ミチヅレ【Origin Waste プロデュース】120919
2012年09月19日 インディペンデントシアター1st
重く苦しい気持ちが残る話だった。
想像の中で掻き立てられる死や影が恐ろしく、どうしようもない悲しみを感じる。
でも、それを感じたからこそ、得られる生や光の部分なんてものもあるのかもしれない。
自分の記憶をたどりながら進んでいく話。
そこには多くの人との関わり。それがたとえ悲しいものであっても、今の自分を形成する大切なこと。
そんな大切な記憶をもう一度思い起こしながら、強く生きていきたい、生きて欲しいという祈りを感じる作品のように思う。
一人の男が山道を歩いている。
時期は夏。蝉がうるさい。太陽の光は山の木々に当たり、地面に白と黒のコントラストをつける。
男はボイスレコーダーを手にして、口述筆記を行いながら山道を進む。
目指すところは、もう今は廃村となった自分の生まれた村。
色々と思い出す。
ここまで来た時に乗ったタクシーの運転手。誰も住んでないから、携帯は通じないだろうねえ。何しに来たの。写真撮ったりしてミニブログするんだあ。ここは携帯通じるなら、帰りはまた自分を呼んで。往復で1時間もかからない山だから夕方ぐらいにでも。
同僚。何でそんなところに行くの。取材かあ。
役場の人。その村のパンフレットは無いですねえ。このあたりは温泉とかもあるから、是非、泊まっていって。
歯医者。親知らずが虫歯になってる。かなり悪いよ。すぐに抜かないと。しばらく出掛けるのか。帰ったらすぐに抜きましょう。
コンビニの店員。チーズ、地図・・・ かたことでよく分からない。
この山に来るまでの自分。今の自分が描かれる。
一人芝居で、演じられるのはほとんど、自分と接触した相手側。自分の部分は、ボイスレコーダーを通して語っていることもあり、どこか客観的に自分を描いているような感じである。
親知らずが痛む。
あれっ、痛みが無くなった。親知らずが抜けている。
気付くと、一人の男が立っている。自分の傍にずっといたと言う。
その男をミチヅレに道を進める。
そこは階段であり、降りると井戸がある。
そこで、男は深く深く沈んでいきながら、もっともっと昔の自分をたどっていく。
ここでも最初に演じられるのはミチヅレの方であり、自分がもう忘れてしまっているのか、記憶から消したのか、そんな部分が自然と浮き上がってくるような客観的な印象が残る。
最後は自分となって、そのあいまいな記憶から引き出された自分というものを男は掴んだような感じだった。
前半部分のこうして、ただ山を登るという一つのことに対しても、今の自分と何らかの形で関わる人たち。深くたどっていけば、もっと多くの関わりが見えてくる。でも、そこには今の生きている自分が存在することに、死とか影とか悲しい部分にも気付かないといけないつらさみたいなことが伝わってくる。
震災はそれほど意識して創られていないということらしいが、やはり想像してしまうところは多い。
まず、舞台美術は黒の床や壁に白いペンキをぶちまけた感じのもので、それを白黒のコントラスト、光と影のような形で表現しているようだ。それは作品中の井戸の水の奥深くに沈むシーンでは、津波というイメージが出てくる。
途中、私の潜在的な偏った観方のせいだろうか。白い模様が、照明の関係で目を背けたいものに見えた。
客席から向かって中央よりの左部分、右の端っこ部分は、波にさらわれる人が手を伸ばして助けを求めようとしているような形に思えた。
男が向かおうとしている廃村も、村を捨てざるを得なかった、要は原発事故で立ち入り出来ずに廃れた村、津波で一瞬で消えてしまった村を彷彿させる。
アフタートークで演出の笠井友仁さん(エイチエムピー・シアター・カンパニー)が少し言及されたが、男は死のうとしていたのではということ。
途中、タクシーの運転手がまさか死のうとしてるんじゃないよねとかいセリフもあって、私はずっとそういう観方をしていた。死ぬまでの強い意志は無いけど、もうこのまま消えようと思っている感が強かった。
最後、男の親知らずは実は抜けていなかった。相変わらず痛いまま。そして、携帯の電波を探しながら山を降りていく。
よくは分からないが、痛みを消すことが、物事を解決することではないのかなと感じる。
男は痛みと付き合って、また、下界で暮らさないといけない。治療は受けるだろうが、悪化した虫歯だ。相当な苦しみをもってそれを取り除くことになるだろう。でも、それを男は選択し、そんな苦しみがあっても、また下界で生きようと考えることが出来たのではないだろうか。
そう考えることが出来るようになった理由が、この山で自分の歪んで押し込めてしまった記憶と向き合ったことにあるような気がする。
死や影の部分。正直、あまり考えないようにしたいし、可能なら目を背けてしまいたい。
それをこの話の中で見せられた気がする。
でも、それと同時に今、生きている自分、そこに差し込む光みたいなものも感じれたように思う。
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