定点風景 劇場版 森の灯台と、赤の広場の夜【大阪大学劇団六風館】120909
2012年09月09日 シアトリカル應典院
昨年、彗星マジックが1年間の毎月公演の集大成として行った作品。
大好きな劇団で、その中でも、この作品はピカイチ。
六風館も注目している劇団で、この作品をされるのを知った時は嬉しかった。
そして、期待したどおりの素敵な作品を観れて、とても幸せだ。
(彗星マジック公演2回目観劇の感想:http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-0e15.html)
あらすじとか、話としての感想は上記の記事を参照。
この作品の厳しく残酷な一面と、優しく希望あふれる喜びの一面があるファンタジー世界を、とても丁寧に紡いでいっている感じかな。
六風館は少しスマートで落ち着いた印象が私の中にはあって、前半はそれが顕著に感じられる。作品の世界観を静かにじわじわと描写する。ここはとてもいい。演出だとか劇団色といったものなのだろうか。しっかりとした力強さがある。
後半は、各役の潜めた感情がどんどん高まっていく。高ぶる感情を心の底から発する真摯な言葉一つ一つがとても美しく、心を揺さぶられる。ここは各役者さんの魅力が感じられるところだろう。前半の抑えた効果も相まってか、非常に引き込まれて感情移入しやすい。
比較する必要は無いのだろうが、やっぱり彗星マジックの公演を思い出すと、お得意の身体表現で情景や心情を描写する力ってのはあまり見れなかった気はする。
例えば、森のシーンは周囲の役者さんがもっと舞台を森に感じさせるように動くし、後半の感情高ぶるシーンもそれが一人の役者さんの声や動きだけでなく、もっと舞台全体が同じ心情を醸し出すような不思議な空間を生み出していた。
これは漠然としていて文章で表現しにくいのだが、感情が高ぶると上記しているが、あえて感情が爆発していると書かないようにした。彗星マジックの公演では、互いに価値観が異なる者同士の会話、例えば森の人と森林学者の妻、軍人と鐘つきの少女など、高ぶった感情が最後、絶叫という形で爆発する。その時は、その圧倒的な役者さんの迫力に感激したのだが、よくよく考えると爆発したら、それでお終いだ。決裂ということであり、その先に分かり合いは無い。こちらでも、もちろん苦悩の絶望的な声を上げるのだが、そこにまだ分かり合うことにあきらめきれない何かが残っているような感がある。もう無理だろうけど、まだ話し合ってみたい、心を通じ合わせてみたいといったような、きっといつかは、絶対に相反し続けることは無いという強い信念のようなものを感じるのだ。
この作品の世界は実は非常に残酷である。その残酷さは正論の上で成り立っており、ちょっとしたことで変わることはなく、人は愚かにもこの厳しい中で生きていかなくてはいけない。もちろん、その中で生きていく。でも、変えることだって絶対にあきらめていないという、奥深い力強さがあるように感じた。
あと、ラストシーンで鐘つきの少女が焼かれるところ。照明だけで十分、その悲しさや美しさは伝わりますね。絵描きが灯台を見上げて、輝く光、そして灰となっても今なおそこに残る鐘つきの少女の最後に見せた笑顔。美しいシーンでした。
役者さんの感想を交えながら振り返り。
広場の絵描き、福田龍さん。とても素敵な表情だ。この役は笑っていても、苦悩していても優しさを感じさせる人じゃないとダメ。満足。死者の似顔絵を描く。生き残った者への死の提示。悲しみと慈しみを絵に込める。森林学者に渡す亡き妻の絵は、そんな想いが込められていたからこそ、森林学者の心を溶かしたように思う。
時計塔の鐘つき、橋本裕美さん。前回公演の小悪魔的なところが印象に残っており、悪意なく、間接的でも人を殺す仕事を平気でこなす姿は少しオーバーラップするかな。真っ白で愚かなまでに無垢な彼女の心の中に、喜びや悲しみ、憎しみがいっぺんに入ってくる。キャパオーバーになったかのようにパニックになる姿は痛々しい。でも、そこにどこか安堵と感謝の念を感じる。ラストの微笑みはありがとうと告げているように思う。
