃えている。隣の帝国が攻めてきたらしい。
街は壊滅状態。恐らくは親も・・・
火はこちらにも近づいてくる。
そんな時に、一人の中年男、バジリコが現れる。彼は、特殊能力を使って、秘密の地下道の鍵を次々に開けて、子供たちを国境近くの安全なところまで避難させる。
悲しみに暮れる子供たちを励まし、姿を消す。
シナモンに父親がかぶっていた帽子とそっくりな帽子を渡して。
南風が吹いている。彼の背中がそれを受ける。シナモンが覚えている景色。

それから、10年。
シナモンは仲間たちと窃盗団を作って、何とか自分たちだけで生きている。
同じ町のコロナという女の子。おばあちゃんと一緒にこの街に住む。盗みの腕は大したもので、シナモンはライバル視しているが足元にも及ばない。
そんなコロナがある日、何者かにさらわれる。
憎たらしいコロナだが、大事な友達。
シナモンは仲間と共に後を追う。
そこは、王国の宰相の屋敷だった。
宰相の冷徹な部下に見つかり、追い詰められるが、そこに一人の中年男が現れる。
何か盗みを働いたらしく、刑事に追われて逃げてきたみたい。
シナモンは気付いていないが、バジリコだ。
間一髪、逃げおおせたが、ここからシナモンの運命が動き出す。

10年前のあの事件。
あれは、宰相の仕組んだ罠だった。
そして、今、長い年月を経て、宰相はその計画の最後を迎えようとしている。
そのために、帝国の王室の血を引くコロナが必要だったのだ。
宰相の陰謀の正体は。王国と帝国をまとめて、わがものにしようとしているのか。
シナモン、バジリコ。それぞれの想いを胸に、それが暴かれていく。

実際は、バジリコを追う刑事、宰相の館にメイドとして忍び込み、お宝を狙うおかしな女性二人の窃盗団、コロナを守るために共に過ごしてきたおばあちゃん、宰相がこの王国を戦争の被害から復帰させることを信じて街で身を隠して見守る女王、そして、どうも出来が悪くて困り者の王子なども絡みながら、話は展開する。

最後は、10年もの月日をかけて、宰相に踊らされていた人たちの姿が浮かび、ようやく、それに気づいた人たちが自分たちの国を守るために各々の立場で立ち上がる。
バジリコは、全てが解決した後、この街を去る。
シナモンは国境を越えようとするバジリコの姿を見る。
その姿は、あの日と同じ。南風を背中に受ける彼の姿があった。
あの日、自分たちに、己の力で頑張って生きていくことを教えてくれたその姿が、今また、同じように自分の道を切り開いて王国を守って生きていけという新しい景色となって、シナモンの目に焼き付く。

話はまとめると、悪者は宰相だけであり、要はそいつに騙されていたことが徐々に明かされていき、やっつけて、これまでの時を取り戻すかのように、新しい王国への希望を感じさせる形になっている。
北風という厳しい時を味わってからでないと、温かい春を告げる南風は吹かない。シナモンの親の教えだったみたいだ。
10年前のあの日、つらい状況に追い込まれたみんなが、南風の到来と共に、それなりに頑張って今を迎えた。10年経った、今、また、こんなつらいことが起こった。でも、必ずそんな北風の後には、南風が吹く。そして、自分たちはまた新たな道を切り開いて頑張っていくのだろう。
そんな一瞬の景色を、人は何度も目に焼き付けて、人生を頑張っていくのだといった感じだろうか。

話自体はスムーズだと思うのだが、観ている限りでは、とてもごちゃごちゃした感を得る。
王国の街の人などは、役を兼ねたりするので、少々混乱を起こしやすかった。
本筋だけを直線的に進めて行っても、それはそれで何も面白くないことは分かるが、少し不要に筋を遠回りしているような展開が感じられた。

