この海はどんなに深いのだろう【A級MissingLink】120917
2012年09月17日 ウィングフィールド
あの3.11をテーマにしているのは確かであろうが、それを前面に押し出した感じではない。
起こった出来事、被害者をはじめ、距離の遠近はあるものの関わりのある私たち。
それを深く掘り起こしてみて、様々な出来事のつながりを確かめているような話だった。
あまりにも大きな震災という事件は、巨大すぎていまひとつ感じにくい。
それを分解して、一つ一つのもっと小さな出来事レベルにまですると、とたんに身近に感じられ、多くの気持ちを理解していけそうな気がする。
例えが分かりにくいだろうが、素因数分解しているみたいな感じかな。大き過ぎる数字はピンとこないけど、分解のある段階までいくと、大きい小さいなどが感じれるようになるみたいな。
ある島で男と女が駆け落ち。男は村の宝であった黒い箱を盗む。
その孫娘、真奈海がどこかの島の民宿に生まれ育つ。
大学生の前田と宮吉がその民宿に遊びに来た時に、肝試しの下見で立ち入ってはいけない所にまで入り込んで、黒い箱を見つける。
それを見つけた真奈海は前田にビンタ。これが二人の出会い。
前田は真奈海がいながら、偉い先生の娘、琴美とお見合いをする。もっとも、無理矢理の見合いみたいで、断られるようにうどんを鼻から食べるという荒業をやってのけたみたいだが。
琴美は、真奈海を訪ねる。白黒つけるためにオセロをしようなんて皮肉を言われるが、前田は琴美と結婚する方がいいのだろうと真奈海は思っている。
二人が出会った場所で、前田と真奈海が暗闇の中、たたずむ。
何か災害が起こったようで、民宿は壊滅状態のようだ。
道はつぶれ、二人はこの場所に取り残されている。外は雨が降っており、建物内は雨漏りしている。風も強い。
黒い箱を見つける。そして、民宿から持ってきた果物ナイフ。
轟音がする。目の前に高潮。
宮吉は駆け出しの小説家となっている。そして、そばには琴美。もうすぐ、結婚するらしい。
上記したような話を書いて応募した作品が、編集者の目に止まったみたいで、編集者とその部下が家を訪ねてきている。
編集者は怪しく、男らしさを盛り込めなんていう訳の分からないアドバイスしかしない。
おかげで、それを真に受けた宮吉は、乙姫がみそめた浦島を体を張って本当にいい男かどうかを調べる亀次郎とその子分、佐吉の訳の分からない話を作ったりしてしまう。かろうじて、玉手箱という形で黒い箱のキーワードは残っている。
実は編集者は、そんな仕事なぞしておらず、黒い箱が気になっており、宮吉から情報を手に入れようとしている。
そのため、実際にその島に行って取材することを薦める。
宮吉、琴美、編集者、部下は島の民宿を訪ねる。
そこには前田が働いていた。大学を辞めて以来の久しぶりの再会。
黒い箱はもうここには無い。
あの日、全てが流されてしまったから。
民宿に残る資料から、黒い箱のことを調べる。
一方、浜に流れ着く流木を集めて作品を創る芸術家の女性。
不思議な女性が訪ねてくる。真奈海だ。幽霊みたいな存在だと言う。
黒い箱を見つける。ここに流れ着いていたらしい。
真奈海はこの箱の思い出を語り、二人はその島を訪ねることにする。
前田は黒い箱のことをよく調べており、深海の生物の成分とかが検出されたレポートを書いていた。
それもそのはずで、この箱は漁師の儀式に用いられた物だったみたいだ。編集者は元漁師で、その儀式を最後に行った人である。箱を取り戻そうとしているのである。
真奈海は芸術家の体を借りて、前田とあの場所で会う。
前田を殺そうとしたりするが、本気では無いみたい。
もう恨みとか憎しみとか悔いとかは、遠いところにいってしまっているみたいだ。
編集者は黒い箱を芸術家からもらおうとするが、芸術家はいつの間にか島を出て行ってしまい行方不明に。
結局、無駄足だった。
と、こんな話をしようとしている劇場のシーンで終わる。
回想や、小説の劇中劇が盛り込まれているので、あらすじは不明確だがだいたいの流れはこんな感じだと思う。脚本が販売されていたので、買おうと思ったけど、どうも慣れ親しみのない脚本という形式のものは未だ読んだことが無いのでやめた。
最後は何だろうか。メタフィクションということなのだろうが、その前に一度、宮吉の小説でそういう構成であることを伝えておいて、島に行ってからは現実の話になっていると思ったが、それすらメタフィクションだったという解釈となるのかな。
要は全て、物語ですよということか。
たった一つの箱にも、長年の歴史。
様々な起こった事件を記憶として持っている。
私たちが見ているのはその一瞬で、その記憶を紡ぐのが物語という感じかな。
作品中の高潮は、震災の津波をもちろんイメージしてしまい、流れ着く物たちに残る様々な出来事をたどっていくことが死者への慈しみの一つの手段かもしれない。
たどってもたどっても、はるかかなたまで、その物語は続いていく。作品名のイメージだろうか。
今、この瞬間の人って小さいのかな。でも、そこにはその人の長く時間をかけて紡いできたたくさんの出来事がある。それが人の歴史となっている。その歴史には多くの人が関わる。そして、また、その人の歴史を共に生み出している。深く深く潜り込んでいきながら、つながりを感じていくことで、世界は出来ているようだ。
物語が出来上がるまでの話の連鎖を示すような難しさがあるが、実際観ていると喜劇のウェイトも高く、民俗学をテーマにしたドラマを観ているような楽しいところも多い。人の情の深さや今を生み出している伝統的な歴史など、感じることも多種多様だった。
結局、一番印象に残っているのは、劇中劇の浦島太郎のくだり。幸野影狼さん、松原一純さん、山本正典さん(コトリ会議)のあまりにもバカバカしいやり取りはかなり笑えた。
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