軍とつながる知識人、下野祐樹さん。知識があるのがちょっと災いしているのか、自分の考えが正しいと思いがちなところがある人。あまりにも異なる価値観を持つ鐘つきの少女との会話で憎しみ、否定の感情をあらわにする。ちょっと偉そうなところがあるにしても、みんなの幸せをよく考えている優しい人が露骨に示す人の否定は心が苦しくなる。鐘つき少女の行動は、絵描きに良かれと思っての行動であり、絵描きを広場に連れてきたのがこの軍人なので、周り回って元凶は実はこの人ってことになる。で、それを知り苦悩するのだが、今、思い出しているのだが、絵描きとこの軍人の絡んだシーンってあったかな。見落としたのだろうか。今、こうしてブログを書いていて、確かそういうからくりだったと思い出したのだが、観ていた時はそれが分からなかった。だから、何で、この軍人は愕然としているんだろうと思っていた。
規律を犯した軍人、池生周平さん。う~ん、これ覚えていないんだが、劇場版にこの役は出てくるんだったかな。毎月の公演で最初に焼かれてしまうこの定点風景の不思議な世界を印象付ける人なのだが。DVDで確かめたいんだけど、見当たらないんだよね。誰かに貸したんだっけかな。でも、話としては分かりやすいですね。回想シーンのように実際に登場してくれると。会話の中だけの想像だけだとなかなかイメージが持てないから。定点風景を観始めた頃の懐かしい気持ちが甦りました。ちょっと男前のいかつい軍人さんでした。
元軍人の運び屋、赤尾早紀さん。凛としたかっこいい人。何か色気もあるしね。珍しくアクションも入れ込んでる。いかした女って感じかな。
灯台守の女の子、浦長瀬舞さん。これも彗星マジックとの比較になってしまうけど、こちらはちょっと優しく描かれている感じがする。鐘つきの少女と牢獄で会話するのだけど、ある意味、同じ穴のむじなであることへの同情や憐みの感情を強く感じる。彗星マジックでは、もっと厳しい一面を覗かせていたように思う。悲しい仕事への覚悟の大きさかな。まだ、この仕事に躊躇しているみたいなものが感じられた。こちらの方が、この女の子の背景がしっかり描かれていないだけに、一見、同調はしやすいが。
森の人、角野清貴さん。この方も前回公演でよく覚えている。客をしっかり掴んで、かつ男前なんだよね。今回は、少し不思議な役だから、男前はあまり目立たなかったな。中性、中立、中間といった感じで、どこの輪の中にも入り切れない悲しい宿命が漂う。そんな彼だからこそ、森林学者の妻に怒りの感情を出すシーンは怖い。
馬面の男、永渕大河さん。これは彗星マジックの公演の時も思ったのだが、分からないよね、毎月の公演で行われたウマオの話を観ておかないと。観ていた者は、あれからまだかぶって生活しとるんかいと面白いのだが。いい動きして笑いを誘います。仮面を脱いだら、すごい顔が出てくるかと思ったら、普通の若者だったね。
農家の娘、唐澤彩子さん。落ち着いているなあという印象。これは前回公演でも同じことを書いている。貫録があるのだが、今回、拝見して、声がとてもいいのだと思う。いい声というか、何だろう、波長みたいなものかな。語尾とかがとても綺麗なんですね。少し天然でほわ~っとした雰囲気を出されます。
森林学者、まつながさん。一番目を引いた役者さんかな。テンポのいいセリフ回しでコミカルな一面を見せながら、あの妻を想う真摯な気持ちね。絵描きの描いた似顔絵を見て、心から振り絞って出てきたうめき声。人の死とはいつか決着をつけて、残された自分の生を全うしないといけないのは分かっていても、その愛が大きければ大きいほど、その決着は残酷です。言霊じゃないけど、自らの口から妻が死んだことを認めた時の表情は一瞬で涙が出そうになった。
森林学者の妻、村田千晶さん。亡き子供への愛がおかしくさせてしまったのかな。夫への愛でそれを相殺はできなかったか。深い愛情が潜む憎しみ・悲しみはとても壊せるようなものではなく、確固たる姿を見せています。それが怖くもあり、悲しくもあり。最後までいびつな笑顔でした。この話で、ここはどうにか救えないのかなと思うところですね。
非常に良かった。
とても満足です。
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コメント
今回は劇団六風館、ともしび公演にご来場いただきありがとうございました!森の人ミハイルを演じていたものです。
三回生はこの公演で引退してしまいますが、もっともっと良い作品をお届けできるよう頑張っていきますので、今後とも劇団六風館をよろしくお願いします!
投稿: スミノ | 2012年9月11日 (火) 01時09分
>スミノさん
コメントありがとうございます。
大作、お疲れ様でした。
森の人も、複雑な優しい心情が伝わってきてとても良かったです。
たしか、まだ1回生なのでは。
これからも、たくさん舞台で拝見できますね。
楽しみにしております。
投稿: SAISEI | 2012年9月11日 (火) 10時22分