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2012年10月16日 (火)

幸せはいつも小さくて東京はそれよりも大きい【アマヤドリ】121015

2012年10月15日 元・立誠小学校 音楽室

劇団競泳水着、ロロ、ニッポンの河川、そしてここ。
これだけ連続して、魅力的な作品を見せられたら、やはり東京は面白いんだなあと思うしかない。普段、劇場でお会いする観劇客の方が、毎週末のように東京にまで観劇に行く気持ちが少し分かってきました。
もちろん、関西だって負けてはいませんが。そもそも戦う必要もないのですけどね。

普段、観劇している関西の劇団とは何かは違う。これは、どっちがいいとか悪いとかは無いと思うのだが。
ただ、間違いなく洗練された話に、かなりの魅力を発揮される役者さんが揃っているという印象は大きい。
恐らくこの劇団特有の演出なのだろうが、動きや言葉の使い方が斬新だなあとは強く感じます。

男二人に女一人のルームシェア。
小田と星野は高校のハンド部の同期。星野と仁村は居酒屋のバイト仲間。
小田は法律家を目指していたが、あきらめて今は情報系の会社で働くおとなしめの男。
星野はちょっとデリカシーの無い猪突猛進型の男だ。
仁村は男兄弟と暮らしてきたので、こんな男たちとの生活も女ながらうまくやっている。実はちょっと星野が気になっているみたい。そんな素振りは一切見せないのだが。
まあ互いにほどよく接し、プライバシーも守りながら楽しく生活している。

ある日、星野はコンビニで一人の女の子と出会う。
その子は何と監禁されており、そこから逃げ出してきたのだという。
とりあえず、家に連れて帰る。
でも、もうすぐバイトの時間。バイトは休めない。何と言っても今日は好意を持っているバイト仲間の女の子にヘルプを頼まれているから。
星野は小田に事情を説明し、警察に連れて行くように頼む。
ここで、警察にすぐ行っていれば、こんなことにはならなかったのだろう。
どういうわけか、小田は自分がこの子を守るという決意をする。
彼女の携帯に電話がかかってくる。恐らく、監禁していた男だろう。執拗に彼女を電話に出せ、返せと言ってくる。
自分が守ってあげないと。小田は思う。

話はここから歪んでいってしまう人たちを描いている。
今は散り散りになってしまった3人。
星野と仁村があの時のことを思い起こし、確認していくかのようにドキュメンタリータッチで語っていく。

奇妙な4人の生活が始まる。
小田は彼女を守ると張り切っているし、女の子もそれで安心しているようである。いつも、窓辺に座って、どこを見るともなく何かの音を聞いているようだ。
でも、星野と仁村は先行きに不穏な空気を感じている。
星野はハンド部の先輩に相談する。
奥さんが付いてきており、夫婦ケンカに巻き込まれてしまう。どうも、奥さんが浮気を疑っているらしい。
そうこうしているうちに、偶然、ハンド部の後輩とも出会い、久しぶりにみんなで飲み会。
小田ももちろん呼ばれる。
みんなでワイワイ。暇してるなら、近々ハンドの試合をしようなんてことになったりする。
小田は心ここにあらず。家に残している女の子のことを考えている。

試合当日。
星野と小田は出かける。
小田は女の子が気になるので、試合には出ないですぐに帰る。
ところが、女の子はどこかへ出かけたみたい。
自分の携帯を残し、小田の携帯を持って。
心配した小田は半狂乱。女の子の無事を祈って、色々なところに電話をかけまくる。
夜になって帰って来る女の子。何も言わず、抱きしめる小田。

監禁していた男から電話がかかる。
小田がいない間に、女の子は電話で自分と話している。あいつとはやったのか。いつでも、見つけれる・・・
小田の不安を煽るような言葉が浴びせかけられる。
小田は徐々に病んでいく。
女の子をもう外に出さない。動けないようにテープで腕を縛る。外も見えないように目を覆う。監禁。

こんな状態を咎める星野と仁村。
やはり、警察に連絡するしかない。
小田は受け入れない。支離滅裂なことをいって、何とか自分を正当化しようと必死。
女の子は監禁していた男を自分が殺したとか言い出す。
それを知っていたのか、必死で女の子の口をふさぐ小田。
もう、どう進めればいいのか分からない状況に・・・

小田と女の子はその夜、語り合う。
社会の観客。プレイヤーでいたくない。
でも、こうして静かに暮らしているだけでも、社会に参加してしまっているような気がする。
二人でひっそりと暮らす。もう天涯孤独ではない。ずっと一緒。

数日後、女の子は家を出ていく。
自分の携帯を残して、小田の携帯を持って。
小田は狂う。引きこもる。
家からは仁村、星野と順に出ていく。
星野はたまに小田の様子を探るがよくは分からない。
ネットで女の子を探すSNSを立ち上げていた。でも、それすら今は星野には非公開なので見ることが出来なくなった。