シナモン、春海るりさん。元気いっぱいの少年の姿。人のやましいところを見る経験を踏まえながら、その中でも人のことを想える人たちの優しさを感じて成長していく。そんな姿が浮かんでくる。
チコリ、山本なぎささん。幼く、甘えん坊の姿から、ちょっと自分だけでも何か行動できるようになった成長したところを見せる。この役だけでなく、子供たちは、話の展開と共に、少しずつ大人へと成長していくところが感じられるようになっている。バカ王子の役も兼ねており、この時は、ひどい有様に急変する。
サフラン、霜方幹也さん(劇団ウェスト)。少々頼りなく、引っ込み思案で、コロナに恋心を抱くけど相手にしてもらえないなんて、ちょっと切ない男。でも、自分で軍隊に入ってみたりと、自分を変えていきたい心はたっぷり。きっといい男になるから頑張れよなんて応援したくなるような微笑ましい役どころ。
コロナ、小澤美代さん(hima*neko style)。幼そうな外観に反して、無茶苦茶に柄悪い憎たらしいお姫様。常に人をおちょくるような言動をするが、寂しい心の裏返しになっていることがお見通しである。仲間を救う時の決断、おばあちゃんが無事だったことを喜ぶ。肝心な時に本当の素敵な表情が見られる。

女王、松浦由美子様。街に姉御のようになって潜んでいた女王様。育ちの良さか、人を善意でしか見れないような、悪く言えば世間知らずだが、そんな優しさを思わせるキャラである。芯が強く、凛としている印象も受ける。バカ王子との掛け合いでは、女王という権威を外れて、少し母親の様相を見せたりするところもうまい。
刑事、成瀬トモヒロさん。面白刑事さん。空回りして、全然、うまく事が運ばない状況をニヤリとしながら見る。一人でボケて、自分でその場を回収して笑いをとっていく様などはさすがの貫禄。
バジリコ、中平裕さん。いい役どころだから、そりゃあかっこいいよなあ。最後にこの男が大きな罪を背負っていることが明らかにされる。その罪を昇華させるにはまだ時間がかかるのだろうか。二度に渡って、子供たちに生きる道を示している。子供たちも立派に成長している。もう、王国で共に暮らす日が迎えられてもいいなと思うのだが。

宰相の屋敷に忍び込んだ二人組、初恋双葉さん(魔法のチョコレート)、小津もころさん(劇的☆ジャンク堂)。
実は一番面白かった。お宝ハンターといっただけで、筋にどこまで絡んでいるのかよく分からないけど。
双葉さんの綺麗な外観のイメージを完全に崩すキレたキャラ。気持ち悪い動き。
もころさんのボソっとしたツッコミ。変なのと付き合ったばかりに不条理な方向に向かってしまっている自虐的な笑い。うまい掛け合いで楽しかった。

宰相、熊田洋司さん(感動Factory)。悪い。とにかく悪いことばかりずっと考えているから、その表情に悪がこびりついている。10年もの間、悪だくみするなんて大変な話で、その執着心が一番怖い。その不気味なところがにじみ出ていた。
部下、川崎智洋さん。男が愛着わきそうなキャラかな。侍って感じだもの。どこかの漫画でもあったかな。自分の名前を知る者はいない。名前を俺が名乗った時、お前は死ぬからなんて言いながらバッサリ斬っていく人生を過ごす剣士。でも、まとわりついてきた犬なんかには優しい。そんな感じ。この方も、やはり執着かな。善悪は結局、人の判断で、その人にとっては必死に背負う大きなものだったということなのだろう。

王国シリーズ第一弾の、再演。
つらさ、苦しみを超えて、新たな道へ向かっていく少年・少女たちの希望を感じさせられる話でした。

この日は、おまけ公演で、ラジオ・スターダストという同じく王国シリーズ第三弾の作品のダイジェスト版が上演。こちらは、DVDを購入したので、またいつか感想を。

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コメント

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。

投稿: 職務経歴書のダウンロード | 2013年1月30日 (水) 13時16分

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