続・剥製の猿【遊気舎】121101
2012年11月01日 インディペンデントシアター2nd
前作は、異常気象が続く不穏な状況に、金環日食、死者と出会える月の世界、羽曳野の伊藤たる不思議な導く者、UFO、さらには山を守る天狗など、ファンタジー要素が強い中での失ってしまった大切な人を想う人たちを優しく描いた作品だった。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/120601-5ffc.html)
今回は厳しい現実だ。
世界は普通で、綺麗な夕焼けが見えている。
導く者は話題にはなるが出てこない。UFOは飛ばないし、月にも行けない。死者に会うことだって出来ない。
あの人は天狗になって山を守っているなんて、そんないいような捉え方はせず、死という形で見せつける。
そして、新たな大切な人との別れも出てくる。
失った大切な人とはもう会えない。
二度と会えなくなってしまった悲しい現実を、ファンタジーの世界で癒したりしていない。
だとしたら、失えばもうそれでお終いなのか。
そんなことは決して無い。生きている私たちは、その死を見つめて、歩んでいける。
そのことを厳しくも、優しく力強く描いている話だったように感じる。
舞台は前作と同じ山小屋。
はっきり覚えていないが、全く同じなのかな。小さな川に橋。山の頂上へ向かう道が舞台奥へと続く。
季節は多分、前作は6月だったから夏から秋へと変わったような雰囲気を出している。
ただ、山小屋が半分ぐらいつぶれている。
どうも、キャンプ小屋みたいに改築しようとしているみたい。
前作のこの山小屋で起きた事件から半年が過ぎている。
山小屋にはまだ、母と娘が住んでいる。
前作で犯罪を犯してしまった先輩と、それをかくまうためにやって来た後輩とその後輩がちょっと気になっている女性の3人組はたまに出入りしているようだ。
特に後輩は、頑張って小屋の改築をやっている。
先輩と共に働き口も見つけたみたい。
今日は口うるさい社長を騙して、後輩は北海道に出張に行っていることになっている。
そのとばっちりで先輩は社長のお伴をしないといけない。
両親がいない後輩と一緒の女性。そして、事故で妻と息子を失った先輩。
こんな孤独でつらい環境で生きてきた3人も、あの事件で人との絆を作ることの大切さを知って、少しずつ変わり始めているみたいだ。結構なことである。
この山小屋に久しぶりにあの時のメンバーが集まる。
全員喪服。
山小屋に住む母と娘。行方不明になっていた父の衣服が山で発見されたらしい。
遺体は無いが、死と認定された。だから、今日は葬式だった。いつまでも、天狗になって山を守っているなんて言ってられないといったところだろうか。
つらいだろうが、けじめはつけれて良かったのではないか。
母はこの後、夫の実家に向かっている。一つの時の終わり。だからと言って、これまでの夫との絆までもが消えるわけではない。人生の一時を夫と過ごすことで得られた人との絆に感謝といった感じかな。
娘は、やはり複雑みたいだ。その感情を悲しみだけに追いやることも出来ないし、平然としているほど強くも無い。後半に母の姉、つまり叔母が登場する。まあ、呉服問屋の女将なので言葉も態度もきつい。でも、この人と会った時に、声だけを昔、聞いたことがあると気づく。それは、まだ母親のお腹の中にいた頃。
父と母がいて、その家族もいて、その中で自分が生まれてきた。行方不明の上に最終的に失った大切な父。孤独を感じる自分の心の中に、決して今、存在している自分は一人では無いことに気付かされたかもしれない。
あの日、月に行って会いたい人と出会った4人。
山小屋の母と娘、愛する妻を失った男、亡くなった旦那のことが忘れられない女性。
男と女性が、なんかちょっといい感じになっている。
特に女性は、ちょっと好きですアピール具合が凄い。葬式という場で不謹慎ながらも、きっとこの日、男と再会できることを心待ちにしていたに違いない。勝負衣装まで用意している周到さ。
そして、男も苦笑いで躊躇しながらも、きっと悪い気はしていないはずだ。
大切な人を失い、一度止めた時がまた進み始めているのか。
死んだ大切な人を忘れることは無いだろう。でも、今、まだ生きている自分は、その日が来るまでを精一杯、幸せを得ながら生きなくてはいけない。
死を昇華して、自分の生をようやく見つめれるようになった姿として、また人を愛するという形での表現はとても微笑ましくていい。
月には行けなかった人たち。
一目でいいから親の姿を見たかった後輩や女性。
妻と娘ともう一度会いたかった先輩。先輩は、もしかしたら何か起こるかもと、月に誰かがまた行けた時に子供に渡すように服と絵本のプレゼントを後輩に託している。
母を亡くし、再婚したどうしようもない父の面倒を見ながら生きているヘルパーの女性。彼女も母に会いたかった。
前回は月には行けなかった。もちろん、今回も行けない。
なぜ行ける人がいて、自分たちが行けないのか。
不条理な思いもあるだろうが、それでも、この人たちも、あの日から半年で自分たちの生き方をしっかりと見つめ直しているようである。
厳しいのはラスト。
悲しい人を失うのは人生でたった一度きりとは限らない。
何度も何度も、失うたびに悲しみ、つらさを噛みしめて、生き残る者は立ち上がらないといけない。
人生、甘くない。酷いくらいに甘えさせてくれない。
また、きっと半年後ぐらいに、次回作があるだろう。
さらに、この人たちはきっと強くなっている。
そして、自分たち自身で、自らの生をしっかりと掴む姿を見せてくれるのだと思っている。
目を引いた役者さん。
中盤は完全に小川十紀子さんの独断場。男に激しい好きアピールをする女性。分かりやす過ぎる姿に会場も沸く。こんな面白い人だったんだあ。相手の男、西村政彦さんの困ったような嬉しようなの可愛らしい姿も素敵。
後半は、魔瑠さんの呉服問屋の女将キャラで会場を惹きつける。それまでの山小屋のちょっととぼけた優しい母親役との真逆の演技が光る。
ラストは長尾ジョージさん。孤独な人生をずっと過ごしてきた男が得た信頼できる先輩も、自分も原因の一つとなった形で失う。その悲しみだけを目一杯演じて幕が降りる。不思議と涙は出なかった。いい加減なデリカシーの無い男だが、この人の生きる強さもこれまでに感じさせられているから。きっと、これも乗り越えて、いい人生を掴むはず。そう確信させるキャラに自分の中ではなっているので。
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