誰もいなくなった家で一人、小田は女の子の携帯から自分の携帯に電話をかける。
男が出る。
誰だ、女を出せ、返せ・・・
向うにはかつての自分の姿が浮き上がる。

小田や女の子。
異常ではあるのだが、
何か分かる気がするといった感じで、誰にでもある心の脆さを刺してくるような話。

途中、仁村の星野への恋心、星野のバイトの女の子への恋心、ハンド部の先輩夫婦のエピソードなどが入り込む。
こんなもどかしいけどいいなと思わせる恋って姿との対比があって、小田と女の子の関係が非常に悲しく切なくなってくる。特に、夫婦のエピソードは監禁ではないけど、束縛だとか不安がもたらす疑いなどのキーワードがあり、この愛する人を自分だけが占有したいなんて気持ちは根本的にあるのに、どうしてこんな違った形に二人はなってしまったのかなと。
ハンド部の昔の試合でのエピソードもある。逆転できたのになぜか、反撃するためのボールが投げれなかったみたいな話。
感覚的だが、その時できる当たり前のことを出来なかったなんてことは往々にしてよくあることであり、この話もそんなところに集約されるのかなとも感じる。

女の子は監禁されたんじゃなくて、監禁させたということなのかな。そうして、逆に男を監禁している。
男を殺したというのは、事実はどうだかは分からないが、社会という試合場から立ち去る、プレイヤーでいなくさせることを死と同一視するなら、確かに殺したのだろう。
男は自分で自分自身を監禁することになっており、願いどおりに社会の単なる観客でいられるような状況にまで運ばれてしまっている。
どうしてこんなことをするのかはよく分かりませんが、そうやって生きていくことを選択した子なのでしょう。歪んでいますが、これも一つの愛の形なのかもしれません。

役者さんはロロに引き続き、美男美女が揃っている。関西だってかっこいい人やかわいい子はたくさんいますけどね。連続で見せられると、やはり東京はその確率は高いのかなあと思ったり。

女の子の笠井里美さん。年齢不詳。子供のようでもあり、女性のようでもあり。素朴めいたものを感じさせたり、ずるいあくどさが見えてきたり。幻影のような感じでこの作品の雰囲気にはぴったり。まあ、確かに守りたくなる。
小田、渡邉圭介さん。この方、よかったなあ。もういっぱいいっぱいになっておかしくなっていく姿が。自分ルールで正当化していこうなんて語りはもちろん、はたから見ればいらだちますけどね。そこに脆いなあ、弱いなあといったところを感じさせられます。この人だけがそうなのではなく、人はきっとそうなんだろうなと思わせるところが、話に共感を生み出しているように思います。
星野、松下仁さん。典型的なお調子者キャラですが、実は友達想いで、決める時にギャップある真剣な表情をされます。
仁村、小角まやさん。肝っ玉座った女性。男兄弟で育ったなんて背景がとても理解しやすい貫禄ある方でした。女の子に対して、同性としての視線なのかな。イラダチと疎ましさが見える表情がきつい。
バイトの女の子、榊菜津美さん。この方が、我らが石田1967賞を受賞した方かあ。どんな方なのか注目して観ていましたが、まあ元気で可愛らしい女性。観ていて気持ちがいいですな。ガールズトークのシーンとかも若さに溢れている。また、違う作品でも観てみたいですね。
ハンド部の先輩夫婦、稲垣干城さん、田中美甫さん。ここが美男美女の典型例。上記しましたが、この夫婦のくだらないケンカは話全体にどう効いているのかな。対照的な姿。一般的な幸せ像として捉えていいのだろうか。ケンカの理由がくだらなすぎるだけにあまりにも微笑ましいカップルに仕上がっていました。
ハンド部の後輩、中村早香さん。てやんでえみたいな江戸っ子キャラ。こんな威勢のいい外面の中に過去の試合での悔いが残っていることが分かります。心の中に閉じ込めたものを、そのままにせずに、自分の中できちんと消化する。だから、こんなに元気がいいのでしょう。ここも小田との対照的な印象を受けます。
監禁していた男、糸山和則さん。怖い。と思っていましたが、結局、小田の行き着く先は彼であり、彼もまたかつては小田であったというようなラストを知ると、おとなしいイメージの小田とオーバーラップして見えてきます。

シーン切り替えはこの劇団のスタイルなのでしょうか。
どんなのかはうまく書けませんが、独特の動きを集団で行って転換しており、キレがあってなかなか良いです。
連続する言葉をテンポよくスピード感たっぷりに紡いでいくようなところも見事。

また、東京に行ってでも観たいなと思える劇団が見つかってしまいました。
困ったことです。

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